香料業界の戦略(市場リサーチ・競合企業調査)

香りのルネサンス:サステナビリティとAIが拓く、次世代フレグランス・エコシステム戦略

  1. 第1章:エグゼクティブサマリー
    1. 1.1. レポートの目的と調査範囲
    2. 1.2. 主要な結論
    3. 1.3. 戦略的推奨事項
  2. 第2章:市場概観(Market Overview)
    1. 2.1. 世界の香料市場規模と予測(2020-2030年)
    2. 2.2. 市場セグメンテーション分析
      1. 用途別セグメント
      2. 原料別セグメント
      3. 地域別セグメント
    3. 2.3. 市場成長ドライバーと阻害要因
      1. 成長ドライバー
      2. 阻害要因
    4. 2.4. 業界KPIベンチマーク分析
  3. 第3章:外部環境分析(PESTLE Analysis)
    1. 3.1. 政治(Politics)
    2. 3.2. 経済(Economy)
    3. 3.3. 社会(Society)
    4. 3.4. 技術(Technology)
    5. 3.5. 法規制(Legal)
    6. 3.6. 環境(Environment)
  4. 第4章:業界構造と競争環境の分析(Five Forces Analysis)
    1. 4.1. 供給者の交渉力:中~高
    2. 4.2. 買い手の交渉力:高
    3. 4.3. 新規参入の脅威:中~高
    4. 4.4. 代替品の脅威:中
    5. 4.5. 業界内の競争:高
  5. 第5章:サプライチェーンとバリューチェーン分析
    1. 5.1. サプライチェーン分析
    2. 5.2. バリューチェーン分析
  6. 第6章:顧客需要の特性分析
    1. 6.1. BtoB顧客セグメント分析
    2. 6.2. 顧客が求める価値の変化
    3. 6.3. 最終消費者のインサイト
  7. 第7章:業界の内部環境分析
    1. 7.1. VRIO分析
    2. 7.2. 人材動向
    3. 7.3. 労働生産性
  8. 第8章:AIの影響とインパクト
    1. 8.1. 研究開発(R&D)の変革
    2. 8.2. マーケティングと需要予測
    3. 8.3. サプライチェーンの最適化
  9. 第9章:主要トレンドと未来予測
    1. 9.1. 合成生物学による香料生産の本格化
    2. 9.2. アップサイクル香料
    3. 9.3. ウェルビーイングと機能性香料
    4. 9.4. デジタル・フレグランス
  10. 第10章:主要プレイヤーの戦略分析
  11. 第11章:戦略的インプリケーションと推奨事項
    1. 11.1. 今後5~10年で勝者と敗者を分ける決定的要因
    2. 11.2. 機会と脅威(SWOT分析)
    3. 11.3. 戦略的オプションの提示と評価
    4. 11.4. 最終提言とアクションプラン
      1. 最終提言
      2. アクションプラン概要
  12. 第12章:付録
    1. 12.1. 参考文献
    2. 12.2. 引用データ・ウェブサイト
      1. 引用文献

第1章:エグゼクティブサマリー

1.1. レポートの目的と調査範囲

本レポートは、香料業界が直面する三大構造変化—①サステナビリティと生物多様性への要求の高まり、②合成生物学やAIといった破壊的技術の台頭、③ウェルネス志向やパーソナライゼーションといった消費者価値観のシフト—を包括的に分析し、この変革期において持続的な競争優位を確立し、成長を達成するための事業戦略を提言することを目的とする。本レポートの調査対象は、ファインフレグランス、パーソナルケア、ホームケア、食品・飲料などに使用される香料およびその原料、ならびに関連技術市場である。

1.2. 主要な結論

香料業界は、競争の基盤そのものが、従来の「経験と勘に基づく香料分子開発」から、「データとバイオロジーを駆使した統合ソリューション提供」へと不可逆的にシフトしている。価値の源泉は、もはや特許化された個別の香料分子(Captive Molecule)にはなく、サステナブルな調達ストーリー、複雑化する国際規制への対応能力、そして香りがもたらす心身への便益(ウェルビーイング)を科学的に証明し、マーケティング価値へと転換する能力へと移行している。この地殻変動に適応できない企業は、今後5~10年の間にその製品がコモディティ化し、市場から淘汰されるという重大なリスクに直面している。勝敗を分けるのは、テクノロジーを駆使して「サステナビリティ」と「パーソナライゼーション」という市場の二大要求に、最も速く、効率的に応える能力である。

1.3. 戦略的推奨事項

本分析に基づき、取るべき事業戦略として、以下の4点を強く推奨する。

  1. 「リジェネラティブ・サプライチェーン」の構築: サステナビリティを単なるコンプライアンス・コストではなく、ブランド価値と供給安定性を担保する競争優位の源泉と再定義する。生物多様性の回復や原料生産地のコミュニティ発展に積極的に貢献する「環境再生型(Regenerative)」の原料調達網へ戦略的投資を行うべきである。
  2. 「AI・データ駆動型 R&Dプラットフォーム」への転換: 伝統的な調香師の暗黙知や創造性を否定するのではなく、それを拡張するための基盤を構築する。AIによる新規分子設計、消費者トレンドのリアルタイム予測、処方最適化機能を統合した研究開発プラットフォームを導入し、開発のスピードと成功確率を飛躍的に向上させる。
  3. 「機能性・ウェルネス」市場への事業領域拡大: 香りがもたらす心理的・生理的効果(ストレス軽減、睡眠改善など)を科学的エビデンスに基づき訴求する「ニューロセントリック・フレグランス」分野を新たな成長エンジンと位置づける。この分野に特化した事業部門を設立し、高付加価値市場の創造を主導する。
  4. 戦略的M&Aおよびパートナーシップの推進: 上記1~3の戦略を加速するため、自社に不足しているケイパビリティを外部から獲得することを躊躇してはならない。特に、合成生物学による原料生産技術や、独自のAI創香アルゴリズムを持つ先進的なスタートアップとの提携または買収を積極的に検討・実行する。

第2章:市場概観(Market Overview)

2.1. 世界の香料市場規模と予測(2020-2030年)

世界の香料市場は、成熟市場と見なされながらも、安定した成長を続けている。市場調査レポートによって市場定義(フレーバー&フレグランス全体か、フレグランス単体か)に差異があるため、絶対額にはばらつきが見られるものの、各レポートは一貫して年平均成長率(CAGR)4%~5%台の堅調な成長を予測している 1。

Grand View Researchの分析によると、フレグランス(香粧品香料)市場は2024年に566億ドルと推定され、2030年には747億6,000万ドルに達すると予測されている。これは2025年から2030年にかけてCAGR 4.9%の成長に相当する 1。一方で、フレーバー(食品香料)を含む広義のフレーバー&フレグランス市場全体では、2023年に約325億9,000万ドル、2030年には453億4,000万ドル(CAGR 4.83%)に達するとの予測もある 2。本レポートでは、主にフレグランス市場に焦点を当てつつ、関連市場であるフレーバー市場の動向も考慮に入れる。

2.2. 市場セグメンテーション分析

用途別セグメント

パーソナルケア(化粧品、トイレタリー製品)が最大のアプリケーションセグメントであり、2024年には市場シェアの48.25%を占めている 1。これは、消費者のパーソナルグルーミングやセルフケアへの関心の高まりが、デオドラント、ボディローション、シャンプーなど幅広い製品群における香料需要を牽引しているためである 6。次いで、ホームケア(洗剤、芳香剤)も、快適な家庭環境を求める消費者ニーズを背景に、2030年までCAGR 4.8%という堅調な成長が見込まれる 1。

原料別セグメント

現状では、合成香料が市場の大部分を占めている。これは、天然香料と比較してコスト効率、供給安定性、そして調香における創造の自由度が高いことに起因する 2。市場シェアは調査によって異なるが、2023年時点で62%以上 2、あるいは69.87% 3 と報告されている。
しかし、成長性の観点では天然香料が合成香料を凌駕している。消費者の間で「クリーンラベル」や「ナチュラル」、「ウェルネス」といった志向が強まるにつれ、植物由来の精油や抽出物への需要が急増している 3。天然香料市場のCAGRは5.59% 3 や6.3% 11 と予測されており、合成香料の成長率を上回るペースで拡大している。

地域別セグメント

アジア太平洋地域が、市場規模と成長率の両面で世界市場をリードしている 3。特に中国やインドといった新興国における急速な経済成長、中間層の拡大、そして都市化の進展が、可処分所得の増加を通じて香料製品への需要を強力に押し上げている 9。
欧州は、フランスやドイツを中心に高級フレグランスの伝統的な一大市場であり、2022年時点で35.1%という最大の市場シェアを維持している 7。北米もまた、プレミアム製品やニッチフレグランスに対する根強い需要があり、主要市場の一つである 13。

2.3. 市場成長ドライバーと阻害要因

成長ドライバー

  • 新興国の経済成長: アジア太平洋、中南米、中東地域における中間層の拡大と可処分所得の増加が、香料を含む消費財市場全体の成長を牽引している 9。
  • ウェルネスと自己投資: 消費者は香りを単なる嗜好品としてではなく、自身のウェルビーイングを高めるための重要な要素と捉え始めている。気分向上やリフレッシュ効果を求める需要が市場を活性化させている 1。
  • パーソナライゼーションとニッチ化: マス市場向けの画一的な香りから、自己表現の手段としてのユニークで個性的な香り(ニッチ・アルチザナルフレグランス)への需要が、特に若年層を中心に高まっている 1。
  • デジタル化の進展: Eコマースの拡大とソーシャルメディア(特にTikTok)の影響力増大が、新たな顧客接点を生み出し、特にZ世代などの若年層の購買行動を促進している 15。

