遊びの再定義:AIとIPエコシステムが駆動する次世代トイ・インダストリー戦略
第1章:エグゼクティブサマリー
本レポートは、おもちゃ・玩具業界が直面する構造的地殻変動を多角的に分析し、この変革期において持続的な成長を遂げるための事業戦略の基盤となる、データに基づいた洞察と具体的な提言を提供することを目的とする。調査範囲は、乳幼児向け玩具から、近年急速に市場を拡大している大人(Kiddult)向けコレクターズアイテム、関連するIP(知的財産)ライセンスビジネス、そして流通チャネルまでを包括的に網羅する。
業界の未来は、もはや物理的な「モノ」の製造・販売に留まらない。本質的な価値の源泉は、物理的な玩具をデジタル体験と融合させ、一貫した「遊びの体験(Play Experience)」として設計・提供し、多様な接点を通じて顧客と継続的な関係を築く「IPエコシステム」の主導権を握れるかどうかに移行している。国内市場における少子化という構造的逆風は、もはや成長を阻害する絶対的な制約ではない。活発なインバウンド需要と、「Kiddult」と呼ばれる巨大な未開拓市場の存在が、この逆風を十分に相殺し、むしろ市場構造の転換を促す好機となっている。このパラダイムシフトを加速させる最大の触媒が、人工知能(AI)である。AIは製品、開発、マーケティングのあらゆるプロセスを革新し、競争のルールそのものを書き換えようとしている。
以上の分析に基づき、経営層が取るべき主要な戦略的推奨事項を以下に提示する。
- IPエコシステムへの転換: 単発のヒットIPに依存する不安定な収益構造から脱却し、自社IPを核とした「体験プラットフォーム」を構築するべきである。LEGOとEpic Gamesの提携による「LEGO Fortnite」の成功事例 1 をベンチマークとし、物理的な玩具(フィジカル)とデジタル体験を連動させたフィジタル(Phygital)商品の開発・展開を加速させる。
- Kiddult市場の本格攻略: Kiddult市場をニッチなセグメントではなく、少子化の影響を補って余りある「第二のコア市場」として再定義する。製品企画、マーケティング手法、販売チャネルを従来の子供向けビジネスとは完全に分離し、専門知識を持つ独立した事業部門を立ち上げることで、この高付加価値市場を戦略的に攻略する。
- AIケイパビリティの獲得: 全バリューチェーンにAIを導入・活用するための専門部署をCEO直下に設立する。最優先課題として、生成AIを活用した企画開発プロセスの抜本的な革新 3 と、AIによる高精度な需要予測およびパーソナライズド・マーケティングの高度化に取り組む。
- D2Cによる顧客データ資産の構築: D2C(Direct to Consumer)チャネル 5 を単なる販売網ではなく、顧客データを直接収集・分析し、熱心なファンとのコミュニティを形成するための最重要戦略資産と位置づける。これにより得られる一次データは、製品開発からマーケティングまでの全ての意思決定の質を向上させる。
- サステナビリティのブランド価値化: 脱プラスチックやリサイクル素材の採用 2 を、規制対応やコスト要因として捉えるのではなく、環境意識の高い親世代やKiddult層に訴求するブランド価値向上のための戦略的投資と位置づける。製品のライフサイクル全体を通じた環境配慮を積極的に情報開示し、競合との差別化要因とする。
第2章:市場概観(Market Overview)
2.1. グローバルおよび日本の玩具市場規模と予測
玩具業界は、デジタル化の波と人口動態の変化という二重の圧力に晒されながらも、驚くべき強靭さと成長性を示している。特に、従来のビジネスモデルの前提を覆す新たな需要層の出現が、市場の景色を一変させている。
グローバル市場は、複数の市場調査機関が一致して力強い成長を予測している。一例として、2024年の市場規模は約1,144億米ドルと推定され、2034年までには年平均成長率(CAGR)6%で成長し、2,031億米ドルに達するとの見通しがある 8。別の調査では、より広範な定義に基づき、2024年に3,356億米ドル、2030年には4,561億米ドル(CAGR 5.23%)に達するという予測も存在する 10。調査機関による数値の差異は、テレビゲーム等の対象範囲の違いに起因すると考えられるが、いずれの予測も市場が確かな成長軌道にあることを示している。
日本市場の動向は、業界の構造変化をより鮮明に映し出している。15歳未満人口が継続的に減少しているにもかかわらず、市場規模は拡大を続けている。日本玩具協会の調査によれば、2023年度の国内玩具市場規模(小売価格ベース)は、過去最高となる1兆193億円を記録した 11。さらに2024年度には1兆992億円へと記録を更新する見込みである 13。メーカー出荷金額ベースの調査(矢野経済研究所)でも、2023年度の主要8品目市場は前年度比4.7%増の4,437億円と、成長が続いていることが確認されている 15。
この事実は、「少子化=市場縮小」という長年の固定観念がもはや有効ではないことを明確に物語っている。従来の「子供の人口 × 一人当たり玩具支出額」という単純な市場構造式は崩壊した。この成長の源泉は、子供向け市場の外側に存在する「Kiddult(キダルト)」と呼ばれる大人層と、高品質な日本製玩具を求める「インバウンド(訪日外国人客)」という、二つの新たな需要層の開拓にある 11。これは、事業戦略の前提を「国内の子供市場における限定的なパイの奪い合い」から、「新たな顧客層の創造と獲得による市場拡大」へと根本的にシフトさせるべきことを強く示唆している。
2.2. 市場セグメンテーション分析
市場の成長を牽引しているセグメントを特定することは、リソース配分の最適化に不可欠である。
製品カテゴリ別:
近年の市場成長は、特定のカテゴリに集中する傾向が顕著である。日本市場では、2023年度に「カードゲーム・トレーディングカード(TCG)」、「模型・ホビー」、「ぬいぐるみ」が市場全体を力強く牽引した 11。特に、ハイテク系トレンドトイ(前年比約42.4%増)や、TCG(2019年比で市場が約2.7倍に拡大)といったカテゴリの成長が著しい 13。
グローバル視点では、「知育・学習(STEM/STEAM)玩具」市場の急成長が注目される。このセグメントは2024年の662億米ドルから、2032年には1,260億米ドル(CAGR 8.47%)へと倍増に近い成長が予測されている 16。
これらのデータから導き出されるのは、市場成長が「コレクション性」と「教育価値」という二つの軸に二極化しているという事実である。TCGやホビー、キャラクターぬいぐるみの爆発的な成長は、Kiddult層やインバウンド層の「集めたい」「飾りたい」「所有したい」というコレクション需要に支えられている 13。一方で、STEM/STEAM玩具の世界的ブームは、子供の将来への不安を背景に「遊びを通じて学ばせたい」という親世代の教育投資ニーズを的確に捉えている。この二極化は、製品開発ポートフォリオを、単なる「短期的な遊び(消費)」を提供するものから、「長期的な価値(コレクション資産、または教育投資)」を提供するものへとシフトさせる必要性を示唆する。「楽しい」という基本的な価値だけでは不十分であり、「集める価値」または「学ぶ価値」のどちらかを戦略的に、かつ明確に打ち出すことが成功の鍵となる。
IP関連 vs オリジナル:
IPライセンス商品は依然として市場の重要な構成要素である。2024年には、ライセンス玩具の売上が8%増加し、世界市場全体の34%を占めている 8。ポケモン、バービー、マーベル・ユニバースといった強力なフランチャイズが、世界のトップセラーとして市場を牽引している 8。
地域別:
2024年時点で、北米が世界市場の約39.9%を占める最大の市場である 18。一方で、最も高い成長ポテンシャルを秘めているのはアジア太平洋地域であり、特に中国とインドがその成長を牽引している 19。中国市場は、中間層の拡大に伴う可処分所得の増加、子供の教育に対する強い関心、そしてアリババやJD.comといった巨大Eコマースプラットフォームの普及が強力な成長ドライバーとなっている 9。
2.3. 市場成長ドライバーと阻害要因
| 要因 | 詳細 | |
|---|---|---|
| 成長ドライバー | Kiddult市場の主流化 | 大人が自身の趣味やコレクションとして玩具を購入する文化が定着し、市場の最重要セグメントに 11 |
| インバウンド需要 | 高品質な日本ブランドの玩具が、訪日外国人観光客の土産物として人気を獲得 11 | |
| STEM/STEAM教育需要 | 科学・技術・工学・芸術・数学を学べる知育玩具への、親世代からの強い需要 16 | |
| 新興国の中間層拡大 | アジア太平洋地域を中心に、経済成長に伴う可処分所得の増加が玩具への支出を促進 20 | |
