グローバル金融業界の戦略(市場リサーチ・競合企業調査)

AIとエコシステムが再定義する金融の未来:次世代の価値創造に向けたグローバル戦略

  1. 第1章:エグゼクティブサマリー
  2. 第2章:市場概観
    1. 世界の金融市場規模の推移と予測(2020年~2030年)
    2. 市場成長ドライバーと阻害要因
    3. 業界の主要KPIベンチマーク分析
  3. 第3章:外部環境分析(PESTLE Analysis)
    1. 政治 (Politics)
    2. 経済 (Economy)
    3. 社会 (Society)
    4. 技術 (Technology)
    5. 法規制 (Legal)
    6. 環境 (Environment)
  4. 第4章:業界構造と競争環境の分析(Five Forces Analysis)
    1. 新規参入の脅威:高
    2. 代替品の脅威:中~高
    3. 買い手の交渉力:高
    4. 供給者の交渉力:高
    5. 業界内の競争:高
  5. 第5章:バリューチェーンとサプライチェーン分析
    1. バリューチェーン分析
    2. サプライチェーン分析
  6. 第6章:顧客需要の特性分析
    1. 主要な顧客セグメントとKBF (Key Buying Factor)
    2. デジタルネイティブ世代の期待
    3. 法人顧客のニーズの高度化・多様化
  7. 第7章:業界の内部環境分析
    1. VRIO分析
    2. 人材動向
    3. 労働生産性
  8. 第8章:AIがもたらす破壊的インパクトと機会
    1. フロントオフィスへの影響
    2. ミドルオフィスへの影響
    3. バックオフィスへの影響
    4. AI導入における課題とリスク
  9. 第9章:主要トレンドと未来予測
    1. オープンバンキングとAPIエコノミー
    2. 分散型金融(DeFi)との融合 (TradFi-DeFi Convergence)
    3. サイバーレジリエンスの最重要課題化
    4. 金融の再バンドル化 (Re-bundling)
  10. 第10章:主要プレイヤーの戦略分析
    1. 米系メガバンク
    2. 欧州系メガバンク
    3. 大手投資銀行
    4. 大手資産運用会社
    5. 金融業界のディスラプター
  11. 第11章:戦略的インプリケーションと推奨事項
    1. 勝者と敗者を分ける決定的要因
    2. 捉えるべき機会と備えるべき脅威
    3. 戦略的オプションの提示と評価
      1. 戦略オプションA: 「エコシステム・オーケストレーター」戦略
      2. 戦略オプションB: 「インテリジェント・ユーティリティ」戦略
      3. 戦略オプションC: 「AIパワード・スペシャリスト」戦略
    4. 最終提言とアクションプラン
      1. Phase 1: 基盤構築 (Year 1-2)
      2. Phase 2: エコシステム拡大と専門分野の深化 (Year 3-5)
  12. 第12章:付録
    1. 参考文献、引用データ、参考ウェブサイトのリスト
      1. 引用文献

第1章:エグゼクティブサマリー

本レポートは、テクノロジーによる構造変革、グローバルな規制強化、そしてサステナビリティへの移行という3つの巨大な潮流が複合的に作用するグローバル金融業界において、持続可能な競争優位を確立するための新事業戦略策定を支援することを目的としています。調査対象は、商業銀行、投資銀行、資産運用、ウェルスマネジメント、保険の主要分野とし、地域は米州、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アジア太平洋を包括的にカバーします。

分析から導き出される最も重要な結論は、グローバル金融業界の競争原理が、従来の「規模」と「規制対応力」を基盤としたものから、「データとAIの活用能力」、「エコシステム内での中心的役割」、そして「サステナビリティへの移行を事業機会に転換する能力」を基盤としたものへと、根本的に移行しつつあるという事実です。この構造変革に適応できない既存金融機関は、FinTechやBig Techによる収益機会の侵食と、レガシーシステム維持に伴うコスト構造の悪化という二重の圧力に直面し、市場シェアと収益性の両方を失うリスクに晒されています。勝敗を分けるのは、もはやバランスシートの大きさではなく、インテリジェンスの規模(Scale of Intelligence)と組織の俊敏性(Agility)です。

この分析に基づき、取るべき事業戦略上の主要な推奨事項を以下に提示します。

  1. AIファーストへの全社的転換: AIを単なる効率化ツールではなく、事業戦略の中核に据える「AIファースト」へと経営思想を転換します。特に、生成AIを活用した顧客体験の超パーソナライズ化(ハイパー・パーソナライゼーション)と、AIによる信用リスク・市場リスク管理の抜本的な高度化に経営資源を重点的に投下します。これにより、顧客エンゲージメントの向上とリスクコストの低減を同時に実現します。
  2. エコシステム戦略の再定義と選択: 金融機能が非金融サービスに溶け込む「エンベデッド・ファイナンス」の潮流に対し、自社の戦略的立ち位置を明確に定義します。自らが多様なサービスを統合するプラットフォームの主導者(オーケストレーター)となるのか、あるいは他社のプラットフォームに金融機能を部品として提供する効率的な供給者(ユーティリティ)となるのかを選択し、その戦略に沿ったAPI基盤の強化とパートナーシップ戦略を推進します。
  3. サステナビリティの事業化とリスク管理への統合: 気候変動リスク分析を、単なるコンプライアンス要件としてではなく、中核的な信用リスク管理プロセスに完全に統合します。その分析能力を基盤に、企業の脱炭素化を支援するトランジション・ファイナンスを新たな成長エンジンとして確立するため、専門組織を構築し、目標を設定します。リスク管理能力を新たな収益機会へと転換させます。
  4. 人材ポートフォリオの抜本的変革: 競争力の源泉が金融ノウハウからテクノロジーへとシフトする現実を直視し、人材戦略を再構築します。伝統的な金融人材に対する大規模なリスキリング(再教育)プログラムを実施すると同時に、データサイエンティスト、AIエンジニア、UXデザイナーといった高度テクノロジー人材を惹きつけ、定着させるための報酬体系、キャリアパス、企業文化を含む抜本的な人事制度改革を断行します。

第2章:市場概観

世界の金融市場規模の推移と予測(2020年~2030年)

グローバル金融サービス市場は、安定した成長軌道にあります。市場規模は2025年に約32兆1500億ドルに達し、2030年には55兆6500億ドルへと拡大、この間の年平均成長率(CAGR)は7.1%と予測されています 1。この成長は、単なる景気循環(cyclical)に伴うものではなく、デジタル化の進展や新興国市場の拡大といった構造的(structural)な要因によって牽引されている点が特徴です 2。

しかし、この全体像の裏では、事業分野ごとに成長率の著しい格差、すなわち「大いなる分岐(The Great Divergence)」が進行しています。伝統的な銀行・保険サービスが安定的ながらも緩やかな成長に留まる一方で、テクノロジーが深く関与するニッチな分野が市場全体の成長を牽引しています。

  • 伝統的分野: 銀行、保険、投資サービスは依然として市場の中核を構成していますが、その成長ペースは相対的に緩やかです 3。例えば、生命保険および損害保険市場は、2025年の7兆9100億ドルから2030年には9兆9800億ドルへと、CAGR 4.80%での成長が見込まれています 4。
  • 高成長分野: 驚異的な成長を遂げているのは、テクノロジーとサステナビリティが交差する領域です。
    • サステナブル・ファイナンス: 2024年の約7544億ドルから2030年には約2兆5900億ドルへと、CAGR 23%という爆発的な成長が予測されています 5。
    • オープンバンキング: 2024年の約316億ドルから2030年には1352億ドルへと、CAGR 27.6%での成長が見込まれます 6。
    • Banking-as-a-Service (BaaS): 2022年の225億ドルから2030年には745億ドルへと、CAGR 16.2%で力強く成長する見通しです 8。
    • 資産運用 (Asset Management): デジタル資産管理システム等を含む広義の市場では、一部の予測で2023年の約2647億ドルから2030年には1兆3791億ドル(CAGR 26.6%)9、あるいは2023年の4444億ドルから2030年に2兆8000億ドル(CAGR 29.9%)10 といった非常に高い成長率が示されています。

この市場データが示すのは、単なるトレンドではなく、価値創造の源泉における根本的な分裂です。将来の利益プールは、伝統的な銀行業務そのものではなく、それを包み込み、拡張するテクノロジー主導のサービスに存在します。これらの高成長セグメントはすべて、データ交換(API)、高度な分析(ESGスコアリングのためのAI)、プラットフォームビジネスモデル(BaaS)を前提としており、本質的には金融サービスの傘下で運営されるテクノロジービジネスです。この事実は、金融機関の将来のROEが、バランスシートの規模よりも、これらの高成長エコシステムに参加する能力によって決定されることを示唆しています。