阻害要因

  • 天然原料の供給不安と価格高騰: 気候変動や地政学的リスクにより、バニラやサンダルウッドといった希少な天然原料の供給が不安定化し、価格が乱高下している。これは製品コストを圧迫し、サプライチェーンの脆弱性を露呈させている 3。
  • 規制強化: IFRAの安全性基準や欧州のREACH規制など、化学物質に関する規制は年々厳格化しており、製品の再処方や安全性データの提出にかかるコンプライアンスコストが増大している 21。
  • 消費者の健康・安全志向: 合成香料に含まれる可能性のあるアレルゲンや化学物質に対する消費者の懸念が高まっており、「無香料(Fragrance-Free)」製品を選択するトレンドも一部で見られる 6。
  • マクロ経済の不確実性: 原油価格の変動は石油化学由来の合成香料のコストに直接影響を与える 3。また、世界的なインフレは消費者の購買力を低下させる可能性があるが、香水は「手頃な贅沢品」として比較的影響を受けにくい側面もある 24。

市場は「天然志向」という強い消費者トレンドと、「コスト・安定供給」という事業上の要請という、二つの相反する力によって引き裂かれている。天然香料市場は高い成長性を示す一方で、そのサプライチェーンは気候変動や地政学的リスクに対して極めて脆弱である。この構造的な矛盾こそが、従来の農業モデルの限界を示唆しており、合成生物学のような代替生産技術にとって最大の事業機会を生み出している。

2.4. 業界KPIベンチマーク分析

以下に、香料業界の財務健全性と競争力学を評価するための主要KPIを示す。

企業名2024年売上高EBITDAマージン
DSM-Firmenich約138.2億ドル (€127.99億)N/A (移行期)
International Flavors & Fragrances (IFF)114.8億ドル約19.3% (調整後)
Givaudan約83.0億ドル (CHF 74.12億)約23.5%
Symrise約54.0億ドル (€49.99億)20.7%
高砂香料工業16.0億ドルN/A
長谷川香料約4.5億ドル (¥716.45億)N/A

表2.1: 主要香料メーカー 売上高・EBITDAマージンランキング(2024年)
出典: 25

企業名R&D投資比率(対売上高)
Givaudan約7.6%
DSM-Firmenich6.9%
Symrise約6.0%
International Flavors & Fragrances (IFF)約4.7% (推定)

表2.2: 主要香料メーカー R&D投資比率(対売上高)
出典: 26

天然原料価格変動の概要(2020-2024年)
バニラ産地であるマダガスカルのサイクロン被害などにより供給が極度に不安定化。価格はピーク時に1kgあたり600ドルを超えるなど、極めて高いボラティリティを示す 31。2022年から2024年にかけては下落傾向も見られるが、依然として不安定である 33。
サンダルウッドインド産(マイソール産)は過剰伐採により絶滅危惧に瀕し、輸出が厳しく制限されている。オーストラリア産などが代替となっているが、こちらも持続可能性への懸念から価格は高騰傾向にある 34。

表2.3: 主要天然原料の価格推移
出典: 31


第3章:外部環境分析(PESTLE Analysis)

3.1. 政治(Politics)

香料業界、特に天然原料の調達は、国際政治の動向に大きく左右される。生物多様性条約およびそれに付随する名古屋議定書は、遺伝資源(香料植物など)の利用から生じる利益を、資源提供国と公正かつ衡平に配分すること(Access and Benefit-Sharing, ABS)を義務付けている 37。これにより、香料メーカーは原料を調達し研究開発に利用する際、原産国政府との間で利益配分に関する「相互合意条件(Mutually Agreed Terms, MAT)」を締結する必要が生じた。このプロセスは法的に複雑で時間を要するため、新規天然原料の探索や開発における投資リスクを高め、イノベーションの速度を阻害する要因となり得る 37。
さらに、バニラの主要産地であるマダガスカルのような原料産出国の政情不安や、紅海など主要な海上輸送ルートにおける紛争といった地政学的リスクは、サプライチェーンを物理的に寸断し、原料の供給遅延や輸送コストの急騰を招く直接的な脅威である 40。米中間の対立に代表される貿易政策の変更(関税の賦課など)も、グローバルに展開されるサプライチェーンのコスト構造に影響を与え、調達先の見直しを迫る要因となっている 1。

3.2. 経済(Economy)

合成香料の多くは石油化学誘導体であるため、その製造コストは原油・天然ガス価格の変動と密接に連動している 3。原油価格が高騰すれば、合成香料のコストも上昇し、香料メーカーの利益率を圧迫する。
世界的なインフレとそれに伴う消費マインドの冷え込みは、一般的に消費財市場にとって逆風となる。しかし、フレグランスは「手頃な贅沢品(Affordable Luxury)」としての側面を持ち、不況下でも比較的に需要が落ち込みにくい「リップスティック効果」の対象となりうる 42。実際に、近年のインフレ局面においても、消費者は食料品やアパレルなどで節約する一方で、高級フレグランスへの支出は維持、あるいは増加させる傾向が見られた 24。
また、香料メーカーはグローバルに事業を展開しているため、為替レートの変動は、収益性や国際的な価格競争力に直接的な影響を及ぼす。

3.3. 社会(Society)

消費者の価値観の変化は、香料業界の製品開発とマーケティングを根本から変えつつある。クリーンラベル(成分表示の分かりやすさ)、エシカル消費(倫理的配慮)、アニマルウェルフェア(動物福祉、ヴィーガン、クルエルティフリー)への意識の高まりは、製品の成分構成だけでなく、その背景にあるストーリーを重視する購買行動へと繋がっている 3。
特にZ世代の台頭は、市場のルールを書き換えている。彼らは伝統的な性別の枠組みにとらわれないジェンダーレスな香りを好み、ブランドのオーセンティシティ(本物であること、誠実さ)や自己表現の手段としての香りの役割を重視する 1。彼らにとって、香りはステータスシンボルではなく、アイデンティティの一部である。この価値観は、ニッチで独創的なブランドや、サステナブルな理念を持つブランドへの支持として現れている 15。
さらに、心身の健康を重視するウェルネス志向の拡大は、香りにリラックスや集中力向上といった機能的価値を求める動きを加速させている 13。香りは単なる「良い香り」から、「心身に良い影響を与えるもの」へと、その役割を拡張している。

3.4. 技術(Technology)

破壊的技術の波が、香料業界の伝統的なR&Dプロセスとサプライチェーンを根底から揺るがしている。
合成生物学(発酵技術)は、その筆頭である。遺伝子改変された酵母や微細藻類を「細胞工場」として用い、糖などを原料に発酵させることで、希少な天然香料成分を安定的かつ持続可能に生産する。これにより、天候や産地に依存する従来の農業モデルからの脱却が可能となり、サプライチェーンのあり方を根本から変革するポテンシャルを秘めている 46。
グリーンケミストリーの原則に基づいた製造プロセスは、環境負荷の低い溶媒や触媒を利用し、廃棄物を最小限に抑えることで、企業のサステナビリティ目標達成に不可欠な技術となっている 48。
抽出技術も進化を続けている。超臨界流体抽出(Supercritical Fluid Extraction, SFE)は、二酸化炭素などを超臨界状態にして溶媒として用いることで、熱に弱い繊細な香気成分を、従来の有機溶媒のように残留する心配なく、高純度で効率的に抽出できる 50。
製品の付加価値を高めるデリバリー技術も重要である。香りの持続性を高めるためのマイクロカプセル化技術は、特に洗剤や柔軟剤などの分野で競争力の源泉となっている 52。

3.5. 法規制(Legal)

香料業界は、厳格化する一方の国際的な法規制環境に適応し続けなければならない。業界の自主規制機関であるIFRA(国際香粧品香料協会)は、アレルギー誘発性などに関する最新の科学的知見に基づき、使用禁止・制限物質のリストや濃度基準を定期的に改訂している 53。これにより、企業は頻繁な処方変更を強いられ、製品管理の複雑性が増している。
欧州のREACH(化学品の登録、評価、認可及び制限に関する規則)に代表される包括的な化学物質規制は、香料成分を含むすべての化学物質に対して広範な安全性データの提出を義務付けており、企業の登録・評価にかかるコストと時間を増大させている 22。
さらに、消費者保護の観点からアレルゲン表示義務も強化されている。EUでは、表示が義務付けられるアレルギー誘発性物質のリストが、従来の24種類から81種類へと大幅に拡大される予定であり、製品ラベルにおける情報開示と透明性への要求はますます高まっている 56。

3.6. 環境(Environment)

気候変動は、香料業界、特に天然原料に依存するビジネスモデルにとって、最も深刻かつ直接的な脅威である。異常気象の頻発と激甚化—干ばつ、サイクロン、熱波、不時霜—は、ローズ、ジャスミン、バニラといった繊細な香料植物の栽培に壊滅的な打撃を与えている 31。これにより、収穫量は年々不安定化し、品質も低下。結果として、原料価格の急騰と供給不安が常態化している。
また、サンダルウッドに代表されるような、過剰な伐採や生息地の破壊による生物多様性の損失は、サステナブルな調達を極めて困難にしている 34。
こうした環境問題への対応として、顧客であるグローバル消費財メーカーや最終消費者からは、製品のライフサイクル全体におけるカーボンフットプリントの開示と削減が強く求められている。ライフサイクルアセスメント(LCA)の実施は、もはや企業の社会的責任を果たす上での必須要件となりつつある。
これらのPESTLE要因は、それぞれが独立して存在するのではなく、相互に強く連関し、業界の変革を加速させている。特に、「社会(S)」からのサステナビリティ要求と、「環境(E)」の現実(気候変動による供給不安)という二重のプレッシャーが、従来の天然原料調達モデルの限界を露呈させている。この構造的矛盾を解決する手段として、「技術(T)」の革新、とりわけ合成生物学への期待と投資が強力に後押しされている。規制(L)の強化もまた、安全性が担保されたバイオ製品の魅力を高める追い風となっている。


第4章:業界構造と競争環境の分析(Five Forces Analysis)

4.1. 供給者の交渉力:中~高

供給者の交渉力は、扱う原料の種類によって大きく異なる。
特定の地域でしか栽培できない希少な天然原料、例えばマダガスカル産のバニラ、インド産のサンダルウッド、フランス・グラース産のローズ・ド・メなどの生産者は、代替が極めて困難であるため、非常に強い交渉力を持つ 57。気候変動による供給量の減少は、彼らの価格決定力をさらに強固なものにしている 34。
一方で、特許によって保護された革新的な香料分子(Captive Ingredients)を開発・供給する化学原料メーカーも、製品の差別化に不可欠な要素を提供するため、高い交渉力を有する 58。
しかし、合成生物学による代替生産技術の台頭は、長期的にはこれらの希少な天然原料生産者の交渉力を相対的に低下させる可能性がある 59。コモディティ化された汎用合成香料の原料サプライヤーは、競争が激しく交渉力は弱い。