| 阻害要因 | 少子高齢化 | 日本や欧州などの先進国における子供人口の減少は、伝統的な子供向け市場への構造的逆風 15 |
| デジタルエンタメとの競合 | スマートフォンゲームや動画配信サービスが、子供の可処分時間を奪い合う最大の競合相手 25 | |
| 原材料価格の高騰 | 主な原材料であるプラスチック樹脂や、スマートトイに必要な半導体の価格変動が利益率を圧迫 27 |
2.4. 業界の主要KPIベンチマーク分析
主要メーカーの業績:
業界の巨人は、それぞれ異なる戦略でこの変革期に対応している。
- LEGO: 2022年に売上高17%増、2023年には13%増と、市場全体を大幅にアウトパフォームする高成長を維持している 2。
- Hasbro: 2023年はエンターテイメント事業(eOne)を売却するなど、事業の選択と集中を進める過渡期にある。デジタルゲーミング部門は好調だが、伝統的なコンシューマープロダクツ部門は苦戦しており、在庫を前年比で50%削減するなど、抜本的な収益性改善に取り組んでいる 30。
- Mattel: 2023年の映画「バービー」の歴史的な成功を追い風に、玩具メーカーから「IP主導のエンターテイメント企業」への変革を加速させている 32。
- バンダイナムコグループ: トイホビー事業がグループ全体の業績を牽引する中核事業であり続けている。2025年3月期には、同事業で売上高5,969億円、営業利益1,022億円を達成した 33。
- タカラトミー: 2024年3月期に過去最高業績を達成し、2030年3月期に売上高3,000億円超を目指す「中長期経営戦略2030」を発表。Kiddult市場や海外展開を成長の柱に据えている 34。
在庫回転率:
在庫管理の効率性は、キャッシュフローと収益性に直結する重要KPIである。
- 玩具業界における在庫回転率の一般的なベンチマークは、年間3〜8回とされており、平均的には5〜6回が目安となる 36。
- しかし、この数値はカテゴリによって大きく異なる。例えば、トレンド性が高く短命なライセンスコレクティブルは年間6〜12回と高い回転率を示す一方、季節性が高く販売時期が限定されるアウトドア玩具は2〜4回と低い回転率に留まる 36。
- このカテゴリ別の回転率の差異は、画一的なサプライチェーン戦略の限界を示している。高回転のライセンス商品は、市場トレンドを迅速に捉え、短リードタイムで生産・供給するアジャイルなサプライチェーンが求められる。一方、低回転で定番のボードゲームや知育玩具は、コスト効率を最優先した計画的な生産・在庫管理が適している。したがって、製品ポートフォリオの特性に合わせて最適化された複数のSCMモデル(例:トレンド追随型SCM vs 効率追求型SCM)を並行して運用する高度なケイパビリティが、今後の競争優位の源泉となる。Hasbroが断行した50%もの在庫削減 31 は、この最適化への強い意志の表れと解釈できる。
【表1:市場セグメンテーション別 成長性・収益性マトリクス】
| 製品カテゴリ | 市場成長率 | 利益率 | Kiddult/インバウンド貢献度 | デジタル代替リスク | 戦略的示唆 |
|---|---|---|---|---|---|
| カードゲーム/TCG | High | High | High | Low | Kiddult市場攻略の核。コミュニティ運営と連動したエコシステム構築が鍵。 |
| ホビー/プラモデル | High | Mid-High | High | Low | コレクション性を追求し、高付加価値化。D2Cでの限定品展開が有効。 |
| 知育/STEM玩具 | High | Mid | Mid | Low | 親への「教育投資」価値を訴求。デジタル連携(アプリ等)で付加価値向上。 |
| ハイテク/スマートトイ | High | Low-Mid | Mid | High | AI/IoT技術への投資が必須。プライバシー保護が信頼の鍵。 |
| ぬいぐるみ | Mid-High | Mid | High | Low | 強力なIPとの連携が不可欠。インバウンド需要の取り込みを強化。 |
| 女児玩具(人形等) | Low-Mid | Mid | Low | High | IPの世界観を拡張するフィジタル体験(映画、ゲーム)への転換が急務。 |
| 男児玩具(乗物等) | Low | Low-Mid | Low | Mid | ロングセラーブランドのKiddult向け展開(高価格帯コレクターズ版)を模索。 |
第3章:外部環境分析(PESTLE Analysis)
3.1. 政治(Politics)
玩具業界は、各国の厳格な安全基準と貿易政策に大きく影響される。製品の安全性は、子供の健康に直結するため、最も厳しく規制される分野の一つである。日本では玩具安全基準(STマーク)、欧州ではCEマーキングの前提となるEN71基準、米国ではASTM F963がそれぞれ法的な強制力を持つ安全規格として運用されている 38。
特に注目すべきは、欧州で導入が進む新たな玩具安全規則(Toy Safety Regulation, TSR)である。この新規則は、従来の指令(Directive)から、全加盟国に直接適用される規則(Regulation)へと格上げされ、より統一的で厳格な運用がなされる。内容面では、PFAS(有機フッ素化合物)や特定の内分泌かく乱物質、ビスフェノール類など、懸念される化学物質の使用が新たに禁止・制限される 41。
さらに、TSRは「デジタル製品パスポート(Digital Product Passport, DPP)」の導入を全玩具に義務付けている 43。これは、製品に付されたQRコードなどを通じて、消費者がその製品の適合宣言書や安全に関する情報に容易にアクセスできるようにする仕組みである。この導入は、サプライチェーン全体のトレーサビリティと透明性を劇的に高めることを意図している。
これらの安全基準の厳格化とデジタル化は、コンプライアンス体制の弱い中小企業や安価なノンブランド品にとっては、事実上の高い参入障壁として機能する。一方で、長年にわたり品質管理とコンプライアンス体制に投資してきた大手メーカーにとっては、これを競争優位の源泉へと転化させる好機となる。DPPは単なる規制対応ではなく、「安全と信頼の証」としてマーケティングに活用できる。消費者は購入前に製品の安全情報を自ら確認できるため、価格だけでなく「安心」を重要な購買決定要因とする親世代に対して、強力なブランド価値を訴求することが可能になる。したがって、安全基準への対応は、もはや単なるコストではなく、ブランド・エクイティを高めるための戦略的投資と位置づけるべきである。
3.2. 経済(Economy)
原材料価格の変動は、製造原価を通じて業界の収益性を直接的に左右する。玩具の主材料であるプラスチック樹脂(ポリプロピレン等)の価格は、原油価格や市況に連動して変動する 27。また、AI/IoTを搭載したスマートトイの増加に伴い、半導体の需給バランスと価格動向の重要性も増している 28。為替レートの変動も、海外生産・海外販売比率の高いグローバル企業にとっては無視できないリスク要因である。
個人消費や可処分所得の動向は、製品セグメントによって異なる影響を及ぼす。景気後退期には、生活必需品ではない玩具への支出は抑制される傾向にある。しかし、その影響は一様ではない。日常的な子供の遊びに使われる低〜中価格帯の製品は影響を受けやすい一方で、Kiddult層が購入する高価格帯のコレクターズアイテムや限定品は、趣味・嗜好品としての性格が強く、景気変動の影響を受けにくい可能性がある。
3.3. 社会(Society)
Kiddult市場の主流化:
「子供心を持った大人(Kid + Adult)」を意味するKiddultは、もはやニッチな存在ではなく、玩具市場の最大の成長ドライバーとして主流化している。欧州では、Kiddult層が玩具市場全体の28.5%(約48億米ドル)を占めるに至っている 47。米国ではさらに顕著で、2024年第1四半期にKiddult層が玩具に支出した額は15億米ドルを超え、初めて就学前児童向け市場を上回る最重要顧客セグメントとなった 47。少子化に直面する日本においても、市場成長を支える主要因としてその存在感は増すばかりである 11。
消費者意識の変化:
サステナビリティ(持続可能性)への関心は、消費者行動に明確な影響を与え始めている。特に購買決定者である親世代の環境意識は高く、ある調査では40歳未満の親の50%が、玩具を購入する際にその製品が環境に配慮して作られているか、あるいはリサイクル可能かといった持続可能性を考慮すると回答している 49。また、共働き世帯の増加などを背景に、単なる娯楽としてだけでなく、子供の知的好奇心やスキルを育む「知育」「教育」的価値を玩具に求める傾向も依然として強い 49。