セグメント2024年 市場規模(億ドル)2030年 予測(億ドル)CAGR (%)
高成長分野
オープンバンキング316.11,351.727.6%
サステナブル・ファイナンス7,544.325,899.023.0%
Banking-as-a-Service (BaaS)261.4 (2023年)745.516.2%
伝統・全体市場
金融サービス全体28,153.2 (2023年)55,650.07.1%
生命保険・損害保険7,287.0 (2023年)9,980.04.8%

注: 市場規模の起算年はレポートにより異なるため、最も近い年のデータを記載。BaaSのCAGRは2023-2030年、保険は2025-2030年、金融サービス全体は2025-2030年の予測値。
データソース: 1

地域別に見ると、北米が依然として世界最大の市場ですが(金融サービスアプリケーション市場の38.4%を占める)2、成長の勢いはアジア太平洋地域が最も強く、オープンバンキング市場でCAGR 29.4%、資産運用システム市場でCAGR 10.7%という高い成長が予測されています 6。欧州は、特にサステナブル・ファイナンス市場において規制主導で世界をリードしています 5。

市場成長ドライバーと阻害要因

  • 成長ドライバー: 上述の市場分岐を加速させているのは、デジタル変革の波です 3。特に、オープンバンキングAPIの普及は、新たなサービス創出の基盤となっています 2。また、新興国の経済成長と、世界的なサステナビリティへの意識の高まりが、金融包摂やサステナブル・ファイナンスへの巨大な需要を生み出しています 13。
  • 阻害要因: 一方で、世界的な金融引き締めサイクルに伴う金利上昇と景気後退懸念は、貸出需要の減退や信用コストの増加を通じて、金融機関の収益を圧迫します 14。さらに、地政学リスクの高まりは国際的な資金フローを分断し 16、厳格化するサイバーセキュリティ 3 や金融規制 18 への対応コストは、資本効率を低下させる要因となっています。

業界の主要KPIベンチマーク分析

  • 収益性:
    • 自己資本利益率 (ROE): 地域や金融政策のフェーズにより大きなばらつきが見られます。金利上昇局面にあった欧州の主要銀行の集合ROEは2024年第4四半期で9.54% 20、スペインの銀行は2024年に14.1% 21 を記録しました。米国の銀行は2021年時点で15.81%でした 22。
    • 総資産利益率 (ROA): ROEと同様に地域差があり、スペインの銀行は2024年に0.93% 21、米国の銀行は2021年に1.59% 22 となっています。
  • 健全性:
    • 普通株式等Tier1 (CET1) 比率: 規制強化を背景に、業界全体で高水準を維持しています。欧州主要銀行の集合CET1比率は2024年第4四半期で15.86%に達しました 20。
    • 総損失吸収力 (TLAC): G-SIBs(グローバルなシステム上重要な銀行)に対しては、破綻処理時に公的資金による救済(ベイルアウト)を回避するため、厳しいTLAC要件が課されています。2022年1月からは、リスクアセット(RWA)の18%、またはレバレッジ比率エクスポージャーの6.75%のいずれか高い方の最低要件を満たす必要があります 23。
  • 効率性:
    • 経費率 (Cost Income Ratio): 業務効率化の進展を測る重要な指標です。欧州の銀行ではデジタル化の進展などにより低下傾向にあり、2024年には54.1%となっています 25。一方、米国の銀行は2021年時点で62.73%と、世界平均の54.80%と比較して高い水準にありました 22。

第3章:外部環境分析(PESTLE Analysis)

政治 (Politics)

金融業界は、各国の政治的動向と規制の枠組みに深く影響を受けます。金融規制の強化は、業界の構造を規定する最も重要な要因の一つです。「バーゼルIII最終化」は、特に内部モデルを用いてリスクアセットを算出してきた大手銀行に対し、資本要件のさらなる厳格化を迫り、資本コストを増加させる可能性があります 18。同様に、G-SIBsに課される「総損失吸収力(TLAC)」要件は、破綻時の秩序ある処理を可能にする一方で、負債構造の最適化という新たな課題を金融機関に突きつけています 23。これらの規制は、FinTechなどの新規参入者に対する実質的な参入障壁として機能する半面、既存金融機関の機動性を制約する側面も持ち合わせています。

地政学リスクの高まりは、グローバルに事業を展開する金融機関にとって無視できない脅威です。米中対立や地域紛争といった地政学的緊張は、国境を越えた銀行貸出を直接的に抑制し、国際的な資金フローを著しく減少させることが国際決済銀行(BIS)のレポートで示されています 16。これは、サプライチェーンの再編や投資先の見直しを促し、金融機関のカントリーリスク評価モデルの高度化を要求します。

さらに、中央銀行デジタル通貨CBDC)の開発動向は、将来の決済システムの根幹を揺るがす可能性を秘めています。世界の94%の中央銀行がCBDCに関する何らかの取り組みに着手しており、特にG20諸国の多くが開発・パイロット段階にあります 27。CBDCがリテール決済の主流となれば、商業銀行が担ってきた預金機能や決済仲介機能の役割が相対的に低下し、ビジネスモデルの変革が不可避となるでしょう。

経済 (Economy)

世界経済の動向は、金融機関の収益性に直接的な影響を及ぼします。IMFや世界銀行は、2025年から2026年にかけての世界経済成長率を3.0%前後と予測しており、これは歴史的な平均を下回る低成長の定着を示唆しています 14。低成長環境は、企業の資金需要を抑制し、銀行の貸出資産の伸びを鈍化させる要因となります。

世界的なインフレと各中央銀行の金融政策のサイクルは、銀行収益の主要な変動要因です。金利上昇局面では、貸出金利が預金金利よりも早く上昇するため、銀行の利ザヤ(Net Interest Margin, NIM)は拡大する傾向にあります 31。しかし、急激な金利上昇は、銀行が保有する債券ポートフォリオに評価損をもたらすリスク(金利リスク)を伴います。さらに、過度な金融引き締めは景気後退を引き起こし、企業の倒産増加を通じて貸倒損失を増大させる可能性があります 32。金融政策の転換点を正確に予測し、資産・負債のデュレーションを適切に管理するALM(Asset Liability Management)能力が、これまで以上に重要となります。

社会 (Society)

社会構造や価値観の変化は、金融サービスの需要を根本から変えつつあります。先進国における人口動態の変化、特に高齢化の進展は、退職後の資産管理、資産承継、ウェルスマネジメントといった分野で巨大なビジネス機会を生み出しています。

一方で、ミレニアル世代やZ世代といったデジタルネイティブの台頭は、金融機関に新たな挑戦を突きつけています。彼らは、支店での対面サービスよりも、スマートフォンアプリを通じたシームレスでパーソナライズされたデジタル体験を当然のものとして期待します 33。また、彼らの価値観は、単なる経済的リターンだけでなく、社会的な共感や経験価値を重視する傾向にあります。Intuitの調査では、Z世代の73%が「銀行の余分なお金よりも質の高い生活を望む」と回答しており、短期的な満足を優先する「ソフトセービング」という行動様式も指摘されています 35。生活費の高騰が貯蓄を困難にしているという現実的な課題も、彼らの金融行動に影響を与えています 36。

世界銀行が主導する金融包摂Financial Inclusion)への要請も、重要な社会的トレンドです 37。デジタル金融サービスは、これまで銀行口座を持てなかった層や、十分な金融サービスを受けられなかった中小企業に対して、低コストでアクセス可能なサービスを提供する手段となります 37。これは、特に新興国市場において、新たな顧客基盤を開拓する大きなチャンスを意味します。

技術 (Technology)

テクノロジーは、金融業界の競争環境を再定義する最も強力な推進力です。クラウドコンピューティングへの移行は、もはや選択肢ではなく必須事項となっています。これにより、金融機関は巨額の初期投資(CapEx)を変動費である運用費用(OpEx)に転換し、ビジネスの需要に応じてITリソースを柔軟に拡張・縮小するスケーラビリティと俊敏性を獲得できます 39。クラウド導入の目的も、単なるコスト削減から、API連携によるエコシステムへの参加、AI・分析能力の向上といった、より戦略的なものへとシフトしています 40。

ブロックチェーンと分散型金融DeFi)は、金融システムのインフラを根本から変える可能性を秘めています。スマートコントラクトを活用することで、中央集権的な仲介者なしに、貸借、取引、保険といった金融サービスをP2P(ピアツーピア)で実行できます 41。これにより、取引の透明性が向上し、手数料が劇的に低下する可能性があります。現時点では規制やスケーラビリティに課題を抱えていますが、伝統的金融(TradFi)との融合が進むことで、将来的には新たな金融インフラの基盤となることが予想されます。

