ペダルの先にある未来:e-BikeとAIが駆動する次世代モビリティ戦略
第1章:エグゼクティブサマリー
本レポートの目的と調査範囲
本レポートは、自転車業界が直面する歴史的な地殻変動を多角的に分析し、次世代モビリティ市場において持続的な競争優位を確立するための、具体的かつ実行可能な事業戦略を提言することを目的とする。自転車業界は今、単なる製品の進化に留まらない、ビジネスモデル、バリューチェーン、そして顧客との関係性そのものが根本から覆される変革の渦中にある。
本調査の範囲は、完成車(e-Bike、スポーツバイク、シティサイクル、カーゴバイク)、主要コンポーネント(ドライブユニット、バッテリー)、および関連サービス(シェアリング、サブスクリプション)を網羅的に対象とする。これにより、業界の全体像を俯瞰し、価値創造の源泉がどこに移行しつつあるのかを明確に描き出す。
最も重要な結論:高付加価値化とサービス化への岐路
自転車業界は、単なる「製造業」から、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを高度に統合した「コネクテッド・モビリティ産業」へと進化する、後戻りのできない岐路に立っている。この変革の核心はe-Bike(電動アシスト自転車)であり、製品単価を劇的に押し上げるだけでなく、価値の源泉を従来の「軽量化・精密加工」といった機械工学から、「システム統合・ソフトウェア制御」といったエレクトロニクスとデータサイエンスへと不可逆的にシフトさせている。
今後の業界における勝敗を分けるのは、もはやフレームの軽量性やコンポーネントの変速精度のみではない。ドライブユニット、バッテリー、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)、そしてスマートフォンアプリをシームレスに統合するシステム統合能力、顧客データを直接収集し活用するデータドリブンな顧客関係構築力、そしてハードウェア販売に留まらない継続的な収益を生み出すサービス・エコシステムの構築力である。この構造変化に適応できない企業は、高付加価値領域をサプライヤーとサービスプロバイダーに奪われ、単なる「組み立て業者」へとコモディティ化するリスクに直面している。
事業戦略上の主要な推奨事項
本分析に基づき、この変革期を勝ち抜くために、以下の4つの戦略的アクションを強く推奨する。
- e-Bikeシステム統合能力の獲得: 競争力の源泉がソフトウェアとエレクトロニクスに移行する中、ドライブユニット、バッテリーマネジメントシステム(BMS)、コネクテッドアプリをシームレスに統合・制御するケイパビリティの獲得が最優先課題である。これを実現するため、ソフトウェア企業やエレクトロニクス企業とのM&Aまたは資本業務提携を早急に検討・実行すべきである。
- ハイブリッドD2Cモデルへの転換: 顧客との直接的な関係を構築し、貴重なデータを収集するため、D2C(Direct to Consumer)モデルへの移行は不可避である。しかし、既存の販売網を完全に排除するのではなく、試乗、納車、メンテナンス、コミュニティ形成の拠点として再定義し、オンラインでの販売とオフラインでの体験・サービスを融合させたオムニチャネル戦略を構築する。これにより、顧客生涯価値(LTV)の最大化を目指す。
- 「コト」事業のサービス・ポートフォリオ構築: 自転車本体の販売(モノ売り)から脱却し、継続的な収益源を確保する。AIとIoTを活用し、盗難防止・追跡サービス、センサーデータに基づく予知保全アラート、パーソナライズド・コーチングプランといった高付加価値なサブスクリプション・サービスを開発・提供し、収益源を多角化する。
- 人材ポートフォリオの変革と獲得競争への備え: 事業変革を推進するためには、組織のDNAそのものを変革する必要がある。従来の機械エンジニアに加え、ソフトウェアエンジニア、データサイエンティスト、UX/UIデザイナー、サイバーセキュリティ専門家を積極的に採用・育成する。IT・自動車業界との熾烈な人材獲得競争を勝ち抜くため、魅力的な報酬体系と企業文化の構築が急務である。
第2章:市場概観(Market Overview)
世界および主要国の自転車市場規模と今後の予測
世界の自転車市場は、e-Bike(電動アシスト自転車)を主たる成長エンジンとして、力強い拡大局面にある。市場規模の予測は調査機関によって幅があるものの、その成長トレンドは一致している。2024年時点での市場規模は548億米ドルから835億米ドルの範囲で評価されており、2030年には713億米ドルから1,378億米ドルへと達すると予測されている 1。これは、予測期間中に年平均成長率(CAGR)4.4%から10.5%という高い水準での成長が続くことを示唆している 1。
この成長の質を理解する上で最も重要な点は、市場が「台数」ベースの成長から「金額」ベースの成長へと大きくシフトしていることである。このシフトを牽引しているのが、平均販売単価(ASP: Average Selling Price)が従来型自転車の数倍に達するe-Bikeである。e-Bikeセグメントは2024年に市場全体の収益シェアの51%以上を占め、2030年に向けてCAGR 10%を超えるペースで成長すると見込まれており、市場全体の価値を底上げしている 2。
地域別に見ると、アジア太平洋地域が生産・消費の両面で世界最大の市場であり、今後もCAGR 13%超という最も高い成長を牽引すると予測される 2。欧州はe-Bikeの普及が最も進んだ成熟市場であり、引き続き安定した需要が見込まれる 4。北米は、環境意識の高まりとインフラ整備を背景に、e-Bike市場が急成長する最もポテンシャルの高い地域の一つと見なされている 5。
| 項目 | データ | 出典 |
|---|---|---|
| 世界市場規模 (2024年) | 548億~835億米ドル | 1 |
| 世界市場規模予測 (2030年) | 713億~1,378億米ドル | 1 |
| 予測期間CAGR (2024-2030) | 4.4%~10.5% | 1 |
| e-Bikeの収益シェア (2024年) | 51.25% | 2 |
| e-Bikeセグメントの予測CAGR | 12.76% | 2 |
市場セグメンテーション分析
製品タイプ別
市場はe-Bike、スポーツバイク(ロード、MTB)、シティサイクル等に大別される。金額ベースではe-Bikeが最大のセグメントであり、その内訳はシティ/アーバンタイプが約77%を占め、通勤・通学や日常の足としての需要が中心となっている 5。一方で、e-MTB(電動マウンテンバイク)やe-カーゴバイクといったニッチセグメントも、レジャー用途の多様化やラストマイル配送需要の拡大を背景に、市場平均を上回る高い成長率を示している 5。
e-Bikeの浸透率(e-Bike化率)
e-Bikeの普及度は地域によって大きく異なる。欧州、特にドイツでは販売される自転車の約半分がe-Bikeとなっており、市場が成熟期に入っている 8。オランダ、ベルギーなども高い普及率を誇る。一方、北米市場はCAGR 12.6%という高い成長率で急速に普及が進んでおり、巨大な成長ポテンシャルを秘めている 6。アジア太平洋地域は、中国を筆頭に世界最大の市場でありながら、e-Bike化率はまだ発展途上にあり、今後の所得向上と共に爆発的な普及が見込まれる 3。
販売チャネル別
現状では、自転車専門店(IBD: Independent Bicycle Dealer)や量販店といったオフラインの小売店が全体の73%~81%のシェアを占めている 2。これは、特に高価格帯の製品において、消費者が試乗や専門的なアドバイスを求める傾向が強いためである。しかし、トレンドとしてはオンラインチャネルがCAGR 13%以上という圧倒的な成長率を見せており、D2C(Direct to Consumer)ブランドの台頭と合わせて、販売構造の変革が急速に進んでいる 2。
価格帯別
e-Bikeの普及は、市場全体の価格構造を押し上げている。特に3,500~5,999米ドルといったプレミアム価格帯が最も高い成長率を示しており、消費者が単なる移動手段としてだけでなく、高性能なガジェットやステータスシンボルとしてe-Bikeを捉え始めていることを示唆している 5。
主要な市場成長ドライバーと阻害要因
成長ドライバー
- 健康・環境意識の高まり: サステナビリティへの関心とウェルネス志向は、自転車を「持続可能で健康的な移動・レジャー手段」として再評価させ、市場の基盤を支える強力な追い風となっている 2。
- 都市インフラ整備と政府支援: フランスの20億ユーロ規模の投資計画に代表されるように、各国政府による自転車専用レーンへの投資やe-Bike購入補助金が直接的な需要を喚起している 2。
- e-Bike技術革新: リチウムイオンバッテリーの高密度化とコスト低下、ドライブユニットの小型・高出力化が製品の魅力を継続的に向上させている 5。
- MaaSとラストマイル配送: シェアサイクルサービスの普及や、ギグエコノミー(フードデリバリー等)の拡大が、都市部での自転車、特にカーゴバイクの新たな需要を創出している 10。
阻害要因
- 高価格: 特にe-Bikeの初期投資コストは、依然として大きな購入障壁となっている。バッテリーが製造コストの30~40%を占めることが主な要因である 2。