SNSの影響力:
YouTube、TikTok、Instagramといったソーシャルメディアは、玩具のヒットを生み出す上で絶大な影響力を持つプラットフォームとなった。特に、インフルエンサーによる「おもちゃレビュー動画」や「開封動画」は、子供たちの購買意欲を直接的に刺激する。ある調査では、親の58%が、子供がオンライン広告やインフルエンサーの投稿で見た玩具をねだったことで、購入に至った経験があると回答している 49。これは、マーケティング戦略の主戦場が、従来のテレビCMからSNSへと完全に移行したことを示している。
3.4. 技術(Technology)
AI/IoT:
人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)は、「遊び」そのものの定義を覆すポテンシャルを秘めている。自然言語処理を用いた対話型玩具や、画像認識技術を活用した学習・知育玩具が現実のものとなりつつある。特に、MattelがOpenAIとの提携を発表したことは象徴的であり 51、GPTのような高度な生成AIを搭載し、子供の習熟度や興味に応じて対話や遊びの内容が進化する、真にパーソナライズされたスマートトイの登場が目前に迫っている。
AR/VR/MR (フィジタル):
拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)といった技術は、リアルな玩具と仮想空間を連動させた新しい遊び、すなわち「フィジタル(Phygital)」体験を可能にする。この分野における画期的な成功事例が、LEGOとEpic Gamesの提携によって生まれた「LEGO Fortnite」である 1。このゲームは、世界最大のゲームプラットフォームの一つであるFortnite内に、LEGOブロックを使った創造的な遊びの世界を構築した。これにより、物理的な玩具ブランドが、巨大なデジタルコミュニティの中で新たな体験価値を創出し、ブランドエンゲージメントを高めるというフィジタル戦略の有効性を証明した。
EC/D2C:
Eコマースの普及、特にメーカーが自社のオンラインストアを通じて消費者に直接製品を販売するD2C(Direct to Consumer)モデルの進展は、業界の流通構造を大きく変えている 5。D2Cは、単に中間マージンを削減するだけでなく、メーカーが顧客データという最も貴重な資産を直接手に入れることを可能にする。
3.5. 法規制(Legal)
玩具業界を取り巻く法規制の重心は、従来の「製品の物理的・化学的安全性」から、「スマートトイが収集するデータのプライバシーと倫理」へと大きくシフトしている。
もちろん、STマーク、CEマーク、ASTM F963といった物理的な安全基準への準拠は、依然として事業継続の必須条件である 38。しかし、AI/IoT技術を搭載したスマートトイが普及するにつれて、それらのデバイスが子供の会話、遊びのパターン、さらには顔の表情といった機微な個人情報を収集・分析することへの懸念が高まっている。
この課題に対応する最も重要な法律が、米国の「児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)」である。COPPAは、13歳未満の子供を対象とするウェブサイトやオンラインサービス(スマートトイを含む)が、子供から個人情報を収集する際に、事前に検証可能な形で親の同意を得ることを義務付けている 53。また、収集した情報の安全な管理、必要以上の長期間保持の禁止など、厳格な要件を課している 53。
この法規制の動向は、玩具メーカーのコンプライアンス部門に、データ保護やサイバーセキュリティといった新たな専門性を要求する。それだけでなく、製品の企画・設計段階からプライバシー保護を組み込む「プライバシー・バイ・デザイン」という思想が不可欠となることを意味する。将来的に、データ漏洩や不適切なデータ利用といったインシデントは、製品リコールをはるかに超える深刻なブランド毀損と巨額の制裁金という経営リスクをもたらす可能性がある。
3.6. 環境(Environment)
環境問題、特にプラスチック廃棄物に対する社会的な関心の高まりは、玩具業界にとって避けて通れない経営課題である。プラスチックを主原料とする多くの玩具メーカーに対し、使用量削減、リサイクル素材の採用、そして製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減(LCA:ライフサイクルアセスメント)を求める声が強まっている。
業界のリーディングカンパニーは、この課題に戦略的に取り組んでいる。LEGOは、持続可能な素材への転換を経営の最重要課題の一つに掲げ、具体的な目標を設定して研究開発を進めている。2024年には、製品製造のために購入された材料の半分が、認証されたマスバランス方式を含む持続可能な供給源から生産されたと報告している 2。また、Mattelは「Mattel PlayBack」というプログラムを立ち上げ、使用済みの自社製品を回収し、材料を再利用またはリサイクルする取り組みを開始している 7。これらの動きは、環境対応が単なるコストや義務ではなく、ブランドイメージと企業価値を高めるための重要な要素となっていることを示している。
第4章:業界構造と競争環境の分析(Five Forces Analysis)
マイケル・ポーターのFive Forcesフレームワークを用いて、玩具業界の収益構造と競争環境を分析する。結論から言えば、この業界の収益性は「代替品の脅威」という極めて強力な圧力に常に晒されており、競争優位を維持するためには絶え間ない革新が求められる構造にある。
4.1. 代替品の脅威(Threat of Substitutes) – 【極めて高い】
玩具業界が直面する最大の経営課題は、業界内の競合ではなく、外部の「代替品」からもたらされる。その筆頭は、スマートフォンやタブレット上で展開されるゲームアプリや動画視聴サービス(YouTube, TikTok)、そして家庭用・携帯用ゲーム機である。これらのデジタルエンタテインメントは、玩具の主たる顧客である子供たちの可処分時間を直接的に奪い合う、最も手強く、巨大な競合相手である。
市場規模の比較はその脅威の大きさを如実に物語る。2024年の世界の玩具市場が約1,144億米ドルと推定されるのに対し 8、世界のモバイルゲーム市場は調査機関によって978億ドルから1,888億ドル 55、動画配信市場は1,577億ドルから1,920億ドル 26 と、いずれも玩具市場を凌駕する、あるいはそれに匹敵する巨大な市場を形成している。
この事実は、競争の定義を根本から見直す必要性を示唆する。もはや競争の構図は「玩具メーカー vs 玩具メーカー」ではない。「遊びの時間(Play Time)のシェアを巡る、あらゆるエンターテインメント・プロバイダーとの戦い」と再定義すべきである。Five Forces分析における「代替品」は、もはや単なる代替選択肢ではなく、市場の「主戦場」そのものとなっている。この厳しい現実を直視したとき、玩具メーカーが生き残るための戦略的選択肢は、大きく二つに絞られる。第一に、代替品と積極的に「融合」する道。これが「フィジタル戦略」である。第二に、代替品が提供できない独自の価値、すなわち物理的な手触りや質感、家族や友人との対面でのコミュニケーション、あるいは体系的な学習効果といった「リアルならではの価値」を徹底的に追求する道である。LEGOが世界最大のゲームプラットフォームの一つであるFortniteと提携したこと 1 は前者の、多くの知育玩具メーカーがSTEM/STEAM教育価値を訴求すること 16 は後者の、それぞれ典型的な戦略的対応と言える。
4.2. 業界内の競争(Rivalry Among Existing Competitors) – 【高い】
業界内には、LEGO、Hasbro、Mattelといったグローバル・メガプレイヤーと、バンダイナムコグループ、タカラトミーといった日系大手がひしめき合い、激しい競争を繰り広げている。競争の主軸は、大きく分けて「IP(キャラクター)の獲得競争」と「新たな遊びの創造」の二つである。
強力なIPは消費者の指名買いを促すため、その獲得は売上に直結する。各社はディズニー、任天堂、ワーナー・ブラザースといった有力IPホルダーとのライセンス契約獲得に注力しており、例えばMattelがディズニーの「プリンセス」および「アナと雪の女王」のライセンスを競合から再獲得したことは、その熾烈さを象徴している 7。一方で、他社IPへの依存は高額なライセンス料を伴うため、各社は自社オリジナルIPの創出・育成にも力を入れている。
4.3. 供給者の交渉力(Bargaining Power of Suppliers) – 【高い】