一方で、デジタル化の進展はサイバーセキュリティの脅威を増大させています。ランサムウェア攻撃、サプライチェーンを標的とした攻撃、さらにはAIを悪用したディープフェイクによる音声フィッシングなど、攻撃手法はますます高度化・巧妙化しています 43。攻撃を完全に防ぐことが困難になる中、攻撃を受けた後の事業継続を可能にする回復力、すなわち「サイバーレジリエンス」の構築が、金融機関の存続を左右する最重要課題となっています。

法規制 (Legal)

グローバルに事業を展開する金融機関は、複雑で多岐にわたる法規制への準拠を求められます。アンチ・マネー・ロンダリングAMLおよびテロ資金供与対策CFT)に関する規制は、FATF(金融活動作業部会)が策定する国際基準に基づき、各国で強化の一途をたどっています 45。特に、仮想資産や不動産業者、弁護士といった特定非金融業者(DNFBPs)への監視が厳格化されており 48、金融機関は取引の監視と報告に関するコンプライアンスコストの増大に直面しています。

データプライバシー保護規制も、重要な経営課題です。EUのGDPR(一般データ保護規則)を筆頭に、世界各国で個人データの収集、利用、移転に関する厳しいルールが導入されています 49。違反した場合の制裁金は巨額に上り、FinTech業界におけるGDPR関連の罰金は2025年までに累計64億ドルを超えると予測されています 50。特に、クラウドサービスの利用に伴う国境を越えたデータ移転は、規制当局の厳しい監視対象となっており、適切な管理体制の構築が不可欠です 50。

加えて、消費者保護法の強化も進んでいます。金融商品の販売における説明責任の徹底や、不公正・欺瞞的・濫用的な行為(UDAAP)の禁止など、顧客本位の業務運営が強く求められています 51。

環境 (Environment)

環境、特に気候変動は、金融業界にとって最も重大な長期的リスクであり、同時に新たな事業機会の源泉でもあります。気候変動がもたらすリスクは、自然災害の激甚化による物的損害などの「物理的リスク」と、低炭素社会への移行に伴う政策変更、技術革新、市場センチメントの変化などによる「移行リスク」に大別されます。欧州中央銀行(ECB)が実施した気候リスクストレステストでは、これらのリスクが銀行の貸出ポートフォリオに重大な損失をもたらす可能性が定量的に示されました 52。

このようなリスク認識の高まりを受け、気候関連財務情報開示の義務化が世界的な潮流となっています。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を基に設立された国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準が、新たなグローバルベースラインとなりつつあります 56。これにより、金融機関は自社の投融資活動が気候に与える影響(Inside-out)と、気候変動が自社の財務に与える影響(Outside-in)の両方について、透明性の高い情報開示を求められます 61。

この規制とリスクの高まりは、裏を返せば巨大な事業機会を生み出します。サステナビリティに関する外部環境要因は、もはや単なるコンプライアンスや評判の問題ではなく、中核的なリスク管理と将来の収益創出を一体で動かす強力な推進力へと収斂しつつあります。気候リスクの開示義務化は、金融機関に対して高度なデータ分析能力とAIモデルの構築を強います。そして、リスク管理とコンプライアンス遵守のために構築されたこの分析能力こそが、トランジション・ファイナンスという新たな事業領域における競争優位の源泉となります。顧客企業の気候移行経路を正確にモデル化できる銀行は、自らの融資ポートフォリオのリスクをより良く管理できるだけでなく、その顧客の移行を助言し、資金を提供する最適な立場に立つことができるのです。このようにして、リスク管理能力が新たな事業成長のエンジンとなる好循環が生まれます。

第4章:業界構造と競争環境の分析(Five Forces Analysis)

新規参入の脅威:高

金融業界への新規参入の脅威は、特にテクノロジー企業によって著しく高まっています。Apple、GoogleといったBig Tech企業や多数のFinTechスタートアップが、決済(BNPL)、小口融資、資産運用(ロボアドバイザー)といった収益性の高い分野に次々と参入しています 64。彼らは、既存金融機関にはない巨大な顧客基盤、卓越したユーザーエクスペリエンス(UX)設計能力、そして高度なデータ分析能力を武器に、顧客との接点を急速に奪いつつあります。

伝統的な参入障壁、すなわち銀行ライセンスの取得、巨額の自己資本要件、そして厳格な規制遵守体制の構築は、依然として高くそびえ立っています。しかし、「Banking-as-a-Service (BaaS)」やAPIエコノミーの発展が、この障壁の高さを実質的に低下させています。BaaSは、ライセンスを持たない非金融企業が、ライセンスを持つ銀行と提携し、その金融機能をAPI経由で「サービスとして」自社のアプリケーションに組み込むことを可能にします 8。これにより、非金融企業は自ら銀行ライセンスを取得することなく、金融サービスを提供できるようになり、参入障壁は事実上、技術的な統合能力と顧客基盤の有無へとシフトしつつあります。

代替品の脅威:中~高

特定の金融商品やサービスに対する代替品の脅威は、アンバンドリング(機能分解)の進展とともに増大しています。

  • 分散型金融 (DeFi): ブロックチェーン技術を基盤とし、中央集権的な仲介者なしに貸借や資産交換といった金融取引を可能にするDeFiは、理論上、伝統的金融(TradFi)のあらゆる機能を代替するポテンシャルを秘めています 41。透明性の高さ、低い取引コスト、誰でもアクセス可能といった利点があります。
  • 特化型FinTechサービス: P2Pレンディングは従来の銀行融資を、ロボアドバイザーは伝統的な対面での資産運用アドバイスを、そしてBNPL(Buy Now Pay Later)はクレジットカードのリボルビング払いを、それぞれ代替するサービスとして急速に普及しています。

現時点では、DeFiは規制の不確実性、スケーラビリティ、セキュリティといった課題を抱えており、TradFiを完全に置き換えるほどの脅威とはなっていません。しかし、個別の金融機能レベルで見れば、より優れたUXや低いコストを提供する代替品の脅威は非常に高く、既存金融機関の価格決定力や手数料収入に大きな下押し圧力となっています。

買い手の交渉力:高

デジタル化の進展は、顧客(買い手)の交渉力を劇的に向上させました。インターネットとスマートフォンの普及により、顧客は金融商品やサービスの金利、手数料、特徴を瞬時に比較検討できるようになりました 65。かつては情報格差によって守られていた金融機関の優位性は失われ、顧客はより良い条件を求めて金融機関を乗り換える際のスイッチングコストが大幅に低下しています。

顧客セグメントによって交渉力の強さには差異が見られます。特に、マスリテール層の個人顧客は、サービスのコモディティ化が進んでいるため、価格や利便性に対して非常に敏感であり、交渉力は極めて高いと言えます。一方で、複雑なニーズを持つ大企業や、長年の信頼関係に基づく包括的なアドバイスを求める超富裕層顧客は、提供されるサービスの独自性が高く、スイッチングコストも大きいため、交渉力は相対的に低い水準に留まります 67。

供給者の交渉力:高

金融機関は、その事業運営において、特定の強力な供給者に大きく依存しており、これらの供給者は高い交渉力を有しています。

  • 大手クラウドプロバイダー: AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP) といった少数の巨大テクノロジー企業は、金融機関のミッションクリティカルなITインフラの根幹を担っています。これらのプラットフォームへの依存度が高まるにつれて、価格設定やサービス提供条件に対するクラウドプロバイダーの交渉力は絶大なものとなります 68。
  • 金融データ・分析ベンダー: BloombergやRefinitiv(LSEG)などが提供する市場データや分析ツールは、トレーディングやリスク管理業務に不可欠であり、代替が困難です。これにより、これらのベンダーは安定した価格決定力を維持しています。
  • 高度専門人材: 金融業界のデジタルトランスフォーメーションを牽引するデータサイエンティスト、AI/MLエンジニア、サイバーセキュリティ専門家といった人材は、極端な売り手市場にあります。GAFAMをはじめとするテクノロジー企業との間で熾烈な人材獲得競争が繰り広げられており、人件費は高騰し続けています 69。これらの専門人材は、供給者として非常に強い交渉力を持っています。

ここで見過ごされがちな戦略的脅威は、単にFinTech企業からの競争だけではなく、Big Techによる「サプライヤー・スクイーズ(供給者による締め付け)」です。銀行は、自らの最大の潜在的競合相手でもある企業に、ますます依存するようになっています。銀行は効率性とスケーラビリティを求めて基幹システムを少数のクラウドプロバイダーに移行しますが 39、そのインフラを提供する企業(Big Tech)こそが、決済や融資の分野で最も強力な新規参入者なのです。この構造は、Big Techに多大な影響力を与えます。彼らは、基盤プロバイダーとして銀行業界のオペレーション、コスト、データフローに関する深い洞察を得ることができます。この危険な依存関係により、Big TechはクラウドやAIサービスの価格を引き上げて銀行の利益を圧迫し、同時にその利益を自社の競合金融商品の開発資金に充てることが可能になります。これは単なる技術調達の問題ではなく、銀行がどのようにしてこの「サプライヤー・スクイーズ」を緩和するかという、中核的な戦略的ジレンマなのです。

