空の産業革命と物流の未来:Walmart・Wingの拡張が示す「実験」から「インフラ」への転換と日本産業への示唆
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WalmartとWingがドローン配送を全米150店舗に拡大の影響度
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エグゼクティブサマリー
米国小売大手WalmartとAlphabet傘下のドローン企業Wingが発表した、全米150店舗へのドローン配送拡大計画は、世界の物流業界における歴史的な転換点である1。2026年までに数百万人の消費者を対象とし、将来的には4,000万人以上をカバーするこの「世界最大規模の社会実装」は、ドローン配送がもはや実験的な技術ではなく、標準的な物流インフラのフェーズへ移行したことを決定づけた1。30分以内という即時配送(Qコマース)の実現は、Amazonに対抗する新たな競争軸を確立し、消費者の購買行動を根本から変容させようとしている。
この「米国発の衝撃」は、深刻な労働力不足と「2024年問題」に直面する日本にとって、単なる技術トレンド以上の意味を持つ4。日本においてドローン配送は、過疎地域における「買い物弱者」の救済や、都市部マンションでの「ラストワンマイル」の効率化、そして災害時の緊急輸送網として、社会維持のための必須インフラと位置付けられている。
本レポートでは、WalmartとWingの事例を起点に、日本の法規制緩和(レベル4およびレベル3.5飛行)、セイノーホールディングスやエアロネクストによる「新スマート物流」、JALやKDDIによる運航管理システムの構築、そして三菱地所や三井不動産による「空飛ぶマンション」構想など、産業界の動向を網羅的に分析する。米国型の「利便性追求」と日本型の「社会課題解決」という異なるアプローチが交錯する中で、日本企業が取るべき戦略と、私たちの生活に訪れる不可逆的な変化について詳述する。
1. 序論:物流におけるパラダイムシフトの到来
1.1 WalmartとWingによる「インフラ化」の衝撃
2024年から2026年にかけて、WalmartはWingと提携し、ダラス・フォートワース地域での成功を皮切りに、そのドローン配送網を全米150店舗以上に拡大すると発表した1。さらに2027年には270拠点への拡大が計画されており、これは単一の小売業者によるドローン配送の実装としては世界最大規模となる1。
この拡大が意味するものは、ドローン配送の「標準化」である。従来、ドローン配送は特定の条件下での実証実験(PoC)に留まることが多かったが、Walmartの取り組みは、既存の店舗網を「分散型フルフィルメントセンター」として活用し、店舗から半径6マイル(約10km)以内の商圏に対し、注文から30分以内に商品を届ける能力を「当たり前のサービス」として提供するものである1。
対象となる商品は、食料品や市販薬、日用品など多岐にわたり、特に「夕食の材料の買い忘れ」や「急な発熱時の解熱剤」といった、緊急性が高く、かつ小口の需要(インスタント・ニーズ)に対応する3。これは、翌日配送を標準としてきたEコマースの競争軸を「分単位」の戦いへとシフトさせるものであり、物流業界におけるゲームチェンジャーとなる。
1.2 技術的成熟と自動化の進化
Wingのドローンシステムは、垂直離着陸(VTOL)と固定翼巡航を組み合わせたハイブリッド型であり、都市部での運用に耐えうる安全性と静音性を実現している7。特筆すべきは、地上配送ロボット(Serve Robotics)との連携に見られるような、物流全体の自動化である。ロボットが店舗から商品をピックアップし、ドローンの待機場所(AutoLoader)まで運び、そこから空輸するという「マルチモーダルな無人配送」の実装が進んでいる6。これにより、人間の介在を極限まで減らし、労働コストを劇的に削減することが可能となる。
2. 日本の物流クライシス:導入の背景と必然性
米国におけるドローン配送が「消費者の利便性向上」を主眼としているのに対し、日本における導入は「社会インフラの維持」という、より切迫した課題解決のために推進されている。
2.1 「物流の2024年問題」と労働力不足
日本の物流産業は、慢性的なドライバー不足と高齢化に加え、2024年4月から適用された「働き方改革関連法」によるドライバーの時間外労働上限規制(年間960時間)という構造的な課題に直面している5。いわゆる「2024年問題」である。
この規制により、長距離輸送の拘束時間が制限され、従来の輸送能力が約14%不足すると試算されている。対策を講じなければ、2030年には輸送能力が34%不足し、現在の物流網が維持できなくなる恐れがある8。特に、採算性の低い過疎地域への配送ルートの維持が困難になりつつあり、ユニバーサルサービスとしての物流の崩壊が危惧されている。この文脈において、無人で、かつ低コストで運用可能なドローンは、トラック輸送を補完・代替する手段として不可欠な存在となっている。
