医療・福祉分野での外国人就労者が過去最多を更新。経済・社会への影響は?

2027年「育成就労制度」導入と外国人医療・福祉人材の急増:日本経済・産業構造への多層的影響に関する包括的調査報告書

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医療・福祉分野での外国人就労者が過去最多

 

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1. エグゼクティブサマリー:構造的転換点にある日本のケア労働市場

日本の人口動態は長年にわたり超高齢化社会への道を突き進んできたが、2025年から2026年にかけての統計データは、国家が労働力確保において新たなフェーズ、すなわち「外国人労働者への依存」の段階に突入したことを示している。2025年10月時点で、日本国内の外国人労働者数は過去最多の約257万人を記録した1。その内訳において特筆すべきは、医療・福祉分野における劇的な増加である。同分野の外国人労働者は約14万6,000人に達し、前年比25.6%増という全産業の中でも突出した伸びを示している2。

この統計的急増は、一時的な現象ではなく、2027年に予定されている日本の入管政策史上最大の転換点、「育成就労制度」の導入を見据えた構造変化の前哨戦である可能性がある。現行の技能実習制度が事実上の労働力調整弁として機能しつつも、国際的には人権上の懸念を抱え、国内的には「転籍(転職)制限」による労働市場の硬直化を招いていたのに対し、新制度は「人材育成」と「人材確保」を目的として掲げている3。

本報告書は、この制度変更と労働者急増がもたらす経済的、社会的、産業的影響を包括的に分析するものである。分析の結果、明らかになったのは以下の主要なトレンドである。

  1. 労働市場の流動化と競争激化:新制度における「転籍要件の緩和」は、これまで地域に固定されていた労働力を流動化させ、都市部と地方部、あるいは経営体力の有無による人材争奪戦を激化させる3。
  2. 二次産業(外国人支援経済)の勃興:外国人材の定着が長期化・家族帯同化(特定技能2号への移行)することを見据え、住宅保証、フィンテック(送金)、生活支援DXといった周辺産業が急速に市場を拡大させている4。
  3. 教育・定着コストの内部化:入国時の日本語要件が緩和(N5レベル)される方向性に伴い、受入機関(介護施設等)には、業務遂行に必要な語学力と介護技術を「現場で育成する」教育機関としての機能が強く求められるようになる3。

以下、本編において詳細な調査・分析を展開する。

2. 序論:人口動態と外国人労働力依存の不可避性

2.1 マクロ統計が示す「ケア労働クライシス」の現実

厚生労働省が発表した「外国人雇用状況」の届出状況(令和7年10月末時点)によれば、医療・福祉分野の外国人労働者数は14万6,105人となり、前年から約3万人増加した2。全産業計の257万人の中では製造業やサービス業に次ぐ規模ではあるが、その増加率(25.6%)は他産業を圧倒している。

この背景には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」と、それに続く現役世代の急減がある。日本人労働者のみでは物理的にケアの需要を満たせない状況が常態化しており、政府は外国人材を「補助的な労働力」ではなく「基幹的な労働力」として位置づけ直すことを余儀なくされた。すべての事業主に対し、雇入れ・離職時に在留資格や在留期間を確認し届け出ることを義務付けた制度1は、この労働力を正確に把握・管理するための基盤となっている。

2.2 制度転換の政治経済学的背景

1993年に創設された「技能実習制度」は、建前上は「開発途上国への技能移転」を目的としていたが、実態は安価な労働力の確保手段となっていた。この乖離は、労働者に対する人権侵害や失踪問題を引き起こし、国内外から厳しい批判を受けてきた3。2027年の「育成就労制度」への移行は、この欺瞞を解消し、真正面から「労働力不足の解消」に取り組む姿勢への転換を意味する。

3. 2027年「育成就労制度」の全貌と産業へのインパクト

2027年に施行される育成就労制度(Ikusei Shuro)は、従来の技能実習制度とは根本的に異なる設計思想に基づいている。この制度変更は、医療・福祉業界の雇用慣行を根底から覆す可能性を秘めている。