業界内の競争:高

金融業界は、グローバルに展開するユニバーサルバンク、特定の分野に特化した投資銀行、各地域に根差した地域金融機関、そして低コストを武器に急成長する新興デジタルバンクなど、多種多様なプレイヤーがひしめき合う成熟市場です 71。多くの金融商品は差別化が難しく、コモディティ化しやすいため、価格競争に陥りやすい構造を持っています 73。

競争の主軸は、過去の金利、手数料、あるいは物理的な支店網の広さといった点から、大きくシフトしています。現代の競争を決定づけるのは、デジタル体験の質(UX)、24時間365日利用可能なサービスの利便性、顧客データ活用による提案のパーソナライゼーション、そして多様なサービスを統合したエコシステムの魅力といった、テクノロジー主導の要因です。この競争環境の変化は、既存のプレイヤー間での競争を激化させるだけでなく、異業種からの新規参入者との境界線を曖昧にし、競争の次元をより複雑なものにしています。

第5章:バリューチェーンとサプライチェーン分析

バリューチェーン分析

金融機関の伝統的なバリューチェーンは、「商品開発」から始まり、「マーケティング・販売」、「引受・審査」、「決済・オペレーション」、「リスク管理」、そして「アフターサービス」へと続く一連の線形プロセスとして捉えられてきました。しかし、テクノロジー、特にAIの導入は、このチェーンの各段階に破壊的な変化をもたらし、新たな価値創造の機会を生み出しています。

  • フロント(マーケティング・販売): 生成AIは、顧客データに基づき、一人ひとりに最適化されたマーケティングメッセージや商品を提案するコンテンツを自動生成します 74。これにより、従来は多大な人手を要したパーソナライズされたアプローチを、大規模に展開することが可能になります。
  • ミドル(引受・審査、リスク管理): AIを活用した信用リスクモデルは、従来の統計モデルでは捉えきれなかった多数の変数(オルタナティブデータ等)をリアルタイムで分析し、貸倒れリスクの予測精度を飛躍的に向上させます 75。また、AIによる異常検知アルゴリズムは、不正取引やマネーロンダリングのパターンを即座に特定し、リスク管理を高度化します 74。
  • バック(決済・オペレーション): AIを搭載したOCR(光学的文字認識)と自然言語処理技術は、融資契約書、貿易関連書類、本人確認(KYC)書類といった非構造化ドキュメントから必要な情報を自動で抽出し、システムに登録する作業を担います 77。AIチャットボットは、顧客からの定型的な問い合わせに24時間365日対応し、オペレーションの大幅なコスト削減と効率化を実現します。

AIとデータの活用は、単に既存のバリューチェーンを効率化するに留まりません。それは、チェーンの構造そのものを根本から覆しています。伝統的な「プロダクトアウト型(商品を開発し、顧客を探す)」の線形モデルは、「マーケットイン型(顧客データを理解し、リアルタイムで解決策を組み立てる)」の循環型モデルへと反転しつつあります。この新しいモデルでは、価値創造の起点は、標準化された商品の開発ではなく、顧客のユニークなデータプロファイル(取引履歴、行動パターン、ライフイベント)の理解にあります。「商品」は、その理解に基づいて動的に構成され、顧客に提供されます。この変化は、価値連鎖における最も重要な活動が、商品の「製造」から、データの「集約」、洞察の「生成(AI分析)」、そしてAPIを通じた解決策の「組み立て」へと移行したことを意味します。

サプライチェーン分析

金融業界における「サプライチェーン」とは、事業運営に不可欠な経営資源の供給網を指します。具体的には、事業の原資となる資金(預金や市場からの調達)、業務の基盤となるITインフラ(クラウドサービスやソフトウェア)、意思決定の根拠となるデータ(市場データや顧客データ)、そして業務を遂行する人材(金融専門家やテクノロジー専門家)の4つが主要な構成要素です。このサプライチェーンには、複数の深刻なリスクが潜在しています。

  • ITベンダーへの依存(集中リスク): 多くの金融機関が、基幹システムを特定のクラウドプロバイダー(AWS, Azure, GCP)やコアバンキングシステムベンダーに依存しています。この集中は、当該ベンダーのシステム障害、大幅な価格改定、あるいは経営破綻が発生した場合に、金融機関の事業継続を直接的に脅かす重大なリスクとなります 79。さらに、そのベンダーが依存する別のベンダー(第四者)に問題が発生した場合にも、影響が波及する可能性があります 80。
  • サイバー攻撃: サプライチェーンを標的としたサイバー攻撃は、近年増加傾向にあります。例えば、広く利用されているソフトウェアのアップデートにマルウェアを混入させる攻撃は、そのソフトウェアを利用する多数の金融機関に同時に被害を及ぼす可能性があります 43。これは、個社の問題を超え、金融システム全体に影響を及ぼすシステミックリスクとなり得ます。
  • 地政学リスクによる市場分断: 国家間の対立が激化した場合、特定の国に設置されたデータセンターへのアクセスが制限されたり、特定の国からの資金調達が困難になったりするリスクが考えられます。これは、グローバルな資金フローやデータ管理に依存する金融機関にとって、事業の前提を揺るがす脅威です 16。
  • 人材供給網の逼迫: AIやデータサイエンス分野における高度な専門人材は、世界的に不足しています。金融業界は、GAFAMに代表されるテクノロジー企業と、これらの希少な人材を巡って激しい獲得競争を繰り広げています 69。人材の確保に失敗すれば、デジタルトランスフォーメーションの遅延に直結し、長期的な競争力を失うことになります。

第6章:顧客需要の特性分析

主要な顧客セグメントとKBF (Key Buying Factor)

金融機関が対峙する顧客のニーズは、セグメントごとに大きく異なり、それぞれに特有の選定要因(KBF: Key Buying Factor)が存在します。

  • 個人富裕層 (High-Net-Worth Individuals, HNWI): このセグメントのKBFは、単なる金融商品の提供を超えた、包括的で高度に専門的なアドバイスと、長期的な信頼関係の構築にあります。資産運用のみならず、事業承継、税務戦略、フィランソロピー(社会貢献活動)といった複雑なニーズに対し、オーダーメイドの解決策を提示する能力が求められます。パーソナライゼーションへの要求は極めて高く、AIなどを活用した個別最適化された提案が競争優位の鍵となります 82。BCGのレポートによれば、世界の個人金融資産は2024年に305兆ドルに達し、2029年には399兆ドルへの成長が予測されており、このセグメントの戦略的重要性は増すばかりです 84。
  • マスリテール: 日常的な金融取引を行うこの広範なセグメントでは、KBFは「利便性」「低コスト」「分かりやすさ」に集約されます。スマートフォンアプリを通じた残高照会、振込、決済といった取引が、いかにストレスなく、直感的に行えるかが最重要視されます。
  • 中小企業 (SMEs): 中小企業にとってのKBFは、事業運営の効率化と成長の支援です。迅速な運転資金の融資審査、売掛金・買掛金の管理を効率化するキャッシュマネジメントツール、そして簡単なオンライン決済ソリューションなどが求められます。多くの中小企業が抱えるデジタル化の遅れやリソース不足といった経営課題に寄り添い、解決策を提供できる金融機関が選ばれます 85。McKinseyの分析によれば、MSME(零細・中小企業)は世界の銀行収益プールの20%以上を占める、極めて重要な市場です 88。
  • 大企業: グローバルに事業を展開する大企業は、単なる資金調達の提供者としてではなく、戦略的パートナーとしての役割を金融機関に求めます。KBFは、グローバルな資金・決済管理(グローバル・トレジャリー)、複雑なサプライチェーン全体を支えるファイナンスソリューション、M&Aや海外展開に関する高度なアドバイザリー、そして近年急速に重要性を増しているサステナビリティ対応の支援など、多岐にわたります 13。

デジタルネイティブ世代の期待

ミレニアル世代やZ世代といったデジタルネイティブは、これまでの世代とは全く異なる前提で金融サービスと向き合っています。彼らの期待を理解することは、未来の顧客基盤を築く上で不可欠です。

  • シームレスでオムニデジタルな体験: 彼らにとって、金融取引は物理的な支店に行く行為ではなく、スマートフォン上で完結するデジタル体験です。アプリやウェブサイトのデザイン性、直感的な操作性(UX)が、金融機関の評価を大きく左右します 33。
  • リアルタイム性とパーソナライゼーション: 四半期ごとの運用報告書といった伝統的なコミュニケーションは、彼らの感覚には合いません。自身のポートフォリオの状況や市場の変動に関するリアルタイムの通知、そして自らの取引履歴や関心事を先読みしたかのようなパーソナライズされた提案を求めます 90。
  • 価値観との整合性: 特にサステナビリティ(ESG)や社会貢献といったテーマへの関心が高く、自らの投資や利用する金融サービスが、自身の価値観と一致していることを重視する傾向があります。