2.2 過疎化と「買い物弱者」の増大
少子高齢化が進む地方部では、食料品店や薬局の撤退が相次ぎ、日常の買い物に困難をきたす「買い物弱者(買い物難民)」が増加している。北海道上士幌町や山梨県小菅村などの自治体では、既存の物流網が限界を迎えており、ドローンによる食料品や医薬品の配送が、住民の生命線(ライフライン)として期待されている9。
日本におけるドローン配送は、米国の「Quick Commerce(Qコマース)」としての側面に加え、「Social Inclusion(社会的包摂)」のための公共インフラとしての側面を強く持っている点が特徴である。
3. 日本における規制環境と技術的受容性
日本政府は「空の産業革命」を推進するため、航空法をはじめとする法整備を急速に進めてきた。Walmartの事例のような都市部での飛行を可能にするための法的な土台は、すでに整いつつある。
3.1 航空法改正と飛行レベルの進化
日本のドローン規制は、リスクに応じた4つの飛行レベルに分類され、段階的に緩和されてきた11。
| 飛行レベル | 概要 | 現状と意義 |
|---|---|---|
| レベル1 | 目視内での手動操縦 | 空撮、ホビー用途など。 |
| レベル2 | 目視内での自律飛行 | 農薬散布、土木測量など。 |
| レベル3 | 無人地帯での目視外飛行 (BVLOS) | 山間部や離島、河川上空での配送実験。2018年頃から実施。 |
| レベル3.5 | 無人地帯での目視外飛行(補助者なし) | 2023年新設。道路横断時の一時停止や補助者の配置を不要とし、デジタル技術(機上カメラ等)で安全確認を行う。コスト削減の切り札。 |
| レベル4 | 有人地帯での目視外飛行 (BVLOS) | 2022年12月解禁。住宅地上空などを飛行可能に。都市部物流の必須要件。 |
特に重要なのが、2022年12月の改正航空法施行による「レベル4飛行」の解禁である13。これにより、第三者上空(住宅地など)を補助者なしで飛行することが法的に可能となり、都市部でのラストワンマイル配送への道が開かれた。 さらに、2023年末に新設された「レベル3.5」は、レベル4ほどの厳格な機体認証を求めずとも、道路横断時の立哨員(補助者)を不要にすることで、過疎地配送における人件費コストを劇的に下げる制度として注目されている12。
3.2 運航管理システム(UTM)の整備
多数のドローンが空を行き交う社会を実現するためには、航空機と同様に、空域を管理する管制システムが必要となる。日本でも、経済産業省やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が中心となり、運航管理システム(UTM)の開発が進められている16。 KDDIや楽天モバイルなどの通信キャリアは、自社のLTE/5G通信網を活用した「スマートドローン」プラットフォームを提供しており、機体の位置情報管理、遠隔制御、映像伝送を一元管理する基盤を構築している17。
4. 経済への影響と市場予測
ドローン配送の「インフラ化」は、物流コスト構造の変革のみならず、新たな巨大市場の創出を意味する。
4.1 市場規模の拡大予測
各種調査によると、日本のドローン配送および関連物流市場は、今後数年間で爆発的な成長が見込まれている。
- 市場規模: 日本の配送ドローン市場は、2023年の約4,180万ドル(約60億円)から、2030年には約5億9,500万ドル(約900億円)へと成長し、年平均成長率(CAGR)は46%を超えると予測されている19。
- 物流サービス市場: 矢野経済研究所の予測では、ドローンや自動配送ロボットを活用した物流市場規模は、2030年度には約198億円に達するとされている14。これはハードウェアを含まないサービス単体の数値であり、周辺産業を含めると経済波及効果はさらに大きい。
4.2 コスト構造の変革と労働生産性
ドローン配送の最大の経済的メリットは、人件費とエネルギーコストの削減にある。
- 配送コストの削減: 海外の研究および国内の実証データによれば、5kg未満の軽量貨物を10km圏内に配送する場合、ドローン配送はトラック配送と比較してコストを40%〜60%削減できる可能性がある21。
- 1人対多運航による生産性向上: トラック輸送が「ドライバー1人対車両1台」という制約を持つのに対し、ドローンは「1人のオペレーターが複数の機体を監視する(1対N運航)」が可能である。JALやKDDI、エアロネクストは、1人のパイロットが同時に5機のドローンを運航する体制の実証を進めており、これが実現すれば労働生産性は飛躍的に向上する23。
- エネルギー効率: 重さ数トンのトラックで数キログラムの荷物を運ぶ現在の物流はエネルギー効率が極めて悪い。電動ドローンへの転換は、配送あたりのCO2排出量を大幅に削減し、企業の脱炭素経営(GX)にも寄与する21。
4.3 投資の加速と異業種連携