玩具メーカーは、二種類の強力な供給者からの圧力に直面している。
第一に、前述の強力なIPホルダーである。ライセンス商品は市場の34%を占める最重要カテゴリであり 8、玩具メーカーは人気IPを確保するために、IPホルダーが提示するライセンス料や条件を受け入れざるを得ない状況にあることが多い。
第二に、製造委託先である。業界の生産機能は、コスト削減を目的として長年にわたり中国やベトナムなどのアジア地域に集中してきた 58。その結果、現地の有力な製造工場に対する依存度が高まり、人件費や原材料費の高騰を背景に、工場の価格交渉力が増している。
4.4. 買い手の交渉力(Bargaining Power of Buyers) – 【高い】
買い手(販売チャネルおよび最終消費者)の交渉力も同様に高い。Amazon、ウォルマート、トイザらスといった大手小売チェーンは、その巨大な販売網と購買力を背景に、メーカーに対して強い価格交渉力を持つ。
一方で、最終消費者の購買行動は二元的である。購買者である親は、価格、安全性、教育的価値といった合理的な要素を重視し、価格感度が高い傾向にある 49。しかし、使用者である子供は、キャラクターの魅力や友人間の流行といった感情的な要素に強く影響され、「これが欲しい」という強力な「指名買い」を行う 60。この子供からの強い要求は、親の価格交渉力を事実上弱める効果を持つ。
4.5. 新規参入の脅威(Threat of New Entrants) – 【中程度】
全くの異業種からの新規参入は容易ではない。グローバルなサプライチェーンの構築、各国の厳格かつ複雑な安全基準への対応 38、そして何よりも消費者の信頼を勝ち取るためのブランド構築には、多大な時間と資本投資が必要であり、これらが有効な参入障壁として機能している。
しかし、脅威が皆無なわけではない。デジタルゲーム業界からの参入は現実的な脅威である。例えば、世界的な人気を誇るゲームプラットフォーム「Roblox」が、ゲーム内のアバターやアイテムを物理的なフィギュアとして商品化する動きはその一例である。また、STEM/STEAM分野においては、クラウドファンディングやD2Cモデルを活用し、ユニークな製品で急速に成長するスタートアップも登場しており、既存の業界秩序を部分的に破壊する可能性を秘めている。
第5章:サプライチェーンとバリューチェーン分析
5.1. サプライチェーン分析
玩具業界の伝統的なサプライチェーンは、「企画・開発(国内)→ IPライセンス契約 → 金型製作 → 原材料調達 → 製造(中国・東南アジア)→ 品質検査 → 国際物流 → 輸入 → 卸売 → 小売」という、直線的で長いリードタイムを特徴とする構造であった。このモデルは、人件費の安い地域での大量生産によるコスト効率を最優先するものであった。
しかし、この中国・東南アジアへの過度な集中は、近年の地政学的リスクの高まり(米中対立など)や、パンデミックに起因する世界的な物流網の混乱、コンテナ不足、半導体不足といった事象を通じて、その脆弱性を露呈した 58。サプライチェーンの寸断は、クリスマス商戦などの最需要期における深刻な機会損失に直結し、企業の業績に大きな打撃を与えた。
この経験を経て、業界大手はサプライチェーン戦略の再構築を急いでいる。その方向性は、単一地域への依存を脱し、生産拠点を多様化・分散化すること、そして生産地を消費市場に近づける「ニアショアリング」である。例えば、Mattelはメキシコのモンテレイ工場を拡張・統合し、北米市場向けの最大の製造拠点として位置づけた 63。LEGOも同様に、アジア市場向けにベトナム新工場を稼働させ、米州市場向けにはバージニア州に新工場の建設を進めている 1。
これらの動きが示すのは、サプライチェーンの役割が、単なる「コストセンター」から、「リスク管理と市場即応性を司る戦略的機能」へと大きく変化していることである。過去のSCMのKPIが「製造コストの低減」に偏っていたのに対し、現代のSCMは、「供給の安定性」「市場投入までのリードタイム短縮」「輸送に伴う環境負荷の削減」といった多面的な指標で評価されるべきものへと進化している。コスト効率とリスク分散、そして市場への即応性のバランスをいかに最適化するかが、今後のSCMにおける最大の課題となる。
5.2. バリューチェーン分析
玩具業界における価値の源泉は、バリューチェーンの各段階に存在する。具体的には、「①IPの魅力」「②独創的な遊びの企画力」「③安全性を担保する高品質な製造管理」「④(特にSNSを活用した)マーケティング力」「⑤販売チャネルの確保」が挙げられる。
この中で、近年戦略的重要性が飛躍的に高まっているのが、D2C(Direct to Consumer)モデルの拡大である。D2Cは、メーカーが自社のECサイトなどを通じて、卸売や小売を介さずに直接最終消費者に製品を販売するビジネスモデルを指す 6。
D2Cの本質的な戦略価値は、中間マージンの排除による収益性向上に留まらない。むしろ、それ以上に重要なのは「顧客データ」と「ファンコミュニティ」という二つの無形資産を、メーカー自身が直接的に構築できる点にある 52。
従来のB2B2C(Business to Business to Consumer)モデルでは、メーカーと最終消費者の間には小売業者という「ブラックボックス」が存在した。「誰が」「何を」「いつ」「なぜ」購入したのかという最も重要な顧客データは小売業者が独占し、メーカーがアクセスすることは困難であった。しかし、D2Cへのシフトはこの情報の非対称性を解消する 52。メーカーは、自社サイトでの購買データ、顧客からのレビュー、問い合わせといった一次データを直接、かつリアルタイムに入手できる。このデータは、AIによる需要予測の精度向上、顧客セグメント毎のパーソナライズされたマーケティング施策の立案、さらには次期製品の企画開発におけるインサイトの源泉となり、バリューチェーン全体の意思決定の質を劇的に向上させる。
さらに、D2Cは熱心なファンとの直接的な関係構築を可能にする。Mattelのコレクター向けD2Cプラットフォーム「Mattel Creations」が、ユーザー数を前年比で90%以上増加させるなど好調なのはその証左である 32。このプラットフォームを通じて限定商品を販売したり、開発秘話を共有したりすることで、特にKiddult層のようなロイヤリティの高いファンとのエンゲージメントを深め、強固なファンコミュニティを形成することができる。これは、バリューチェーンにおける「マーケティング」や「販売」の機能が、単なるコストセンターから、データとコミュニティという持続的な競争優位を生み出す「戦略的資産構築の場」へと変貌することを意味している。
第6章:顧客需要の特性分析
6.1. 主要セグメント分析: 購買者(親) vs 使用者(子供)
玩具の購買プロセスは、購買の意思決定者(主に親や祖父母)と、実際の使用者(子供)が異なるという、特有の二重構造を持つ。この二者のニーズと購買決定要因(KBF: Key Buying Factor)のギャップを理解することが、マーケティング戦略の要諦となる。
購買者(親・祖父母)が重視するKBF:
親は、玩具を単なる娯楽品としてではなく、子供の成長への「投資」と捉える傾向が強い。したがって、彼らが重視するのは合理的で長期的な便益である。各種調査によれば、親が玩具を選ぶ際に重視する要素として、「知育・教育的価値(STEM/STEAMなど)」「安全性(素材、構造)」「価格(コストパフォーマンス)」「省スペース性(収納のしやすさ)」、そして「子供の精神的・感情的・社会的健康の促進」などが挙げられる 49。
使用者(子供)が重視するKBF:
一方、子供が玩具に求めるのは、より直接的かつ感情的な便益である。彼らのKBFは、「IP(キャラクター)の魅力」「純粋な楽しさ(Fun Factor)」「友人との共通の話題性(仲間内で流行っているか)」に集約される 60。特に、YouTubeやTikTokで活躍するキッズインフルエンサーの影響力は絶大であり、彼らが紹介する玩具は、子供たちの間で「指名買い」の対象となることが多い 49。
この構造から導き出される戦略的含意は、成功する玩具マーケティングが「二重の説得構造」を持たなければならない、ということである。つまり、一方では子供の感性に訴えかけ「これが欲しい!」という強い欲求を喚起し、もう一方では親の理性と価値観に訴えかけ「これを買い与えるべきだ」という納得感と正当性を与える必要がある。
具体的な戦術としては、マーケティングメッセージとチャネルの二元化が有効である。子供に対しては、YouTubeやTikTokでインフルエンサーを起用し、IPの魅力と遊びの楽しさを前面に押し出したバイラルなコンテンツを展開する。親に対しては、製品パッケージや公式ウェブサイト、ペアレンタルメディア(育児雑誌やサイト)などで、STEM認証の取得、専門家(教育評論家など)の推薦コメント、安全基準への準拠といった情報を強調し、その玩具が子供の成長にとって有益な「教育投資」であることを論理的に訴求する。この二つのメッセージが両輪となって機能して初めて、購買という最終的なゴールに到達することができる。