4.2. 買い手の交渉力:高

香料業界における買い手、すなわちP&G, Unilever, L’Oréal, LVMHといった巨大グローバル消費財メーカー(FMCG)の交渉力は極めて高い。これらの企業は香料メーカーにとって売上の大部分を占める大口顧客であり、その巨大な購買力を背景に、絶え間ないコストダウン圧力をかけてくる 60。
さらに、彼らの要求は価格だけに留まらない。製品に配合した際の高度な品質安定性、厳格なグローバル規制への準拠、そしてサプライチェーン全体にわたるサステナビリティとトレーサビリティの証明など、要求は年々高度化・複雑化している。香料メーカーは、これらの厳しい要求に応えなければ、大規模なビジネスチャンスを失うことになる。

4.3. 新規参入の脅威:中~高

伝統的に、香料業界への新規参入障壁は高かった。巨額の研究開発投資、世界中に張り巡らされた生産・調達ネットワーク、長年にわたる安全性データの蓄積、そして大手顧客との強固な関係性は、新規参入を困難にしてきた 62。
しかし、近年、この状況は変化しつつある。合成生物学やAI創香技術を武器とするスタートアップ(例: Ginkgo Bioworks, Osmo)が、従来とは全く異なるビジネスモデルで市場に参入している 63。彼らは、R&Dプロセスを劇的に効率化し、これまで大手でなければ不可能だったカスタムフレグランスの開発を、小ロットかつ低コストで提供することが可能である。例えば、AI創香企業のOsmoは、大手F&Fハウスがターゲットとしてこなかった中小ブランドに直接サービスを提供することで、新たな市場を開拓し、既存の業界構造を迂回しつつある 64。これらのテクノロジー・ドリブンな新規参入者は、業界のゲームのルールを変える「ディスラプター」となる可能性を秘めている。

4.4. 代替品の脅威:中

香料業界にとっての代替品とは、製品から「香り」という価値そのものを不要にするものである。
最も直接的な脅威は、「無香料(Fragrance-Free)」製品トレンドの拡大である。特にスキンケア分野において、敏感肌の消費者や、成分のシンプルさを求めるクリーンビューティー志向の消費者が、意図的に無香料製品を選択するケースが増えている 23。このトレンドは、香料の必要性を根本から問い直すものである。
また、香りのマスキング技術(悪臭を心地よい香りで覆い隠すのではなく、化学的に中和・消臭する技術)の進化も、一部の製品カテゴリー(例:トイレ用消臭剤、ペットケア製品)において、香料の役割を低下させる可能性がある。さらに、製品の魅力を香り以外の感覚的価値(優れたテクスチャー、美しい色彩、心地よい使用感など)で訴求するアプローチも、相対的に香りの重要性を低下させる要因となりうる。

4.5. 業界内の競争:高

香料業界は、Givaudan, Firmenich-DSM, IFF, Symriseの4大メガサプライヤー(通称「Big 4」)による寡占市場である。これらの企業は、世界市場の約75-80%ものシェアを握っており、互いに熾烈な競争を繰り広げている 62。
競争の主軸は、多岐にわたる。

  • 技術革新: 特許化された独自の香料分子、香りの効果を持続させるデリバリー技術、そして近年ではAIや合成生物学といったプラットフォーム技術そのものが、競争の核となっている 67。
  • サステナビリティ: 倫理的でトレーサブルな原料調達網の構築や、環境負荷の低い製品開発は、大手顧客からの評価を左右する重要な差別化要因である 44。
  • 顧客へのソリューション提供: 単に香料を販売するだけでなく、顧客の新製品開発に深く関与し、市場トレンドの提供から規制対応のサポートまで、包括的なソリューションを提供する能力が問われる。
  • 人材: 世界的に著名なマスター・パフューマーやフレーバリストの獲得競争も、依然としてブランドイメージと創造性を左右する重要な要素である。

なお、留意点として、これらBig 4は2023年以降、欧州、英国、米国、スイスの競争当局から価格カルテル(協調的価格設定)の疑いで調査を受けている 68。これは、業界内の競争が極めて激しい一方で、寡占企業間での協調的行動へのインセンティブが働きやすい構造であることを示唆している。

業界の競争軸は、個別の「製品(香料分子)」の優位性から、顧客の複雑な要求(コスト、サステナビリティ、規制、開発スピード)に包括的に応えるための「統合プラットフォーム」の能力へとシフトしている。買い手であるFMCGはこれら全てを同時に要求し、新規参入者であるTechスタートアップはスピードと効率性で既存のプロセスを破壊しようとしている。この多面的なプレッシャーに対応するためには、AIで顧客ニーズを迅速に捉え、合成生物学で持続可能かつ安定した原料を生産し、蓄積されたデータで規制対応を効率化する、といった機能を統合したシステムが不可欠となる。Big 4間の競争は、もはや個々の香りの優劣だけでなく、この統合プラットフォーム全体の性能を巡る戦いへと進化しているのである。


第5章:サプライチェーンとバリューチェーン分析

5.1. サプライチェーン分析

香料業界のサプライチェーンは、「農家/化学メーカー → 一次加工業者 → 香料メーカー → FMCG/ブランド → 小売 → 消費者」という多段階にわたるグローバルな構造を持つ 71。特に天然原料においては、その多くが開発途上国で栽培・収穫され(例:インドネシアのパチョリ、ハイチのベチバー)、一次加工を経た後、主に先進国に拠点を置く香料メーカーで高度な精製や調香が行われるという、典型的なグローバル・コモディティ・チェーンの特性を有している 72。

この長く複雑なサプライチェーンは、複数の深刻な課題と脆弱性を内包している。
第一に、トレーサビリティの欠如である。サプライチェーンが多段階にわたり、多くの小規模な仲介業者が介在するため、最終製品に使用されている天然原料が、どの農園で、どのような労働環境(児童労働の有無など)や環境配慮(森林伐採の有無など)のもとで生産されたかを末端まで追跡することが極めて困難である。これは、企業のレピュテーションリスクに直結する重大な課題である。
第二に、地政学的リスクと気候変動への脆弱性である。第3章で詳述した通り、特定地域への原料依存は、当該地域の政情不安や異常気象が発生した際に、サプライチェーン全体の寸断に繋がりかねない 34。
これらの課題に対する技術的解決策として、ブロックチェーン技術の活用が期待されている。ブロックチェーンは、原料の生産から最終製品に至るまでの全取引データを、改ざん不可能な分散型台帳に記録する技術である。これにより、サプライチェーンの各段階における透明性を劇的に向上させ、トレーサビリティを確保することが可能になる。一部の先進的なブランドでは、この技術を導入し、製品のQRコードをスキャンすることで消費者が原料の生産地情報にアクセスできるような取り組みが始まっている 71。しかし、グローバルに分散し、デジタル化が進んでいない多数の小規模生産者が存在する香料のサプライチェーン全体にこの技術を適用するには、関係者間の協力体制の構築や情報共有のインセンティブ設計など、多くのハードルが存在する 74。

5.2. バリューチェーン分析

香料メーカー内部のバリューチェーンは、主に以下の活動から構成される。

  1. 基礎研究: 新規香料分子の探索、合成生物学を用いた生産株の開発、香りの脳科学的研究など。
  2. 香料開発・調香: 調香師(パフューマー/フレーバリスト)が、顧客からのブリーフ(依頼)に基づき、数百種類もの原料を組み合わせて香りを創造する。近年ではAIがこのプロセスを支援する。
  3. アプリケーション開発: 開発した香料を、シャンプー、洗剤、食品といった最終製品(基材)の中で、変質することなく意図した通りの香りを放つように安定化させる技術開発。これは極めて重要なノウハウである。
  4. 製造: グローバルに配置された工場で、開発された処方に基づき香料を大量生産する。
  5. 規制対応・安全性評価: IFRAやREACHなど、製品が販売される各国の複雑な規制に準拠していることを証明し、包括的な安全性データを顧客に提供する。
  6. 営業・マーケティング: 顧客であるFMCGメーカーに対し、市場トレンドや消費者インサイトに基づいたソリューション提案を行う。

このバリューチェーンにおいて、価値の源泉は大きくシフトしている。かつては、特許で保護された独自の「香料分子Captive Molecule)」そのものが最大の価値の源泉であった。しかし今日では、価値は顧客が抱える複雑な課題を解決する「統合ソリューション提供能力」へと移行している。具体的には、以下のような無形の能力が競争優位の鍵を握る。

  • アプリケーション能力: 高pHの洗剤や熱処理が必要な食品など、香りが不安定になりやすい難しい基材においても、狙い通りの香りを安定的に発現させる技術力。
  • マスキング能力: 製品の基材が持つ不快な匂いを効果的に隠蔽・中和する技術。
  • 規制対応力: 複雑化・厳格化するグローバルな規制動向を常に把握し、顧客に法規制遵守の安心感と迅速な対応を提供する能力。
  • サステナブルな調達ストーリー: 製品のマーケティングに直接活用できる、倫理的で環境に配慮した原料調達の物語を、トレーサビリティデータと共に提供する能力 15。

価値の源泉が「モノ(分子)」から「コト(ソリューション)」へとシフトする中で、香料メーカーの役割は、単なる原料サプライヤーから、顧客であるFMCGメーカーの製品開発プロセスに初期段階から深く関与する「外部R&Dパートナー」へと変革を迫られている。顧客はもはや香料分子だけを求めているのではない。規制対応、サステナビリティ証明、マーケティングストーリーの提供といった、製品開発全体に関わる包括的なサポートを求めている 43。この役割変革を成功させるためには、伝統的な調香師や化学者だけでなく、規制、サステナビリティ、マーケティング、データサイエンスといった多様な専門家が、顧客と一体となって価値を「共創(Co-creation)」する組織能力が不可欠となる。