3.1 制度設計の比較分析

表1:技能実習制度と育成就労制度の構造比較

比較項目技能実習制度(現行・廃止予定)育成就労制度(2027年開始予定)経済・経営的含意
制度目的国際貢献・技能移転人材確保・人材育成 3労働力としての活用が公認され、投資対効果の測定が可能になる。
労働者の位置づけ実習生(一時的な滞在者)労働者(将来の永住候補)長期的なキャリア形成支援が企業の責務となる。
転籍(転職)原則不可(人権上の問題点)要件付きで容認(1〜2年経過後+技能・日本語試験合格)3労働市場メカニズムの導入。賃金・待遇競争の開始。
キャリアパス原則5年で帰国(特定技能への移行は限定的)特定技能1号への円滑な移行を前提 3「3年間の育成期間」を経て、即戦力として定着させるルートの確立。
入国時日本語要件介護職はN4相当が要件N5相当で受入可能とする方向 3採用母集団の拡大と、入国後教育の負担増。
在留期間最長5年原則3年(特定技能へ移行すれば長期・無期限可)長期雇用を見据えた人事制度設計が必須化。

3.2 「転籍容認」がもたらす労働市場の激変

新制度における最大の衝撃は「転籍(転職)の容認」である3。技能実習制度下では、原則として転籍が認められていなかったため、地方の小規模事業者や待遇の劣る施設であっても、一度受け入れれば3年間は労働力を確保できていた。しかし、育成就労制度では、一定期間(1年〜2年)就労し、日本語能力試験(N5等)や技能検定に合格すれば、本人の意向による転籍が可能となる。

この変更により、以下のような市場力学が発生すると予測される。

  • 都市部への労働力流出(アーバン・ドリフト):賃金水準の高い都市部(東京、大阪、愛知)の事業者が、地方で基礎訓練を受けた外国人材を「引き抜く」構造が生まれるリスクがある。
  • リテンション(定着)コストの増大:人材流出を防ぐため、地方事業者は賃金の引き上げや、住環境の整備、キャリア支援などの「非金銭的報酬」を強化せざるを得なくなる。
  • 「優良な監理支援機関」の役割:ブローカーによる悪質な引き抜きを防止し、適正な転籍を支援する役割として、監理団体の質が厳しく問われることになる3。

3.3 日本語要件の緩和と教育負荷の移転

介護分野においては、これまで入国時に「N4」(基本的な日本語を理解できるレベル)が求められていたが、新制度では他分野と同様に「N5」(基本的な日本語をある程度理解できるレベル)での受け入れを許容する方向で調整が進んでいる3。 これは、世界的な人材獲得競争の中で、日本語学習のハードルを下げてエントリー数を増やす狙いがある。しかし、現場レベルでは「命に関わるコミュニケーション」のリスクが増大することを意味する。したがって、入国後の日本語教育プログラムや、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した翻訳・通訳ツールの導入が、現場オペレーションの必須要件となる。

4. 経済・景気への影響:二次産業と「外国人経済圏」の拡大

外国人労働者の増加は、単なる労働投入量の増加にとどまらず、消費主体としての「在留外国人市場」を形成し、新たな経済圏を創出している。特に、育成就労から特定技能1号、さらには家族帯同が可能な特定技能2号への移行が進めば、住宅、金融、通信などの生活基盤サービスへの需要は爆発的に拡大する。

4.1 住宅・不動産市場の変容と新たなビジネスモデル

外国人材にとって最大の障壁の一つが「住居確保」である。日本の賃貸市場における保証人制度や言語バリアは依然として高い。これに対し、人材紹介企業と外国人支援企業が提携し、垂直統合型のサービスを提供する動きが加速している。

事例分析:トライトとGTNの業務提携 医療福祉分野の人材紹介大手である株式会社トライトと、外国人生活支援のパイオニアである株式会社グローバルトラストネットワークスGTN)の業務提携は、このトレンドを象徴している5。

  • トライトの役割:医療・介護施設への特定技能外国人の紹介、キャリアコンサルティング。
  • GTNの役割:家賃債務保証、生活サポートアプリ「GTN Living」の提供、多言語対応の不動産仲介。
  • 経済的含意:従来、個別の介護施設が人事担当者の工数を割いて行っていた「アパート探し」「契約手続き」「生活トラブル対応」を、専門事業者がパッケージとして受託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)市場が成立している。これにより、介護事業者は採用コストを変動費化し、コア業務に集中することが可能となる。

4.2 フィンテックと国際送金市場の成長

外国人労働者の増加は、母国への送金ニーズを直撃する。日本の送金市場は2024年から2033年にかけて、年平均成長率(CAGR)4.296%で成長し、市場規模は31億米ドル(約4,600億円規模)に達すると予測されている4。

  • 市場ドライバー:円安傾向が続く中、労働者は手数料や為替レートに極めて敏感になっており、銀行を経由しないスマートフォン完結型のデジタル送金サービスへの需要が高まっている。
  • 参入障壁:マネーロンダリング対策(AML)やテロ資金供与対策(CFT)の規制強化が進んでおり、コンプライアンスコストに耐えうる大手フィンテック事業者や、銀行との提携モデルが市場を主導する構造となっている4。