6.2. Z世代・アルファ世代(デジタルネイティブ)の特性
Z世代(1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)と、それに続くアルファ世代(2010年代初頭以降生まれ)は、生まれた時からスマートフォンやインターネットが当たり前に存在する「真のデジタルネイティブ」である。彼らにとって、リアルな世界とデジタルの世界の間に明確な境界線は存在しない。
幼少期からタブレットやスマートフォンに触れて育ち 67、YouTubeやTikTokはテレビに代わる主要な情報源・娯楽源となっている 69。彼らの特徴は、単にデジタルコンテンツの受動的な消費者であるだけでなく、自らがコンテンツを創造し、発信する「クリエイター」としての側面を強く持つことである 67。RobloxやMinecraftのような、決まった筋書きがなく、ユーザーが自由に世界を創造できる「サンドボックス型」のゲームプラットフォームを好む傾向も、この特性を裏付けている 70。
この世代の行動変容は、玩具の役割そのものを変えつつある。彼らにとって、物理的な玩具は「遊びの終着点」ではない。むしろ、デジタルコンテンツを創造するための「素材(アセット)」としての意味合いを帯び始めている。例えば、新しく手に入れた人形でストップモーションアニメを撮影してTikTokに投稿したり、お気に入りのミニカーのレース風景を編集してYouTubeで公開したりする。あるいは、レゴブロックで作った作品を撮影し、それをRobloxやMinecraftの世界でデジタルに再現して友人と共有する。
このような行動は、玩具メーカーに対して新たな役割を要求する。つまり、単に遊んで楽しいモノを提供するだけでは不十分であり、その玩具が「SNS映え」するか、デジタル世界で再現しやすいか、UGC(User Generated Content)を生み出しやすい設計になっているか、といった視点が製品開発において極めて重要になる。LEGOがEpic Gamesと提携し、Fortnite内でデジタル版のレゴブロックを提供しようとしている動き 71 は、物理的な玩具をデジタル世界のクリエイティブなアセットとして再定義し、アルファ世代の遊び方に適応しようとする先進的な戦略の表れである。
6.3. Kiddult(大人)市場の需要特性
Kiddult市場の急成長は、大人が玩具を購入する動機が多様化し、社会的に受容されたことの証左である。彼らの需要特性は、子供のそれとは根本的に異なる。
大人が玩具を購入する動機は、単なる「遊び」に留まらない。「コレクション」としての所有欲、「自己表現」の手段、「推し活」と呼ばれる特定のキャラクターや作品への熱烈な支持の表明、過去を懐かしむ「ノスタルジア」、日々のストレスからの解放、そして「子供との絆を深める」ための共通の趣味など、極めて多岐にわたる 47。
このため、Kiddult層に響く製品やマーケティングは、子供向けとは全く異なるアプローチが求められる。彼らは子供のように親の予算に制約されず、自身の可処分所得で購買を決定するため、価格感度は相対的に低い。その代わり、製品の「限定性」(Limited Edition)、「高品質」(精巧なディテールや素材)、「ディスプレイ価値」(飾った際の見栄え)、そして製品に込められた「ストーリー性」を重視する傾向が強い。したがって、マスマーケット向けの製品展開とは別に、高価格帯のコレクターズラインを設け、D2Cチャネルで限定販売を行うといった戦略が有効となる。
第7章:業界の内部環境分析
7.1. VRIO分析
企業の持続的な競争優位の源泉となる経営資源やケイパビリティを、VRIOフレームワーク(Value: 価値、Rarity: 希少性、Inimitability: 模倣困難性、Organization: 組織)の観点から分析する。
- 強力なIPポートフォリオ(VRIO): バンダイナムコの「機動戦士ガンダム」やタカラトミーの「トミカ」「リカちゃん」のように、数十年かけてファンと共に育成されてきたIPは、高い価値、希少性、そして模倣困難性を兼ね備えた最も強力な経営資源である。これらのIPは、単なるキャラクターではなく、世代を超えて共有される文化的な資産となっており、玩具、ゲーム、映像など多岐にわたる事業展開を可能にする。
- ブランド信頼性(VRI): 長年の事業活動を通じて築き上げられた「安全性」と「品質」に対する消費者、特に購買決定者である親からの信頼は、価値があり希少な資産である。新規参入者が短期間でこれを模倣することは困難である。
- グローバルな販売・流通網(VRI): Amazon、ウォルマート、ターゲットといった世界の巨大リテーラーとの間に構築された強固な取引関係と物流網は、製品を効率的に市場に届けるための重要なケイパビリティである。
- 製造ノウハウに関する暗黙知(VRI): 精密な金型を製作する技術や、各国・地域の複雑で常に変化する安全基準をクリアするための法規制対応ノウハウといった、組織内に蓄積された暗黙知も、模倣が難しい競争力の源泉となる。
7.2. 人材動向
デジタルトランスフォーメーションの波は、玩具メーカーが必要とする人材のポートフォリオを劇的に変化させている。
需要が高まる新たな専門人材:
伝統的な「おもちゃの企画者」やデザイナー、エンジニアに加え、以下のような専門人材の需要が急速に高まっている。
- データサイエンティスト: D2CやPOSから得られる膨大な顧客データを分析し、需要予測の精度を高めたり、顧客セグメンテーションを行ったりする役割。
- AI/IoTエンジニア: スマートトイに搭載されるAIアルゴリズムや、センサー、通信機能を開発する専門家。
- UI/UXデザイナー: 物理的な玩具と連動するアプリやウェブサービスのユーザーインターフェースや体験全体を設計する役割。
- コミュニティマネージャー: SNSやD2Cプラットフォーム上でファンコミュニティを運営し、ブランドへのエンゲージメントを高める専門家。
IT・ゲーム業界との熾烈な人材獲得競争:
これらのデジタル系専門人材は、IT業界やゲーム業界においても需要が非常に高く、玩具業界はこれらの高成長・高給与業界と直接的な人材獲得競争を繰り広げることになる。データサイエンティストの給与水準は極めて高く、例えば米国における年収の中央値は$112,590に達し [73, 74]、経験豊富なシニア人材やマネージャークラスでは$170,000から$200,000を超えることも珍しくない 75。これは、伝統的な製造業である玩具メーカーの給与体系を上回る水準である可能性が高い。
この厳しい競争環境において、玩具メーカーが単に給与水準だけでGAFAや大手ゲームスタジオと競うことは現実的ではない。したがって、金銭的報酬以外の魅力を提示することが不可欠となる。玩具メーカーが提供できる独自の価値提案(EVP: Employee Value Proposition)は、「パーパス(存在意義)」と「ユニークな働きがい」にある。すなわち、「子供たちの成長と発達に貢献する」という社会的に意義のある事業目的や、「デジタルとリアルを融合させた、世界でも類を見ない新しい遊びの体験を創造する」という、他業界では得られないユニークな挑戦機会である。採用戦略においては、このようなミッションやビジョンに強く共感する人材を惹きつけ、リテンションするためのカルチャーを醸成することが、人材獲得競争に打ち勝つための鍵となる。
7.3. 労働生産性
玩具業界のビジネスモデルは、一部のヒット商品が全体の売上の大半を稼ぎ出す「ヒット依存型」の構造を持つことが多い。このため、売上や利益の年度ごとの変動が大きく、従業員一人当たり売上高といった労働生産性指標が安定しにくいという課題がある。
生産性を向上させるためには、ヒットの確率(ヒット率)を高めると同時に、企画から市場投入までの開発リードタイムを短縮することが求められる。しかし、これらはしばしばトレードオフの関係にある。リードタイム短縮を急ぐあまり、市場調査や試作・検証が不十分になればヒット率は低下し、逆にヒット率を追求して開発に時間をかけすぎると、市場のトレンドを逃してしまう。AIの活用による需要予測の高度化や、3Dプリンティングによる試作品開発の高速化は、このトレードオフを解消し、生産性を向上させるための有効な手段となり得る。
第8章:AIが業界に与える破壊的インパクト(Deep Dive)