- 安全性への懸念と盗難問題: 交通事故への懸念や、高価なe-Bikeの盗難リスクが消費者の購入意欲を削ぐ要因となっている。
- インフラの未整備: 特に新興国や地方都市における専用レーンや安全な駐輪・充電施設の欠如が、普及の足かせとなっている 10。
- 代替モビリティとの競争: 都市部では、電動キックボードやライドシェアなど、他のマイクロモビリティとの間で利用者の奪い合いが激化している 2。
業界の主要KPIベンチマーク
- 平均販売単価(ASP)の上昇トレンド: e-Bikeが製品ミックスに占める割合の増加に伴い、業界全体のASPは顕著な上昇を続けている。これは、業界の収益性を測る上で最も重要な指標の一つである。
- 主要メーカーのD2C比率: D2Cチャネルの成長率は高いものの、大手既存メーカーのD2C比率はまだ限定的である。この比率の動向は、各社のチャネル戦略と収益構造の変革スピードを示す指標となる。
- カーゴバイク市場の成長率: BtoB(法人向け物流)およびBtoC(個人・家庭向け)の両方で、カーゴバイク市場はCAGR 12%以上という高い成長を記録している 11。この成長率は、都市内物流(ラストマイルデリバリー)とライフスタイルの変化という2つの大きなトレンドを捉える指標として注目される。
第3章:外部環境分析(PESTLE Analysis)
自転車業界を取り巻くマクロ環境は、政治、経済、社会、技術、法規制、環境の各側面から大きな影響を受けている。これらの要因は、業界の成長機会を創出する一方で、新たなリスクや制約ももたらしている。
政治(Politics)
各国の政策が、自転車市場、特にe-Bikeの需要を直接的に左右している。
- 購入補助金政策: 欧州各国はe-Bike普及の強力な推進役となっている。フランスでは低所得者向けに最大4,000ユーロ、ドイツではカーゴバイク購入費用の25%を補助するなど、手厚いインセンティブが提供されている 5。日本でも、特に東京都が国の補助金に上乗せする形で手厚い助成制度を設けており、消費者の購入を後押ししている 16。これらの政策は、高価格なe-Bikeの購入障壁を引き下げる上で極めて効果的である。
- インフラへの公的投資: 持続可能な都市交通への移行を目指し、各国政府は自転車インフラへの投資を拡大している。フランス政府は2027年までに20億ユーロを投じて自転車レーン網を倍増させる計画を発表しており、こうした動きは自転車の利用環境を抜本的に改善し、潜在的な需要を喚起する 2。
- 輸入関税政策: 地政学的な緊張は、グローバルなサプライチェーンに直接的な影響を及ぼす。例えば、欧州連合(EU)が中国製のe-Bikeに対してアンチダンピング関税を課している事例や、米中貿易摩擦に伴う関税措置は、完成車メーカーの調達戦略に大きな影響を与える 18。これにより、生産拠点を中国から台湾やベトナムなどへシフトする動きが加速している。
経済(Economy)
- 可処分所得の変動: e-Bikeや高級スポーツバイクといった高価格帯製品の需要は、個人の可処分所得の動向に大きく影響される。景気後退期には、消費マインドの冷え込みにより、これらの製品の購入が延期されたり、より安価なモデルへと需要がシフトしたりするリスクがある 20。
- 為替レートの変動: 自転車産業はグローバルな分業体制で成り立っており、特に日本のシマノや米国のSRAMといった特定企業の部品への依存度が高い。また、e-BikeのドライブユニットはドイツのBoschが大きなシェアを握る。このため、円、ドル、ユーロなどの為替レートの変動は、部品の調達コストに直接反映され、完成車メーカーの利益率を圧迫する要因となる。
社会(Society)
ライフスタイルの変化と価値観の多様化が、自転車の役割を再定義している。
- 健康・ウェルネス志向とサステナビリティ: 脱炭素社会への移行というマクロトレンドと、個人の健康増進への関心の高まりが融合し、自転車は「環境に優しく、健康的な移動・レジャー手段」としての地位を確立した 2。これは、市場の需要を根底から支える最も強力な社会的ドライバーである。
- ギグエコノミーの拡大: Uber Eatsに代表されるフードデリバリーサービスや、ECサイトの即日配送サービスなど、ギグエコノミーの拡大は「ラストマイル配送」の需要を爆発的に増加させた。この担い手として、電動カーゴバイクが最適なソリューションとして注目されており、BtoB市場における新たな成長領域となっている 8。
- 「所有」から「利用」へ: 都市部を中心に、シェアサイクルやサブスクリプションサービスが普及し、消費者の「所有」に対する価値観が変化している。特に若年層は、必要な時に必要なだけ利用できるサービスを好む傾向があり、これは従来の「自転車を販売する」ビジネスモデルからの転換を迫るものである 21。
技術(Technology)
技術革新は、自転車の製品価値と顧客体験を根本から変えつつある。
- e-Bikeの核心技術の進化: バッテリー技術はe-Bikeの性能を左右する最重要分野である。リチウムイオンバッテリーの高密度化により航続距離が延伸し、コストは低下傾向にある 5。将来的には、より安全で高エネルギー密度を持つ全固体電池の実用化も期待される。また、ドライブユニットは小型・高出力・静音化が進み、より自然でパワフルなアシスト体験を実現している。
- コネクテッド技術: IoTセンサー、GPS、5G通信技術の自転車への搭載は、単なる走行データ記録に留まらない価値を生み出す。リアルタイムでの位置追跡による高度な盗難防止機能、走行データの収集・分析を通じたパーソナライズドサービスの提供、さらにはV2X(Vehicle-to-Everything)通信による自動車や交通インフラとの連携で、事故を未然に防ぐといった安全性向上への貢献が期待される 24。
- 先進製造技術: 3Dプリンティング技術の進化は、個々のライダーの体格や好みに合わせたカスタムフレームのオンデマンド製造を可能にする。また、AIを活用したジェネレーティブデザインは、人間の設計者が思いつかないような、軽量性と剛性を極限まで最適化したフレーム形状を生み出すポテンシャルを秘めている 26。
法規制(Legal)
国や地域によって異なる法規制は、製品開発とグローバル展開における重要な制約条件となる。
- e-Bikeの速度・出力規制: e-Bikeの法的な位置づけは世界的に統一されていない。EUではアシスト上限速度が25km/hの「Pedelec」が標準だが、それを超える「S-Pedelec」は免許や保険が必要なモペッド扱いとなる。一方、米国では速度やスロットルの有無によってClass 1~3に分類されるなど、複雑な規制体系が存在する 10。中国では、2024年に新たな国家標準が導入され、最高速度25km/h、モーター出力400W以下といった厳格な安全基準が定められた 29。これらの規制の違いは、各市場向けの製品仕様の最適化を要求する。
- データプライバシー規制: コネクテッドバイクが収集する走行ルートや個人の健康データは、個人情報保護の観点から厳格な管理が求められる。特にEUではGDPR(一般データ保護規則)への準拠が必須であり、違反した場合には巨額の制裁金が科されるリスクがある。
- 製造物責任(PL)法: e-Bikeはバッテリーやモーターといった電装部品を搭載するため、従来の自転車に比べて火災や電気系統の不具合といったリスクが高まる。製品の欠陥によって利用者に損害が生じた場合の製造物責任は、より厳格な品質管理とリスクマネジメント体制を企業に要求する。
環境(Environment)
環境への配慮は、企業の社会的責任(CSR)の範疇を超え、事業継続性を左右する経営課題となっている。
- バッテリーのリサイクル・リユース: EUでは2023年に「バッテリー規則」が施行され、電池のライフサイクル全体にわたる規制が強化された。これには、製造時のカーボンフットプリントの開示義務、リサイクル材の最低使用率の設定、そして厳格な回収・リサイクル目標が含まれる 32。特に2027年から義務化される「バッテリーパスポート」は、個々のバッテリーの原材料調達からリサイクルに至るまでの全情報をデジタルで追跡可能にすることを求めるものであり、サプライチェーン全体の透明性確保が不可欠となる。
- サプライチェーンのカーボンフットプリント: フレーム(特に製造時に多くのエネルギーを消費するカーボンファイバー)や各種コンポーネントの製造、そして世界各地からの部品輸送に伴うCO2排出量の算定と削減は、投資家や消費者からの要求が高まっている。Trek Bicyclesなどがサステナビリティレポートを公表し、具体的な削減目標を掲げるなど、業界全体で対応が求められている 35。
このEUの「バッテリー規則」は、単なる環境規制ではなく、業界の競争ルールを根本から変えるゲームチェンジャーである。この規制は、EUという巨大市場でビジネスを行う全てのプレイヤーに対し、製品のライフサイクル全体にわたる責任を要求する。原材料の調達から製造、使用、そして廃棄・リサイクルに至るまでのトレーサビリティを確保し、環境負荷を最小化する体制を構築できなければ、市場からの退出を余儀なくされる可能性がある。これは、新たな参入障壁として機能すると同時に、いち早く対応しサステナビリティを競争力へと転換できた企業にとっては、ブランド価値を高め、市場優位性を築く絶好の機会となる。
第4章:業界構造と競争環境の分析(Five Forces Analysis)
