煙のない未来へのジレンマ:RRPsと規制が再定義するたばこ産業の生存戦略
第1章:エグゼゼクティブサマリー
目的と調査範囲
本レポートは、たばこ業界が直面する構造的変革、すなわち従来の紙巻たばこ(可燃性たばこ)市場の不可逆的な縮小、加熱式たばこや電子たばこなどの「リスク低減製品(RRPs: Reduced-Risk Products)」への急速かつ大規模な事業ポートフォリオ転換、WHO FCTC(たばこ規制枠組条約)に基づく世界的な規制強化、そしてESG投資家からの厳しい視線という多層的な課題を分析し、持続可能な成長戦略を策定するための戦略的洞察を提供することを目的とする。調査対象は、紙巻たばこ、加熱式たばこ(HTPs)、電子たばこ(E-cigarettes/Vapes)、経口ニコチン製品(Oral Nicotine)等の主要製品カテゴリ、および関連するサプライチェーン、規制動向、技術革新を包括する。
最重要結論
たばこ業界は、単なる製品代替の時代ではなく、事業モデルそのものの根本的な再定義を迫られる「生存の岐路」に立たされている。この変革期における勝者と敗者を分ける要因は、以下の4点に集約される。
- 事業ポートフォリオのジレンマの克服: 業界は、依然として巨大なキャッシュを生み出すが縮小する紙巻たばこ事業と、巨額の先行投資を要するが成長を牽引するRRPs事業との間で、リソース配分のジレンマに直面している。このジレンマを克服し、紙巻事業を「キャッシュエンジン」として規律をもって管理し、そのキャッシュをRRPsの成長へ戦略的に再投資する能力が、企業の将来を決定づける。
- 「科学」を基軸とした社会的存続免許の獲得: RRPsへの移行は不可逆的であり、その成功は「製品力」「科学的実証能力」「規制対応力」の三位一体のケイパビリティに依存する。特に、「ハーム・リダクション(害の低減)」の価値を、科学的エビデンスに基づき規制当局、医療コミュニティ、そしてESG投資家に理解させ、事業の正当性を構築することが最重要課題である。これが企業の「社会的存続免許(Social License to Operate)」を左右する。
- AIケイパビリティの戦略的活用: AIは、もはや単なる効率化ツールではなく、R&Dからサプライチェーン、コンプライアンスに至るまで、競争優位を創出する核心的なドライバーである。AIを活用した製品開発の加速、サプライチェーンの最適化、そして違法取引対策や厳格な年齢認証といったコンプライアンスの徹底において後れを取る企業は、市場での競争力を急速に失う。
- 戦略の地域的適応性: RRPs市場は、加熱式たばこが優勢な市場(例:日本)と電子たばこが優勢な市場(例:米国、英国)に大別される。各地域の規制動向と消費者嗜好の違いを深く理解し、画一的ではない、地域最適化されたポートフォリオ戦略と市場投入戦略を実行する能力が、グローバルでの成功に不可欠である。
主要な戦略的推奨事項
上記の結論に基づき、たばこ業界の主要プレイヤーが今後5年から10年の時間軸で実行すべき戦略として、以下の4点を提言する。
- ポートフォリオの最適化とリソース配分の再定義: 紙巻たばこ事業を「キャッシュエンジン」として明確に位置づけ、コスト効率を極限まで高める。そこで創出されたキャッシュを、自社の技術的優位性が高く、かつ市場成長が見込めるRRPsカテゴリ(例:PMIの加熱式、BATのマルチカテゴリ)と、次世代の成長ドライバーとして期待される経口ニコチン市場へ重点的に再投資する。
- 「科学」を基軸としたステークホルダー・エンゲージメント戦略の構築: RRPsのハーム・リダクション効果に関する、独立検証可能な高水準の科学的エビデンスの蓄積に最優先で投資する。その成果を、規制当局、医療コミュニティ、ESG評価機関に対し、透明性の高い方法で積極的に開示・対話し、「責任ある変革者」としてのポジションを確立することで、規制リスクと資金調達コストを低減する。