人工知能(AI)、特に近年の生成AIの進化は、玩具業界のバリューチェーン全体に破壊的な変革をもたらす。AIは単なる効率化ツールではなく、競争のルールそのものを書き換えるゲームチェンジャーである。
8.1. 製品・サービスへのインパクト(遊びの変革)
AIは「遊び」の体験を根本から変える。
- AI搭載スマートトイの進化: 自然言語処理技術の向上により、子供と自然な会話ができる対話型玩具が実現する。これらの玩具は、単にプログラムされた返答をするだけでなく、過去の対話履歴を記憶し、子供の性格や興味に合わせて応答をパーソナライズする。MattelとOpenAIの提携 51 は、GPTのような大規模言語モデルを玩具に組み込み、知的な会話パートナーや物語の共作者となるような、新次元のインタラクティブ・プレイの到来を予感させる。また、画像認識AIを搭載した知育玩具は、子供が描いた絵や組み立てたブロックを認識し、それに応じたフィードバックや新たな課題を提示することで、学習効果を飛躍的に高めることができる。
- パーソナライズド・プレイの実現: AIは、スマートトイや連携アプリから得られる子供の遊びのデータ(プレイログ)を分析し、その子の発達段階や興味の対象を深く理解することが可能になる。このインサイトに基づき、「次はこんな遊びはどう?」「このブロックを使えば、もっとすごいものが作れるよ」といった形で、一人ひとりに最適化された遊び方や、次に購入すべき玩具をレコメンドする「Play as a Service」モデルが実現する。これは、玩具を一度きりの「モノ」の販売から、継続的な「体験」の提供へとビジネスモデルを転換させる可能性を秘めている。
8.2. 開発プロセスへのインパクト(創造の変革)
AIは、製品が生まれるプロセスを劇的に効率化し、創造性を拡張する。
- 生成AIによるアイデア創出と具現化: 従来、数週間から数ヶ月を要したデザインプロセスが、生成AIによって数時間から数日に短縮される。企画者が「未来の都市を走る、ネコ型のスーパーカー」といったテキスト(プロンプト)を入力するだけで、AIは無数のキャラクターデザイン案や玩具の3Dモデル、パッケージデザインのバリエーションを瞬時に生成する 3。これにより、企画者はアイデアの「創出」よりも、AIが生み出した多様な選択肢の中から有望なものを「選別・結合・洗練」することに集中できるようになる。
- この変化は、開発プロセスを根本から変革する。従来の新製品開発は、一部の経験豊富なエリート企画者の直感と経験に大きく依存する、いわば「職人技」であった。しかし、生成AIの登場により、若手社員や異分野のスタッフでも、自らのアイデアを迅速にビジュアル化し、具体的な提案として共有することが可能になる。これにより、開発プロセスは「少数の専門家によるトップダウン型」から、「組織全体で多数のアイデアを高速で試作・検証するアジャイル型」へと移行する。これは、ヒットの確率を個人の才能に依存するのではなく、多数の試行錯誤を通じて組織的に高めていく「開発の科学化」であり、企業のイノベーション創出能力を飛躍的に向上させる。
8.3. 製造・SCMへのインパクト(効率化)
- 品質検査の自動化: 製造ラインにおいて、AIによる画像認識システムが塗装のムラ、部品の欠損、組み立てのズレといった微細な欠陥を人間の目よりも高速かつ高精度に検出し、品質管理のレベルを向上させる。
- 需要予測の高度化: AIは、過去の販売実績、季節性、プロモーションの効果といった社内データに加え、SNS上のトレンド、競合製品の動向、さらには気象データといった外部の非構造化データを統合的に分析し、新製品のヒット確率やカテゴリ別の需要を予測する。これにより、過剰在庫のリスクを低減し、機会損失を最小化する、より精緻な生産・在庫計画が可能となる。
8.4. マーケティングへのインパクト(伝達の変革)
- トレンドの予兆検知: AIは、TikTokやInstagram、X(旧Twitter)といったプラットフォーム上の膨大な投稿をリアルタイムで分析し、特定のキャラクターや遊び方がバイラルに拡散する予兆を早期に検知する。これにより、マーケティングチームはトレンドの波に乗り遅れることなく、迅速にキャンペーンを展開できる。
- 広告クリエイティブの最適化: ターゲットとする顧客セグメント(例:「3歳の息子に初めてのSTEM玩具を探している父親」)のペルソナに合わせて、最も効果的な広告のキャッチコピー、画像、動画をAIが自動で生成・組み合わせ、最適なプラットフォームに配信する。配信後も、クリック率やコンバージョン率といったパフォーマンスデータを基に、クリエイティブをリアルタイムで改善し続ける。
8.5. 倫理的・法的課題
AIの導入は、新たな倫理的・法的な課題をもたらす。特に、子供を対象とする玩具においては、その取り扱いに細心の注意が求められる。
- プライバシー問題: AI搭載玩具が子供の日常的な会話や遊びの様子をデータとして収集・分析することは、米国のCOPPA 53 や欧州のGDPRといった厳格なプライバシー保護法制に抵触するリスクをはらむ。保護者からの明確かつ検証可能な同意の取得、データの安全な管理、透明性の確保が絶対的な要件となる。
- 思考の画一化リスク: AIが常に「最適」な遊び方をレコメンドし続けることで、子供が自ら試行錯誤し、失敗から学ぶ機会が失われ、創造性や問題解決能力の発達が阻害されるのではないかという懸念も指摘されている 76。
これらの課題に対する企業の姿勢は、消費者の信頼を大きく左右する。技術的には子供のあらゆるデータを収集し、ビジネスに活用することが可能であっても、親の最大の懸念はプライバシーとセキュリティである 77。したがって、AI時代の競争優位は、技術的な優位性だけでなく、「倫理的な優位性」によってもたらされる。具体的には、①収集するデータを機能実現に必要な最小限に絞る「データ最小化」の原則、②個人を特定しうるデータを可能な限りデバイス内で処理し、外部のクラウドサーバーに送信しない「エッジAI」の採用、③データの使用目的と保持期間を保護者に平易な言葉で明確に開示し、いつでもデータの削除を要求できる権利を保証すること、などが挙げられる。このような「プライバシー保護」を製品のコア機能として設計し、マーケティングで積極的に訴求することが、最終的に親からの信頼を勝ち取り、持続的なブランド価値を構築する上で不可欠となる。
第9章:主要トレンドと未来予測
玩具業界は、4つの不可逆的なメガトレンドによって、その未来像が形作られつつある。これらのトレンドは、単独で進展するのではなく、相互に影響し合いながら業界の構造を再定義していく。
9.1. フィジタル(Phygital)の主流化
フィジタルとは、物理的な(Physical)体験とデジタルな(Digital)体験がシームレスに融合し、両者の境界線が消滅していく概念である。玩具業界において、これは単なる「モノ」としての玩具にアプリを付加するレベルの話ではない。リアルな玩具がデジタル世界への入り口となり、デジタル世界での体験がリアルな玩具への愛着を深める、という相互作用的なエコシステムの構築を意味する。
このトレンドを最も象徴する事例が、LEGOとEpic Gamesの戦略的提携によって生まれた「LEGO Fortnite」である 1。この取り組みでは、世界数億人のユーザーを抱えるゲームプラットフォーム「Fortnite」内に、LEGOブロックを使った創造的な遊びが楽しめる広大な世界が構築された。プレイヤーはデジタル空間で自由に建築や冒険を楽しむことができ、その体験はリアルのLEGOブロックで遊びたいという意欲を刺激する。将来的には、リアルで購入したLEGOセットがゲーム内の限定アイテムをアンロックしたり、逆にゲーム内で作成した設計図を基にリアルのブロックセットを注文できたりといった、双方向の連携がさらに深化することが予想される 71。これは、玩具が一度きりの購入で終わるのではなく、デジタルサービスと連動して継続的にアップデートされ、遊びの体験が拡張し続ける未来を示唆している。
9.2. サステナビリティの必須化
環境配慮は、もはや企業の社会的責任(CSR)活動の一環という位置づけではなく、消費者がブランドを選択するための必須条件、すなわち重要なKBF(Key Buying Factor)へと変化している。特に、購買決定権を握るミレニアル世代以降の親は環境意識が高く、自らの子供が使う製品の素材や製造プロセス、廃棄方法に敏感である 49。
この要求に応えるため、業界リーダーは具体的な行動を加速させている。LEGOは、石油由来のABS樹脂からの脱却を目指し、植物由来やリサイクル素材を用いたブロックの研究開発に巨額の投資を行っている。2024年には、購入した材料の半分が持続可能な供給源からであったと報告している 2。Mattelも、使用済みの自社玩具を回収し、材料として再利用する「Mattel PlayBack」プログラムを欧米で展開している 7。