ドローン物流という新たなフロンティアに対し、ベンチャーキャピタルだけでなく、商社、航空、通信、物流といった大企業からの投資が活発化している。
- 商社の機能: 伊藤忠商事(Wingcopterへの出資)、豊田通商(Ziplineとの提携・Sora-iinaの設立)、住友商事など、総合商社が海外の有力ドローン技術を日本へ導入するゲートウェイの役割を果たしている26。
- 資本業務提携: JALとKDDIによる共同出資会社の設立や、セイノーホールディングスとエアロネクストの資本提携など、インフラ構築に向けた長期的なコミットメントが見られる28。
5. 影響を受ける業界と企業戦略
Walmartの動きは、日本の小売、物流、不動産、医療といった幅広い産業に波及し、各企業の戦略見直しを迫っている。
5.1 物流・運送業界:競争から協調へ
「2024年問題」の当事者である物流業界は、ドローンを敵対的な技術ではなく、自社のネットワークを維持・強化するためのツールとして取り込んでいる。
セイノーホールディングスと「SkyHub®」モデル
セイノーHDは、エアロネクストと提携し、「新スマート物流 SkyHub®」を全国展開している。これは、単にドローンを飛ばすだけでなく、地上配送とドローン配送を統合した新しいサプライチェーン管理システムである。
- ドローンデポ®: 地域に設置された荷物の集積拠点。各運送会社(ヤマト、佐川、日本郵便など)の荷物をここに集約し、共同配送を行う。
- ドローンスタンド®: 各集落に設置されたドローンの着陸地点。 この「オープンプラットフォーム(O.P.P.)」モデルにより、過疎地における配送効率を高め、トラックドライバーの負担を軽減している。すでに山梨県小菅村、北海道上士幌町、福井県敦賀市などで社会実装が進んでいる29。
ヤマト運輸と佐川急便
- ヤマト運輸: 大型貨物の輸送や、離島間を結ぶ「ミドルマイル」領域での無人化に関心を寄せており、米国の電動シーグライダー開発企業Regentへの出資など、長距離・大量輸送を見据えた戦略をとる32。
- 佐川急便: 荷下ろしロボットの導入など拠点内の自動化を進めつつ、山間部や河川横断など、トラックが苦手とするルートでのドローン活用を模索している33。
5.2 小売・流通業界:店舗の役割の再定義
Walmartが店舗をドローン基地化したように、日本の小売業も店舗資産の再評価を行っている。
コンビニエンスストアの「空飛ぶ店舗」化
- セブン-イレブン・ジャパン: ANAと提携し、福岡市(能古島)などでドローン配送の実証実験を行っている。店舗から離島や過疎地へ商品を直接届ける「7Now」の空中版とも言えるサービスを、2025年度を目処に恒久化することを目指している35。
- イオン: JALおよびKDDIスマートドローンと提携し、イオンスタイルなどの大型店舗をドローンポートとして活用する構想を持つ。地域の防災拠点としての機能も兼ね備え、平時は買い物配送、有事は物資輸送を行う38。
5.3 不動産・建設業界:バーティカル・ロジスティクスの開拓
米国の郊外型住宅(庭付き一戸建て)と異なり、日本の都市部は高層マンションが主体である。「玄関先まで」ではなく「ベランダまで」届ける技術が求められている。
高層マンション配送と「空飛ぶマンション」
- 楽天グループと三井不動産: 千葉市や東京都内で、配送センターから高層マンションの屋上や敷地内へのドローン配送実験を成功させている39。
- ベランダ配送の研究: 東京大学と三井不動産は、マンションの各住戸のベランダにドローンが直接着陸する「垂直物流システム」の研究を行っている。エレベーターの待ち時間やセキュリティゲートの通過といった、マンション内物流のボトルネックを解消する画期的なアプローチである41。
- 三菱地所: 将来のマンション開発において、ドローンポートの設置を前提とした設計や、ロボット配送との連携を見据えた実証を行っている44。
5.4 医療・ヘルスケア:命を運ぶ物流
即時性が人命に関わる医療分野は、ドローン配送の価値が最も高く評価される領域である。
豊田通商・Sora-iinaとZipline
長崎県五島列島において、豊田通商グループのSora-iinaは、米Zipline社の固定翼ドローンを用いた医療用医薬品の配送事業を定常化させている。これにより、離島の薬局や病院へ血液製剤や緊急薬を短時間で届けることが可能となり、へき地医療の質を劇的に向上させている26。
6. 個人の生活と社会への影響
ドローン配送が日常化することで、私たちの生活様式や社会通念はどう変わるのか。
6.1 消費行動の変容:「今すぐ」が当たり前の社会へ
Walmartが「夕食の材料」や「風邪薬」を30分で届けるように、日本の消費者も「即時性」を当たり前のサービス品質として求めるようになるだろう1。
- Qコマースの浸透: Uber Eatsのようなフードデリバリーに加え、日用品や生鮮食品もスマートフォン一つで数十分後に空から届く生活が、都市部だけでなく地方部でも可能になる。