- AIケイパビリティへの全社的投資: R&D(フレーバー開発、毒性予測)、サプライチェーン(需要予測、違法取引対策)、コンプライアンス(年齢認証)の3領域を重点分野と定め、専門人材の獲得と技術インフラへの投資を加速する。AIの活用度を事業KPIに組み込み、全社的なデジタル・トランスフォーメーションを推進する。
- 「Beyond Nicotine」戦略の段階的かつ戦略的な推進: 短期的には、既存のエアロゾル化技術やサプライチェーンとのシナジーが高い分野(例:CBD製品、ウェルネスデバイス)に注力する。長期的視点では、製薬・医療分野へのM&A機会を継続的に探索するが、中核事業との関連性が薄い大規模買収は、当面のリスクが高いと判断し、慎重なデューデリジェンスを重ねるべきである。
第2章:市場概観(Market Overview)
世界のたばこ市場は、紙巻たばこの販売数量の減少という構造的な課題に直面しながらも、RRPsの急成長と伝統的な製品における強力な価格決定力によって、市場価値全体としては成長を続けるという複雑な様相を呈している。これは「衰退産業」という単純な見方を覆すものであり、その実態は「変容産業」と捉えるのがより正確である。
世界のたばこ市場全体の市場規模と予測
複数の市場調査レポートは、市場規模の定義(製品範囲、税金の有無など)により具体的な数値に差異はあるものの、全体として市場価値が微増傾向にある点で一致している 1。
Fortune Business Insightsの分析によれば、世界のたばこ製品市場規模は2024年に1兆185.7億米ドルと評価され、2032年までには1兆2,605.9億米ドルに達すると予測されている。これは、予測期間中(2025年~2032年)に年平均成長率(CAGR)2.53%での成長を意味する 1。この成長力学の背景には、先進国を中心とした紙巻たばこの喫煙率低下と販売数量の減少を、RRPsカテゴリの二桁成長と、ニコチンの依存性に支えられた紙巻たばこの価格上昇が上回るという構造がある。たばこ産業は、需要の価格弾力性が低いという特性を活かし、増税分を上回る価格改定を継続することで、販売数量の減少を補って余りある収益を確保してきた歴史を持つ 5。この財務的な強靭さが、RRPsという新たな事業領域への巨額投資を可能にする原動力となっている。
| 年 | 紙巻たばこ(億米ドル) | RRPs(億米ドル) | 合計市場規模(億米ドル) | 対前年成長率 |
|---|---|---|---|---|
| 2020 | 9,015 | 685 | 9,700 | – |
| 2021 | 8,925 | 875 | 9,800 | 1.0% |
| 2022 | 8,830 | 1,090 | 9,920 | 1.2% |
| 2023 | 8,710 | 1,350 | 10,060 | 1.4% |
| 2024 (E) | 9,417 | 769 | 10,186 | 1.3% |
| 2025 (F) | 9,673 | 909 | 10,582 | 3.9% |
| 2032 (F) | 10,950 | 1,656 | 12,606 | (CAGR 2.53%) |
注: 2024年以降のデータはFortune Business Insights 1 に基づく。それ以前のデータは傾向を示すための推定値。RRPsの内訳(加熱式、電子たばこ等)はデータソースにより異なるため合算値で示す。
市場セグメンテーション分析
製品タイプ別
2024年時点においても、伝統的なたばこ製品(主に紙巻たばこ)が市場価値の約92.5%を占め、依然として業界の収益基盤であり続けている 2。しかし、成長のダイナミズムは完全にRRPs(次世代製品)セグメントに移行している。Fortune Business Insightsは、このセグメントが予測期間中に最も高い成長率を示すと分析している 2。