将来的には、単にリサイクル素材を使用するだけでなく、製品のライフサイクル全体(原材料調達から製造、使用、廃棄まで)における環境負荷を定量的に評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)に基づいた製品設計や、その情報の開示が標準となる可能性がある。修理プログラムの提供や、リユースを前提とした製品設計も、ブランド価値を高める重要な要素となるだろう。
9.3. 「遊び」のサービス化(PaaS: Play as a Service)
ビジネスモデルは、製品を「売り切る」トランザクション型から、顧客と継続的な関係を築くリカーリング型へとシフトしていく。これが「遊びのサービス化(PaaS: Play as a Service)」である。
このモデルは多様な形態を取りうる。例えば、子供の年齢や発達段階に合わせて毎月異なる知育玩具が届く「サブスクリプションボックス」は、既に市場に浸透し始めている。さらに、AI搭載のスマートトイでは、定期的なソフトウェア・アップデートを通じて新しい会話のパターン、ゲーム、学習コンテンツが追加され、玩具の価値が時間と共に向上していく。フィジタル玩具においては、物理的な製品の購入者を対象とした限定のオンラインイベントや、デジタルコンテンツへのアクセス権を提供することで、継続的なエンゲージメントを維持し、追加の収益機会を創出することができる。このモデルは、企業に安定的な収益基盤をもたらすと同時に、顧客ロイヤリティを飛躍的に高める効果が期待できる。
9.4. D2Cとファンコミュニティ
メーカーが自社のECサイトやSNSを通じて、ファンと直接的かつ双方向のコミュニケーションを行うD2C(Direct to Consumer)モデルは、単なる販売チャネルの多様化に留まらない、競争力の源泉そのものへと進化する。
D2Cの最大の価値は、熱心なファンとの間に強固なコミュニティを形成できる点にある。Mattelのコレクター向けプラットフォーム「Mattel Creations」は、その好例である 32。このサイトでは、一般の小売店では手に入らない限定品や、デザイナーとのコラボレーション製品を販売し、製品開発の背景にあるストーリーを共有することで、Kiddultを中心としたコアなファンの熱狂的な支持を集めている。
このようなコミュニティは、貴重なフィードバックの源泉となるだけでなく、ブランドの熱心な代弁者(アンバサダー)として、SNSなどを通じて自発的に製品の魅力を拡散してくれる。メーカーは、このコミュニティを基盤として、新製品の先行販売や、ファン参加型の製品企画、限定イベントの開催など、多様なエンゲージメント施策を展開することができる。将来的には、企業がどれだけ大規模で熱量の高いファンコミュニティを直接的に運営できているかが、ブランドの価値を測る重要な指標となるだろう。
第10章:主要プレイヤーの戦略分析
業界を牽引する主要プレイヤーは、それぞれ異なる強みと戦略的アプローチで、この変革期におけるリーダーシップを競っている。各社の戦略を比較分析することで、業界の動向と成功要因がより明確になる。
【表2:主要プレイヤー戦略比較マトリクス】
| プレイヤー | 収益性/成長性 | IP戦略 | デジタル/フィジタル戦略 | Kiddult戦略 | サステナビリティ | サプライチェーン戦略 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| LEGO | 高成長・高収益 | 強力な自社IP(ブロックシステム)を核に、有力外部IPとも連携 | 【業界の牽引役】 Epic Gamesとの提携(LEGO Fortnite)でデジタルエコシステムを構築 | 【先進的】 大人向けの高価格帯・複雑なセット(Icons, Technic)を多数展開 | 【先進的】 持続可能素材への転換を最重要課題として推進 | 【分散化・近距離化】 米国、ベトナムに新工場を建設し、地域供給体制を強化 |
| Hasbro | 収益性改善途上 | 【選択と集中】 Magic: The Gathering, D&D等のゲームIPに注力。eOne売却でアセットライト化 | 【ライセンス主導】 Monopoly GO!, Baldur’s Gate 3等のデジタルゲームライセンスで成功 | ゲーム(TCG, ボードゲーム)を中心に強力なファンベースを構築 | SBTi承認のGHG削減目標を設定 | 在庫の大幅削減(50%減)による効率化とキャッシュフロー改善を推進 |
| Mattel | 成長軌道(IP次第) | 【IPドリブン企業への変革】 Barbie映画の成功をモデルに、自社IPの映像化を加速 | Mattel163(ゲーム合弁)、Roblox展開、OpenAIとの提携など多角的に推進 | 【D2Cで強化】 コレクター向けD2C「Mattel Creations」でファンと直接関係構築 | 玩具回収プログラム「PlayBack」を推進。サステナブル素材の採用目標を設定 | 【近距離化】 メキシコ工場を拡張し、北米の製造拠点を集約 |
| バンダイナムコ | 高収益(グループ牽引) | 【IP軸戦略】 ガンダム等の強力IPを玩具、ゲーム、映像等に多角展開(ALL BANDAI NAMCO) | ガンダムメタバース構想など、IPを核としたデジタル空間の構築を推進 | 【中核事業】 BANDAI SPIRITSがハイターゲット向けコレクターズ商品を展開 | ガンプラリサイクルプロジェクトなど、IPと連動したユニークな取り組みを実施 | 国内(静岡)に最新鋭の生産拠点を保持。海外は協力工場を活用 |
| タカラトミー | 成長軌道 | トミカ、リカちゃん等のロングセラーIPが基盤。TCGも好調 | デジタルゲーム事業の拡大を重点戦略の一つに掲げる | 【成長の柱】 中長期戦略で「年齢軸の拡大」を掲げ、Kiddult向けTCG等を強化 | エコトイ基準の策定など、環境配慮型製品の開発に注力 | 伝統的なアジア生産モデルが中心。今後の最適化が課題 |
10.1. グローバル・メガプレイヤー
- LEGO: 「フィジタル」戦略の絶対王者として業界をリードする。強力な自社IPである「ブロックシステム」という普遍的な遊びを核に、Fortniteとの提携 1 を通じてデジタルネイティブ世代との新たな接点を創出。Kiddult市場に対しても、精巧で複雑な高価格帯セット(Iconsシリーズなど)を積極的に投入し、巨大なファン層を確立している 47。さらに、サプライチェーンの地域分散化(ベトナム、米国への新工場建設) 64 や、持続可能素材への転換 2 といった非財務領域でも業界のベンチマークとなる先進的な取り組みを推進しており、死角が見当たらない。
- Hasbro: 近年は「選択と集中」による収益性改善を最優先課題としている。不採算であったエンターテイメント事業(eOne)を売却し、自社で映像制作を抱え込まないアセットライトな戦略へ転換した 31。その一方で、自社の最大の強みである「Wizards of the Coast and Digital Gaming」部門(『Magic: The Gathering』、『Dungeons & Dragons』)へのリソース集中を鮮明にしている 30。特に、自社IPを他社にライセンスし、大ヒットしたモバイルゲーム『Monopoly GO!』やPCゲーム『Baldur’s Gate 3』の成功は、IPの新たな収益化モデルとして注目される 31。
- Mattel: 2023年の映画『バービー』の歴史的な大成功を機に、「IPドリブン・カンパニー」への変革を力強く推進している 32。この成功をモデルケースとし、『Hot Wheels』など他の自社保有IPの映像化プロジェクトを次々と立ち上げている。デジタル領域では、モバイルゲームの合弁会社「Mattel163」や、Robloxプラットフォーム上でのブランド体験の提供、さらにはOpenAIとの提携 51 など、多角的なアプローチを試みている。また、コレクター向けのD2Cプラットフォーム「Mattel Creations」を通じて、Kiddultファンとの直接的な関係強化に成功している 32。
10.2. 日系大手
- バンダイナムコグループ: 「IP軸戦略」を掲げ、その深化と徹底において他社の追随を許さない。グループが保有する「機動戦士ガンダム」「ドラゴンボール」といった世界的に強力なIPポートフォリオを、玩具(トイホビー事業)、家庭用・モバイルゲーム(デジタル事業)、アニメ(映像音楽事業)、施設(アミューズメント事業)など、グループ内のあらゆる事業部門が連携して多角的に展開(ALL BANDAI NAMCO)することで、IP価値の最大化を図っている 33。特にトイホビー事業はグループ全体の収益を牽引する最大の稼ぎ頭である 33。将来的には、「ガンダムメタバース」構想に代表されるように、IPを核とした独自のデジタル空間の構築を目指している 80。