自転車業界の収益構造と競争の力学を、マイケル・ポーターのFive Forcesフレームワークを用いて分析する。特にe-Bikeの台頭は、従来の業界構造を大きく揺るがしている。
売り手の交渉力:極めて強い
業界の利益構造を理解する上で最も重要なのが、部品供給業者(売り手)の圧倒的な交渉力である。
- 主要コンポーネントメーカーの寡占: 変速機やブレーキといった基幹部品市場は、日本のシマノと米国のSRAMによる複占状態にある。特にシマノは、スポーツ自転車向け部品で世界シェアの70~85%を握るとされ、圧倒的な地位を築いている 36。完成車メーカーは、製品の性能、価格、生産スケジュールに至るまで、これら巨大サプライヤーの意向に大きく左右される。この依存関係は「シマノ縛り」とも称され、完成車メーカーの製品開発の自由度を制約する要因となっている。
- e-Bikeドライブユニット市場の支配構造: e-Bikeの心臓部であるドライブユニット市場もまた、特定のプレイヤーによる寡占が進んでいる。自動車部品大手のBoschは、特に欧州市場において50~70%という圧倒的なシェアを誇り、その高い技術力と広範なサービスネットワークを武器に、事実上の業界標準としての地位を確立している 39。シマノ、ヤマハ発動機、Broseなどがこれを追うが、Boschの牙城を崩すには至っていない。
この結果、完成車メーカーは、製品の最も重要な付加価値の源泉であるコンポーネントとドライブユニットにおいて、価格決定権をほとんど持たず、サプライヤーの高い利益率を支える構造になっている。
| メーカー | 推定欧州市場シェア (%) | 主な強み |
|---|---|---|
| Bosch | 50 – 70% | 高性能・高信頼性、広範なサービス網、強力なブランド力 |
| Shimano | 12 – 20% | 自転車部品とのシステム統合、既存の販売・サービス網 |
| Bafang | 15% | コスト競争力、ハブモーターでの強み |
| Brose | 6 – 7% | 静粛性、自然なアシストフィール、プレミアムセグメントでの評価 |
| Yamaha | 4 – 5% | 開発の歴史と信頼性、パワフルなアシスト |
| その他 | 3 – 8% | ニッチ市場向け製品 |
出典: 39に基づく推定
買い手の交渉力:中程度から強まる傾向
消費者と小売店の交渉力は、情報技術の進化と販売チャネルの変化によって徐々に強まっている。
- 消費者: CanyonやRad Power BikesといったD2C(Direct to Consumer)ブランドの台頭により、消費者はインターネットを通じて、世界中のブランドの製品スペックや価格を容易に比較検討できるようになった 41。これにより、メーカーと消費者の間の情報の非対称性が解消され、価格と性能の透明性が向上。消費者はより賢明な購買決定を下せるようになり、その交渉力は増している。
- 小売店(専門店): 従来、地域における販売の担い手であった自転車専門店(IBD)は、メーカーによるD2Cシフトの直撃を受けている。オンラインで直接製品を購入する消費者が増えることで、小売店の販売代理店としての交渉力は相対的に低下している。生き残りをかけて、多くの小売店が単なる販売拠点から、専門的なメンテナンス、フィッティング、試乗機会の提供、地域サイクリングコミュニティのハブといった「サービス拠点」へと役割を変革しようと模索している。
新規参入の脅威:高い(特にe-Bike市場)
e-Bikeがもたらした技術革新と市場拡大は、異業種からの強力な新規参入者を惹きつけている。
- 自動車・家電メーカーの参入: PorscheやBMWといったプレミアム自動車メーカーは、その強力なブランド力とデザイン能力を活かしてe-Bike市場に参入している 43。また、Bosch(自動車部品)、日本電産(Nidec)(モーター)、Dyson(家電)といった企業は、自社が持つモーター制御やバッテリー技術といった核心的な強みを武器に、業界のディスラプター(破壊者)となるポテンシャルを秘めている 45。これらの企業は、既存の自転車メーカーが十分に持たないエレクトロニクスやソフトウェアに関する深い知見を持ち込んでおり、競争のルールを根本から変える可能性がある。
- D2Cモデルを活用したスタートアップ: D2Cビジネスモデルは、巨額な店舗網への投資を必要としないため、新規参入の障壁を大幅に引き下げた。革新的なデザインやコネクテッド機能を武器にしたスタートアップ(経営破綻したものの、一時は業界を席巻したVanMoofがその典型例)が、スピード感のある製品開発と巧みなデジタルマーケティングで、短期間に一定の市場シェアを獲得する事例が見られる。
代替品の脅威:高い(特に都市部の移動手段として)
特に都市部の短距離移動(マイクロモビリティ)市場において、自転車は多くの代替品と厳しい競争を繰り広げている。
- 多様なマイクロモビリティ: 電動キックボード、小型EV、そしてLimeのようなシェアリングサービスは、手軽さと利便性で自転車の強力なライバルとなっている 2。
- 公共交通機関とカーシェアリング: 鉄道やバスといった公共交通機関や、カーシェアリングサービスも、天候や移動距離、荷物の有無といった条件に応じて、自転車の代替選択肢となる。消費者は「移動」という便益を最大化するために、これらの選択肢を状況に応じて使い分けており、自転車は常に比較の対象に晒されている。
業界内の競争:激しい
既存のプレイヤー間の競争も、グローバル市場で激化している。
- グローバル大手ブランド間の競争: Giant、Trek、Specializedといったグローバルな大手ブランドは、長年にわたりブランド力、技術開発力、広範な販売網を武器に、世界中のあらゆるセグメントで熾烈なシェア争いを展開している 35。
- e-Bike市場での競争激化: e-Bike市場は最も成長が著しい主戦場であり、前述の既存ブランド、異業種からの新規参入組、そしてD2Cブランドが入り乱れ、製品開発、価格設定、マーケティングの全てにおいて競争が激化している。
- D2Cブランドによる価格・スピード競争: CanyonのようなD2Cブランドは、中間マージンを排除した価格競争力と、顧客からのフィードバックを迅速に製品に反映させる開発スピードで、既存メーカーに大きなプレッシャーをかけている 49。
このFive Forces分析から浮かび上がるのは、自転車業界の利益プールが、単に部品を組み立てて販売するだけの伝統的な完成車メーカーから、寡占的な力を持つ「上流」のコンポーネント・ドライブユニットメーカーと、顧客との直接的な接点を握る「下流」のD2Cプラットフォームやサービスプロバイダーへと吸い上げられる構造的なリスクである。完成車メーカーは、上流からはコスト圧力を受け、下流からは顧客接点を奪われる「サンドイッチ状態」に陥る危険に直面しており、この構造から脱却し、自らが価値を創出し獲得できる領域をいかに確保するかが、今後の最重要戦略課題となる。
第5章:サプライチェーンとバリューチェーン分析
自転車業界の構造変化を深く理解するためには、モノの流れである「サプライチェーン」と、価値がどこで生み出されているかを示す「バリューチェーン」の両面から分析することが不可欠である。
サプライチェーン分析:アジアへの依存と寡占がもたらす脆弱性
自転車のサプライチェーンは、グローバルに展開されている一方で、特定地域と特定企業への依存という構造的な脆弱性を抱えている。
- アジア地域への生産依存: フレーム(特にカーボンファイバーやアルミニウム)、および多くのコンポーネントの生産は、台湾、中国、ベトナムといったアジア地域に大きく依存している 19。これはコスト競争力の源泉であると同時に、大きなリスク要因でもある。米中対立のような地政学的リスク、パンデミック時に顕在化した世界的な物流の混乱、あるいは特定地域での自然災害や政情不安が発生した場合、サプライチェーン全体が麻痺し、生産停止に追い込まれる危険性を常に内包している。
- 主要コンポーネントの寡占的依存(「シマノ縛り」): 前章でも述べた通り、シマノとSRAMという2社が世界のコンポーネント市場を支配している状況は、完成車メーカーにとって深刻な経営リスクである 36。これらの寡占企業は、新製品のリリースサイクルや供給量をコントロールすることで、事実上、完成車メーカーの製品開発ロードマップや生産計画を左右する力を持つ。需要が急増した際には部品供給がボトルネックとなり、機会損失を生むことも少なくない。この「シマノ縛り」から脱却するため、一部のメーカーでは自社ブランドのコンポーネント開発や、他のサプライヤーとの関係強化を模索する動きも見られるが、品質と規模の面でシマノ等に匹敵する代替先を見出すことは容易ではない。
- e-Bike化によるサプライチェーンの複雑化: e-Bikeの登場は、サプライチェーンに新たな階層と複雑性をもたらした。ドライブユニット(Bosch, Shimano, Yamaha等)、リチウムイオンバッテリーセル(Panasonic, Samsung, LG等)、バッテリーマネジメントシステム(BMS)、各種センサーといった電子部品が新たに加わった。これらの部品は、従来の自転車部品とは全く異なる技術領域とサプライヤーネットワークを必要とする。特にバッテリーは、コバルトやリチウムといった特定鉱物の安定確保が課題となるなど、新たな地政学リスクと調達の難易度をもたらしている。