RRPsセグメント内部の構成は、地域によって大きく異なる。
- 加熱式たばこ(HTPs): 特にアジア太平洋地域で急成長を遂げている。同地域は2024年に世界のHTPs市場の68.9%を占める最大の市場である 6。市場を牽引するのは日本であり、2014年のIQOS発売以降、急速に市場が拡大し、2023年には国内たばこ販売額の約40%をHTPsが占めるに至った 6。製品形態としては、専用のたばこスティックを使用するタイプが市場の72.0%を占める主流である 6。
- 電子たばこ(E-cigarettes/Vapes): Global Market Insightsの予測では、市場規模は2024年の134億米ドルから2034年には616億米ドルへと、CAGR 16.2%という高い成長が見込まれる 7。地域別では北米が最大の市場であり、アジア太平洋が最も成長率の高い市場とされている 7。多様なフレーバーの存在が、特に若年層を含む新規ユーザー獲得の原動力となっている 7。
地域別
- アジア太平洋: 世界最大のたばこ市場であり、2024年には全体の48.87%を占める 2。この巨大市場を形成しているのが、約2.9億人という世界最大の喫煙者人口を抱える中国である 2。日本市場は、世界に先駆けてHTPsへの移行が進んだ特異な市場として注目される 9。
- 先進国(北米、欧州): 紙巻たばこの需要が構造的に減少し続ける一方で、RRPsへの移行が最も活発な地域である。北米は電子たばこの、欧州は電子たばこと加熱式たばこの両方が普及している 6。
- 新興国(中南米、中東・アフリカ): 依然として紙巻たばこの販売数量増が見込める成長市場として位置づけられているが、同時に先進国で導入された厳しい規制が今後急速に導入されるリスクも抱えている 2。
市場成長ドライバーと阻害要因
- 主要な成長ドライバー:
- RRPsの技術革新と普及: 加熱技術の向上、バッテリー性能の改善、フレーバーの多様化などが、消費者の紙巻たばこからの移行を促進している 11。
- ハーム・リダクションへの関心の高まり: 消費者が健康への懸念から、より害の少ない代替品を求める傾向が強まっている 7。
- 新興国市場の経済成長: アジアやアフリカの一部地域における可処分所得の増加が、たばこ製品への支出を押し上げる可能性がある 10。
- 主要な阻害要因:
- 世界的な規制強化: WHO FCTCに基づき、各国でたばこ税の引き上げ、広告・販促の全面禁止、警告表示の強化、プレーン・パッケージ化などが進んでいる 10。これらの措置は製品の魅力を削ぎ、需要を抑制する。
- 健康意識の高まりと社会的スティグマ: 喫煙が健康に及ぼす害についての認識が広まり、喫煙行為そのものに対する社会的な非難が強まっていることが、需要減少の根本的な要因である 10。
- 違法取引の拡大: 高い税金が課される正規のたばこ製品を避け、安価な密輸品や偽造品に需要が流れる問題が深刻化している。これは、正規メーカーの売上と政府の税収の両方に打撃を与える 10。
業界の主要KPIベンチマーク分析
- 出荷量の推移: 主要各社のIR資料を分析すると、紙巻たばこの出荷量が前年比で数パーセントずつ減少を続ける一方、RRPs関連製品(PMIの加熱式たばこ用スティック、BATの電子たばこ用消耗品など)の出荷量が二桁成長を続けていることが確認できる。例えば、PMIは2026年までに加熱式たばこ用スティックの出荷量を1,800億~2,000億本に拡大するという野心的な目標を掲げている 15。これは、事業の重心が急速にRRPsへと移行していることを定量的に示している。
- 市場シェア: 紙巻たばこ市場はBig Tobaccoによる寡占状態が維持されているが、競争の主戦場はRRPs市場へと移っている。加熱式たばこ市場では、先行したPMIのIQOSが高いシェアを維持しているが、BATのgloやJTIのPloomが追随している 6。電子たばこ市場では、BATのVuseがグローバルで高いシェアを持つが、地域ごとに多数のプレイヤーが乱立し、競争はより流動的である 17。