第6章:顧客需要の特性分析

6.1. BtoB顧客セグメント分析

香料メーカーの直接の顧客は消費財メーカー(BtoB)であるが、そのニーズは最終製品のカテゴリーによって大きく異なる。主要な顧客セグメントごとのニーズと購買決定要因(KBF: Key Buying Factor)を以下に分析する。

セグメント主要顧客の例ニーズ・課題KBF (Key Buying Factor)
ファインフレグランスLVMH, Coty, Estée Lauder, Puigブランドの世界観や哲学を体現する独創的な香り。高級感とストーリー性。著名な調香師による権威付け。・調香師の創造性と名声 ・革新的・特許化された香料分子 ・感情に訴えるマーケティングストーリー
パーソナルケアUnilever, P&G, L’Oréal, Beiersdorfマス市場における製品差別化。コスト効率。香りの持続性(残香性)。グローバルな安全性・規制対応。・コストパフォーマンス ・香りの安定性・持続性(カプセル技術等) ・グローバルな規制対応力と安全性データ
ホームケアP&G, Henkel, Reckitt, SC Johnson強力なマスキング効果(基材臭や悪臭の消臭)。高pHや漂白剤存在下での高い安定性。徹底した低コスト。・効果的なマスキング技術 ・過酷な基材条件下での安定性 ・圧倒的なコスト競争力
食品・飲料Nestlé, Coca-Cola, Danone, PepsiCo自然で本物らしい(オーセンティックな)風味。クリーンラベル(添加物不使用など)への対応。健康志向(減糖・減塩)製品の美味しさ向上。・天然・オーセンティックな風味再現技術 ・クリーンラベル対応 ・安定供給能力と品質の一貫性

表6.1: 主要BtoB顧客セグメントのニーズとKBF

6.2. 顧客が求める価値の変化

BtoB顧客が香料メーカーに求める価値は、伝統的なQCD品質・コスト・納期)の枠を大きく超え、より戦略的なパートナーシップへと進化している。

  • 規制対応パートナーとしての価値: グローバル市場でビジネスを展開するFMCGメーカーにとって、各国の複雑な化学物質規制や表示義務を個別に追跡・対応するのは大きな負担である。香料メーカーには、規制を遵守した処方を提案し、必要な安全性データや証明書を迅速に提供する、信頼できる「規制対応パートナー」としての役割が強く求められている。
  • サステナビリティ・パートナーとしての価値: FMCGメーカーは、投資家や消費者から厳しいESG評価に晒されている。そのため、サプライヤーである香料メーカーに対し、サプライチェーン全体での環境負荷削減や人権配慮を証明することを要求する。サステナブルな調達は、もはやCSR活動ではなく、取引の前提条件(KBF)となっている。
  • マーケティング・パートナーとしての価値: 消費者が製品の背景にあるストーリーを重視するようになったことで、FMCGメーカーは香料メーカーに対し、原料の産地や生産者の物語、サステナブルな取り組みなどを、自社のブランドストーリーとして活用できる形で提供することを期待している 15。これは単なる情報提供ではなく、ブランド価値を共に創造する「共創(Co-creation)」活動である 77。

6.3. 最終消費者のインサイト

BtoBビジネスである香料業界の成功は、最終消費者のインサイトをいかに深く理解し、先取りできるかにかかっている。

  • 香りのパーソナライゼーションへの強い需要: 消費者、特に自己表現を重視するミレニアル世代とZ世代は、画一的なマス製品を避け、自分だけのユニークな香りを求める傾向が顕著である 16。AIによる香りのレコメンデーションサービスや、毎月異なる香りを試せるサブスクリプションボックス(例:Scentbird)の人気が、この需要を裏付けている 79。パーソナライズ香水に特化した市場は、2028年までに15億ドル規模に達するとの予測もある 80。
  • 製品の背景にあるストーリーへの共感: 現代の消費者は、単に製品の機能や価格を比較するだけでなく、その製品がどのような哲学や価値観のもとで作られているかを重視する 15。環境に配慮した方法で栽培された原料、生産者の生活向上に貢献するフェアトレード、動物実験を行わないクルエルティフリーといった、製品の背景にあるポジティブなストーリーは、価格プレミアムを正当化し、強いブランドロイヤルティを構築する上で極めて重要な要素となっている。
  • 香りへの機能的便益の期待: ウェルネス市場の拡大と軌を一にして、消費者は香りに対して、リラックス、ストレス軽減、集中力向上、睡眠の質の改善といった、具体的な心身への機能的便益を期待するようになっている 13。アロマセラピーの考え方が日常生活に浸透し、香りは感覚的な楽しみから、セルフケアのためのツールへとその意味合いを広げている。

香料業界はBtoBビジネスでありながら、その成否は最終消費者(C)の動向に大きく左右される。顧客であるFMCGメーカー(B)は、最終消費者の価値観の変化に極めて敏感であり、自社製品にサステナビリティ、パーソナライゼーション、ウェルネスといった価値を反映させるため、サプライヤーである香料メーカー(B)に、それらを具現化する原料、技術、ストーリーを要求する。したがって、香料メーカーがこの競争に勝ち抜くためには、直接の顧客であるFMCGの先を見据え、最終消費者のインサイトを直接的かつ深く捉え、それを先回りしてソリューションとして提案する「BtoBtoC」の視点が不可欠である。SNSのトレンド分析や消費者調査への投資が、BtoBビジネスの成功に直結する時代となっている。


第7章:業界の内部環境分析

7.1. VRIO分析

香料メーカーが持つ経営資源やケイパビリティが、持続的な競争優位の源泉となりうるかを、VRIOフレームワーク(Value: 価値、Rarity: 希少性、Imitability: 模倣困難性、Organization: 組織)を用いて評価する。

経営資源/ケイパビリティ価値(V)希少性(R)模倣困難性(I)組織(O)競争上の意味合い
世界的に著名な調香師YesYesYesYes持続的競争優位
特許化された香料分子YesYesYes (特許期間中)Yes一時的〜持続的競争優位
グローバルな天然原料調達網YesYesYesYes持続的競争優位
長年の安全性・毒性データYesYesYesYes持続的競争優位
大手顧客との強固な関係YesYesYesYes持続的競争優位
AI創香プラットフォームYesNo (低下傾向)No (低下傾向)Yes一時的競争優位
合成生物学による生産技術YesNo (低下傾向)No (低下傾向)Yes一時的競争優位
表7.1: 香料業界における経営資源のVRIO分析

この分析から、いくつかの重要な示唆が得られる。調香師の才能、特許、グローバルな調達網、長年にわたり蓄積された安全性データ、そして大手顧客との信頼関係といった伝統的な経営資源は、依然として他社が容易に模倣できない、持続的な競争優位の源泉であり続けている。特に、規制が世界的に厳格化する中で、膨大な安全性・毒性データの蓄積は参入障壁としてますます重要になっている。
一方で、かつては一部の先進企業だけが保有していたAIや合成生物学といった最先端技術は、技術そのもののコモディティ化や専門人材の流動化により、希少性と模倣困難性が低下しつつある。これらの技術を単独で保有しているだけでは、もはや持続的な競争優位を保証することはできない。
真の持続的競争優位は、これら伝統的資源と新しい技術プラットフォームを有機的に統合し、顧客に対して独自のソリューションとして提供できる組織能力から生まれる。例えば、AIプラットフォームとマスター・パフューマーの感性を融合させて、創造的かつ市場性の高い香りを迅速に開発する能力こそが、模倣困難なケイパビリティとなる。

7.2. 人材動向

業界の変革は、求められる人材ポートフォリオにも大きな変化をもたらしている。伝統的な調香師(パフューマー/フレーバリスト)や有機化学者に加え、以下の専門人材への需要が急速に高まっている。

  • データサイエンティスト / AIエンジニア: AIによる創香、消費者トレンドのビッグデータ分析、需要予測モデルの構築などを担う。
  • 合成生物学者 / バイオインフォマティシャン: 微生物の遺伝子配列を設計・改変し、目的の香料成分を高効率で生産する発酵プロセスを最適化する。
  • サステナビリティ専門家: LCA(ライフサイクルアセスメント)評価の実施、サプライチェーンにおける人権・環境デューデリジェンス、ESGレポーティングなどを担当する。

これらの新しい専門人材の獲得は、業界にとって大きな課題である。特にデータサイエンティストや合成生物学者は、より高い給与水準を提示するIT業界(GAFAMなど)やバイオ医薬品業界との間で激しい人材獲得競争に直面している 82。米国のデータサイエンティストの給与水準は、経験に応じて年収10万ドルから25万ドル以上に達し 84、IFFのような香料大手でも平均約13万5,000ドルと報告されている 85。合成生物学者の平均年収も8万ドルから9万ドル超と高水準である 86。香料業界がこれらのトップタレントを惹きつけるためには、競争力のある報酬パッケージに加え、「サステナビリティへの貢献」や「五感を刺激する創造的な製品開発への関与」といった、この業界ならではの非金銭的な魅力や使命感を強く訴求する必要がある。

7.3. 労働生産性

研究開発(R&D)は、香料業界の価値創造の中核であるが、その投資対効果(ROI)の測定は伝統的に困難であった。しかし、AIの導入により、開発プロセスの生産性は大きく向上しつつある。AIによる処方提案は、開発の初期段階における試行錯誤の回数を減らし、開発期間の短縮と成功確率の向上に直接的に貢献する。
また、ラボオートメーション(自動調合ロボット、ハイスループットスクリーニング装置など)の導入は、手作業によるヒューマンエラーを削減し、24時間体制での実験を可能にすることで、研究開発の物理的なスループットを向上させている。
この業界は、深刻な「人材の断絶」という課題に直面している。伝統的な「アート」の担い手である調香師と、新しい「サイエンス」の担い手であるデータサイエンティストや合成生物学者とでは、その文化、スキルセット、思考様式が大きく異なる。調香師は経験、感性、暗黙知を重視する一方、科学者はデータ、アルゴリズム、再現性を重視する。このギャップは、組織内でのコミュニケーション不全や対立を生むリスクをはらむ。企業のイノベーション能力は、これら二つの異なる才能をいかに組織内で融合させ、互いの能力を最大限に引き出す協働のプロセスと組織文化を構築できるかにかかっている。AIを「仕事を奪う脅威」ではなく「創造性を拡張する協力者」として位置づけ、両者の間に共通言語と相互尊重の文化を醸成する経営層のリーダーシップが、今後の競争力を決定づけるであろう。