バリューチェーン分析:価値の源泉の劇的なシフト
e-Bike化とD2C化の進展は、業界のバリューチェーンを根底から覆し、価値が生まれる場所(価値の源泉)を大きくシフトさせている。
- 価値の源泉シフト:「製造」から「R&D」と「顧客接点」へ
- 従来型: 従来の自転車産業における価値の源泉は、主に「研究開発(軽量フレーム、高性能コンポーネント)」と「製造・アセンブリ(精密加工技術)」、そして「ブランディング(レース活動等)」にあった。
- 変革後: 現在進行している変革では、価値の源泉は以下の領域へと劇的に移行している。
- 研究開発(システム統合とソフトウェア): 個々の部品の性能だけでなく、ドライブユニット、バッテリー、センサー、アプリを一つのシステムとしていかにシームレスに統合し、最適化するかが競争力の核となっている。走行状況に応じてアシストを最適制御するアルゴリズムや、スマートフォンアプリのUX/UIデザインといったソフトウェア開発能力が、ハードウェアの性能と同等、あるいはそれ以上に重要になっている。
- ブランディングとD2Cチャネル: D2Cモデルは、単なる販売チャネルの変革に留まらない。顧客との直接対話を通じてブランドストーリーを伝え、コミュニティを形成し、顧客データを直接収集・分析することで、製品開発やマーケティングに活かすという、新たな価値創造のサイクルを生み出している。
- アフターサービス(データ連携): コネクテッドバイクから得られるデータを活用した予知保全、盗難防止サービス、オンラインでのファームウェアアップデートなど、購入後の顧客体験を高めるサービスが新たな付加価値となっている。これにより、一度きりの製品販売から、継続的な関係性に基づくLTV(顧客生涯価値)の最大化へとビジネスモデルが変化している。
- D2C化による利益構造と顧客接点の変化
D2Cモデルの導入は、バリューチェーンから「卸売業者」と「小売店」という中間プレイヤーを部分的に、あるいは完全に排除する。- 利益構造の変化: 中間マージンがなくなることで、メーカーの利益率は理論上向上する。しかしその一方で、これまで中間業者が担ってきたマーケティング、物流、在庫管理、カスタマーサービスといった機能を全て自社で担う必要があり、新たなコストが発生する。このトレードオフを乗り越え、効率的なオペレーションを構築できるかどうかが、D2Cモデル成功の鍵となる 50。
- 顧客接点の変化: 最大の変化は、顧客との接点を自社で直接コントロールできるようになる点である。これにより、顧客の購買データ、ウェブサイト上の行動データ、さらには製品使用後の走行データまで、多岐にわたる貴重な情報を直接収集することが可能になる。このデータを活用して顧客理解を深め、よりパーソナライズされた製品やサービスを提供し、顧客ロイヤルティを高めるという好循環を生み出すことができる。これは、従来の卸売・小売モデルでは決して得られなかった戦略的資産である。
第6章:顧客需要の特性分析(Customer Demands & Segmentation)
自転車市場の多様化、特にe-Bikeの普及に伴い、顧客セグメントは細分化し、それぞれのニーズや購買決定要因(KBF: Key Buying Factor)は大きく異なっている。効果的な事業戦略を策定するためには、これらの顧客セグメントを深く理解することが不可欠である。
主要な顧客セグメントとKBF分析
- e-Bike(通勤・通学)利用者
- 概要: 都市部および郊外に在住し、日々の通勤・通学の主要な、あるいは補助的な移動手段としてe-Bikeを利用する層。満員電車や交通渋滞からの解放、運動不足解消、交通費節約などを動機とする。
- ニーズ・課題: 坂道でも楽に走れる快適性、充電の手間を減らすための十分な航続距離、高価な投資を保護するための盗難防止機能、日々の利用に耐える信頼性と低いメンテナンスコスト。服装を選ばないスタイリッシュなデザインも重視される。
- KBF: 快適性、航続距離、信頼性、盗難防止機能、デザイン。
- e-Bike(スポーツ:e-MTB, e-Road)利用者
- 概要: 既存のスポーツサイクリスト、あるいは体力的な制約からスポーツサイクリングを諦めていた層。より遠くへ、より厳しい地形へ挑戦すること、あるいは仲間とのレベル差を埋めて一緒に楽しむことを目的とする。
- ニーズ・課題: ペダリングに対して遅れなく自然に応答するアシスト制御、急勾配を登るためのパワフルなトルク、取り回しの良さに繋がる軽量性、長時間のライドに耐えるバッテリー持続力。
- KBF: アシストの自然さ、パワー、軽量性、ブランドの信頼性・実績。
- カーゴバイク(BtoB:物流)利用者
- 概要: フードデリバリー、小口荷物の配送、自治体の巡回サービスなど、都市内でのラストマイル配送業務に従事する法人または個人事業主。
- ニーズ・課題: 大量の荷物を安定して運べる積載能力、業務での酷使に耐える高い耐久性と堅牢性、ダウンタイムを最小化するためのメンテナンスの容易さと迅速なサービス体制。初期投資を抑えるためのリースやサブスクリプションといった導入プランも求められる。
- KBF: 積載量、耐久性、メンテナンス性、TCO(総所有コスト)。
- 高級スポーツバイク(非電動)愛好家
- 概要: レースやロングライドを趣味とし、パフォーマンスの向上を追求する熱心なサイクリスト。
- ニーズ・課題: 1グラムでも軽いことによるヒルクライム性能、高速走行時の空気抵抗の低減、コンポーネントの精密な作動。同じブランドのオーナーが集うコミュニティへの所属意識や、ブランドが持つレースでの実績や歴史といったストーリーも重要視する。
- KBF: 軽量性、空力性能、ブランドロイヤルティ、コミュニティ。
- MaaS(シェアサイクル)利用者
- 概要: 主に都市部に在住・滞在し、短距離の移動や公共交通機関の補完としてシェアサイクルを利用する層。所有にはこだわらず、必要な時に手軽に利用できることを重視する。
- ニーズ・課題: スマートフォンアプリによる簡単な検索・予約・解錠、目的地近くにポート(駐輪拠点)が多数存在することによる利便性、明瞭で安価な料金体系、車両が清潔で安全に整備されていること。
- KBF: 利用しやすさ(アプリ、ポート数)、料金、車両のコンディション。
購入後の体験(Post-Purchase Experience)の重要性
製品のコモディティ化が進む中で、顧客ロイヤルティを構築し、他社との差別化を図る上で「購入後の体験」の重要性が飛躍的に高まっている。これは、単なるハードウェアの性能競争から、顧客との長期的な関係性を築くエコシステム競争への移行を意味する。
- アフターサービスとメンテナンス: 特にe-Bikeは、従来の自転車よりも専門的な知識を要する電装系のメンテナンスが必要となる。迅速で信頼性の高いサービスネットワークの存在は、顧客の安心感に直結し、ブランド選択の重要な要因となる。
- アプリ連携による付加価値: スマートフォンアプリは、単なる走行記録ツールを超え、顧客エンゲージメントのハブとなりつつある。ファームウェアのアップデート、盗難時のロック機能、走行データに基づくパフォーマンス分析、最適なメンテナンス時期の通知(予知保全)など、アプリを通じて提供される継続的な価値が、顧客満足度を大きく左右する 51。
- コミュニティイベント: 同じブランドのオーナーが集うグループライドや、プロ選手を招いたクリニックなどのコミュニティイベントは、ブランドへの愛着を深め、顧客を単なる「ユーザー」から熱心な「ファン」へと昇華させる強力な手段である。
これらの購入後の体験は、顧客が次の買い替え時に同じブランドを選択する確率を高めるだけでなく、口コミを通じて新たな顧客を呼び込む効果も期待できる。したがって、製品開発と同等、あるいはそれ以上に、購入後の顧客体験設計にリソースを投下することが、持続的な成長のための鍵となる。
第7章:業界の内部環境分析(Internal Environment Analysis)
業界全体の持続的な競争優位の源泉となる経営資源(リソース)と組織能力(ケイパビリティ)を分析し、特に人材と生産性の観点から内部環境の変化を考察する。
VRIO分析:競争優位の源泉
VRIOフレームワーク(Value: 経済的価値、Rarity: 希少性、Inimitability: 模倣困難性、Organization: 組織)を用いて、業界における持続的な競争優位の源泉を特定する。
- グローバルなブランド力(Value, Rarity, Inimitability, Organization – 持続的競争優位): Trek, Specialized, Giantといったトップブランドが長年かけて築き上げてきたブランドイメージと信頼性は、高い価値を持ち、希少かつ模倣が極めて困難である。レースでの実績、イノベーションの歴史、そして世界中に広がる販売・サービス網が一体となってブランドを支えており、組織全体でブランド価値を維持・向上させる仕組みが構築されている。
- e-Bikeシステム開発・統合能力(Value, Rarity, Inimitability – 一時的競争優位): Boschやシマノが示すように、高性能なドライブユニット、バッテリー、ソフトウェアを開発し、それらをシームレスに統合する能力は、現在の市場で極めて高い価値を持つ。この能力は希少であり、高度な技術的知見を要するため模倣も容易ではない。しかし、自動車・電機業界からの新規参入者が同様の、あるいはそれ以上の技術を持ち込む可能性があり、持続的な優位性を保つためには絶え間ない技術革新が求められる。