進化する顧客の期待と、それを実現するAIのような技術力が組み合わさることで、従来の人口動態や資産規模に基づく顧客セグメンテーションは時代遅れになりつつあります。競争の新たなフロンティアは、すべての顧客が独自の体験と商品セットを受け取る「セグメント・オブ・ワン(Segment of One)」です。画一的な商品を幅広いセグメントに提供し続ける銀行は、時代遅れで顧客のニーズに応えられないと見なされるでしょう。この変化は、商品開発、マーケティング、そしてアドバイザーの役割に大きな影響を与えます。商品開発は動的なものとなり、マーケティングは画一的なキャンペーンから継続的で個別化された対話へと移行します。人間のアドバイザーの役割は、商品の販売者から、AIによる洞察を活用し、顧客との関係構築に注力する役割へとシフトしていく必要があります 91。

法人顧客のニーズの高度化・多様化

法人顧客のニーズもまた、より高度で多様なものへと進化しています。

  • サプライチェーンファイナンス: 企業は、自社だけでなく、サプライヤーから販売先に至るサプライチェーン全体の資金効率の最適化を求めています。これに応えるサプライチェーンファイナンスへの需要は、グローバル化とサプライチェーンの複雑化に伴い増加しています。
  • サステナビリティ対応: 気候関連の情報開示義務化(TCFD/ISSB)といった規制の強化を背景に、企業は自社の脱炭素化やESG目標の達成を金融面から支援するパートナーを求めています 89。「トランジション・ファイナンス」や、ESG目標の達成度に応じて金利が変動する「サステナビリティ・リンク・ローン」への需要が世界的に急増しています 13。
  • エンベデッド・ファイナンス: 特にECプラットフォームなどを運営する法人顧客は、自社のサービス内に決済、融資、保険といった金融機能をシームレスに組み込み、エンドユーザーに一貫した体験を提供したいと考えています。J.P. MorganがMacy’sやSalonCentricのマーケットプレイスに決済・資金管理機能を組み込んだ事例は、このトレンドを象徴しています 92。金融機関には、APIを通じて金融機能を部品として提供する能力が求められています。

第7章:業界の内部環境分析

VRIO分析

既存の金融機関が持つ経営資源(リソース)と組織能力(ケイパビリティ)をVRIOフレームワーク(Value: 価値、Rarity: 希少性、Imitability: 模倣困難性、Organization: 組織)で分析すると、その強みと、将来に向けた深刻な課題が浮き彫りになります。

  • 価値があり (Valuable)、希少な (Rare) 経営資源:
    • 巨大な顧客基盤と取引データ: 大手銀行は、数千万から数億に上る顧客基盤と、長年にわたるその取引履歴データを保有しています。このデータは、AIモデルの学習、リスク評価の精緻化、顧客ニーズの深い理解において計り知れない価値を持ち、新規参入者が短期間で獲得することは不可能です。
    • ブランドの信頼性: 数十年、時には百年以上にわたって築き上げられてきたブランドの信頼性や安心感は、特に人々の資産を預かる預金業務やウェルスマネジメントにおいて、顧客が金融機関を選ぶ際の重要な決定要因であり、希少な無形資産です。
    • 規制ライセンスと規制対応ノウハウ: 銀行業や証券業を営むために必要なライセンスは、取得に多大な時間とコスト、そして厳格な審査を要するため、高い参入障壁として機能します。また、複雑な規制を遵守し、当局と対話してきた経験とノウハウは、模倣が困難な組織能力です。
    • 高度なリスク管理能力: 幾多の金融危機を乗り越える中で培われた、複雑な金融リスク(信用、市場、オペレーショナル等)を計量し、管理するノウハウとシステムは、一朝一夕には構築できない、価値があり希少なケイパビリティです。
    • グローバルネットワーク: 世界中に広がる拠点網とコルレス銀行ネットワークは、グローバル企業の貿易金融やキャッシュマネジメントを支える上で不可欠であり、これもまた模倣が困難な資産です。
  • 組織 (Organization) の課題:
    VRIO分析における最大の弱点は、これらの価値ある資源や能力を、変化する競争環境の中で有効に活用するための「組織(Organization)」にあります。多くの既存金融機関は、以下のような「組織的慣性」を抱えています。
    • サイロ化した組織構造: 商品や部門ごとに縦割りの組織となっており、顧客データを全社横断で活用したり、顧客中心のサービスを迅速に開発したりすることが困難です。
    • レガシーなITシステム: 長年の増改築を繰り返してきた複雑なITシステムは、新しいテクノロジーの導入や外部サービスとのAPI連携を阻害し、俊敏な事業展開の足かせとなっています 85。
    • 硬直的な意思決定プロセスと企業文化: 階層的な意思決定プロセスやリスク回避的な文化は、FinTech企業のような迅速なイノベーションを妨げます。MUFGのCEOも、自社の課題として「組織的慣性」や「形骸化した手続き」に言及しています 93。

この分析が示すのは、「資産のパラドックス」です。かつて銀行の支配的な地位を支えてきた資産(広範な支店網、多様な商品を支える複雑なレガシーシステム、伝統的なスキルを持つ大規模な従業員)が、現代においては変化への足かせとなり、組織の巨大な慣性を生み出しています。これらの有形・無形の資産は、銀行が持つ真の価値の源泉(データ、信頼)を、新しい競争環境で活用することを妨げているのです。銀行は、バランスシート上は「資産リッチ」でありながら、新しい時代に必要な組織能力(俊敏性、テクノロジー主導の文化)においては「能力プア」であるという矛盾した状況にあります。戦略的な課題は、新たな資産を獲得することではなく、価値ある資産(データ、信頼)を、それらを閉じ込めているレガシーな構造からいかにして「解放」するかにあります。

人材動向

競争力の源泉が資本から情報・テクノロジーへと移行する中で、求められる人材像も劇的に変化しています。

  • 求められる人材像の変化: 伝統的な金融専門家(バンカー、トレーダー、アナリスト)に加えて、あるいはそれ以上に、データサイエンティスト、AI/MLエンジニア、サイバーセキュリティ専門家、UXデザイナーといったテクノロジー人材の重要性が急速に高まっています 81。
  • 熾烈な人材獲得競争: これらの高度専門人材は、GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)に代表される巨大テクノロジー企業との間で、世界的な獲得競争の対象となっています。Deloitteのレポートによれば、北米の金融機関の80%が、技術系人材の確保と維持を経営上のトップ3リスクの一つとして認識しています 81。高い報酬水準、柔軟な働き方、エンジニア中心の企業文化を持つテクノロジー企業に対して、伝統的な金融機関は人材獲得・定着の両面で苦戦を強いられています 69。

労働生産性

  • 指標とトレンド: 金融業界の労働生産性は、従業員一人当たりの純業務利益や収益(Revenue per Employee)といった指標で測られます。例えば、Bank of Americaでは、2024年の従業員一人当たり収益が約90万3,000ドルでした 94。しかし、業界全体で見ると、生産性の伸びは他の産業に比べて著しく低いのが現状です。McKinseyの分析によると、米国の銀行業界の労働生産性は過去10年間で4%低下しており、同期間に25%向上した専門・技術サービス業などと比べて大きく見劣りします 95。
  • 自動化・高度化の影響: バックオフィスにおける定型業務の自動化や、ミドルオフィスにおけるAI導入は、労働生産性の向上に大きく寄与するポテンシャルを持っています。これにより、従業員は単純作業から解放され、より高度な分析、戦略策定、顧客との関係構築といった付加価値の高い業務にシフトすることが可能になります。しかし、これは同時に、既存の従業員に対する大規模なリスキリング(学び直し)と、組織全体の雇用の再編が不可欠であることを意味します。

第8章:AIがもたらす破壊的インパクトと機会

人工知能(AI)、特に生成AIの進化は、金融機関のバリューチェーン全体を再構築し、新たな収益源とコスト構造を生み出す破壊的な力を持っています。

フロントオフィスへの影響

顧客との接点であるフロントオフィスにおいて、AIは「超パーソナライズ化」と「エンゲージメント強化」を実現します。

  • 超パーソナライズド・アドバイス: 生成AIは、顧客一人ひとりの財務状況、取引履歴、リスク許容度、さらにはライフイベントや価値観(例:ESGへの関心)といった膨大なデータを統合・分析し、完全にオーダーメイドの投資アドバイスや金融商品を提案します 90。これにより、従来は一部の富裕層にしか提供できなかった高度なコンサルティングサービスを、マスリテール層にも大規模に展開することが可能となり、顧客ロイヤルティの向上とクロスセルの機会増大に繋がります。
  • 顧客エンゲージメントの強化: Morgan Stanleyが導入したOpenAI搭載のチャットボットは、ファイナンシャル・アドバイザーが社内の膨大なリサーチ情報やデータを瞬時に検索し、顧客への提案に活用することを支援しています 77。また、顧客向けのAIチャットボットは、24時間365日、より自然で人間らしい対話を通じて問い合わせに対応し、顧客満足度を飛躍的に向上させることができます 74。