4.3 ライフサポートDXと「生活のアプリ化」

生活支援のデジタル化も進んでいる。GTNが提供するアプリ「GTN Assistants」には、医療通訳機能(mediPhone連携)が搭載されており、病気や怪我の際の不安を解消するインフラとなっている5。このように、行政サービスや医療へのアクセスを仲介するプラットフォームビジネスは、今後、自治体との連携も含めて巨大な市場(GovTech領域)へと成長する可能性がある。

5. 影響を受ける業界と日常生活への波及

医療・福祉分野における外国人材の急増は、サービス利用者である高齢者やその家族、そして地域社会の日常風景を変容させている。

5.1 介護サービス利用者と家族の意識

連合(日本労働組合総連合会)が実施した調査によれば、介護に関する家族の最大の不安は「費用負担」であり、次いで「施設が見つかるか」「サービスを受けられるか」といった供給体制への懸念が挙げられている7。

  • コストと質のトレードオフ:家族にとって、外国人材の受入れは「介護サービスの維持・確保のために仕方がない」という消極的受容から、「安定的かつ安価なサービス提供の担い手」としての積極的評価へと移行しつつある。
  • 心理的バリア:一方で、介護ロボットや外国人スタッフに対しては「言葉が通じるか」「安全か」という不安も根強い7。これらは、現場におけるコミュニケーション支援技術や、透明性の高い情報開示によって解消していく必要がある。

5.2 教育産業:日本語学校と専門学校の再編

2027年の制度改正は、教育産業にもインパクトを与える。特に、介護福祉士養成施設(専門学校等)のカリキュラム見直しが議論されている8。

  • 国家資格への道:育成就労制度のゴールの一つは、介護のプロフェッショナルである国家資格「介護福祉士」の取得である。しかし、現行の国家試験は外国人にとって言語的ハードルが高い。今後は、実務に必要な知識・技能を評価しつつ、外国人材が段階的に資格を取得できるような教育プログラムの開発が急務となる。日本語学校も、単なる大学進学予備校から、「就労日本語(Business Japanese for Care Workers)」を教える職業訓練機関へとシフトしていくことが予想される。

6. 企業戦略:選ばれる施設になるための「定着支援」と「DX」

介護事業者にとって、2027年以降は「採用した人材をいかに繋ぎ止めるか」が経営の生命線となる。転籍可能な環境下では、魅力のない職場からは人材が流出するからである。

6.1 雇用管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)

複雑化する在留資格管理や行政への届出業務を効率化するため、専用のSaaS(Software as a Service)導入が進んでいる。 事例:医療法人中川会「萩の里あすか」 同法人は、特定技能外国人材の申請手続き・雇用管理DXサービス「irohana(いろはな)」を導入した9。

  • 導入効果:在留期限の管理アラート、煩雑な申請書類の自動作成機能などにより、事務作業時間を大幅に削減。また、コンプライアンス違反(不法就労助長等)のリスクをシステム的に回避できる点が評価されている。
  • 戦略的意義:管理業務を自動化することで、現場マネジャーは外国人スタッフのメンタルケアや技術指導といった「人間にしかできない業務」に時間を割くことが可能になる。

6.2 キャリアパスの可視化と教育投資

「育成就労」という名称が示す通り、新制度の核心は教育にある。事業者は以下の3段階の教育体制を構築する必要がある。

  1. 導入期(0-6ヶ月):N5レベルで入国した職員に対し、介護現場特有の用語や、日本式のマナー、生活習慣を集中的に教育する。
  2. 育成期(6ヶ月-3年):特定技能1号への移行に必要な技能試験および日本語試験(N4以上)の合格をサポートする。これに失敗すれば人材を失うため、経営リスク直結の課題である。
  3. 定着期(3年以降):介護福祉士国家試験への挑戦を支援し、リーダー層への昇格ルートを提示する。

6.3 職場環境の改善と「多文化共生」

介護労働安定センターの調査によれば、人材定着に成功している施設は、ICT機器(見守りセンサー等)の導入による業務負担軽減や、公平な評価制度の整備を行っている10。外国人材に対しても、日本人と同様の評価基準を適用し、能力に応じた昇給・昇進を行うことが、最も強力なリテンション策となる。また、宗教的配慮(祈祷スペースの確保や食事対応)など、多文化共生への具体的な取り組みも、「選ばれる施設」の条件となってくるだろう。