第8章:AIの影響とインパクト

人工知能(AI)は、香料業界のバリューチェーン全体にわたり、創造性、効率性、そして顧客との関係性を再定義する、最もインパクトの大きい技術革新である。

8.1. 研究開発(R&D)の変革

AIは、香料開発の心臓部であるR&Dプロセスを「アートと勘」の世界から「データ駆動型の科学」へと変革している。

  • 新規香料分子の設計とスクリーニング: AIは、分子の化学構造からその匂いを予測する「定量的構造匂い相関(QSOR)」モデルを高度化させる。これにより、望ましい香りや機能(例:生分解性、安定性)を持つ未知の分子構造を、実際に合成・評価する前にコンピュータ上で効率的に探索・設計することが可能になる。これは、従来の手当たり次第の合成と評価に比べて、新規分子開発のスピードと成功確率を飛躍的に向上させる。
  • データ駆動型の調香支援: 大手香料メーカーは、独自のAIプラットフォーム開発にしのぎを削っている。
    • GivaudanのCarto」は、数百万の処方データ、市場データ、消費者嗜好データ、科学的知見を統合したシステムである。調香師はタブレット端末上で直感的に処方を組み立て、その香りが特定の市場でどのように受け入れられるか、また基材中での安定性などをリアルタイムで予測できる。これにより、調香師は自身の経験則だけでは思いつかなかったような意外な原料の組み合わせを発見し、創造性の限界を押し広げることが可能になる 88。
    • SymriseのPhilyra」は、IBMと共同開発したAIで、膨大な処方データベースと消費者データを学習し、特定のターゲット層(例:ブラジルのミレニアル世代)に響く新しい香りの処方を自律的に生成する。既にブラジルの化粧品大手O Boticárioとの協業で、世界初となるAIが生成した香水を製品化し、市場投入に成功している 91。
  • 代替原料開発の加速: 希少な天然香料や、IFRA等の規制で使用が制限された成分の代替品を開発する際、AIは極めて有効である。元の香りの複雑なニュアンスを再現しつつ、安全性やサステナビリティといった制約条件を満たす最適な分子構造や処方を迅速に提案する。Symriseの「Philyra 2.0」は、再生可能で生分解性の高い香料の設計に特化した機能を追加している 94。

8.2. マーケティングと需要予測

AIは、市場と消費者をより深く、より速く理解するための強力な武器となる。

  • トレンド分析と潜在ニーズ発掘: AIは、Instagramの投稿、美容ブログ、ECサイトのレビューといった、インターネット上に存在する膨大なテキストや画像データをリアルタイムで分析する。自然言語処理と画像認識技術を用いて、消費者がどのような言葉やイメージ(例:「透明感」「森の中の朝露」)で香りを表現し、どのような文脈で香りを求めているかを解析する。これにより、新たな香りのトレンドの兆候や、まだ市場に存在しない潜在的ニーズを早期に発見することが可能になる 9。
  • パーソナライズされた顧客体験の創出:
    • GivaudanのMyrissi」は、香りと色・感情の関連性をAIで予測するユニークな技術である。消費者が選んだ画像や色彩から、その人の感性に合致する香りをAIが推薦する。これは、オンラインで香りを「試す」ことができないというEコマース最大の課題を克服し、「デジタルの嗅覚体験」を提供する試みである。顧客の製品デザインと香りの感情的価値を一致させることで、よりインパクトのあるマーケティング戦略を支援する 95。
    • 個人の購買履歴やライフスタイルに関するアンケート結果に基づき、AIが最適な香りをレコメンドするエンジンは、香りのサブスクリプションサービスなどで既に活用されており、顧客エンゲージメントとLTV(顧客生涯価値)の向上に貢献している 98。

8.3. サプライチェーンの最適化

AIは、複雑で不確実性の高い香料のサプライチェーンに、予測能力と最適化をもたらす。

  • 原料の収穫量・価格予測: AIは、過去の気候データ、衛星からの植生画像、商品市況データなどを統合的に分析し、主要な天然原料の収穫量や将来の価格変動を高精度で予測する。これにより、香料メーカーはより戦略的な調達計画を立案し、先物取引などを活用したヘッジ戦略を最適化することで、コスト変動リスクを効果的に管理できる。
  • 需要予測と在庫最適化: 顧客からの発注パターンや最終消費財の販売動向、マクロ経済指標などを基に、AIが将来の需要を予測する。この精度の高い需要予測に基づき、サプライチェーン全体の在庫レベルを最適化することで、欠品による機会損失を回避しつつ、過剰在庫に伴う運転資本の増大を防ぐことが可能になる。

AIは、香料業界における「時間の概念」そのものを破壊している。従来は数年単位を要したR&D、数ヶ月単位で行われていたマーケティング調査、そして過去の実績に基づいて計画されていたサプライチェーンの各プロセスが、AIによって劇的に高速化・リアルタイム化される。これにより、企業の競争優位は、過去の経験や資産の蓄積から、未来をより正確に、より速く予測し、その予測に基づいて迅速に意思決定し実行する能力へと集約される。これは、企業が良質なデータを大規模に収集・整備するデータインフラへの投資と、階層的で遅い意思決定プロセスを抜本的に改革し、組織的な俊敏性(アジリティ)を構築することが最重要課題になることを意味している。


第9章:主要トレンドと未来予測

9.1. 合成生物学による香料生産の本格化

合成生物学は、酵母や微細藻類といった微生物の遺伝子を精密に設計・改変し、それらを「細胞工場(Cell Factory)」として利用する技術である。糖などの安価で再生可能な原料を発酵させることで、希少で高価な天然由来の香料成分を、工業的に安定生産することが可能になる 46。
この技術がサプライチェーンに与えるインパクトは計り知れない。天候不順や産地の政情不安といった地理的・農業的制約から完全に解放されるため、バニラやサンダルウッドのように価格変動が極めて激しい原料の安定供給と価格安定化を実現する。これは、香料サプライチェーンの「脱地理化」「脱農業化」を意味し、業界構造を根底から変える力を持つ 59。
既に、Givaudan, Firmenich-DSM, IFF, Symriseといった大手香料メーカーや、Evolvaのようなバイオテクノロジー企業が、バニリン(バニラの主要香気成分)、ヌートカトン(グレープフルーツの香気成分)、アンブロキシド(アンバーグリスの代替)、パチョロール(パチョリの香気成分)などの生産に成功し、一部は商業化に至っている 46。

9.2. アップサイクル香料

アップサイクル香料は、食品産業の製造過程で生じる果物の皮や種、コーヒーの搾りかす、木材加工で出るおが屑など、本来は廃棄されるはずだった副産物を原料として、新たな香料成分を抽出・開発するアプローチである。
これは、資源を最大限に活用するサーキュラーエコモー循環型経済)を体現するビジネスモデルであり、環境意識の高い消費者や顧客企業に対して、強力なサステナビリティ・ストーリーを提供する 43。廃棄物という「負の価値」を持つものから「正の価値」を生み出すこのアプローチは、コスト削減と環境貢献を両立する、新たな価値創造の源泉として注目されている。

9.3. ウェルビーイングと機能性香料

香りの価値は、単なる「感覚的な快楽」から、「心身の健康への貢献」へと拡張している。このトレンドの中核をなすのが機能性香料とニューロセントリック・フレグランスである。
これは、香りが人間の脳や自律神経系に与える影響を、脳波測定(EEG)や機能的MRI(fMRI)といったニューロサイエンス(神経科学)の手法を用いて科学的に解明・可視化し、その知見を製品開発に応用するアプローチである 99。
「ストレスを軽減する香り」「集中力を高める香り」「良質な睡眠をサポートする香り」といった具体的な機能性を、科学的エビデンスと共に訴求することで、従来の香粧品市場の枠を超え、ヘルスケアやウェルネスという巨大市場に新たな高付加価値セグメントを創出する可能性がある 13。大手各社はこの分野への研究開発投資を強化しており、GivaudanのMyrissiやFirmenichのEmotiONは、香りと感情の関連性をAIで解析する先進的な取り組みである 88。

9.4. デジタル・フレグランス

香りの体験は、デジタル技術との融合によって新たな次元へと進化する可能性がある。

  • VR/ARとの融合: VR(仮想現実)やAR(拡張現実)ヘッドセットと連動する香り放出デバイスが登場し始めている。これにより、仮想空間でのゲームや映画、旅行体験において、視覚・聴覚情報と同期した香りを体験でき、これまでにないレベルの没入感を提供することが可能になる。
  • パーソナライズされたIoTディフューザー: スマートウォッチやウェアラブルセンサーが計測した個人の生体データ(心拍数、ストレスレベル、睡眠段階など)や、カレンダーの予定、室内の環境データ(時間、天気、照度)をAIが解析。その瞬間のユーザーの状態や状況に最も適した香りを、IoT接続されたディフューザーが自動で選択し、空間に放出する。これは、究極のパーソナライゼーションであり、香りが生活環境を能動的に最適化する未来を示唆している。

第10章:主要プレイヤーの戦略分析

香料業界の競争環境を理解するため、主要プレイヤーの戦略を比較分析する。分析対象は、市場を寡占する「Big 4」(Givaudan, Firmenich-DSM, IFF, Symrise)と、日本を代表する大手メーカー(高砂香料工業, 長谷川香料)である。