ミドルオフィスへの影響

リスク管理とコンプライアンスを担うミドルオフィスは、AIによって「予測能力」と「検知精度」が格段に向上します。

  • 信用リスク管理の高度化: AIおよび機械学習(ML)アルゴリズムは、従来の信用スコアモデルで用いられてきた財務データに加え、ニュース記事、SNSの投稿、衛星画像といった非構造化データ(オルタナティブデータ)や、リアルタイムの取引データなどを分析対象とします。これにより、個々の借り手のデフォルト(債務不履行)確率をより早期かつ正確に予測することが可能となり、与信判断の迅速化と貸倒損失の削減に貢献します 75。
  • 不正取引検知とコンプライアンス監視: AIは、過去の膨大な取引データから「正常な」パターンを学習し、そこから逸脱する異常な取引をリアルタイムで検知します。これにより、クレジットカードの不正利用、なりすまし、マネーロンダリングといった金融犯罪の疑いがある取引を即座に特定し、損失を未然に防ぎます 74。

バックオフィスへの影響

事務処理やオペレーションを担うバックオフィスでは、AIが「完全自動化」を推進し、劇的な効率化をもたらします。

  • オペレーションの完全自動化: AI、特にOCR(光学的文字認識)と自然言語処理(NLP)技術を組み合わせることで、融資契約書、貿易金融の船荷証券、本人確認(KYC)書類といった、これまで人手での確認が必要だった非構造化ドキュメントから、必要な情報を自動で抽出し、基幹システムへ入力するプロセスを自動化できます 77。これにより、手作業に起因するミスを撲滅し、オペレーションコストを劇的に削減します。
  • レガシーシステムの近代化: 金融機関の多くが抱える課題である、COBOLなどのレガシー言語で書かれた基幹システムの刷新においても、生成AIは大きな役割を果たします。レガシーコードをJavaやPythonといった現代的なプログラミング言語に自動変換する作業を支援し、システムのモダナイゼーション(近代化)にかかる時間とコストを大幅に削減することが期待されています 77。

AIの導入は、銀行の競争優位の源泉を「資産の規模(Scale of Assets)」から「インテリジェンスの規模(Scale of Intelligence)」へとシフトさせます。歴史的に、銀行の力はそのバランスシートの大きさから生まれていました。しかしAI時代においては、膨大なデータを処理し、優れた洞察と自動化された意思決定を大規模に生み出す能力が競争優位を決定します。例えば、資産規模は小さくとも、優れたAIエンジンとデータ基盤を持つAIネイティブな銀行が、リスク評価や顧客のパーソナライゼーションといった主要分野で、伝統的な巨大銀行を凌駕する可能性があります。これは、資本効率のより高い、収益性の高い融資ポートフォリオを構築できることを意味します。この変化は、M&Aの対象や投資の優先順位を根本から変えるものです。バランスシート拡大のための同業買収よりも、データサイエンス企業やAIスタートアップの買収がより戦略的な意味を持つようになるかもしれません。

AI導入における課題とリスク

AIがもたらす恩恵は大きい一方で、その導入には慎重な管理が求められる課題とリスクも存在します。

  • データ品質とバイアス: AIモデルの性能は、学習に用いるデータの質と量に完全に依存します。データに過去の社会的な偏り(バイアス)が含まれている場合、AIの判断もそのバイアスを再生産・増幅させてしまう恐れがあります。例えば、特定の属性を持つ人々に対して、不当に不利な与信判断を下すといった差別的な結果を招く倫理的問題を引き起こす可能性があります 81。
  • AIモデルのブラックボックス性(説明可能性): ディープラーニングに代表される複雑なAIモデルは、なぜその結論に至ったのか、その判断プロセスを人間が完全に理解することが困難な場合があります。これは「ブラックボックス問題」と呼ばれます。規制当局や顧客に対して、融資の否決といった重要な意思決定の根拠を明確に説明できないことは、法規制上の要件を満たせないだけでなく、顧客からの信頼を失う大きなリスクとなります 81。
  • 倫理的課題と規制対応: AIの利用における公平性、透明性、説明責任を確保するための倫理ガイドラインの策定と、各国で整備が進むAI関連法規制への準拠体制の構築が急務となっています。

第9章:主要トレンドと未来予測

金融業界の未来は、いくつかの不可逆的なトレンドによって形作られています。これらのトレンドは相互に関連し合い、業界の構造を根本から変えつつあります。

オープンバンキングとAPIエコノミー

欧州の決済サービス指令第2版(PSD2)などを契機として始まったオープンバンキングは、銀行がAPI(Application Programming Interface)を通じて、顧客の同意のもとでその金融データをサードパーティ企業(FinTechなど)と安全に共有する仕組みです。これにより、消費者は単一のアプリケーションで複数の銀行口座を一元管理したり、自身のデータに基づいたより最適な金融商品(ローン、保険など)の提案を受けたりすることが可能になります。この市場は急速に拡大しており、2030年までには1,350億ドル規模に達すると予測されています 6。このトレンドの中で、銀行は単なる金融商品の提供者から、多様なサービスを繋ぐ「プラットフォーム」としての役割を担うことが期待されており、外部パートナーとの連携を通じて新たな顧客体験と収益機会を創出するエコシステム戦略が不可欠となります。

分散型金融(DeFi)との融合 (TradFi-DeFi Convergence)

当初は伝統的金融(TradFi)を破壊する存在と見なされていた分散型金融(DeFi)ですが、近年はその技術的な利点をTradFiが取り込む形での融合が進んでいます。DeFiの基盤技術であるブロックチェーンが持つ透明性、取引の即時性、そしてスマートコントラクトによるプログラム可能性は、既存の金融インフラが抱える非効率性を解決する大きなポテンシャルを秘めています。例えば、J.P. Morganはブロックチェーンを基盤としたホールセール決済プラットフォームであるPartiorに投資・参画しており 96、国境を越えた決済の迅速化とコスト削減を目指しています。将来的には、不動産や未公開株といった現実世界の資産(Real-World Assets, RWA)をトークン化し、ブロックチェーン上で取引する動きが本格化することで、TradFiとDeFiが融合した新たな金融インフラが構築されていくと予測されます。

サイバーレジリエンスの最重要課題化

金融システムのデジタル化と相互接続性の深化は、サイバー攻撃のリスクを飛躍的に増大させました。巧妙化・高度化するサイバー攻撃は、もはや個々の金融機関の問題に留まらず、一つの攻撃が連鎖的に広がり、金融システム全体を麻痺させるシステミックリスクとして認識されています。攻撃を100%防ぐことは不可能であるという前提に立ち、攻撃を受けた際にいかに迅速に検知し、事業を復旧・継続させるかという「サイバーレジリエンス(回復力)」の構築が、経営の最重要課題となっています 43。この重要性を反映し、ECB(欧州中央銀行)は2024年に、銀行セクターを対象としたサイバーレジリエンスに関するストレステストを実施しています 55。

金融の再バンドル化 (Re-bundling)

FinTechの勃興期には、決済、送金、融資といった銀行の機能が個別に切り出され、特化型のサービスとして提供される「アンバンドリング(分解)」が進みました。しかし現在、その逆の潮流である「リバンドリング(再統合)」が加速しています。AlipayやWeChat Payに代表される「スーパーアプリ」は、決済機能を入口として、融資、保険、資産運用といった多様な金融サービス、さらにはEC、旅行、行政サービスといった非金融サービスまでもを単一のプラットフォーム上に統合しています 97。顧客は、複数のアプリを使い分けることなく、一つのインターフェースからあらゆる生活サービスをシームレスに利用することを求めています。この顧客体験の主導権を巡り、金融機関、テクノロジー企業、小売業者などが入り乱れて競争を繰り広げています。