- シマノ等、キーサプライヤーとの強固な関係(Value, Rarity – 一時的競争優位): 寡占的な部品メーカーから、最新コンポーネントの優先的な供給を受けられる関係性は、製品の市場投入タイミングや性能において有利に働く。これは価値があり希少だが、サプライヤーの戦略変更や競合他社との関係強化によって変化しうるため、持続性は限定的である。
- D2Cプラットフォームと顧客データ基盤(Value, Rarity – 競争優位のポテンシャル): D2Cチャネルを通じて直接収集される顧客の購買・行動データは、製品開発やマーケティングを革新するポテンシャルを秘めており、極めて価値が高い。Canyonのような先行企業は希少なデータ資産を築きつつあるが、多くの既存メーカーにとってはまだ発展途上である。このデータを活用し、顧客体験を向上させる組織能力を構築できれば、将来の持続的な競争優位の源泉となりうる。
- 高度な製造技術(Value – 競争均衡): カーボンフレーム成形や精密なアセンブリといった製造技術は、高品質な製品を生み出す上で不可欠であり価値がある。しかし、多くのメーカーが台湾や中国の優れたOEM/ODMパートナーを活用することで同等レベルの品質を達成可能であり、もはや希少性や模倣困難性を持つ差別化要因とはなりにくい。
人材動向:求められるスキルの劇的な変化
e-Bike化とコネクテッド化は、自転車業界で求められる人材像を根本から変えている。
- 求められる人材像の変化: 従来の自転車開発は、機械工学(フレーム設計、材料力学)や工業デザインが中心であった。しかし、現在のe-Bike開発の主戦場はエレクトロニクスとソフトウェアである。
- エレクトロニクスエンジニア: モーター制御、バッテリーマネジメントシステム(BMS)、各種センサーの開発・統合を担う。
- ソフトウェアエンジニア: ドライブユニットの制御ファームウェア、スマートフォン連携アプリ(iOS/Android)、クラウドベースのデータ分析基盤を開発する。
- データサイエンティスト: 収集された走行データから顧客の行動パターンを分析し、製品改善や新サービス開発に繋げる。
- UX/UIデザイナー: 直感的で使いやすいスマートフォンアプリや、自転車のディスプレイ(HMI)のインターフェースを設計する。
これらの専門人材の需要は急速に高まっており、従来の機械系エンジニアとの協業体制の構築が不可欠となっている。
- 熟練メカニックの需要と供給: e-Bikeの普及は、整備の現場にも変化をもたらしている。複雑な電装系の診断や修理には、従来の機械的な知識に加え、電気系統の専門知識と診断ツールを使いこなすスキルが求められる。特に、多様なメーカーのドライブユニットやバッテリーに対応できる熟練メカニックは不足しており、その育成と確保がアフターサービス品質を維持する上での課題となっている。
- 業界を超えた人材獲得競争: 上記のソフトウェアやエレクトロニクス系の専門人材は、IT、自動車、家電といった他業界でも需要が非常に高い。自転車業界は、これらの業界と比較して給与水準やキャリアパスの魅力で劣る場合があり、優秀な人材の獲得競争は極めて厳しい状況にある。業界の将来性や、自社製品がもたらす社会的価値(健康、環境)を訴求するなど、金銭的報酬以外の魅力を高める努力が求められる。
労働生産性
- e-Bike化によるアセンブリ工程の複雑化: e-Bikeは、モーター、バッテリー、配線、センサーといった多数の追加部品をフレームに組み込む必要があり、アセンブリ工程は従来型自転車よりも複雑で時間を要する。これは一人当たりの生産台数を低下させ、労働生産性に対する下押し圧力となる。生産ラインの自動化や、モジュール化設計による工程の簡素化が課題となる。
- D2C化による販売効率の変化: D2Cモデルは、卸売・小売の中間マージンを排除することで、売上あたりの利益率を向上させる可能性がある。しかし、その一方で、自社でウェブサイトの運営、デジタルマーケティング、受注管理、物流、カスタマーサポートといった販売に関わる全ての機能を持つ必要があり、販売管理費は増加する。このトレードオフを管理し、テクノロジーを活用して販売プロセスを効率化できるかどうかが、生産性向上の鍵を握る。
第8章:主要トレンドと未来予測
自転車業界は、技術革新と社会の変化が交差する点で、今後5~10年にわたり劇的な変貌を遂げると予測される。以下に、業界の未来を形作る主要なトレンドを挙げる。
e-Bikeの高度化と多様化
e-Bikeは単なる電動化に留まらず、よりインテリジェントで高性能なモビリティへと進化する。
- バッテリー技術の飛躍的進化: 現在主流のリチウムイオンバッテリーは今後もエネルギー密度の向上とコスト低減が進む。さらに長期的には、より安全で軽量、かつ長寿命な全固体電池の実用化が期待される 5。これにより、航続距離が飛躍的に向上し、充電頻度の低減や車体の軽量化が実現され、e-Bikeの利便性は新たな次元に達するだろう。
- AIによる最適アシスト制御: ドライブユニットに搭載されたAIが、地形(坂道、平地)、路面状況、ライダーのペダリングスタイル、さらには風速や勾配といった外部環境データをリアルタイムで解析。これに基づき、アシストの出力やタイミングを自動で最適化する。これにより、ライダーは意識することなく、常に最も効率的で自然なアシストを得られるようになり、バッテリー消費の効率化と、より快適なライディング体験が両立される。
コネクテッド・バイクとV2Xによる安全性向上
自転車はスタンドアローンの乗り物から、交通システムの一部として通信するコネクテッドデバイスへと進化する。
- V2X(Vehicle-to-Everything)技術の実装: 5G通信モジュールを搭載した自転車が、他の車両(自動車、バス)や交通インフラ(信号機など)と直接通信するV2X技術が普及する。例えば、交差点に接近する自動車から死角にいる自転車へ警告を送ったり、信号機が自転車の接近を検知して青信号の時間を延長したりすることで、交通事故を未然に防ぐ。これにより、自転車の安全性は飛躍的に向上し、都市部での利用における最大の懸念事項の一つが解消される 25。
MaaSとサブスクリプション・モデルの本格化
「所有」から「利用」へのシフトはさらに加速し、新たなビジネスモデルが主流となる。
- 都市部におけるシェアサイクルの進化: AIによる需要予測と最適な再配置(リバランス)計画の自動化により、シェアサイクルの利便性と事業収益性が向上する 23。ドックレス型に加え、充電ステーションを兼ねたポートが整備され、e-Bikeがシェアサイクルの主役となる。
- 個人向けサブスクリプションの拡大: Swapfietsのような、月額定額で自転車本体の利用権とメンテナンス、盗難保険をパッケージで提供するサブスクリプションモデルが、特に若年層や転勤の多い層を中心に支持を広げる 22。メーカー自身がサブスクリプションサービスを提供することで、安定した継続収益を確保し、顧客との長期的な関係を構築する。
サーキュラーエコノミーの確立
環境負荷低減への要請は、製品のライフサイクル全体を包含するサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を不可避にする。
- 使用済みバッテリーのリユース・リサイクル市場: EUのバッテリー規則を筆頭に、使用済みe-Bikeバッテリーの回収と再資源化が義務化される 32。回収されたバッテリーは、状態の良いものは家庭用蓄電池などにリユース(再利用)され、劣化したものは分解されてコバルトやリチウムなどの希少金属がリサイクル(再資源化)される。この分野では、専門のリサイクル事業者との連携や、トレーサビリティを確保するシステム構築が重要となる。
- 中古自転車市場のDX化: 中古自転車の売買プラットフォームが整備され、個々の車体の状態やメンテナンス履歴がデジタルで管理されるようになる。メーカー自身が認定中古車制度を導入し、品質を保証することで、中古市場の信頼性を高め、製品のライフサイクル全体での価値を最大化する。
パーソナライゼーションの深化
マスプロダクションから、個々のニーズに応えるマス・カスタマイゼーションへと移行する。
- 3Dプリンティングによるオンデマンド製造: ライダーの体格やライディングスタイルに合わせて、最適なジオメトリを持つフレームやコンポーネントを3Dプリンターでオンデマンド製造するサービスが登場する。これにより、究極のフィット感と性能を、比較的短納期で提供することが可能になる 26。
第9章:AIの影響とインパクト
人工知能(AI)は、自転車業界のあらゆるバリューチェーンに浸透し、製品開発、製造、顧客体験、そしてビジネスモデルそのものを根底から変革する最も強力な技術的ドライバーである。
製品開発・設計(R&D)
AIは、設計プロセスの効率化と、人間の能力を超える最適化を可能にする。
- ジェネレーティブデザインによる構造最適化: 設計者が強度や重量、使用素材といった制約条件を入力すると、AI(ジェネレーティブデザイン)がその条件を満たす無数のデザイン案を自動生成する。特に、フレームやクランクアームといった部品において、従来の設計手法では到達し得なかった、軽量性と高強度・高剛性を両立する最適なトポロジー(構造)を発見できる 26。これにより、性能向上と材料削減を同時に実現する。