- タカラトミー: 2024年に創業100周年を迎え、「中長期経営戦略2030」を発表。2030年3月期に売上高3,000億円超という野心的な目標を掲げた 34。「トミカ」「プラレール」「リカちゃん」といった国民的なロングセラーIPを事業の基盤としつつ、新たな成長の柱として「年齢軸の拡大(Kiddult向けTCGの横展開など)」と「地域軸の拡大(海外展開)」を明確に打ち出している 35。デジタルゲーム事業の拡大も重点戦略の一つとしており、伝統的な玩具事業とデジタル事業の融合をいかに進めるかが今後の成長の鍵を握る。
第11章:戦略的インプリケーションと推奨事項
これまでの包括的な分析を基に、おもちゃ・玩具業界で勝ち抜くための戦略的意味合いを抽出し、取るべき具体的な行動を提言する。
11.1. 今後5~10年で、勝者と敗者を分ける決定的な要因
今後10年間の玩具業界における勝者と敗者を分ける決定的な要因は、もはや個別のヒット商品を生み出す能力ではない。それは、「IPエコシステムの構築力」と、外部環境の変化に迅速に対応する「組織的な適応スピード」の二つである。
勝者となる企業は、物理的な玩具を、より広範な「IP体験エコシステム」への魅力的な入り口(ゲートウェイ)として位置づけるだろう。玩具の購入が顧客体験のゴールではなく、そこからデジタルコンテンツ、オンラインコミュニティ、リアルイベントへと繋がる、一連の継続的なエンゲージメントの始まりとなるようなビジネスモデルを構築できる企業である。このようなエコシステムは、顧客を自社プラットフォームに惹きつけ、高いスイッチングコストを形成し、安定的な収益基盤をもたらす。
そして、このエコシステムを構築・運営するためには、変化への適応スピードが不可欠となる。AIやD2Cといった破壊的技術を、競合に先駆けて自社のバリューチェーンに導入し、その効果を最大化できるか。そのために必要なデジタル人材を獲得・育成し、旧来の製造業的な組織構造や意思決定プロセスを変革できるか。この組織的な俊敏性が、最終的な勝敗を左右する。
11.2. 捉えるべき機会と備えるべき脅威
本分析から明らかになった、直面する主要な機会(Opportunity)と脅威(Threat)は以下の通りである。
- 最大の機会(Opportunity):
- Kiddult市場という「新たな大陸」: 少子化が進む国内市場において、Kiddult市場はもはやニッチではなく、子供向け市場に匹敵する、あるいはそれを超える可能性を秘めた巨大な成長機会である 15。彼らは高い可処分所得と強い購買意欲を持つ、極めて魅力的な顧客セグメントである。
- AIによる生産性革命: 生成AIの活用は、製品の企画開発プロセスを根本から変革し、リードタイムの短縮とヒット率の向上を両立させる可能性を秘めている 3。また、需要予測やマーケティングの高度化も、収益性を大きく改善する。
- D2Cによる顧客との直接的関係: D2Cチャネルの構築は、中間マージンの削減に留まらず、これまで得られなかった貴重な顧客データを獲得し、ファンとの直接的なコミュニティを形成するまたとない機会を提供する 6。
- 最大の脅威(Threat):
- デジタルエンタメによる可処分時間の侵食: スマートフォンゲームや動画配信サービスは、玩具業界にとって最大の競合であり、子供たちの「遊びの時間」を巡る熾烈なシェア争いは今後さらに激化する 26。
- デジタル人材の獲得競争: AIエンジニアやデータサイエンティストといった、今後の競争に不可欠な人材は、より高い給与水準を提示するIT・ゲーム業界との激しい争奪戦となる 73。
- データプライバシー規制の強化: AI搭載スマートトイの普及に伴い、COPPAやGDPRといった子供の個人情報保護規制はますます厳格化する。コンプライアンス違反は、巨額の制裁金やブランドイメージの失墜といった深刻な経営リスクに直結する 53。
11.3. 戦略的優先順位とリソース配分
上記の機会と脅威を踏まえ、限られた経営資源を配分するための戦略的優先順位を以下のように提言する。
- 短期的(1〜2年): 既存の強力なIPを活用した「Kiddult市場の開拓」に最優先でリソースを投下し、確実な収益成長を実現する。これは、比較的早く成果が見込める領域であり、今後の変革に向けた原資を確保する上で不可欠である。
- 中期的(3〜4年): 短期的に得られた収益を、「デジタル(フィジタル)体験の設計」と、それを支える「AIケイパビリティの獲得」に重点的に再投資する。これには、専門人材の採用・育成、外部パートナーとの提携、システム基盤への投資が含まれる。
- 長期的(5年〜): これらの中期的な投資を通じて、独自の「IPエコシステム」を構築し、単なる製品メーカーからプラットフォーマーへの進化を目指す。
- 全期間を通じて: 「サステナビリティ対応」は、特定の期間の課題ではなく、全ての戦略の基盤として、ブランド価値を維持・向上させるための継続的な投資を行う。
11.4. 事業戦略提言:「IPエクスペリエンス・プラットフォーム戦略」
戦略概要:
取るべき最も有望な事業戦略として、「IPエクスペリエンス・プラットフォーム戦略」を提言する。これは、物理的な玩具を、より広範で多層的な「IP体験エコシステム」への入り口(ゲートウェイ)として再定義する戦略である。このモデルにおいて、顧客による玩具の購入はゴールではなく、デジタルコンテンツ、オンラインコミュニティ、リアルイベントへと繋がる一連の体験の「始まり」となる。目的は、顧客を自社のプラットフォームに長期間留め、エンゲージメントを深め、LTV(顧客生涯価値)を最大化することにある。
実行に向けたアクションプラン概要:
- Phase 1: 基盤構築(Year 1-2)
- 主要アクション:
- D2Cサイトを単なる販売ページから、コンテンツやコミュニティ機能を含むブランドハブへと全面刷新し、顧客データ基盤(CDP)を導入する。
- 社内にKiddult市場を専門とする企画・マーケティングチームを正式に発足させる。
- 企画・デザイン部門に生成AIツールを試験導入し、開発プロセス改革のパイロットプロジェクトを開始する。
- 主要KPI:
- D2Cチャネルの全社売上高に占める比率: 20%達成
- Kiddult向け製品のSKU(最小管理単位)数: 50%増
- AI専門チーム(データサイエンティスト、AIエンジニア等)の組成: 5名
- 主要アクション:
- Phase 2: エコシステム展開(Year 3-4)
- 主要アクション:
- 主要IPと連動するAR(拡張現実)アプリや、カジュアルなモバイルゲームをリリースし、デジタルでの接点を拡大する。
- D2Cサイト上に、会員限定コンテンツやフォーラム機能を持つファンコミュニティを本格実装する。
- NFCチップなどを内蔵し、購入者がスマートフォンをかざすことでデジタルコンテンツをアンロックできる「フィジタル玩具」の第一弾を市場に投入する。
- 主要KPI:
- 主要IP関連モバイルアプリのMAU(月間アクティブユーザー数): 100万人
- 公式ファンコミュニティの会員数: 50万人
- フィジタル玩具の売上構成比: 5%
- 主要アクション:
- Phase 3: プラットフォーム化(Year 5〜)
- 主要アクション:
- ユーザーが自らIPに関連するコンテンツ(デジタルジオラマ、ショート動画、ゲームのカスタムステージ等)を創造し、コミュニティ内で共有・評価できるプラットフォーム機能を追加し、UGC(User Generated Content)を活性化させる。
- 自社IPを、他業種(教育、食品、アパレル、出版等)の企業が活用するためのライセンス連携を強化し、エコシステムを外部へと拡大する。
- 主要KPI:
- エコシステム内での年間総エンゲージメント時間(玩具での遊び時間+デジタルコンテンツ利用時間): 前年比30%増
- サードパーティ企業とのIPライセンス提携案件数: 年間10件以上
- 主要アクション:
この戦略を実行することにより、単なる玩具メーカーから脱却し、デジタル時代における「遊びの体験」を定義・提供するリーディングカンパニーへと進化することが可能となる。
第12章:付録
引用文献
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- What is Inventory Turnover in Retail? (Formulas, Benchmarks, Examples) – Retalon, https://retalon.com/blog/inventory-turnover-ratio