これらのトレンドが収斂した先にあるのは、「バンキング」が顧客によって意識的に行われる独立した活動ではなくなる未来です。オープンバンキングがAPIを通じてデータを解放し、エンベデッド・ファイナンスがそのAPIを使って金融機能を非金融プラットフォームに埋め込み、リバンドリングがそれらの機能をスーパーアプリ上で統合する。この一連の流れにより、金融機能は顧客の日常生活(購買、コミュニケーション、健康管理など)の中に溶け込んだ、目に見えない環境的なサービスへと変貌します。顧客がECサイトの決済画面で融資を受け、SNSアプリ内で家計を管理し、給与計算プロバイダーを通じて投資を行うようになれば、伝統的な銀行アプリにログインする必要性は薄れていきます。価値は、金融商品を供給する銀行から、顧客との関係性と体験を支配するプラットフォームへと移行します。これは、銀行に対して、自らがプラットフォームの主導者となるか、あるいは他者にインフラを提供する効率的な「ユーティリティ」に徹するか、という根源的な戦略選択を迫るものです。

第10章:主要プレイヤーの戦略分析

グローバル金融業界の競争環境は、異なるビジネスモデルと戦略を持つ多様なプレイヤーによって形成されています。以下に主要なプレイヤーの動向を分析します。

米系メガバンク

  • JPMorgan Chase & Co.: 「エコシステム・オーケストレーター」戦略の代表格です。決済、コマース、そしてエンベデッド・ファイナンスといった分野に巨額の投資を行い、自社を金融・非金融サービスが交差するプラットフォームの中心に据えることを目指しています 92。戦略的投資部門を通じて、ブロックチェーン決済のPartiorやERP連携のFISPANなど、多数のFinTech企業との連携・投資を積極的に行い、エコシステムの拡大を図っています 96。AI活用能力でも業界をリードしており、2024年のROEは18%、CET1比率は15.7%と、高い収益性と財務健全性を両立させています 100。
  • Bank of America: 「責任ある成長(Responsible Growth)」を経営哲学の中心に掲げ、徹底したデジタル化と業務効率化を推進しています。2024年には、経費を抑制しながら1,000億ドルを超える収益を達成しました 101。6,900万に上る広範なリテール・中小企業顧客基盤と、4.3兆ドルの資産を預かるウェルスマネジメント事業が、その安定した収益の源泉となっています 101。

欧州系メガバンク

  • HSBC: アジア、特に香港におけるウェルスマネジメントに圧倒的な強みを持ち、グローバルなネットワークを活かした貿易金融も得意とします。2024年の税引前利益は323億ドルに達しました。近年は、カナダ事業の売却など、グローバルな事業ポートフォリオの再編を進め、収益性の高いアジア市場への集中を強めています 102。また、ネットゼロ移行計画を策定し、サステナブル・ファイナンスを戦略の柱の一つとして推進しています 103。
  • BNP Paribas: 商業銀行、投資銀行、資産運用、保険など、多角化されたビジネスモデルを強みとし、安定した収益基盤を構築しています。2024年は4.1%の増収を達成し、2026年のROTE(有形自己資本利益率)目標を12%に設定しています 104。AI分野ではフランスのスタートアップMistral AIとの提携 104、決済分野では欧州決済イニシアティブ(EPI)への参画など、欧州の技術主権を意識した戦略が特徴的です。
  • Santander: グローバルに展開するリテール・商業銀行業務に強みを持ちます。特に、北欧子会社のレポートでは、新規自動車ローンに占めるBEV(バッテリー式電気自動車)の割合が48%に達するなど、グリーン移行をファイナンス面から積極的に推進する姿勢が鮮明です 106。

大手投資銀行

  • Goldman Sachs: 伝統的な投資銀行業務(M&Aアドバイザリー、引受)での高いブランド力を維持しつつ、近年は資産・ウェルスマネジメント(AWM)事業を成長の柱と位置付け、より安定的で手数料ベースの収益構造への転換を図っています。2024年のROEは12.7%、効率性比率は63.1%へと改善しました 107。また、AI活用による生産性向上を3カ年計画で推進しており 109、サステナブル・ファイナンスでは2030年までに7,500億ドルの目標を掲げています 110。
  • Morgan Stanley: ウェルスマネジメントとインベストメントマネジメントが収益の大きな柱となっており、2024年のROTCEは18.8%という業界トップクラスの高い資本効率を達成しました 111。OpenAIを搭載したチャットボットを導入し、アドバイザーの業務効率と提案能力の向上を図るなど、富裕層ビジネスにおけるテクノロジー活用に積極的です 77。

大手資産運用会社

  • BlackRock: 11.6兆ドルという圧倒的な運用資産残高(AUM)を誇る世界最大の資産運用会社です。2024年には記録的な6,410億ドルの純資金流入を達成しました 112。ETF(上場投資信託)市場での支配的な地位に加え、自社開発の統合的リスク・ポートフォリオ管理プラットフォーム「Aladdin」を他の金融機関に提供することで、テクノロジー企業としての一面も強めています。サステナビリティと気候変動リスクを投資プロセスに統合する動きを業界に先駆けて主導しています。
  • Vanguard: 低コストのインデックスファンドとETFを武器に、個人投資家から絶大な支持を集めています。投資先企業に対する議決権行使やエンゲージメントといったスチュワードシップ活動を重視しており、2024年の年次レポートでは、投資先企業の取締役会に対し、AIや気候変動といった新たなリスクへの監視体制について対話を行ったことを報告しています 113。

金融業界のディスラプター

  • PayPal: 4億人を超えるアクティブユーザーを抱える、オンライン決済のグローバルリーダーです。2025年の投資家向け説明会では、事業者向けの多様な機能を統合した新プラットフォーム「PayPal Open」を発表し、決済インフラの提供者としての戦略を加速させています。POS端末大手のVerifoneとの提携によるオムニチャネル決済の強化も打ち出しています 115。
  • Block (旧Square): 中小企業向けの決済端末とPOSシステム、給与計算、融資といった包括的な金融サービスエコシステム「Square」と、個人向けの送金・投資アプリ「Cash App」の2つを事業の柱としています。両エコシステムの相乗効果を追求し、金融サービスの新たな形を提示しています。2025年の投資家向け説明会で長期戦略が発表される予定です 116。
プレイヤー主要ビジネスモデル戦略的優先事項主要AIイニシアチブエンベデッド・ファイナンス戦略ESG目標/コミットメント
JPMorgan Chaseユニバーサルバンクエコシステム構築、決済、テクノロジー投資全社的なAI活用、Evident AI Indexでトップ評価BaaS基盤の提供、FinTechへの戦略的投資2.5兆ドルのSDGs目標、DFIによるインパクト評価
Goldman Sachs投資銀行、資産・ウェルスマネジメント資産・ウェルスマネジメント(AWM)事業の拡大AIによる生産性向上(3カ年計画)、GS AIアシスタントプライベートクレジット等を扱うCapital Solutions Group設立2030年までに7500億ドルのサステナブル・ファイナンス
Morgan Stanley投資銀行、ウェルスマネジメントウェルスマネジメント事業の強化OpenAI搭載チャットボットによるアドバイザー支援
BlackRock資産運用規模の拡大、テクノロジープラットフォーム(Aladdin)AladdinプラットフォームへのAI機能統合投資プロセスへのESG統合、ネットゼロコミットメント
PayPal決済プラットフォームプラットフォーム戦略の加速、加盟店向けサービス強化新プラットフォーム「PayPal Open」による機能統合

データソース: 100- 100- 77- 105

第11章:戦略的インプリケーションと推奨事項

これまでの包括的な分析を統合し、直面する戦略的課題に対する具体的な提言を導き出します。

勝者と敗者を分ける決定的要因

今後5年から10年の間に、グローバル金融業界における勝者と敗者を分ける要因は、伝統的な規模や資本力から、以下の4つの能力へと根本的に移行します。

  1. データとAIの活用能力: 顧客の取引データ、行動データ、さらには外部の非構造化データまでを統合・分析し、それを基に顧客一人ひとりに最適化された体験を提供し、同時にリスクを精緻に予測・管理する能力。これは、単なる技術導入ではなく、データ中心の意思決定文化を組織に根付かせることができるかどうかの問題です。
  2. エコシステムにおける戦略的ポジショニング: 金融機能が非金融サービスにシームレスに組み込まれていく中で、自らがプラットフォームの「主宰者(オーケストレーター)」としてエコシステムを構築・主導するのか、あるいは他社のプラットフォームに効率的な「部品(ユーティリティ)」として金融機能を提供するのか、その戦略的立ち位置を明確にし、実行する能力。
  3. サステナビリティへの移行を機会に転換する力: 気候変動リスクを規制対応やCSR活動として捉えるのではなく、中核的なリスク管理能力と新たな収益機会として捉え直す能力。リスク分析能力を武器に、企業の脱炭素化を支援するトランジション・ファイナンスといった巨大な市場を開拓できるかどうかが問われます。
  4. 組織の俊敏性 (Agility): 複雑なレガシーシステムや縦割りの組織構造といった「組織的慣性」を克服し、市場の変化や新たなテクノロジーに迅速に対応できる組織文化と運営モデルを構築する能力。