- 営業利益率とキャッシュフロー: 紙巻たばこ事業は、成熟市場でありながらも高い価格決定力により、依然として30~40%台の高い営業利益率と潤沢なフリーキャッシュフローを生み出す「キャッシュカウ」である 5。対照的に、RRPs事業は研究開発費、マーケティング費、設備投資といった巨額の先行投資が必要なため、現時点での利益率は低い、あるいは赤字の状態にある企業が多い。しかし、PMIの2025年第3四半期決算では、スモークフリー事業が総粗利益の42%超を占め、収益性が着実に向上していることが示された 20。BATも「New Categories」事業の赤字幅が縮小し、収益貢献度が改善していることを報告しており、規模の経済が働き始めていることを示唆している 21。
第3章:外部環境分析(PESTLE Analysis)
たばこ業界は、政治、経済、社会、技術、法規制、環境というあらゆるマクロ環境要因から、複雑かつ強力な影響を受けている。これらの要因をPESTLEフレームワークで分析することは、業界が直面する機会と脅威を体系的に理解する上で不可欠である。
政治(Politics)
- WHO FCTCの履行状況: たばこ規制枠組条約(FCTC)は、業界にとって最も影響力の大きい国際的な政治的枠組みである。現在183カ国が批准しており、その影響はグローバルに及ぶ 24。条約が推奨するMPOWERパッケージ(たばこ使用と予防政策の監視、人々をたばこの煙から守る、禁煙支援の提供、たばこの危険性についての警告、広告・販売促進・後援の禁止の徹底、たばこ税の引き上げ)の履行が各国で進められている 13。2025年のWHO報告によれば、世界の人口の75%以上(61億人)が、少なくとも一つの最高レベルのMPOWER措置によって保護されている 14。これは、今後も広告宣伝の制限、パッケージ規制の強化、増税といった事業活動への直接的な制約が、世界的に拡大・強化され続けることを示唆している。
- 公衆衛生政策と税収のバランス: 各国政府は、喫煙率低下という公衆衛生上の目標と、たばこ税という重要な財源確保との間で常にバランスを取ることを求められる 10。この政治的ジレンマが、将来の増税のペースや、RRPsに対する新たな課税体系の導入方針を左右する。RRPsを紙巻たばこと同等に高く課税する国もあれば、ハーム・リダクションの観点から税率を低く抑える国もあり、その政策判断が各市場におけるRRPsの価格競争力と普及速度に直結する。
- 違法取引への国際的な取り締まり: 違法取引(密輸・偽造)は、世界のたばこ市場の約12%を占め、各国政府に年間400億ドル以上の税収損失をもたらしていると推定される 25。これに対処するため、FCTCの「たばこ製品の不法な取引の撲滅に関する議定書」に基づき、製品の追跡・認証(Track & Trace)システムの導入が国際的に進められている。これは、企業にとってはコンプライアンスコストの増加を意味するが、同時に自社ブランドの偽造品を市場から排除し、サプライチェーンの透明性を確保する機会ともなりうる。
経済(Economy)
- 世界経済の景気変動: 景気後退期には、消費者の可処分所得が減少し、支出に対してより慎重になる。これにより、高価格帯のプレミアムブランドから安価な価格帯のブランドへの「ダウントレーディング」が起こりやすい 26。RRPsは、デバイス購入という初期投資が必要なため、景気後退は紙巻たばこからの移行を一時的に鈍化させるリスク要因となる。消費者は、短期的な支出を抑えるために、より安価な紙巻たばこに留まるか、あるいはRRPsの中でもランニングコストの低い製品を選択する可能性がある 28。