- 高齢者の自立支援: 免許返納をした高齢者が、誰かの手を借りることなく、タブレット端末で必要な物を注文し、自宅の庭先で受け取る。ドローンは高齢者の「自立した生活(Aging in Place)」を支える重要なツールとなる9。
6.2 騒音とプライバシー:受容性(アクセプタンス)の壁
一方で、ドローンが空を飛び交う社会に対する不安も存在する。
- 騒音問題: Wingは自社のドローンがトラックより静かであると主張しているが7、静穏な日本の住宅街においては、プロペラの高周波音が新たな騒音公害となる懸念がある。慶應義塾大学の研究では、ドローン騒音が無意識のストレスに繋がる可能性が示唆されており47、技術的な静音化が普及の鍵を握る。
- プライバシー: レベル3.5/4飛行では機上のカメラで安全確認を行うが、これによる「空からの監視」に対する心理的抵抗感は根強い。調査によると、プライバシーリスクへの懸念はドローン配送の利用意向を大きく下げる要因となっている48。
6.3 雇用への影響
「トラックドライバーの仕事が奪われる」という懸念よりも、現時点では「足りない人手を補う」側面が強い。しかし将来的には、物流の担い手は「運転手」から、ドローンの「運航管理者(リモートパイロット)」や「機体整備士」へとシフトしていくだろう。これは新たなスキルセットを必要とする職種の創出を意味する。
7. 詳細ケーススタディ:日本における先行事例
7.1 山梨県小菅村:過疎地配送のトップランナー
人口約700人の小菅村は、エアロネクストと吉野家が連携し、ドローンによる「牛丼配送」を実現したことで知られる9。
- 仕組み: 村内にドローンデポを設置し、村民からの注文に応じてドローンが村内の複数の着陸点(ドローンスタンド)へ商品を空輸。そこから地域の協力者がラストワンマイルを担う、あるいは住民が取りに行く。
- 成果: 商店がない地域での買い物支援に加え、新しい技術を受け入れる村としてのブランディングにも成功し、視察や移住者の関心を呼んでいる。
7.2 長崎県五島列島:医療物流の最前線
140の島々からなる五島列島では、船便に頼る従来の物流が非効率であった。
- 実装: Sora-iinaがZiplineの機体を用いて、数キロ〜数十キロ離れた島へ医薬品を配送。レベル4飛行の承認を得て、薬局から患者のいる移動診療車へ直接薬を届ける実証も成功している45。
- 意義: 物流の断絶が命の危険に直結する離島医療において、ドローンが不可欠なインフラとして定着しつつある。
7.3 北海道上士幌町:スマートシティとドローン
広大な農村地帯である上士幌町では、セイノーHDなどと連携し、日本初のレベル3.5飛行による配送を実施した15。
- 特徴: 新聞配送や個宅への食料品配送など、生活に密着したサービスを展開。デジタル田園都市国家構想の一環として、自動運転バスなど他のモビリティとの連携も視野に入れている51。
8. テクノロジーと産業競争力
8.1 機体開発競争:海外勢 vs 国産勢
- Wing (米国): 小売特化、VTOL、AutoLoaderによる完全自動化が強み。
- Zipline (米国): 固定翼による長距離・高速輸送、医療物流で圧倒的実績。パラシュート投下やドロイドによる吊り下げ方式を採用52。
- Wingcopter (ドイツ): 伊藤忠が提携。ティルトローター式の高い飛行性能を持ち、強風や悪天候に強い13。
- ACSL (日本): 国産ドローンの雄。レベル4対応の機体(PF2-CAT3)を開発し、セキュリティを重視する官公庁や物流企業に採用されている45。
- エアロネクスト (日本): 独自の機体構造設計技術「4D GRAVITY®」により、荷物が揺れない安定した飛行を実現。物流専用機「AirTruck」を展開18。
8.2 安全技術と環境対応
- 静音性: Wingのプロペラ設計や、プロドローン等の日本企業による静音ローター開発が進む。
- 安全性: パラシュートの標準装備や、通信断絶時の自律帰還機能など、フェイルセーフ機構がレベル4飛行の必須要件となっている。
9. 日本産業への戦略的提言
Walmartの事例と国内の動向を踏まえ、日本企業および政府は以下の戦略をとるべきである。
9.1 「点」から「面」への展開(スケーラビリティの確保)
現在の日本のドローン配送は、特定の過疎地や実証実験エリアという「点」に留まっている。Walmartのように150店舗規模で展開するためには、SkyHub®のような共通プラットフォームの全国展開を加速させ、複数の自治体や物流会社が相乗りできる仕組みを標準化する必要がある。
9.2 ハイブリッド・ロジスティクスの構築
ドローンですべてを運ぶ必要はない。トラック、鉄道、そしてドローンを最適に組み合わせるモーダルミックスが重要である。セイノーHDが推進するように、幹線輸送はトラック、ラストワンマイルの困難な部分はドローン、といった役割分担を明確にし、全体のエネルギー効率とコストを最適化するシステム構築が求められる。