- CFDシミュレーションの高速化・最適化: AIを活用することで、空気抵抗を解析するCFD(計算流体力学)シミュレーションの計算時間を大幅に短縮し、より多くのデザインパターンを試すことが可能になる。これにより、ロードバイクやタイムトライアルバイクの空力性能を極限まで高めることができる 55。
製造・サプライチェーン
AIは、品質管理の精度向上と、複雑なサプライチェーンの最適化に貢献する。
- 画像認識による品質管理の自動化: 製造ラインに設置された高解像度カメラが撮影した画像をAIが解析し、カーボンフレームの積層欠陥や金属フレームの溶接部に生じた微細なクラックを瞬時に検知する。これにより、人間の目では見逃しがちな欠陥をなくし、製品の安全性と品質を飛躍的に向上させることができる。
- 需要予測とサプライチェーンの最適化: 過去の販売データ、天候、マクロ経済指標、SNSのトレンドといった膨大なデータをAIが分析し、製品や部品の需要を高い精度で予測する。この予測に基づき、特にシマノやBoschといった納期が変動しやすいキーコンポーネントの最適な発注タイミングと量を算出し、グローバルサプライチェーンにおける在庫の最適化と欠品の最小化を実現する。
顧客体験(CX)とサービス
AIは、自転車を単なる移動手段から、ライダーに寄り添うインテリジェントなパートナーへと進化させる。
- AIによる高度な盗難防止・転倒検知: 加速度センサーやジャイロセンサーが検知した異常な振動や移動パターンをAIが分析し、盗難の疑いがあると判断した場合、即座にオーナーのスマートフォンにアラートを送信し、GPSによる追跡を開始する。同様に、転倒特有の衝撃パターンを検知した際には、ライダーの安否確認を行い、応答がない場合は事前に登録された緊急連絡先や救急サービスへ自動で通報するシステムが実現する。
- パーソナライズド・コーチング: 速度、ケイデンス(ペダル回転数)、心拍数、パワー出力といった走行データに加え、路面の勾配や振動といった外部環境データをAIが統合的に分析。ライダーのフィットネスレベルや目標に応じて、最適なトレーニングメニューや、効率的なギア変速のタイミング、理想的なペダリング方法をリアルタイムで提案する 56。これにより、専門的なコーチがいなくても、効果的なトレーニングが可能になる。
- AIによる予知保全(Predictive Maintenance): 各所に配置されたセンサーが、ブレーキパッドの摩耗、チェーンの伸び、ベアリングの劣化といった部品の状態を常時モニタリングする。AIがこれらのデータから各部品の消耗度を予測し、故障が発生する前に最適なメンテナンス時期をオーナーに通知する 58。これにより、突然の故障によるトラブルを防ぎ、常に安全で最適な状態で自転車を利用できるようになる。
| バリューチェーン | AIの活用事例 | 戦略的インパクト |
|---|---|---|
| 製品開発 (R&D) | ジェネレーティブデザインによるフレーム最適化 | 性能向上とコスト削減の両立 |
| CFDシミュレーションの高速化 | 開発期間の短縮、空力性能の最大化 | |
| 製造・SCM | 画像認識による品質検査の自動化 | 品質向上、リコールリスクの低減 |
| 需要予測の高度化による在庫最適化 | 欠品・過剰在庫の削減、キャッシュフロー改善 | |
| 顧客体験 (CX) | 盗難・転倒検知と自動通報 | 安全・安心という新たな価値の提供 |
| パーソナライズド・トレーニング提案 | 顧客エンゲージメントの向上、サービス収益化 | |
| 予知保全によるメンテナンス通知 | 顧客満足度の向上、LTVの最大化 | |
| ビジネスモデル | シェアサイクルの最適再配置 | 稼働率向上、運営コストの削減 |
| ダイナミックプライシング | 収益の最大化 |
ビジネスモデル(MaaS)
AIは、シェアサイクル事業の運営効率と収益性を劇的に改善する。
- 需要予測と最適再配置(リバランス): AIが、時間帯、曜日、天候、地域のイベント情報などから各ポートの自転車需要をリアルタイムで予測。この予測に基づき、どのポートからどのポートへ、何台の自転車を移動させれば機会損失と運営コストを最小化できるかという、最適な再配置計画を自動で生成する。これにより、利用したい時に自転車がない、あるいは返却したい時にポートが満車であるといった利用者の不満を解消し、稼働率を最大化する。
- ダイナミックプライシング: 需要と供給のバランスに応じて、利用料金をリアルタイムで変動させるダイナミックプライシングを導入。需要が高いエリアや時間帯では料金を上げ、逆に自転車が余っているエリアから移動させるインセンティブとして割引を行うなど、収益の最大化と効率的な車両配置を両立させる。
第10章:主要プレイヤーの戦略分析
自転車業界の競争環境は、伝統的な大手、新興のD2Cブランド、強力な部品メーカー、そして異業種からの参入者によって形成されている。各プレイヤーの戦略を比較分析する。
グローバル完成車メーカー
- Giant Manufacturing (台湾):
- 戦略: 世界最大の自転車メーカーとして、規模の経済と垂直統合を強みとする。自社工場での高い生産能力を活かし、エントリーモデルからハイエンドまで幅広い製品ラインナップを展開。近年はe-Bikeブランド「Momentum」を立ち上げるなど、e-Bikeシフトを加速 2。サステナビリティやサーキュラーエコノミーへの取り組みも強化している 61。
- 強み: 圧倒的な生産能力とコスト競争力、グローバルな販売網。
- 弱み: 巨大組織ゆえの意思決定の遅さ、D2Cへの対応の遅れ。
- e-Bike/D2C/コネクテッド戦略: e-Bikeのラインナップを急速に拡充。D2Cは限定的で、主に既存の販売網との連携を重視。コネクテッドサービスは開発途上。
- Trek Bicycle (米国):
- 戦略: 「最高の製品とサービスを提供する」という理念のもと、強力なブランド力と革新的な製品開発で市場をリード。特にサステナビリティへのコミットメントが強く、カーボンリサイクルや使用済みバッテリーの回収プログラムを積極的に推進 35。D2Cと小売店が共存するハイブリッドな「Consumer Choice」プログラムを導入 42。
- 強み: 高いブランド力、技術開発力(特にカーボン技術)、強固な販売店ネットワーク、サステナビリティ戦略。
- 弱み: プレミアムブランド故の高価格帯。
- e-Bike/D2C/コネクテッド戦略: Boschやシマノのドライブユニットを搭載した高性能e-Bikeを多数展開 63。オンラインで注文し、最寄りのディーラーで受け取るハイブリッドD2Cモデルを推進。
- Specialized Bicycle Components (米国):
- 戦略: 「Innovate or Die(革新か、さもなくば死か)」をスローガンに、ライダー中心の製品開発と最先端技術の導入を追求。自社で風洞実験施設を保有するなど、R&Dへの投資を惜しまない。e-Bike領域では「Turbo」シリーズを強力に展開し、独自のモーターやバッテリー、そして「Mission Control」アプリによる統合的な体験を提供 48。
- 強み: 非常に高いブランド力とイノベーション能力、e-Bikeシステム(ハードとソフト)の自社開発力。
- 弱み: 高価格帯に集中しており、市場の裾野を広げにくい。
- e-Bike/D2C/コネクテッド戦略: モーター、バッテリー、アプリを自社開発し、シームレスな体験を創出。D2C販売を強化しつつ、小売店との連携も維持。コネクテッドアプリ「Mission Control」は業界最高レベルの機能性を持つ 51。
- Merida Industry (台湾):
- 戦略: Giantに次ぐ台湾の大手メーカー。高品質な製品を競争力のある価格で提供。特に欧州市場での評価が高い。e-Bike生産能力の増強に注力し、ドイツに最終組立工場を置くなど、地域最適化を進めている 65。AIを活用したeコマースの強化も図る 66。
- 強み: 高い製造品質、コストパフォーマンス、欧州での強力な販売基盤。
- 弱み: GiantやTrek、Specializedほどのグローバルなブランド認知度はない。
- e-Bike/D2C/コネクテッド戦略: プレミアムe-Bike(特にe-MTB)に注力し、生産能力を増強 65。D2Cよりも既存のディーラーネットワークを重視。AIを活用したマーケティングや顧客サポートを模索中 66。
D2Cブランド
- Canyon Bicycles (ドイツ):
- 戦略: 100% D2Cモデルのパイオニア。中間マージンを排除し、高品質な製品を競争力のある価格で提供。オンラインでの顧客体験を重視し、近年はミュンヘンの新店舗やサービスパートナー網の拡充など、オフラインでの顧客接点も強化するハイブリッド戦略へ移行 49。
- 強み: 高いコスト競争力、優れたデザイン、顧客データを活用した迅速な製品開発。
- 弱み: 試乗機会の限定、購入後のメンテナンス体制の課題(サービス網拡充で対応中)。
- e-Bike/D2C/コネクテッド戦略: D2Cモデルを核としつつ、オフラインの「Factory Service」拠点を展開し、顧客体験を向上。e-Bikeラインナップも強化。