- インフレと為替レートの変動: 世界的なインフレは、葉たばこ、電子部品、物流といったサプライチェーン全体のコストを押し上げる。しかし、たばこ業界はニコチンの依存性に支えられた強い価格決定力(プライシングパワー)を持っており、コスト上昇分を製品価格に転嫁することが比較的容易である 5。2024年から2025年にかけてのインフレ局面でも、たばこ製品の価格上昇率は消費者物価指数(CPI)全体の上昇率を上回っている 29。また、グローバル企業にとっては、為替レートの変動が、葉たばこの国際調達コストや、海外市場からの収益を自国通貨に換算する際の価値に直接影響を与えるため、重要なリスク管理項目となる。
社会(Society)
- 健康意識の高まりと社会的スティグマ: 健康的なライフスタイルへの関心は世界的なメガトレンドであり、喫煙がもたらす健康リスクに関する科学的知見の普及と相まって、喫煙行為に対する社会的な非難(スティグマ)は強まる一方である 10。これが、喫煙率低下の最も根本的な要因であり、消費者がRRPsへと移行する最大の動機となっている 11。
- 「ハーム・リダクション」の受容性: 「完全な禁煙が困難な喫煙者にとって、より害の少ない代替品への移行を促す」というハーム・リダクションの概念は、公衆衛生戦略として一部の国(例:英国)や専門家の間で支持を広げている 30。しかし、WHOをはじめとする多くの保健機関は、RRPsの長期的な健康への影響が不明であることや、特に若年層のニコチン使用開始(ゲートウェイ効果)に繋がる懸念から、依然として懐疑的・批判的な立場を取っている 24。この社会的なコンセンサスの欠如が、RRPs事業の正当性確保における最大の課題である。
- ESG投資家からの圧力: 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視するESG投資の拡大は、たばこ業界にとって深刻な挑戦となっている。多くの年金基金や資産運用会社が、倫理的な観点からたばこ関連企業を投資対象から除外(ダイベストメント)する動きを強めている 32。これは、企業の資金調達コストを増大させるだけでなく、企業の評判にも影響を与える。この圧力が、PMIによる製薬会社Vecturaの買収 35 のように、各社が「Beyond Nicotine」戦略を加速させる強力な誘因となっている。
技術(Technology)
- RRPsの技術革新: 業界の競争の主戦場は、RRPsの技術開発へと完全に移行している。加熱式たばこでは、たばこスティックを直接加熱するブレード式から、周囲から均一に加熱する誘導加熱式(例:PMIのIQOS ILUMA)へのシフトが進み、味わいの向上とメンテナンス性の改善が図られている 36。バッテリー技術の進化は、デバイスの小型化、充電時間の短縮、使用可能時間の延長に貢献している 12。また、ニコチンソルトを用いたリキッドは、従来のニコチンリキッドよりも滑らかな吸い心地と効率的なニコチン吸収を実現し、電子たばこの満足度を大きく向上させた。
- スマートデバイス化とデータ活用: 最新のRRPsデバイスには、Bluetoothを介してスマートフォンアプリと連携する機能が搭載され始めている 12。これにより、ユーザーは自身の使用頻度やパターンを追跡・管理できるようになる。企業側にとっては、個人情報保護規制を遵守しつつ、ユーザーから得られる利用データを製品改良や新たなサービス開発に活用する道が開かれる。しかし、これは同時に、データプライバシーの保護や、データを利用した過度なマーケティングに対する新たな規制リスクを生む可能性もはらんでいる。
法規制(Legal)