9.3 住宅インフラとの統合
都市部においては、マンションデベロッパーとの連携が鍵となる。新築マンションへのドローンポート標準装備や、既存マンションのベランダ配送を可能にする法規制の微調整と技術開発(高精度な位置特定技術など)に投資すべきである。
9.4 社会受容性の醸成
技術的な安全性だけでなく、「音」と「視線(プライバシー)」への配慮が普及の生命線となる。住民との対話を重ね、ドローンがもたらす便益(医療、防災、生活支援)を可視化し、不安を払拭するプロセスが不可欠である。
10. 結論
WalmartとWingによるドローン配送の拡大は、物流における「空の産業革命」が、いよいよ実験フェーズを終え、実用フェーズへと突入したことを世界に知らしめた。
日本にとって、この変化は単なる技術革新の波ではなく、人口減少社会におけるインフラ維持のための「切り札」である。「2024年問題」に象徴される物流クライシスに対し、ドローンは省人化と効率化の強力なソリューションを提供する。
日本は、欧米型のビジネスモデルをそのまま輸入するのではなく、セイノーHDやエアロネクストが進めるような、既存の物流網と先端技術を融合させた「日本型スマート物流」を確立しつつある。過疎地のライフライン維持から始まり、やがては都市部の超高層マンションへの即時配送へと至るこの進化の過程で、新たな産業エコシステムが形成されようとしている。
企業にとっては、この不可逆的な流れをいち早く捉え、自社のバリューチェーンに「空」を組み込むことができるかが、次の10年の競争力を左右することになるだろう。
補遺:データ比較と参照情報
表1:日米のドローン配送モデル比較
| 項目 | 米国モデル (Walmart/Wing) | 日本モデル (Seino/SkyHub/Sora-iina) |
|---|---|---|
| 主なドライバー | 消費者の利便性、スピード、競争力 | 労働力不足(2024年問題)、過疎地対策、防災 |
| 対象エリア | 郊外の住宅地(広い庭・私道) | 離島、山間部、都市部高層マンション |
| 主な用途 | 夕食の材料、日用品、嗜好品 | 医薬品、高齢者向け食料品、緊急物資 |
| 配送受取点 | 庭先、ドライブウェイ | 村の集積所(ドローンスタンド)、広場 |
| 規制枠組み | FAA Part 135 | 航空法(レベル3.5 / レベル4) |
| 主要プレイヤー | Wing (Alphabet), Zipline, Amazon | エアロネクスト, セイノーHD, JAL, KDDI, 豊田通商 |
表2:日本のドローン物流市場規模予測
| 年 | 市場規模予測(USD/JPY換算) | フェーズ |
|---|---|---|
| 2023年 | 約4,180万ドル(約60億円) | 実証・初期導入期 |
| 2024年 | — | 物流2024年問題発生、レベル3.5運用開始 |
| 2025年 | — | コンビニ・医療配送の定常化目標年 |
| 2030年 | 約5億9,500万ドル(約900億円) | インフラ定着・成長期(CAGR 46%) |
引用文献
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- Walmart Plans To Add Drone Delivery To 150 More Stores This Year—Here’s Where, https://www.delish.com/food-news/a70030706/walmart-wing-drone-delivery-expansion-2026/
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- Drone-based vertical delivery system for high-rise buildings: Multiple drones vs. a single elevator | Request PDF – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/386295182_Drone-based_vertical_delivery_system_for_high-rise_buildings_Multiple_drones_vs_a_single_elevator
- Drone High-Rise Aerial Delivery with Vertical Grid Screening – MDPI, https://www.mdpi.com/2504-446X/7/5/300
- Full-Scale Launch of Japan’s Largest*1 Robot Porter Service for Condominium Use at Mita Garden Hills, https://www.mitsuifudosan.co.jp/english/corporate/news/2025/0707/download/20250707.pdf