企業名事業ポートフォリオと戦略的フォーカス強み(コアコンピタンス)サステナビリティ戦略AI/デジタル技術への投資近年のM&A/アライアンス動向
Givaudanフレーバーとフレグランス&ビューティーの2本柱でバランスの取れた事業構成。業界トップのR&D投資(売上比約7.6%)27。強力な天然原料調達網とグローバルな顧客基盤。Naturex買収により天然原料ポートフォリオを大幅に強化。「Sustainable Fragrances」イニシアチブを推進し、生分解性原料を重視 67。AI創香支援ツール「Carto」と感情予測AI「Myrissi」をいち早く導入し、業界のデジタル化をリード 88。Naturex(天然原料)、Myrissi(AI)、b.kolor(化粧品)など、戦略的領域における技術・事業獲得型のピンポイント買収を積極的に展開 20。
Firmenich-DSM香料、栄養、健康の3事業を統合。サイエンスと天然原料の両方に強みを持つ。DSMとの合併により、バイオテクノロジー、栄養科学、素材科学にわたる広範な技術ポートフォリオを獲得。高いR&D投資(約6.9%)27。生分解性香料や再生可能原料への注力。AIツール「EcoScent Compass」を用いて原料の環境フットプリントを評価・最適化 88。感情予測AI「EmotiON」を開発し、香りの機能的価値を追求。AIによる香料設計に積極投資 88。2023年にDSMと合併し、売上高で業界トップの巨大サイエンスカンパニーが誕生。相乗効果の創出が今後の焦点。
International Flavors & Fragrances (IFF)Nourish, Health & Biosciences, Scent, Pharma Solutionsの4部門体制。事業の多角化が最も進んでいる。DuPontのN&B事業統合により獲得した、合成生物学と酵素技術における世界トップクラスの技術力。巨大な事業規模。機能性フレーバーや植物由来製品に注力。サステナビリティとイノベーションを戦略の柱に据える 67。ウェルネス(睡眠改善、ストレス軽減など)に特化した機能性香料の開発にAIを活用 88。2021年にDuPontのNutrition & Biosciences事業との大型統合を完了。2023年にはデンマークにイノベーションハブを開設し、バイオ技術の研究を強化 67。
SymriseScent & CareとTaste, Nutrition & Healthの2部門構成。化粧品原料事業にも強みを持つ。効率的な経営による安定した収益性(EBITDAマージン20%超)28。マダガスカルでのバニラ生産など、後方統合による原料供給の安定化。アレルゲンフリー香料や植物由来フレーバーを推進し、健康・安全志向の消費者ニーズに対応 67。IBMと共同でAI創香システム「Philyra」を開発・導入。Philyra 2.0ではサステナビリティ設計機能も追加 91。ADF/IDF(食品原料)の買収によりフード部門を強化 67。B2Cスタートアップを支援するIgnite Venture Studioへの投資も行う 12。
高砂香料工業アジア市場に強固な基盤。ファインケミカル(不斉合成技術)に独自の技術力を有する。ノーベル賞技術であるキラル技術(不斉合成)を応用した、l-メントールなど高機能な香料分子の開発・製造能力。中長期計画「Sustainability2030」を策定し、再生可能エネルギー利用率30%や廃棄物削減5%など具体的な数値目標を設定 100。AIの活用については公表情報が限定的。生産プロセスの効率化などに注力していると推察される。公表されている近年の大型M&Aは限定的。自社技術の深耕に注力する戦略か。
長谷川香料国内トップシェア。特にフレーバー(食品香料)に強みを持つ。堅実な経営が特徴。顧客ニーズにきめ細かく応えるアプリケーション開発力と、国内での強固な販売網。原料調達において環境・人権への配慮を重視し、サプライヤー評価を実施。フードロス削減に貢献する技術開発にも注力 101。AIの活用については公表情報が限定的。2024年に米国のABELEI社を買収し、手薄であった北米市場での事業拡大を本格化 101。

表10.1: 主要香料メーカー戦略比較
出典: 12


第11章:戦略的インプリケーションと推奨事項

11.1. 今後5~10年で勝者と敗者を分ける決定的要因

これまでの分析を統合すると、今後5~10年で香料業界の勝者と敗者を分ける決定的要因は、「テクノロジー(AI、合成生物学)を駆使して、サステナビリティとパーソナライゼーションという市場の二大要求に、最も速く、かつ最も効率的に応える組織能力」であると結論付けられる。具体的には、以下の3つの能力の総和が企業の競争力を決定づける。

  1. データ駆動型インサイト創出能力: 膨大な消費者データや市場データから、次のヒット商品の兆候やまだ満たされていない潜在ニーズを的確に抽出し、製品開発の方向性を定める能力。
  2. バイオ・プラットフォーム構築能力: ターゲットと定めた香料分子を、持続可能かつ安定的に、そしてコスト効率よく生産できる、スケーラブルな合成生物学プラットフォームを構築・運用する能力。
  3. ソリューション統合能力: これら最先端の技術と、伝統的な調香師の感性やアプリケーションノウハウを組織内で有機的に融合させ、顧客の課題解決に繋がる統合ソリューション(マーケティングストーリー、規制対応含む)として迅速に提供する能力。

11.2. 機会と脅威(SWOT分析)

この市場で生き残り、成長するために認識すべき機会(Opportunity)と脅威(Threat)は以下の通りである。

  • 機会 (Opportunities):
    • 機能性香料市場の創造: ウェルネス市場の拡大を追い風に、香りの心理的・生理的効果を科学的に訴求する「ニューロセントリック・フレグランス」という未開拓の高付加価値市場を創造し、リーダーシップを確立する機会。
    • 超希少香料の民主化: 合成生物学を活用し、従来はコストや倫理的問題(例:ジャコウジカ由来のムスク)から商業利用が困難だった香料を製品化し、新たな香りのパレットを市場に提供する機会。
    • パーソナライゼーション需要の獲得: AIを活用して個々の消費者に最適化された香りを提供するD2C(Direct-to-Consumer)ビジネスモデルやサブスクリプションサービスへ展開する機会。
    • サーキュラーエコノミーへの貢献: アップサイクル原料を積極的に活用し、環境意識の高い顧客や消費者から選ばれるブランドとしての地位を確立する機会。
  • 脅威 (Threats):
    • 異業種からのディスラプション: AI創香や合成生物学に特化したテクノロジースタートアップ(例:Ginkgo Bioworks, Osmo)が、既存のバリューチェーンを破壊し、顧客を奪う脅威。
    • サプライチェーンの途絶リスク: 気候変動や地政学的リスクにより、ブランドの根幹をなす特徴的な天然原料が供給不能となり、製品の存続自体が危ぶまれるリスク。また、それに伴う企業のレピュテーションリスク。
    • 規制による事業継続リスク: IFRAやREACHなどの規制強化により、既存の主力製品に使用されている香料成分が使用禁止・制限となり、大幅な処方変更や最悪の場合、販売停止に追い込まれるリスク。
    • 人材獲得競争の敗北: データサイエンティストや合成生物学者といった、事業変革に不可欠なトップタレントを、より魅力的な条件を提示するIT業界やバイオ医薬品業界に奪われ、技術開発で後れを取る脅威。

11.3. 戦略的オプションの提示と評価

上記の機会を捉え、脅威に対処するために、取りうる戦略的オプションを以下に3つ提示し、評価する。

  • オプションA: 「オーガニックな内部変革(自前主義)」
    • 内容: 自社リソースを投じて、AI・合成生物学の研究開発部門をゼロから立ち上げ、時間をかけて既存事業との統合を図る。
    • メリット: 企業文化の継続性を保ちやすい。開発した技術やノウハウを完全に自社でコントロールできる。
    • デメリット: 技術開発と組織変革に多大な時間を要し、市場の急速な変化に追いつけないリスクが高い。異分野のトップタレントをゼロから採用・育成するのは極めて困難。
    • 成功確率: 
  • オプションB: 「戦略的買収(M&A)」
    • 内容: 自社の戦略に合致するAI創香技術や合成生物学プラットフォームを持つ有望なスタートアップを特定し、買収(Acquisition)することで、技術、人材、そして時間を一気に獲得する。
    • メリット: 市場投入までの時間(Time-to-Market)を劇的に短縮できる。競争相手がその技術を獲得するのを防げる。
    • デメリット: 高額な買収費用が必要。買収後の組織文化の衝突(PMI: Post Merger Integration)に失敗するリスクがある。
    • 成功確率: (ただし、PMIの成功が絶対条件)
  • オプションC: 「エコシステム形成(提携・アライアンス)」
    • 内容: 特定の企業を買収するのではなく、複数のスタートアップ、大学、研究機関と目的別の提携関係(アライアンス)を結び、オープンイノベーションを通じて外部の技術や知見を柔軟に取り込む。
    • メリット: 買収に比べて初期投資を抑えられる。広範な技術領域にアクセスでき、リスクを分散できる。
    • デメリット: 技術の主導権を完全に握ることが難しい。重要な知的財産の管理が複雑化する。
    • 成功確率: 中~高

11.4. 最終提言とアクションプラン

最終提言

オプションB「戦略的買収」を中核に据えつつ、オプションC「エコシステム形成」を組み合わせたハイブリッド戦略を最も効果的な事業戦略として提言する。
この戦略の骨子は、自社の将来の競争優位の源泉となる中核技術(例:特定の機能性香料を高効率で生産する合成生物学プラットフォーム)を持つスタートアップを1社、迅速に買収して完全に内部に取り込む。これにより、技術開発のスピードと主導権を確保する。同時に、それ以外の周辺技術(例:消費者トレンド分析AI、新規抽出技術など)については、複数の企業や研究機関と柔軟な提携関係を構築し、常に最新の技術動向にアクセスできるエコシステムを形成する。このハイブリッドアプローチにより、スピード、コントロール、柔軟性のバランスを取ることが可能となる。