- RRPsの製品承認プロセス: 米国食品医薬品局(FDA)が課す市販前承認申請(PMTA)は、RRPs市場における事実上の参入障壁として機能している 38。PMTAの承認を得るためには、製品が「公衆衛生の保護に資する」ことを示す膨大な科学的データ(化学分析、毒性試験、臨床試験など)の提出が求められ、多大な時間と費用を要する。これにより、科学的実証能力に乏しい中小企業は市場から淘汰され、承認を得た大手企業にとっては強力な競争優位となる。2025年には、FDAはニコチンパウチのPMTA審査を効率化するパイロットプログラムを開始しており、製品のリスクに応じた審査プロセスの差別化が進む可能性を示唆している 39。
- フレーバー規制、ニコチン含有量上限規制、プレーン・パッケージ: これらは世界的に拡大している3大規制である。特に若年層への訴求力が高いとされるフルーツやミントなどのフレーバー付き製品の禁止は、米国やEUで強力に推進されている 41。ニコチン含有量に上限を設ける規制や、ブランドロゴや色彩を排除し、規定された色とフォントのみを使用させるプレーン・パッケージ義務化も、製品の魅力を削ぎ、ブランド間の差別化を困難にする 14。
- 広告・宣伝の抜け穴への対策: 多くの国でテレビ、新聞、雑誌などでのたばこ広告は禁止されているが、SNSのインフルエンサーを通じた宣伝など、デジタルメディアにおける新たなマーケティング手法が登場している。規制当局は、こうした「抜け穴」を塞ぐための法整備を急いでおり、企業のマーケティング活動はさらに制約される方向にある。
- 健康被害に関する訴訟リスク: 紙巻たばこに関する訴訟は継続しているが、今後はRRPsの長期的な健康影響や、若年層へのマーケティングが意図的であったかどうかが新たな訴訟の争点となる可能性がある。
環境(Environment)
- 葉たばこ栽培の環境負荷: 葉たばこの栽培は、大量の水資源を消費し、農薬や化学肥料の使用による土壌汚染や生態系への影響が懸念されている。サプライチェーンの持続可能性を重視するESGの観点から、企業は環境負荷の低減とトレーサビリティの確保を求められている。
- 吸い殻(フィルター)のプラスチックごみ問題: たばこのフィルターの主成分であるセルロースアセテートはプラスチックの一種であり、自然界で分解されにくい。ポイ捨てされた吸い殻は、海洋プラスチックごみの主要な原因の一つとなっている。欧州連合(EU)の使い捨てプラスチック(SUP)指令は、フィルター付きたばこ製品のメーカーに対し、清掃費用の負担や、製品へのプラスチック含有表示などを義務付けている 43。これは、製品ライフサイクル全体にわたる企業の責任を問うものであり、新たなコスト要因となる。
- RRPsデバイスの廃棄・リサイクル: RRPsの普及は、リチウムイオン電池、プラスチック製のカートリッジやポッド、電子基板といった新たな電子廃棄物(E-waste)の問題を生み出している 46。これらのデバイスは有害物質を含み、適切な回収・リサイクルシステムの構築が急務である。規制が未整備な国も多いが、今後、電子機器リサイクル法のような規制の対象となる可能性が高い。Altriaは、使い捨てVapeの持続可能な回収・リサイクルソリューションを公募するなど、この問題への対応を始めている 48。
第4章:業界構造と競争環境の分析(Five Forces Analysis)
たばこ業界の収益構造と競争環境は、伝統的な紙巻たばこ市場と急成長するRRPs市場とで、その力学が大きく異なる「二重構造」を呈している。マイケル・ポーターの五つの力(Five Forces)フレームワークを用いてこの構造を分析することで、業界の収益性の源泉と今後の競争の方向性について深い洞察を得ることができる。
供給者の交渉力
- 葉たばこ農家(組合): 伝統的に供給者の交渉力は弱い。世界中に多数存在する葉たばこ農家が、少数の巨大たばこメーカー(Big Tobacco)に対して販売するという買い手寡占の市場構造であるため、価格決定権はメーカー側が強く握っている。しかし近年、サプライチェーンにおける児童労働や人権問題に対する監視が厳しくなっており 49、メーカーは農家に対してより厳格な労働基準の遵守を求める必要に迫られている。これは、管理コストの増加という形で、間接的に供給者側の影響力を高める要因となりうる。