7. 結論と提言:2030年に向けたシナリオ

7.1 総括:労働力輸入から社会統合へ

2025年の外国人労働者数の記録更新2と、2027年の新制度導入は、日本の産業構造における不可逆的な変化を決定づけた。医療・福祉分野は、もはや外国人材なしには成立し得ないインフラとなっており、政策の焦点は「いかに入れるか(入国管理)」から「いかに共に生き、働いてもらうか(社会統合・定着)」へと完全にシフトした。

7.2 今後の展望とリスクシナリオ

  • 短期的リスク(2027-2029年):新制度導入直後の混乱。特に日本語要件緩和に伴う現場のコミュニケーション不全や、転籍解禁に伴う地方施設の人材枯渇が懸念される。
  • 中長期的展望(2030年以降):育成就労制度の一期生が修了し、特定技能への移行が進む時期。この段階で、日本が「働きやすい国」として選ばれ続けているか、あるいは円安や社会的不寛容により敬遠される国になっているかが問われる。

7.3 提言

  1. 事業者への提言:外国人の受入れを「コスト」ではなく「投資」と捉え直すこと。DXによる業務効率化とセットで、教育・生活支援への予算配分を行う経営判断が求められる。
  2. 教育機関への提言:N5レベルからのスタートを前提とした、より実践的かつ視聴覚教材を活用した新しい日本語教育メソッドの開発。
  3. 政策立案者への提言:地方部からの人材流出を防ぐための、地域限定のインセンティブ(地方居住者への税制優遇や住宅補助の上乗せ等)の検討が必要である。

日本経済、とりわけ地域医療の持続可能性は、この新しい隣人たちをどれだけスムーズに、そして公正に社会システムの中に組み込めるかにかかっている。2027年はその正念場となる年である。

参考文献・データソース一覧

本報告書におけるデータおよび事実は、以下の調査資料に基づいている。

  • 1 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)
  • 3 技能実習・特定技能・育成就労の違いとは?各制度の概要を整理
  • 2 MEDIFAX web 外国人労働者、「医療・福祉」は14.6万人 過去最多
  • 3 育成就労制度と技能実習制度の差異、介護分野の要件詳細
  • 9 医療法人中川会のDXサービス「irohana」導入事例
  • 5 GTNとトライトの業務提携、外国人生活支援アプリの展開
  • 4 日本送金市場の成長予測
  • 7 連合(RENGO)介護に関する意識調査
  • 8 社会福祉士及び介護福祉士のカリキュラム見直しに関する検討
  • 10 介護労働安定センター 介護労働実態調査および職場改善好事例

引用文献

  1. 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点 …, https://deguchi-office.com/news/%E3%80%8C%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E9%9B%87%E7%94%A8%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%B1%8A%E5%87%BA%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81%EF%BC%88%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%97%E5%B9%B410/
  2. 外国人労働者、「医療・福祉」は14.6万人 過去最多、25%増, https://mf.jiho.jp/article/265444
  3. 技能実習・特定技能・育成就労の違いを分かりやすく解説!【比較 …, https://www.hirayamastaff.co.jp/hirayama/mailmag/seopage2602.html
  4. 日本送金市場は2033年までに31億米ドルに達すると予測、年平均成長率(CAGR)4.30%、デジタルおよび越境送金の動向 – Report Ocean, https://www.reportocean.co.jp/industry-reports/japan-remittance-market
  5. GTNとトライトが、介護分野の特定技能外国人の人材紹介で業務提携, https://www.gtn.co.jp/news/20240820
  6. トライトとGTNが、介護分野の特定技能外国人の人材紹介で業務提携|ニュース, https://tryt-group.co.jp/archives/5164/
  7. 老後のくらし方に関する意識調査2025, https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20251120.pdf
  8. 介護福祉士・社会福祉士制度の改正について, https://mitte-x-img.istsw.jp/roushikyo/file/attachment/303399/2.pdf
  9. 医療法人中川会 介護老人保健施設「萩の里あすか」が特定技能外国人材の申請手続き・雇用管理DXサービス「irohana」を導入 | いろはな株式会社のプレスリリース – PR TIMES, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000136653.html
  10. 介護労働実態調査 | 介護労働安定センター, https://www.kaigo-center.or.jp/report/index.html
  11. 外国人支援のGTN、家賃保証利用者向けアプリ「GTN Living」を無料提供開始 – PR TIMES, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000129.000054071.html
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