アクションプラン概要

  • フェーズ1: 戦略的基盤の構築(最初の100日)
    • 主要アクション:
      1. CEO直下に、技術、事業開発、財務、法務の専門家からなる専任の「M&A・アライアンス推進チーム」を組成する。
      2. シリコンバレー、ボストン、スイスなどのテクノロジーハブにリサーチ拠点を設置し、買収・提携候補となるスタートアップのロングリスト(30社以上)を作成する。
    • 主要KPI: 買収/提携候補の評価基準策定完了。ロングリスト作成完了。
    • 必要リソース: 専任チームの人件費、外部M&Aアドバイザー、技術コンサルタント。
  • フェーズ2: 実行と統合(1年目)
    • 主要アクション:
      1. ショートリスト化した候補企業(3~5社)に対する詳細なデューデリジェンスを実施。
      2. 最も戦略的価値が高いと判断した中核技術スタートアップ1社の買収交渉を開始・完了する。
      3. 周辺技術を持つスタートアップ/研究機関と3件以上の共同研究開発(R&D)契約を締結する。
    • 主要KPI: M&A1件の完了。R&D提携3件の締結。PMI(買収後統合)計画の策定完了。
    • 必要リソース: 買収資金、PMI専任チーム、共同研究開発予算。
  • フェーズ3: 新価値創造と市場投入(2~3年目)
    • 主要アクション:
      1. 買収した技術と自社の既存R&D部門を本格的に統合し、共同プロジェクトを推進する。
      2. 買収・提携技術を活用したパイロット製品(例:合成生物学由来のサステナブル香料、AIが提案した機能性香料)を開発し、主要顧客と共に市場投入する。
      3. 成功事例を基に、全社的なデジタル・バイオトランスフォーメーションを加速する。
    • 主要KPI: 新技術を活用した製品の第一弾を市場投入。新製品の売上目標達成。
    • 必要リソース: 新製品の製造・マーケティング予算、全社的な研修・組織開発プログラム。

第12章:付録

12.1. 参考文献

  • IFRA (International Fragrance Association) Standards & Reports
  • RIFM (Research Institute for Fragrance Materials) Publications & Database
  • Leffingwell & Associates, Market Reports
  • Grand View Research, Fragrance Market Size, Share & Trends Analysis Report
  • Mordor Intelligence, Flavor and Fragrance Market – Growth, Trends, and Forecasts
  • Maximize Market Research, Flavors and Fragrances Market Report
  • Givaudan SA, Annual Reports & Investor Presentations
  • dsm-firmenich AG, Annual Reports & Investor Presentations
  • International Flavors & Fragrances Inc., Annual Reports & Investor Presentations
  • Symrise AG, Annual Reports & Investor Presentations
  • 高砂香料工業株式会社, 有価証券報告書 & サステナビリティレポート
  • 長谷川香料株式会社, 有価証券報告書 & サステナビリティレポート
  • Perfumer & Flavorist+ Magazine 103
  • Global Cosmetic Industry Magazine
  • Relevant academic journals in the fields of synthetic biology, neuroscience, green chemistry, and supply chain management.