- Toyota Group Tests Level 4 Drone Deliveries to Remote Japanese Islands – Dronelife, https://dronelife.com/2025/03/28/toyota-group-tests-level-4-drone-deliveries-to-remote-japanese-islands/
- Toyota Tsusho Conducts Kyushu’s First Delivery Demonstration of Prescription Drugs Using Level 4 Flight of Drones, https://www.toyota-tsusho.com/english/press/detail/250210_006531.html
- Research into societal acceptance by two universities in Japan links drone noise with stress levels – Unmanned airspace, https://www.unmannedairspace.info/uncategorized/research-into-societal-acceptance-by-two-universities-in-japan-links-drone-noise-with-stress-levels/
- Consumer Preferences and Barriers in the Adoption of Drone Delivery Services: A Comprehensive Analysis – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/385801083_Consumer_Preferences_and_Barriers_in_the_Adoption_of_Drone_Delivery_Services_A_Comprehensive_Analysis
- A Comprehensive Analysis of Japanese Consumer Choice Behavior and Intentions for Drone Delivery Services Ei P – arXiv, https://arxiv.org/pdf/2601.08660
- Commemorating the achievement of 100 drone deliveries in Kosuge Village, Yamanashi Prefecture Providing the YOSHINOYA’s freshly made “Gyudon” to everyone in Kosuge Village by drone 〜The first time members of the general public receive a “Flying Beef Bowl”〜 | AERONEXT, https://aeronext.com/news/flyingbeefbowlinkosuge/
- Future Realized by Smart Cities: Logistics, https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/05_scguide_eng_ref1_3.pdf
- Walmart DFW Drone Delivery Expands to 1.8M Homes – FreightCaviar, https://www.freightcaviar.com/walmart-dfw-drone-delivery-expands-to-1-8m-homes/
- Two SkyHub® services that includes drone delivery to start from November 1st in Kosuge Village, Yamanashi Prefecture where Seino HD and Aeronext have been jointly developing and promoting SkyHub® ~Accelerating efforts to improve logistics efficiency in depopulated areas, including combined freight and passenger loading and joint delivery, https://aeronext.com/news/skyhubservices_startinkosuge/