- Rad Power Bikes (米国):
- 戦略: e-Bike専門のD2Cブランドとして北米市場で急成長。手頃な価格帯と実用性の高いデザインで、従来のサイクリスト以外の新たな顧客層を開拓。多額の資金調達を背景に、実店舗や移動修理サービス「Rad Mobile Service」を展開し、オムニチャネル化を加速 68。
- 強み: 圧倒的な価格競争力、e-Bikeに特化したブランド認知、強力な資金力。
- 弱み: 品質やアフターサービスに関する課題、急速な拡大に伴う組織体制の歪み。
- e-Bike/D2C/コネクテッド戦略: e-Bikeに特化したD2Cモデルが事業の根幹。オンライン販売を補完するため、リアル店舗とサービス網の拡大に大規模な投資を行っている 68。
主要コンポーネントメーカー
- Shimano (シマノ) (日本):
- 戦略: 自転車部品における圧倒的なグローバルリーダー。高い技術力と品質、幅広い製品ラインナップで市場を支配 36。近年はe-Bike用ドライブユニット「STEPS」シリーズでBoschを追撃し、コンポーネントとのシステム統合を強みとする。
- 強み: 圧倒的な市場シェアとブランド力、精密加工技術、グローバルな供給網。
- 弱み: 巨大企業ゆえの保守的な経営、ソフトウェアやコネクテッド分野での遅れ。
- e-Bike戦略: ドライブユニットとコンポーネント(特にDi2電動変速機)の連携を強化し、システムサプライヤーとしての地位確立を目指す。
- SRAM (スラム) (米国):
- 戦略: シマノに次ぐNo.2プレイヤー。革新的な製品(Grip Shift、ワイヤレス電動コンポーネント「AXS」)で市場にインパクトを与え続ける。RockShox(サスペンション)、Zipp(ホイール)など積極的なM&Aを通じて製品ポートフォリオを拡大し、総合コンポーネントメーカーとしての地位を固めている 70。
- 強み: 高い技術革新能力、特にワイヤレス技術、強力なブランドポートフォリオ。
- 弱み: シマノほどの生産規模とコスト競争力はない。
- コネクテッド戦略: ワイヤレスコンポーネント群「AXS」を中心に、スマートフォンアプリと連携したカスタマイズやデータ活用を推進。
e-Bikeドライブユニットメーカー
- Bosch eBike Systems (ドイツ):
- 戦略: 自動車部品で培ったモーター、バッテリー、制御技術を武器に、e-Bikeドライブユニット市場で圧倒的なリーダーとなる。完成車メーカーへのシステム供給に徹し、広範なサービスネットワークと強力なマーケティングでブランドを確立。「eBike Connect」アプリを通じて、ナビゲーションやフィットネス機能などのコネクテッドサービスも提供 24。
- 強み: 最高の技術力と信頼性、強力なブランド、欧州での圧倒的なシェア、広範なサービス体制。
- 弱み: 高価格、システムのクローズドな仕様(完成車メーカーの自由度が低い)。
- Yamaha Motor (ヤマハ発動機) (日本):
- 戦略: 世界で初めて電動アシスト自転車「PAS」を発売したパイオニア。自社ブランドの完成車事業に加え、欧州を中心にドライブユニットのOEM供給(e-Kit事業)も展開。Broseのe-Bike部門買収の動きなど、ユニット事業の強化を図る 72。
- 強み: 長年の開発実績と信頼性、パワフルなモーター特性。
- 弱み: Boschやシマノと比較して、市場シェアやコネクテッド機能で劣る。
- Brose (ドイツ):
- 戦略: 自動車用モーターの技術を応用し、静粛で自然なアシストフィールを持つプレミアムなドライブユニットを提供。Specializedなど一部のハイエンドブランドに採用されている。
- 強み: 非常に静かで自然なアシスト感、高いカスタマイズ性。
- 弱み: Boschほどの市場シェアやサービスネットワークを持たない。
国内主要メーカー
- ブリヂストンサイクル:
- 戦略: 国内シェアトップ。子乗せ、通学、買い物といった実用的なシティサイクル(ママチャリ)に強みを持つ。独自の「デュアルドライブ」(両輪駆動)技術を搭載した電動アシスト自転車で差別化を図り、走りながら自動充電する機能などを訴求 74。
- パナソニック サイクルテック:
- 戦略: 家電で培ったモーター・バッテリー技術を活かし、高品質な電動アシスト自転車を展開。近年はIoT技術を活用したコネクテッドサービスに注力。集合住宅向けのシェアリングサービス実証実験や、V2X通信による事故防止技術の開発など、次世代モビリティへの取り組みを加速 25。
異業種からの参入
- Porsche (ドイツ):
- 戦略: プレミアムスポーツカーブランドのイメージを活かし、超高級e-Bike市場に参入。デザイン性の高い製品でブランド価値を訴求。さらに、ドライブユニット開発会社(Porsche eBike Performance GmbH)を設立し、将来的には他社へのシステム供給も視野に入れるなど、本格的な事業化を進めている 43。
- Nidec (日本電産) (日本):
- 戦略: 世界トップクラスの総合モーターメーカーとしての技術力を背景に、e-Bike用モーター市場に参入。特に競争の激しい中国市場で高品質を武器にシェアを拡大し、将来的にはグローバル市場でのリーダーシップを目指す 45。
| プレイヤー分類 | 主要企業 | 戦略の核 | e-Bike戦略 | D2C戦略 | コネクテッド戦略 |
|---|---|---|---|---|---|
| グローバル完成車 | Giant | 規模の経済、垂直統合 | 全方位展開 | 小売店重視 | 開発途上 |
| Trek | ブランド力、サステナビリティ | 高性能モデル | ハイブリッドD2C | 外部システム活用 | |
| Specialized | 技術革新、ライダー中心 | システム自社開発 | D2C強化 | 業界最高レベル | |
| D2Cブランド | Canyon | D2Cモデル、コスト競争力 | ラインナップ強化 | ハイブリッド化 | 開発途上 |
| Rad Power Bikes | 価格競争力、新顧客開拓 | e-Bike特化 | オムニチャネル化 | 限定的 | |
| コンポーネント | Shimano | 市場支配、精密加工技術 | ドライブユニット展開 | なし | 限定的(Di2) |
| SRAM | 技術革新(ワイヤレス) | なし | なし | AXSエコシステム | |
| ドライブユニット | Bosch | 技術的リーダーシップ | 市場標準化 | なし | アプリ・サービス提供 |
| 異業種参入 | Porsche | プレミアムブランド | 超高級モデル、ユニット開発 | 限定的 | 開発途上 |
第11章:戦略的インプリケーションと推奨事項
これまでの包括的な分析を統合し、次世代モビリティ市場で勝利を収めるための戦略的な意味合い(インプリケーション)を導き出し、具体的な推奨事項を提言する。
今後5~10年で、自転車業界の勝者と敗者を分ける決定的な要因
分析の結果、今後の自転車業界における競争の勝敗を分けるのは、もはや従来の強みであった「優れたハードウェアを製造する能力」だけではない。以下の3つの要素が決定的な要因となる。
- システム統合力(ハードウェア x ソフトウェア):
勝者は、高性能なドライブユニット、長寿命なバッテリー、直感的なインターフェース、そして多機能なスマートフォンアプリを、一つのシームレスな体験として提供できる企業である。個々の部品の性能競争から、システム全体としての価値創造競争へとルールが変わった。Specializedが独自のモーターと「Mission Control」アプリを統合して高い顧客体験を実現しているように、ハードとソフトを垂直統合できる能力が極めて重要となる。これに失敗した企業は、価値の源泉をBoschのようなシステムサプライヤーに奪われ、単なる「車体組み立て業者」に転落する。 - 顧客との直接的な関係(D2Cチャネルとデータ活用):
勝者は、D2Cやオムニチャネルを通じて顧客と直接繋がり、その関係から得られるデータを活用してLTV(顧客生涯価値)を最大化する企業である。CanyonやRad Power Bikesが示したように、顧客データを直接収集・分析することで、より市場のニーズに即した製品を迅速に開発し、パーソナライズされたマーケティングを展開することが可能になる。データを制するものが顧客を制し、市場を制する時代に突入した。従来の卸売モデルに固執し、顧客との間に距離がある企業は、市場の変化から取り残される。 - 「コト」の提供能力(サービス・エコシステムの構築):
勝者は、自転車本体という「モノ」の販売に留まらず、盗難保険、予知保全、パーソナライズド・コーチングといった継続的な「コト」(サービス)を提供し、安定した収益源(リカーリングレベニュー)を確立する企業である。Boschが「eBike Lock」といったプレミアム機能を提供しているように、ハードウェアをプラットフォームとして、その上で多様なデジタルサービスを展開する能力が求められる。これができなければ、収益は製品の販売サイクルに依存し続け、不安定な経営から脱却できない。
捉えるべき機会(Opportunity)と備えるべき脅威(Threat)
- 捉えるべき機会 (Opportunity):