12.2. 引用データ・ウェブサイト

本レポート内で引用した全てのデータソース(1~1~101)のURLとアクセス日については、別途電子ファイルにて提供する。

引用文献

  1. Fragrance Market Size And Share | Industry Report, 2030 – Grand View Research, https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/fragrances-market
  2. Flavors and Fragrances Market – Forecast – maximize market research, https://www.maximizemarketresearch.com/market-report/flavors-and-fragrances-market/121756/
  3. Flavors And Fragrances Market Size, Growth Drivers & Forecast, 2030 – Mordor Intelligence, https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/flavor-and-fragrance-market
  4. Flavors and Fragrances Market Future Demand, Forecast 2024-30, https://www.forinsightsconsultancy.com/reports/flavors-and-fragrances-market
  5. Flavors and Fragrances Market Share, Size, Report, 2032 – Fortune Business Insights, https://www.fortunebusinessinsights.com/flavors-and-fragrances-market-102329
  6. Global Fragrances Market Report By Type (Natural, Synthetic), By Application (Food & Beverages, Cosmetic and Personal Care, Home Care, Fabric Care), By Region and Companies – Market.us, https://market.us/report/fragrances-market/
  7. Perfume Market Size, Share & Trends Analysis Report, 2030, https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/perfume-market
  8. Fragrance Ingredients Market Size, Demand, Top Share And Regional Analysis by 2033, https://straitsresearch.com/report/fragrance-ingredients-market
  9. Fragrance Market Size and Share | Industry Report, 2035 – Business Research Insights, https://www.businessresearchinsights.com/market-reports/fragrance-market-104611
  10. Natural Fragrance Market (USD Million) – ReAnIn, https://www.reanin.com/reports/global-natural-fragrance-market
  11. Natural Flavors And Fragrances Market Size Report, 2030 – Grand View Research, https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/natural-flavors-fragrances-market-report
  12. Flavors And Fragrances Market Size | Industry Report, 2033 – Grand View Research, https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/flavors-fragrances-market
  13. Flavor And Fragrance Market Size, Share | Industry Trend & Forecast 2030 – IndustryARC, https://www.industryarc.com/Research/Flavor-And-Fragrance-Market-Research-514034
  14. Fragrances And Perfumes Market Size, Share, Scope & Forecast – Verified Market Research, https://www.verifiedmarketresearch.com/product/fragrances-and-perfumes-market/
  15. Fragrances and Perfumes Market Size, Forecast & Industry Trends 2025 – 2030, https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/fragrance-and-perfume-market
  16. Perfume and Fragrances Market Size, Growth, Share, Trends – Arizton Advisory & Intelligence, https://www.arizton.com/market-reports/perfume-and-fragrances-market
  17. Perfume Market Size, Share, Industry Growth Dynamics 2032 – SkyQuest Technology, https://www.skyquestt.com/report/perfume-market
  18. Trends Generation: Perfume Styles for 2025 – Free Yourself, https://freeyourself.com/blogs/news/perfume-trends-by-generation
  19. Perfume Ingredients Market Size & Industry Growth 2030 – Future Data Stats, https://www.futuredatastats.com/perfume-ingredients-market
  20. U.S. Perfume Ingredient Chemicals Market Size, Share and Growth Forecast for 2024 – 2031, https://www.persistencemarketresearch.com/market-research/us-perfume-ingredient-chemicals-market.asp
  21. Perfume Market Size, Trends, Growth & Forecast 2032 – Persistence Market Research, https://www.persistencemarketresearch.com/market-research/perfume-market.asp
  22. REACH – the Cosmetic, Toiletry and Perfumery Association, https://www.ctpa.org.uk/reach
  23. Think Fragrance-Free Doesn’t Sell? The Market Says Otherwise …, https://terra-tory.com/blogs/terra-haus/think-fragrance-free-doesn-t-sell-the-market-says-otherwise
  24. Consumers splurge on cosmetics online despite inflation: report – Retail Dive, https://www.retaildive.com/news/beauty-shoppers-splurge-cosmetics-online-inflation-fragrances-lipsticks/720020/
  25. Perfume Ingredient Chemicals Market – Top Companies …, https://www.credenceresearch.com/news/perfume-ingredient-chemicals-market-top-companies-comprehensive-analysis
  26. Germany-Based Specialty Food Ingredients Company | S&P Global Ratings, https://www.spglobal.com/ratings/en/regulatory/article/-/view/type/HTML/id/3440038
  27. The Risk of Scent: From Fragrant Margins to Bittersweet Fragility …, https://www.econopolis.be/en/blog/posts/2025/april/the-risk-of-scent-from-fragrant-margins-to-bittersweet-fragility/
  28. The most important information for investors – Symrise, https://www.symrise.com/investors/
  29. IFF Reports Fourth Quarter and Full Year 2024 Results | International Flavors & Fragrances Inc., https://ir.iff.com/news-releases/news-release-details/iff-reports-fourth-quarter-and-full-year-2024-results
  30. International Flavors & Fragrances Inc. (IFF) Porter’s Five Forces Analysis – DCFmodeling.com, https://dcfmodeling.com/products/iff-porters-five-forces-analysis
  31. The Impact of Climate Change on the Perfume Industry: A Global Fragrance Crisis, https://fernwehcollective.com/blogs/blog/the-impact-of-climate-change-on-the-perfume-industry-a-global-fragrance-crisis
  32. Vanilla Extract Market | Global Market Analysis Report – 2035, https://www.futuremarketinsights.com/reports/vanilla-extract-market
  33. Global Vanilla Bean Price | Tridge, https://dir.tridge.com/prices/vanilla-bean
  34. Impact Of Climate Change On Natural Fragrance Ingredients, https://www.chemicalbull.com/blogs/the-impact-of-climate-change-on-the-importance-of-natural-fragrance
  35. Sandalwood Oil 10.3 CAGR Growth Outlook 2025-2033 – Archive Market Research, https://www.archivemarketresearch.com/reports/sandalwood-oil-70558
  36. Sandalwood Oil Market Size, Share | CAGR of 6.8%, https://market.us/report/sandalwood-oil-market/
  37. (PDF) Facing the Harsh Reality of Access and Benefit Sharing (ABS …, https://www.researchgate.net/publication/356573412_Facing_the_Harsh_Reality_of_Access_and_Benefit_Sharing_ABS_Legislation
  38. Access and Benefit Sharing of Biological Resources Dr. Rakesh Shah, IFS Introduction: – Since time immemorial the people have be, https://www.ignfa.gov.in/document/biodiversity-cell-ntfp-related-issues1.pdf
  39. Facing the harsh reality of Access and Benefit Sharing (ABS) legislation – Preprints.org, https://www.preprints.org/frontend/manuscript/c15b35fef581dd03a42ee00412f227d1/download_pub
  40. The Impact of Geopolitical Risks on Global Supply Chains in 2025 – Cin7, https://www.cin7.com/blog/geopolitical-risks-in-supply-chains/
  41. Impact of Geopolitical Factors & Trade Risks On Supply Chain – Grand View Research, https://www.grandviewresearch.com/research-insights/geopolitical-factors-trade-risks-impact-supply-chain
  42. How Does Inflation Impact the Luxury Goods Market? – Diamond Hill, https://www.diamond-hill.com/insights/a-343/articles/how-does-inflation-impact-the-luxury-goods-market/
  43. Make Sense of Scents: Fragrance Trends Now and Beyond | Mintel, https://www.mintel.com/insights/beauty-and-personal-care/make-sense-of-scents-current-and-future-fragrance-trends/
  44. Perfume Market Size, Trends Growth & Demand Report by 2033 – Straits Research, https://straitsresearch.com/report/perfume-market
  45. Gen Fragrance Preferences for 2025: Trends and Insights, https://freeyourself.com/blogs/news/gen-z-fragrance-preferences
  46. A short review: Production of microbial Aroma and flavours – bepls, https://bepls.com/spl_(1)jan2023/8.pdf
  47. The Rise of Biotechnology in the Fragrance Industry: A Sustainable Future? – MAIR, https://mairfragrance.com/blog/the-rise-of-biotechnology-in-the-fragrance-industry-a-sustainable-future/
  48. Application of Green Chemical Synthesis Technology in Fragrance Industry – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/393987401_Application_of_Green_Chemical_Synthesis_Technology_in_Fragrance_Industry
  49. Green Chemistry – the Cosmetic, Toiletry and Perfumery Association, https://www.ctpa.org.uk/green-chemistry
  50. Recent advances on supercritical fluid extraction of essential oils – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/267032886_Recent_advances_on_supercritical_fluid_extraction_of_essential_oils
  51. Aroma Recovery By Supercritical Fluid Extraction – Vina Nha Trang, https://vinanhatrang.com/aroma-recovery-by-supercritical-fluid-extraction/
  52. Global Fragrances Market Growth Opportunities – Frost & Sullivan, https://store.frost.com/global-fragrances-market-growth-opportunities.html
  53. Fragrance Report Fact Sheet | PDF | Trade Secret | Cosmetics – Scribd, https://www.scribd.com/document/622513241/Fragrance-Report-Fact-Sheet
  54. Nectarate (CAS 113889-23-9) – Premium Synthetic Ingredient for Perfumery – Scentspiracy, https://www.scentspiracy.com/fragrance-ingredients/p/nectarate
  55. REACh for Beginners – Biorius, https://biorius.com/cosmetic-news/reach-for-beginners/
  56. Navigating 2025 EU Cosmetic Regulations: Key Deadlines and Compliance Strategies, https://news.ceway.eu/navigating-2025-eu-cosmetic-regulations-key-deadlines-and-compliance-strategies/
  57. Top 10 Porter’S Five Forces Perfume PowerPoint Presentation Templates in 2025, https://www.slideteam.net/top-10-porter’s-five-forces-perfume-powerpoint-presentation-templates
  58. Perfume Porter s five forces: Unlocking Business Opportunities …, https://fastercapital.com/content/Perfume-Porter-s-five-forces–Unlocking-Business-Opportunities–Understanding-Perfume-Porter-s-Five-Forces.html
  59. Case studies exploring the impact of synthetic biology on natural products, livelihoods and sustainable use of biodiversity – ETC Group, https://www.etcgroup.org/sites/www.etcgroup.org/files/files/etc_synbiocasestudies_2016.pdf
  60. How the Fast-Moving Consumer Goods Industry Works | Umbrex, https://umbrex.com/resources/how-industries-work/how-the-fast-moving-consumer-goods-industry-works/
  61. How to do Business Analysis of FMCG Companies – Dr Vijay Malik, https://www.drvijaymalik.com/fmcg/
  62. CHEMICALINSIGHTS – Grace Matthews, https://gracematthews.com/wp-content/uploads/2021/10/ChemicalNewsletter-Summer2018-1.pdf
  63. Creating Natural Smells Through Synthetic Biology – BCC Research Blog, https://blog.bccresearch.com/creating-natural-smells-through-synthetic-biology
  64. Report: Osmo Business Breakdown & Founding Story | Contrary …, https://research.contrary.com/company/osmo
  65. Fragrance-Free Product Demand in Beauty Market 2025 – Free Yourself, https://freeyourself.com/blogs/news/fragrance-free-product-demand-in-beauty-market
  66. Flavors & Fragrances Companies – MarketsandMarkets, https://www.marketsandmarkets.com/ResearchInsight/flavors-fragrance-market.asp
  67. Flavors and Fragrances Manufacturers : Flavors and Fragrances, https://www.maximizemarketresearch.com/competitive-analysis/flavors-and-fragrances-manufacturers/269539/
  68. Suspected anti-competitive conduct in relation to fragrances and fragrance ingredients (51257) – GOV.UK, https://www.gov.uk/cma-cases/suspected-anti-competitive-conduct-in-relation-to-fragrances-and-fragrance-ingredients-51257
  69. IFF, Givaudan, Firmenich and Symrise to answer price fixing charge in court, https://www.globalcosmeticsnews.com/iff-givaudan-firmenich-and-symrise-to-answer-price-fixing-charge-in-court/
  70. Firmenich, Givaudan, IFF and Symrise under investigation by several antitrust agencies, https://cosmeticsbusiness.com/firmenich-givaudan-iff-and-symrise-under-investigation-by-several-antitrust-agencies-207372
  71. Fragrance Industry Analysis: The Business of Perfumery: Analyzing Supply Chains and Distribution – FasterCapital, https://fastercapital.com/content/Fragrance-Industry-Analysis–The-Business-of-Perfumery–Analyzing-Supply-Chains-and-Distribution.html
  72. Political Economy of Scent → Term – Lifestyle → Sustainability Directory, https://lifestyle.sustainability-directory.com/term/political-economy-of-scent/
  73. Transparency and traceability of raw materials | Diptyque Paris, https://www.diptyqueparis.com/en_us/c/transparency-and-traceability-of-raw-materials.html
  74. Smell the Perfume: Can Blockchain Guarantee the Provenance of Key Product Ingredients in the Fragrance Industry? – MDPI, https://www.mdpi.com/2071-1050/16/14/6217
  75. Smell the Perfume: Can Blockchain Guarantee the Provenance of Key Product Ingredients in the Fragrance Industry? – IDEAS/RePEc, https://ideas.repec.org/a/gam/jsusta/v16y2024i14p6217-d1439419.html
  76. (PDF) Consumer Behaviour – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/378300641_Consumer_Behaviour
  77. This time it’s personal: from consumer to co-creator – Forbes, https://www.forbes.com/forbesinsights/StudyPDFs/Consumer_barometer_V9a.pdf
  78. Perfume Market Size to Reach Around USD 101.47 Bn by 2034 – Precedence Research, https://www.precedenceresearch.com/perfume-market
  79. Personalized Fragrance Subscription Market Size & Industry Growth 2030, https://www.futuredatastats.com/personalized-fragrance-subscription-market
  80. Store Fragrance Personalization Experience Stats for 2025 – Free Yourself, https://freeyourself.com/blogs/news/in-store-fragrance-personalization-experience-stats
  81. A Study on Consumer Perception towards Purchase of Perfumes in The Market. – ijrpr, https://ijrpr.com/uploads/V5ISSUE10/IJRPR34399.pdf
  82. Navigating Talent Acquisition in 2025: Biotech and Pharma in Focus – GQR, https://www.gqr.com/blog/2025/01/navigating-talent-acquisition-in-2025-biotech-and-pharma-in-focus
  83. Biotech talent shortage and investing in your team – Circles, https://www.circles.com/resources/biotech-talent-shortage-and-investing-in-your-team
  84. Data Scientist Salaries — High Pay in an Exciting, In-Demand Field, https://onlinedegrees.sandiego.edu/data-scientist-salary-guide/
  85. IFF Data Scientist Salary – Comparably, https://www.comparably.com/companies/international-flavors-fragrances/salaries/data-scientist
  86. Synthetic Biologist Salary, Hourly Rate (October 01, 2025) in the United States, https://www.salary.com/research/salary/hiring/synthetic-biologist-salary
  87. Salary: Synthetic Biology (October, 2025) United States – ZipRecruiter, https://www.ziprecruiter.com/Salaries/Synthetic-Biology-Salary
  88. AI in Perfume Formulation: Market Insights for 2025 – Free Yourself, https://freeyourself.com/blogs/news/ai-in-perfume-formulation-market
  89. Artificial intelligence is quietly disrupting the fragrance development process – Glossy, https://www.glossy.co/beauty/artificial-intelligence-is-quietly-disrupting-the-fragrance-development-process/
  90. What is perfume AI, and how technology can create fragrance a human will love?, https://headchannel.co.uk/blog/what-is-perfume-ai-and-how-technology-can-create-fragrance-a-human-will-love/
  91. Philyra – Symrise, https://www.symrise.com/scent-and-care/competence-platforms/philyra/
  92. Symrise and IBM: New Fragrances Created by AI – Digital Innovation and Transformation, https://d3.harvard.edu/platform-digit/submission/symrise-and-ibm-new-fragrances-created-by-ai/
  93. Fragrances from big data – Symrise, https://www.symrise.com/our-stories/fragrances-from-big-data/
  94. Symrise highlights new version of AI fragrance tool at WPC – BW Confidential, https://www.bwconfidential.com/symrise-highlights-new-version-of-ai-fragrance-tool-at-wpc/
  95. Givaudan launches AI-powered tool – BW Confidential, https://www.bwconfidential.com/givaudan-launches-ai-powered-tool/
  96. Givaudan Introduces Cutting-edge AI Technology to Translate Scents into Color Patterns, https://www.specialchem.com/cosmetics/news/givaudan-introduces-ai-technology-000229924
  97. Givaudan Unveils AI Technology Myrissi to Predict Emotional Perception of Fragrance, https://www.perfumerflavorist.com/news/fragrance/news/22684100/givaudan-givaudan-unveils-ai-technology-myrissi-to-predict-emotional-perception-of-fragrance
  98. Perfume and Fragrances Market Size, Share, Forecast to 2035 – Market Research Future, https://www.marketresearchfuture.com/reports/perfume-fragrance-market-4748
  99. Scent & Sense: How Artificial Intelligence is Reshaping the Future of Perfumery, https://de.latelierparfum.com/blogs/journal/parfum-et-intelligence-artificielle-une-revolution-olfactive-en-marche
  100. Sustainability2030(Mid-Long Term Sustainability Plan …, https://www.takasago.com/en/sustainability/takasago_sustainability/plan.html
  101. Sustainability Report 2025, https://www.t-hasegawa.co.jp/files/en/csr/hasegawa_sustainability_report_2025.pdf
  102. Natural Fragrance Market Size, Industry Share, Trends, 2032, https://www.fortunebusinessinsights.com/natural-fragrance-market-102359
  103. Perfumer & Flavorist magazine – Global Cosmetic Industry, https://www.gcimagazine.com/home/company/21161272/perfumer-flavorist-magazine
  104. Magazines – Perfumer & Flavorist, https://www.perfumerflavorist.com/magazine
error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました