農林水産物の輸出額が1.7兆円で過去最高(2025年)、輸出活況の影で国内生産基盤の危機

2025年度 日本農林水産物輸出経済分析報告書:1.7兆円到達の意味と産業構造への深層的影響

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農林水産物の輸出額が1.7兆円で過去最高

 

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  1. 第1章 2025年輸出実績の総括とマクロ経済的視点
    1. 1.1 1.7兆円のマイルストーンと「未達」の二面性
    2. 1.2 成長を牽引した「双璧」:緑茶とホタテ
      1. 緑茶(Green Tea / Matcha)の躍進
      2. ホタテ(Scallops)のV字回復
    3. 1.3 2025年のマクロ経済環境と為替の影響
  2. 第2章 品目別詳細分析:緑茶・抹茶(Green Tea / Matcha)
    1. 2.1 「71年ぶり」の歴史的輸出増と市場構造の変化
      1. 輸出先国の多様化と台湾の台頭
    2. 2.2 ソフトパワーと「大谷効果」
    3. 2.3 国内生産基盤の危機:輸出ブームの影で
  3. 第3章 品目別詳細分析:水産物(ホタテ・Scallops)
    1. 3.1 「脱・中国」戦略の結実
    2. 3.2 「ベトナム・ルート」とグローバル・バリューチェーン
  4. 第4章 苦戦する畜産物と新たな戦略品目
    1. 4.1 和牛(Wagyu)の「2025年問題」
    2. 4.2 戦略の多角化:ハラル市場と「お土産」需要
    3. 4.3 新たな重点品目:サツマイモといちご
  5. 第5章 経済波及効果と関連産業へのインパクト
    1. 5.1 産業連関分析:輸出がもたらすGDPへの貢献
    2. 5.2 物流産業の特需:コールドチェーンへの投資
    3. 5.3 企業事例:グローバルブランドの構築
  6. 第6章 私たちの生活への影響:食卓の変化と家計
    1. 6.1 「輸出インフレ」のリスク
    2. 6.2 地方経済と雇用の活性化
  7. 第7章 企業経営者への戦略的提言
    1. 7.1 「チャイナ・プラス・ワン」から「マルチ・マーケット」へ
    2. 7.2 「コモディティ」からの脱却とブランディング
    3. 7.3 テクノロジー投資による生産性向上
    4. 7.4 為替リスクへのヘッジ
  8. 結論
      1. 引用文献

第1章 2025年輸出実績の総括とマクロ経済的視点

1.1 1.7兆円のマイルストーンと「未達」の二面性

2025年の日本経済において、農林水産物・食品の輸出動向は極めて象徴的な指標となった。農林水産省が公表した統計データによれば、2025年の年間輸出額は1兆7,005億円に達し、前年比で12.8%という二桁成長を記録した 1。これは単年度の成果にとどまらず、実に13年連続で過去最高額を更新するという、日本の産業史において稀に見る長期的かつ持続的な成長トレンドを示している 1。

しかし、この数字を評価するにあたっては、政府が掲げていた政策目標との乖離を直視しなければならない。日本政府は「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」において、2025年までに輸出額を2兆円とする野心的なKPI(重要業績評価指標)を設定していた 1。実績値である1.7兆円はこの目標に対して約3,000億円、率にして約15%の未達となっており、成長のモメンタムは維持されているものの、その加速度は政策立案者の想定を下回ったと言わざるを得ない。

この「1.7兆円達成」と「2兆円未達」のギャップは、単なる数値の振れ幅ではなく、日本経済が抱える構造的な課題と、外部環境の変化に対する脆弱性を浮き彫りにしている。特に、為替市場における円安トレンドが輸出額を押し上げる「価格効果」として機能した一方で、数量ベースでの伸び悩みや、主要市場における保護主義的な通商政策の影響が顕在化したことが要因として挙げられる。

以下の表は、2025年の主要指標と目標値の対比を示したものである。

項目2024年実績2025年実績2025年政府目標前年比成長率目標達成率
輸出総額約1.5兆円1兆7,005億円2兆円+12.8%85.0%
主要牽引品目緑茶、ホタテ緑茶、ホタテ全品目
トレンド過去最高13年連続最高継続

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1.2 成長を牽引した「双璧」:緑茶とホタテ

2025年の輸出構造を詳細に分析すると、特定の品目が突出して成長を牽引する「不均衡な成長(Unbalanced Growth)」の様相を呈していることが分かる。特に、世界的な健康志向と日本文化の普及を背景とした「緑茶(特に抹茶)」と、地政学的リスクからの回復を見せた「ホタテ」の2品目が、この1.7兆円という数字を支える屋台骨となった。

緑茶(Green Tea / Matcha)の躍進

緑茶の輸出は、質・量ともに歴史的な転換点を迎えた。2025年1月から10月までの輸出量は10,084トンに達し、前年同期比で44%増という爆発的な伸びを記録した 4。この数値は、2024年の年間総輸出量(8,798トン)を年の途中で既に上回るものであり、過去71年間で最高水準にある 4。これは単なるブームではなく、日本茶がグローバルな飲料市場において「ニッチ」から「メインストリーム」へと移行しつつあることを示唆している。

ホタテ(Scallops)のV字回復

一方、水産物においてはホタテの回復が鮮明であった。北海道内港からの輸出額は前年比39%増575億円を記録した 5。これは、かつて主要輸出先であった中国による禁輸措置という外部ショックに対し、日本の水産業界がサプライチェーンの再構築(デカップリングと再接続)に成功した証左である。特に、ベトナムを経由した加工・輸出ルートの確立は、地政学的リスクに対する産業界の適応能力の高さを示している。

1.3 2025年のマクロ経済環境と為替の影響

この輸出拡大の背景には、マクロ経済的な追い風が存在したことも無視できない。特に、継続的な円安基調は、海外市場における日本産品の価格競争力を高める強力なドライバーとして機能した 4。ドル建てやユーロ建てでの価格が相対的に低下したことで、これまで日本産品を高価として敬遠していた中間層へのペネトレーション(市場浸透)が進んだ。

しかし、円安は「諸刃の剣」でもある。輸出額(円換算)は嵩上げされるが、それは必ずしも数量ベースでの需要増を完全に反映しているわけではない。また、肥料や飼料、エネルギーコストの輸入価格高騰を招き、国内生産者の利益率を圧迫する要因ともなっている。2025年のデータは、この「円安によるトップライン(売上)の拡大」と「コストプッシュによるボトムライン(利益)の圧迫」という複雑な経済力学の中で形成されたものである。

第2章 品目別詳細分析:緑茶・抹茶(Green Tea / Matcha)

2.1 「71年ぶり」の歴史的輸出増と市場構造の変化

2025年の緑茶輸出における最大の特徴は、その圧倒的な「量」の拡大である。前述の通り、輸出量は1万トンの大台を超え、前年比44%増という驚異的な成長率を記録した 4。71年ぶりという歴史的な高水準は、戦後の日本農業史において特筆すべき出来事であり、日本茶が「国内消費型産品」から「輸出主導型産品」へと構造転換を果たしたことを意味する。

輸出先国の多様化と台湾の台頭

輸出先のポートフォリオにも大きな変化が見られる。依然として最大の市場は米国であり、1月から10月で3,497トンを輸入し、全体シェアの約30%を占めている 4。しかし、注目すべきは第2位の市場として台湾が台頭してきたことである。 台湾市場の成長は、単なる消費地としての拡大だけでなく、アジア地域における日本食品の「ハブ機能」を果たしている可能性を示唆している。また、タイドイツといった国々も主要な輸入国として名を連ねており 4、抹茶ブームが北米・東アジアだけでなく、東南アジアや欧州へと地理的に拡散していることが確認できる。

順位国・地域輸出トレンド・特徴
1米国シェア30%(3,497トン)。依然として最大の需要地。
2台湾前年比で急増。第2の主要市場へ成長。
3タイ東南アジアにおけるカフェ文化の浸透が牽引。
4ドイツ欧州におけるオーガニック・健康志向市場の中心。

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2.2 ソフトパワーと「大谷効果」

経済的な要因に加え、文化的・社会的な要因が需要を強力に後押しした。特に2025年の分析において無視できないのが、ロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手の影響力である 4。 世界的なスーパースターとなった大谷選手が日本茶や日本文化に関連する露出を行うことで、これまで日本茶に馴染みのなかった層、特に北米の若年層やスポーツファン層に対して、強力なマーケティング効果(ハロー効果)を生み出した。これは、農産物の輸出促進において、品質や価格だけでなく、「誰が消費しているか」というコンテキストやストーリーテリングがいかに重要かを示している。

また、SNSを通じた「映える(Instagrammable)」コンテンツとしての抹茶の普及も継続している。鮮やかな緑色は視覚的なインパクトが強く、TikTokやInstagramなどのプラットフォームでグローバルなバイラルを生み出し続けている 4。

2.3 国内生産基盤の危機:輸出ブームの影で

輸出市場が活況を呈する一方で、国内の生産現場は深刻な構造危機に直面している。 生産量の減少: 2024年の国内荒茶生産量は約74,000トンにとどまり、10年前と比較して10%以上減少している 4。 構造的要因: この減少の主因は、茶農家の高齢化と後継者不足、そして耕作放棄地の増加である。また、国内におけるリーフ茶(急須で淹れるお茶)の消費習慣の衰退も、生産意欲を削ぐ要因となっている。

この「輸出需要の爆発」と「国内供給能力の減退」という需給のミスマッチは、劇的な価格変動を引き起こした。2025年秋、主要産地である鹿児島県における秋冬番茶の平均価格は、1キログラムあたり2,542円へと高騰した 4。これは前年同期比で約6倍という異常な価格上昇である。

価格高騰のメカニズム:

  1. 海外需要の急増: 特に抹茶原料となる茶葉(碾茶など)への引き合いが強まる。
  2. 円安による購買力強化: 海外バイヤーにとっては、円建て価格が上昇しても割高感が抑制される。
  3. 国内供給の制約: 減産傾向にある中で、限られた供給を奪い合う構図となる。
  4. 結果: 国内相場が輸出価格に引きずられる形で高騰(Export-led Inflation)。

この価格高騰は、生産者にとっては短期的な収益増をもたらすが、国内の飲料メーカーや小売業者にとっては仕入れコストの急増を意味し、持続可能性の観点からは重大なリスク要因となっている。

第3章 品目別詳細分析:水産物(ホタテ・Scallops)

3.1 「脱・中国」戦略の結実

2025年の水産物輸出、特にホタテの動向は、経済安全保障とサプライチェーン再構築の成功事例として位置づけられる。中国による日本産水産物の輸入停止措置以降、最大の市場を失ったホタテ業界は壊滅的な打撃を受けると懸念されていたが、2025年のデータはその懸念を払拭する力強い回復を示した。

北海道内港からの輸出額575億円(前年比39%増)という数字は、単なる回復を超えた成長軌道への回帰を意味する 5。内訳を見ると、生食用の冷凍ホタテ貝柱(玉冷)が46%増、冷凍両貝が33%増と、加工度の異なる製品がいずれも好調であった 5。

3.2 「ベトナム・ルート」とグローバル・バリューチェーン

この回復を支えた最大の要因は、輸出ルートの多角化、具体的にはベトナムを経由した加工・輸出ネットワークの確立である。

従来、日本のホタテ(特に殻付き)は中国へ輸出され、そこで安価な人件費を利用して殻剥き加工が行われた後、アメリカやEUへ再輸出されるというルートが主流であった。中国の禁輸措置はこのルートを遮断したが、日本の商社や水産加工業者は迅速に代替地としてベトナムを選択した。

2025年にはこの「日本(原料)→ベトナム(加工)→欧米(消費)」という新たなサプライチェーンが完全に機能し始めた。ベトナムでの加工技術が向上し、欧米の品質基準を満たす製品を安定供給できるようになったことが、輸出額の回復に直結している 5。 また、EUや台湾向けの直接輸出も増加傾向にあり 5、特定国への依存度を下げる「チャイナ・プラス・ワン」戦略が、水産分野においても有効であることを実証した。

第4章 苦戦する畜産物と新たな戦略品目

4.1 和牛(Wagyu)の「2025年問題」

緑茶やホタテが好調である一方で、日本の輸出戦略の「顔」とも言える牛肉(和牛)は苦戦を強いられた。 2025年4月の対米輸出額は前年同月比で2割減少した 7。この大幅な落ち込みの背景には、最大の輸出先である米国における通商政策の変化がある。 資料には「トランプ関税」の影響という記述が見られ 7、米国政府による保護主義的な関税強化やセーフガード(緊急輸入制限)の発動に対する懸念が、現地の輸入業者の買い控えや在庫調整を引き起こしたと考えられる。

さらに、国内市場においても和牛需要は頭打ち感が強まっている。物価高による消費者の節約志向が高まり、高価格帯のA5ランク和牛の荷動きが鈍化している。これにより、国内価格の低迷と輸出の不振という「ダブルパンチ」の状態に陥り、生産者の経営環境は厳しさを増している。

4.2 戦略の多角化:ハラル市場と「お土産」需要

この閉塞感を打破するため、和牛業界では輸出先の多角化が進められている。

  • ハラル対応: 東北地方や宮崎県では、イスラム圏(中東や東南アジア)への輸出を目指し、ハラル認証を取得した食肉処理施設の稼働や輸出認定の取得が加速している 7。人口増加が続くイスラム市場への参入は、欧米市場の変動リスクをヘッジする重要な戦略である。
  • インバウンド連携: 空港検疫と連携した「和牛お土産サービス」の導入など、訪日外国人が帰国時に手軽に和牛を持ち帰れる仕組み作りも進んでいる 7。

4.3 新たな重点品目:サツマイモといちご

農林水産省は2025年5月に輸出拡大実行戦略を改訂し、新たな重点品目として「サツマイモ特に焼き芋製品)」いちご」を選定した 8。

  • サツマイモ: アジア圏における「Yaki-imo」ブームを背景に、加工品としての輸出ポテンシャルが高く評価された。
  • いちご: 輸送技術の向上により、鮮度を保ったままのアジア富裕層向け輸出が可能となり、高単価での取引が期待されている。
    これらの品目は、和牛やリンゴに続く「次なるスター品目」として育成が進められている。

第5章 経済波及効果と関連産業へのインパクト

5.1 産業連関分析:輸出がもたらすGDPへの貢献

農林水産物の輸出拡大は、単に輸出業者の売上増にとどまらず、広範な産業に経済波及効果をもたらす。沖山充氏(麗澤大学)の研究によれば、農林水産品・飲食料品の輸出1単位増加に伴う生産誘発係数Multiplier Effect)は、2.45から2.85と推計されている 3。 これは、輸出が1億円増加すれば、国内経済全体で2.45億円〜2.85億円の生産が誘発されることを意味する。

波及経路:

  1. 直接効果: 農家・漁業者の収入増。
  2. 間接効果(第1次): 肥料、飼料、農機具、漁具、燃料、包装資材などの需要増。
  3. 間接効果(第2次): 物流、倉庫、金融、保険、マーケティングサービスなどの需要増。
  4. 所得効果: 関連産業従事者の所得増による消費拡大。

2025年の輸出額1.7兆円をこのモデルに当てはめると、日本経済全体への波及効果は約4兆円〜4.8兆円規模に達すると推計される。また、品目別目標が達成された場合、GDPを0.1%〜0.13%押し上げる効果があると試算されており 3、農林水産輸出がマクロ経済成長に無視できない貢献を果たしていることが分かる。

5.2 物流産業の特需:コールドチェーンへの投資

輸出拡大、特に生鮮食品の輸出増は、高度な温度管理輸送(コールドチェーン)への需要を急拡大させている。 日本のコールドチェーン物流市場規模は2025年時点で217億米ドル約3兆円強)と評価され、2034年に向けて年平均成長率(CAGR)4.47%で拡大すると予測されている 9。

  • インフラ投資: 冷凍・冷蔵倉庫の新設、定温輸送コンテナの増備、IoTを活用した温度監視システムへの投資が活発化している。
  • 技術革新: いちごや桃などのデリケートな果実を長期間鮮度保持するためのパッケージ技術や、CA(Controlled Atmosphere)コンテナの利用拡大が進んでいる。
    この分野は、建設業や電機メーカー、IT企業をも巻き込んだ巨大な投資領域となっており、輸出ブームがもたらす最大の「勝ち組産業」の一つと言える。

5.3 企業事例:グローバルブランドの構築

輸出拡大は、新たなビジネスモデルを生み出している。株式会社Matcha Frontierによるグローバル抹茶カフェブランド「MATCHAMON」の事例は、単なる「モノ(茶葉)の輸出」から「コト(体験・ブランド)の輸出」への進化を象徴している 10。 同社は東京・浅草や京都といった国内の観光地だけでなく、世界4都市での展開を計画しており、インバウンド需要と海外現地需要をシームレスに繋ぐ戦略をとっている。このように、輸出をテコにしてグローバルなフランチャイズ展開やブランドビジネスを行う企業が増加することは、日本企業の「稼ぐ力」の質的な転換を意味する。

第6章 私たちの生活への影響:食卓の変化と家計

輸出ブームは、マクロ経済にはプラスの効果をもたらすが、個人の日常生活においては「光と影」の両面を持つ。

6.1 「輸出インフレ」のリスク

最も直接的な影響は、国内価格の上昇である。前述した鹿児島県の茶葉価格の6倍高騰 4 は極端な例であるが、輸出向けの引き合いが強い品目(高級果物、特定水産物、和牛など)においては、国内価格が国際相場に収斂する形で上昇する圧力が働く。 これを「輸出インフレ(Export-led Inflation)」と呼ぶ。円安が進行すれば、海外バイヤーの購買力はさらに高まるため、国内のスーパーマーケットに並ぶ商品の価格が上昇するか、あるいは高品質な商品が輸出に回り、国内市場には並ばなくなる「空洞化」が起きる可能性がある。

特に、日常的に消費される緑茶飲料(ペットボトル製品など)においては、原料価格の高騰が製品価格への転嫁、あるいは内容量の削減(シュリンクフレーション)、さらには低価格な輸入茶葉への切り替えを促す可能性がある。これは、日本の伝統的な食文化の質的変容を招くリスクを孕んでいる。

6.2 地方経済と雇用の活性化

一方で、輸出産地の地方経済にとっては大きな恩恵となる。ホタテ産業が盛んな北海道の沿岸部や、茶産地である九州南部などでは、輸出による外貨獲得が地域経済を潤し、関連する加工業や物流業での雇用維持・創出に寄与する。

また、「MATCHAMON」のようなインバウンドと輸出を連動させた店舗展開は、観光地における新たな消費機会を創出し、地域ブランドの価値を高める効果がある。

第7章 企業経営者への戦略的提言

2025年の輸出実績と市場環境を踏まえ、日本の企業経営者は以下の戦略的視点を持つべきである。

7.1 「チャイナ・プラス・ワン」から「マルチ・マーケット」へ

ホタテ業界の成功事例 5 は、単一市場への依存がいかに危険であるか、そして多角化がいかに有効であるかを証明した。経営者は、地政学的リスク(米中の通商政策、台湾情勢など)を常時モニタリングし、特定の国に依存しない分散型の輸出ポートフォリオを構築すべきである。特に、成長著しい台湾タイベトナムなどのアジア市場は、リスク分散の観点からも最重要ターゲットとなる。

7.2 「コモディティ」からの脱却とブランディング

価格競争に巻き込まれないためには、緑茶の事例 4 に見られるように、健康機能性や文化的背景(ストーリー)を付加価値として訴求するブランディングが不可欠である。単に「日本産だから安全・美味しい」というだけでは、国際市場での競争優位性は維持できない。大谷選手のようなインフルエンサーマーケティングや、SNSでの視覚的訴求を組み合わせ、ブランドそのもののファンを獲得する戦略が求められる。

7.3 テクノロジー投資による生産性向上

生産現場の人手不足 4 は、輸出拡大の最大のボトルネックである。経営者は、スマート農業(自動収穫ロボット、ドローン監視、AIによる需給予測)への投資を惜しんではならない。また、小規模事業者の限界を突破するために、M\&Aや業務提携による経営規模の拡大(スケールメリットの追求)も検討すべき時期に来ている。

7.4 為替リスクへのヘッジ

円安は永遠には続かない。為替が円高に振れた局面でも利益を出せるよう、高付加価値化による価格決定権の確保や、海外現地生産・加工の活用(ナチュラル・ヘッジ)を進める必要がある。

結論

2025年の農林水産物輸出額1.7兆円は、日本経済にとって希望の光であると同時に、警鐘でもある。13年連続の記録更新は日本の「食」のポテンシャルを証明したが、目標未達の現実は、生産基盤の脆弱性や国際情勢への感応度の高さを示した。

今後、日本が2兆円、さらには2030年の5兆円目標を達成するためには、単なる「売り込み」を超えた、サプライチェーン全体の強靭化と、高付加価値化への構造転換が不可欠である。私たち消費者もまた、食のグローバル化の中で、地産地消の価値と輸出の意義を再定義し、変化する食卓と向き合っていく必要があるだろう。

引用文献

  1. 2025年の農林水産物・食品輸出額1.7兆円 過去最高更新も目標の2兆円には届かず, https://www.khb-tv.co.jp/news/16327406
  2. 農林水産物、輸出1.7兆円=12%増、過去最高も目標未達―25年, https://www.excite.co.jp/news/article/Jiji_3703605/
  3. 日本の農林水産品・飲食料品の輸出がもたらす地域経済への波及効果分析, http://jsrsai.jp/Annual_Meeting/PROG_59/ResumeB/B05-1.pdf
  4. 台湾|世界中で抹茶ブーム!日本の茶粉輸出量が44%急増、台湾が …, https://www.gldaily.com/news/global/global49027/
  5. 北海道内港からの2025年ホタテ輸出額、前年比39%増575億円に 玉冷46%増、冷凍両貝33%増 : 日刊水産経済新聞, https://www.suikei.co.jp/single?news_code=OK0000026020200101_02
  6. 北海道内港からの2025年ホタテ輸出額、前年比39%増575億円に 玉冷46%増、冷凍両貝33%増 : 日刊水産経済新聞, https://www.suikei.co.jp/archives/92030
  7. 和牛, https://www.meat-c.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2025/07/20250630nikkei.pdf
  8. (参考)農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略(令和7年(2025 年)5月改訂) 新旧対照表, https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/progress/attach/pdf/index-40.pdf
  9. 日本のコールドチェーン物流市場の規模、シェア、動向および予測(サービス別、温度種類別、用途別、地域別、2026-2034年)|shiny_godwit6164 – note, https://note.com/shiny_godwit6164/n/nb3d46ce868c5
  10. 日本発グローバル抹茶カフェブランド「MATCHAMON」をローンチ。世界4都市でグランドオープンへ, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000174301.html

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