- e-Bikeによる市場の高付加価値化: e-Bikeの普及はASPを大幅に引き上げており、業界全体の利益プールを拡大させている。特にプレミアムe-Bike市場は高い成長が見込まれる最大の機会である 5。
- サービス事業の創出: コネクテッド技術とAIの進化は、これまで存在しなかった新たなサービス(予知保全、AIコーチング等)を生み出す土壌を提供している。これは、従来の製造業の収益モデルからの脱却を可能にする 56。
- サステナビリティへの要請: EUのバッテリー規則に代表される環境規制の強化は、サステナビリティを競争戦略の核に据えることで、ブランド価値を高め、新たな参入障壁を築く機会となる 32。
- B2B(カーゴバイク)市場の急成長: 都市内物流の変革に伴い、電動カーゴバイク市場が急拡大している。これは、安定した法人需要を取り込む大きなチャンスである 11。
- 備えるべき脅威 (Threat):
- キーサプライヤーへの過度な依存: シマノ(コンポーネント)とBosch(ドライブユニット)への寡占的な依存は、コスト、納期、製品開発の自由度において深刻なリスクをもたらす 36。
- 異業種からのディスラプション: 自動車・電機業界の巨大企業が、優れた技術力と資金力を背景に市場に参入し、既存の競争ルールを破壊する可能性がある 43。
- ソフトウェア・データ人材の獲得競争: 事業変革に必要なソフトウェアエンジニアやデータサイエンティストは、IT・自動車業界との間で熾烈な獲得競争に直面しており、人材確保が成長のボトルネックとなる。
- サイバーセキュリティリスク: 自転車がコネクテッド化するにつれて、ハッキングによる車両の乗っ取りや個人情報の漏洩といったサイバーセキュリティ上の脅威が増大する。
戦略的オプションの提示と評価
取りうる戦略的オプションは、大きく3つに分類できる。
| 戦略的オプション | 概要 | メリット | デメリット・リスク |
|---|---|---|---|
| オプションA:深化する製造業 | 既存の強みである製造・開発能力をさらに強化し、世界最高水準のハードウェア(特にフレーム、車体)をキーサプライヤー(Bosch等)のシステムと組み合わせて提供することに特化する。 | ・既存のコアコンピタンスを活かせる ・比較的低リスクで実行可能 ・高品質なハードウェアへの需要は存続 | ・価値の源泉であるソフトウェア・サービス領域を他社に依存 ・サプライヤーへの交渉力が弱く、利益率が圧迫される ・コモディティ化のリスクが高い |
| オプションB:モビリティ・サービス企業への変貌 | M&Aや大規模な自己投資を通じて、e-Bikeシステム(モーター、バッテリー、ソフトウェア)の自社開発能力を獲得。ハードウェアとソフトウェアを垂直統合し、独自のサービス・エコシステムを構築する。 | ・バリューチェーン全体で価値を創出し、高い利益率を確保 ・顧客データを独占し、持続的な競争優位を築ける ・ブランド価値を最大化できる | ・莫大な初期投資とM&Aのリスク ・未知のソフトウェア・サービス事業への挑戦 ・Bosch等の既存巨大プレイヤーとの直接競合 |
| オプションC:戦略的アライアンスによるエコシステム構築 | 自社のハードウェア開発能力を核としつつ、e-Bikeシステム、バッテリー、ソフトウェア、サービス等の各領域で最適なパートナーとアライアンスを組む。オープンなエコシステムを主導する。 | ・各領域で最高の技術を持つパートナーと協業できる ・投資リスクを分散しつつ、迅速に市場へ対応可能 ・柔軟性が高く、技術変化に対応しやすい | ・アライアンスパートナー間の利害調整が複雑 ・エコシステムの主導権を握れないリスク ・ブランド体験の一貫性を保つのが難しい |
最終提言:オプションB「モビリティ・サービス企業への変貌」を中核に据えたハイブリッド戦略
最も説得力のある事業戦略は、長期的な視点で業界の主導権を握ることを目指す「オプションB:モビリティ・サービス企業への変貌」である。
ただし、その実行は段階的に進め、短期的には「オプションC:戦略的アライアンス」のアプローチを組み合わせるハイブリッド戦略を提言する。単なる製造業に留まることは、長期的には衰退への道である。価値の源泉がソフトウェアとサービスに移行する以上、その中核部分を自社でコントロールできなければ、持続的な成長は望めない。
最終戦略提言:垂直統合とサービス化を目指す段階的トランスフォーメーション
- 第1フェーズ(1~2年):戦略的アライアンスとケイパビリティ獲得
- アクション: ドライブユニット、バッテリー、コネクテッドサービス分野で先進的な技術を持つスタートアップや中堅企業と資本業務提携を締結。まずはパートナーの技術を活用して、自社ブランドのコネクテッドe-Bikeを市場に投入する。同時に、提携先から技術や人材を吸収し、自社内にソフトウェア開発・データ分析の専門チームを組成する。
- KPI: 提携先の特定・契約完了、コネクテッドe-Bikeの市場投入と販売台数、ソフトウェア専門人材の採用数。
- 第2フェーズ(3~5年):M&Aによる核心技術の獲得とサービス事業の本格展開
- アクション: 第1フェーズで協業したパートナーの中から最もシナジーが高い企業、あるいは新たなターゲット企業を買収(M&A)し、ドライブユニット制御やバッテリーマネジメントといった核心技術を完全に取り込む。並行して、収集したデータを活用し、予知保全や盗難防止といったサブスクリプション・サービスを本格的に事業化する。
- KPI: M&Aの実行、自社開発ドライブユニットのプロトタイプ完成、サブスクリプションサービスの会員数と売上高。
- 第3フェーズ(5年~):独自のサービス・エコシステムの完成
- アクション: 自社開発のe-Bikeシステムを搭載した製品群をフルラインナップで展開。ハードウェア、ソフトウェア、サービスが完全に統合された独自の顧客体験を提供する。サードパーティ開発者にもAPIを公開し、エコシステムを拡大。自転車事業から得られる知見とデータを、他のモビリティ事業へと展開することも視野に入れる。
- KPI: 自社システム搭載モデルの売上比率、サービス事業の利益貢献度、エコシステム全体の利用者数。
この戦略の実行には、強力なリーダーシップと大規模な投資、そして失敗を恐れない企業文化の変革が不可欠である。しかし、この困難な変革を成し遂げた先にこそ、次世代モビリティ市場の覇者となる未来が待っている。
第12章:付録
参考文献、引用データ、参考ウェブサイトのリスト
本レポートの作成にあたり、以下の情報源を参照した。
- 市場調査レポート・ニュース記事:
- 矢野経済研究所, 富士経済, Mordor Intelligence, Grand View Research, Allied Market Research, MarketsandMarkets, Fortune Business Insights, Precedence Research, Kings Research, Spherical Insights, GII, Report Ocean, SDKI, Research Nester, Future Market Insights, Strategic Market Research, The Business Research Company, Persistence Market Research, QYResearch, Global Market Insights. 1
- Response.jp, Newscast.jp, ITmedia Business, NEWSポストセブン, Bicycle Retailer and Industry News, Cycling Magazine, EV Magazine, Response.jp, ASCII.jp, Mynavi News, President Online, Cycle Sports, Young Machine, Webike News, Pando.life. 20
- 政府・業界団体・国際機関:
- 経済産業省, JETRO, 東京都, European Union, International Energy Agency (IEA), World Resources Institute (WRI). 9
- 企業ウェブサイト・IR資料:
- Shimano, SRAM, Giant, Trek, Specialized, Merida, Canyon, Rad Power Bikes, Bosch, Yamaha, Porsche, Nidec, ブリヂストンサイクル, パナソニック サイクルテック, Swapfiets. 22
- その他専門情報サイト:
- Autodesk, IBM, Siemens, Wahoo Fitness, TrainerRoad, etc. 26
引用文献
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- Artificial Intelligence Generated Adaptive Training Plans – Feature Requests – Wahoo Forum, https://wahoox.forum.wahoofitness.com/t/artificial-intelligence-generated-adaptive-training-plans/24261