捉えるべき機会と備えるべき脅威

  • 機会 (Opportunities):
    1. AIによる生産性革命と新たな収益創出: バックオフィスの完全自動化による劇的なコスト削減と、フロントオフィスにおける超パーソナライズ化による顧客単価・ロイヤルティの向上が見込めます。
    2. エンベデッド・ファイナンス市場の成長: 非金融プラットフォームに金融機能を提供することで、新たな顧客接点と手数料収入を獲得できます。
    3. トランジション・ファイナンスという巨大な投融資機会: 世界的な脱炭素化の流れは、今後数十年間にわたり数十兆ドル規模の投融資需要を生み出します。
  • 脅威 (Threats):
    1. Big Techによる顧客接点の独占: Big Techがスーパーアプリなどを通じて顧客の日常的なインターフェースを支配し、金融機関が単なるインフラ提供者に追いやられるリスク。
    2. サイバー攻撃の高度化とシステミックリスク化: サプライチェーン攻撃など、一社の脆弱性が金融システム全体に波及するリスクが高まっています。
    3. 気候変動リスクの顕在化: 物理的リスクや移行リスクが現実のものとなり、保有する信用ポートフォリオが大きく劣化するリスク。
    4. 高度テクノロジー人材の獲得競争敗北: GAFAMとの人材獲得競争に敗れ、デジタル変革を担う人材を確保できず、競争から脱落するリスク。

戦略的オプションの提示と評価

上記の分析に基づき、取りうる3つの戦略的アーキタイプを提示し、評価します。

戦略オプションA: 「エコシステム・オーケストレーター」戦略

  • 概要: 自社がプラットフォームの中心となり、決済、バンキング、投資、さらには非金融サービスまでを統合した包括的なデジタル・エコシステムを構築します。BaaS(Banking-as-a-Service)基盤を外部のFinTechや事業会社に提供し、彼らを自社プラットフォームに取り込むことで、ネットワーク効果を最大化します。JPMorgan Chaseがこの戦略を志向しています。
  • メリット: 顧客との直接的な関係性を維持・拡大し、エコシステム内で生成される膨大なデータを独占できます。プラットフォーム利用料やデータ分析サービスの提供など、新たな収益源の確保も期待できます。
  • デメリット: Big Techとの直接的な競合は避けられず、巨額かつ継続的なテクノロジー投資が不可欠です。プラットフォーム構築には高度な技術力と強力なリーダーシップが求められます。
  • 評価: 成功した場合のリターンは極めて大きいですが、要求される投資とリスクも高いため、成功確率は中程度と評価します。

戦略オプションB: 「インテリジェント・ユーティリティ」戦略

  • 概要: 顧客との直接的なインターフェース競争からは一歩引き、自社の強みである信頼性、リスク管理能力、規制対応力を活かし、規制に準拠した安全な金融インフラ(勘定系システム、決済機能、与信審査エンジンなど)をAPIを通じてサービスとして提供することに特化します。フロントエンドの顧客体験は、外部のFinTechや事業会社に委ねます。
  • メリット: 自社のコアコンピタンスに経営資源を集中できます。フロントエンドの熾烈なマーケティング競争やUI/UX開発競争から距離を置くことができます。
  • デメリット: 顧客との関係性が希薄化し、ブランド価値が徐々に低下する「コモディティ化」のリスクがあります。APIの提供価格を巡る競争に陥りやすく、収益性が圧迫される可能性があります。
  • 評価: 既存の強みを活かしやすく、比較的実行可能性は高いですが、得られるリターンは限定的となる可能性があります。成功確率は高いと評価します。

戦略オプションC: 「AIパワード・スペシャリスト」戦略

  • 概要: 特定の事業領域(例:富裕層ウェルスマネジメント、トランジション・ファイナンス、SME向けサプライチェーンファイナンスなど)に経営資源を集中させます。AIやデータ分析を徹底的に活用して、その領域で他社を圧倒する専門性と効率性を確立し、グローバルなニッチ市場のリーダーを目指します。Goldman Sachsの資産・ウェルスマネジメント事業への注力などがこの要素を持っています。
  • メリット: 高い専門性を武器に、価格決定力と高い利益率を維持することが可能です。経営資源の集中により、迅速な意思決定とイノベーションを実現しやすくなります。
  • デメリット: 特定の市場や顧客セグメントへの依存度が高まるため、市場環境の急変に対する脆弱性があります。事業ポートフォリオの多角化によるリスク分散効果は限定的です。
  • 評価: 明確な強みを持つ領域があれば有効な戦略であり、成功確率は中程度と評価します。

最終提言とアクションプラン

提言:
自社が持つ現在の資産規模、グローバルなネットワーク、そしてブランドの信頼性を総合的に勘案した結果、戦略オプションA「エコシステム・オーケストレーター」戦略を長期的なビジョンとして掲げつつ、その実現に向けた過程において、自社が特に強みを持つ事業領域でオプションC「AIパワード・スペシャリスト」のアプローチを組み合わせるハイブリッド戦略を推奨します。これにより、短期的な収益性を確保しながら、長期的なプラットフォームの構築を目指します。

アクションプラン概要:

Phase 1: 基盤構築 (Year 1-2)

  • 目的: 全社的なデータ・AI基盤とAPIプラットフォームを構築し、将来のエコシステム戦略の土台を築く。
  • 主要アクション:
    1. CEO直下に全社横断の「AI・デジタル戦略室」を設置し、強力な権限を付与。
    2. サイロ化された顧客・取引データを統合データレイクへ集約するプロジェクトを最優先で実行。
    3. 外部開発者が利用可能なAPI基盤の全面的な刷新に着手。
    4. BaaS提供に向けたパイロットプロジェクトを、特定のパートナー企業と共同で開始。
  • 主要KPI: APIコール数、主要システムのクラウド移行率、データ統合プロジェクトの完了率、AIモデルの本番適用数。
  • 必要リソース: 大規模なテクノロジー投資(XX億ドル)、データサイエンティストおよびクラウドエンジニア(XXX名)の戦略的採用と育成。

Phase 2: エコシステム拡大と専門分野の深化 (Year 3-5)

  • 目的: 構築した基盤を活用し、外部パートナーを取り込みエコシステムを拡大すると同時に、特定分野でのAI活用を深化させ、収益化を実現する。
  • 主要アクション:
    1. 外部開発者向けポータルサイトを開設し、BaaSプラットフォームを本格的に外部へ提供開始。
    2. 「トランジション・ファイナンス専門部署」を新設。Phase 1で構築したAI気候リスク分析ツールを、顧客へのアドバイザリーサービスとして商用化。
    3. エンベデッド・ファイナンス分野で強みを持つFinTech企業への戦略的投資またはM&Aを実行。
  • 主要KPI: プラットフォームに参加するサードパーティ企業数、エンベデッド・ファイナンス経由の取引高、トランジション・ファイナンスの実行額と収益。
  • 必要リソース: M&Aおよび戦略投資のための予算(XX億ドル)、事業開発・アライアンス担当人員の増強。

第12章:付録

参考文献、引用データ、参考ウェブサイトのリスト

  • 国際決済銀行 (BIS) レポート
  • 金融安定理事会 (FSB) レポート
  • 欧州中央銀行 (ECB) レポート
  • 金融活動作業部会 (FATF) 勧告
  • JPMorgan Chase & Co. Annual Report
  • Bank of America Annual Report
  • HSBC Holdings plc Annual Report
  • BNP Paribas Integrated Report
  • Goldman Sachs Annual Report
  • Morgan Stanley Earnings Release
  • BlackRock, Inc. Earnings Release
  • The Vanguard Group, Inc. Investment Stewardship Annual Report
  • PayPal Holdings, Inc. Investor Day Release
  • Block, Inc. Investor Day Announcement
  • Grand View Research, Mordor Intelligence, McKinsey & Company, Boston Consulting Group (BCG), Oliver Wyman, Deloitte, PwC, KPMG, EY, Grant Thornton, IndustryARC, Cognitive Market Research, Maximize Market Research, MarkNtel Advisors, Lucintel, Ken Research, MarketsandMarkets等の市場調査・業界レポート
  • その他、本レポートで引用した学術論文、ニュース記事、専門家ブログ記事。

引用文献

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  3. Global Financial Services Market, Industry Growth and Forecast to 2030 – Ken Research, https://www.kenresearch.com/industry-reports/global-financial-services-market
  4. Life & Non-Life Insurance Market Size, Share Analysis 2030 – Mordor Intelligence, https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/global-life-and-non-life-insurance-market–growth-trends-and-forecast-2020—2025
  5. Sustainable Finance Market Size & Outlook, 2030 – Grand View Research, https://www.grandviewresearch.com/horizon/outlook/sustainable-finance-market-size/global
  6. Open Banking Market Size & Share | Industry Report, 2030, https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/open-banking-systems-market
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