- RRPs関連部品(リチウムイオン電池、半導体、特殊香料)メーカー: RRPsのサプライチェーンは、エレクトロニクス産業や化学産業と深く結びついており、これらの部品メーカーの交渉力は比較的強い。特に、リチウムイオン電池や制御用半導体は、スマートフォンや電気自動車など、他産業からの需要も旺盛である 52。特定の高性能な部品を供給できるメーカーは限られており、地政学的なリスク(例:米中間の半導体摩擦)も相まって、供給の安定確保がたばこメーカーにとっての新たな経営課題となっている 54。これにより、部品サプライヤーへの依存度が高まり、その交渉力は葉たばこ農家とは比較にならないほど強い。
買い手の交渉力
- 消費者: ニコチンの持つ強い依存性により、消費者の価格弾力性は低く、ブランド・ロイヤルティは他の消費財に比べて依然として高い。これが、業界の高い収益性を支える根幹である。しかし、RRPsの登場は、消費者に「紙巻たばこを吸い続ける」以外の選択肢を提供した。消費者は、健康への懸念、価格、利便性、社会的受容性(匂いの少なさなど)といった多様な基準に基づき、ブランドを乗り換えるだけでなく、製品カテゴリ自体を乗り換える(スイッチングする)ことが可能になった 56。この「カテゴリ・スイッチング」の可能性が、実質的に消費者の交渉力を高めていると言える。
- 卸売・小売業者: たばこ製品は多くの小売店にとって重要な集客商品であり、従来はメーカーと小売業者の関係は強固であった。しかし、多くの国で導入されている店頭での製品陳列禁止(ディスプレイバン)や広告規制は、店頭でのブランド訴求力を大きく削ぐ 58。これにより、小売業者が特定のブランドを優遇するインセンティブが減少し、メーカーに対する小売業者の交渉力が相対的に低下する可能性がある。一方で、年齢確認の徹底など、販売に関する法的責任が増大しており、コンプライアンスを遵守できる信頼性の高い小売チャネルの重要性は増している。
新規参入の脅威
- 紙巻たばこ市場: 新規参入の脅威は「皆無に近い」。MarlboroやCamelといった確立された強力なブランド力、世界中に張り巡らされた複雑な流通網、各国での厳格な法規制に対応するための莫大なコンプライアンスコスト、そして既存企業が享受する圧倒的な規模の経済が、乗り越え不可能な参入障壁を形成している。
- RRPs市場: 紙巻たばこ市場と比較すれば参入障壁は低い。事実、米国の電子たばこ市場では、スタートアップであったJUULが、革新的な製品デザインと巧みなマーケティング戦略で一時的に市場を席巻した 61。しかし、その後の展開は、この市場の参入障壁が急速に高まっていることを示している。JUULの成功は規制当局の厳しい監視を招き、FDAのPMTA(市販前承認申請)のような厳格な製品承認プロセスが導入された 38。このプロセスは、膨大な科学的データの提出を要求するため、資金力と研究開発能力に乏しい新規参入者を事実上排除する効果を持つ。さらに、PMIやBATといった既存大手がRRPs関連技術で膨大な特許網を構築しており 63、これもまた新規参入を困難にしている。結果として、RRPs市場もまた、既存のBig Tobaccoによる寡占化が進む可能性が高い。
代替品の脅威
- 紙巻たばこにとってのRRPs: これは単なる代替品ではなく、自社のレガシー事業を破壊する「自己破壊的イノベーション」であり、業界にとって最大の脅威かつ最大の機会である。
- 禁煙補助剤(NRTs): ニコチンパッチ、ガム、スプレーなどの医薬品は、禁煙を目指す喫煙者にとっての代替品である。NRT市場は、健康意識の高まりを背景に安定した成長が見込まれている(CAGR 4.8%~8.3%) 64。しかし、これらの製品は「治療」を目的としており、喫煙が提供する「嗜好性」や「習慣的行為」といった価値を代替するものではないため、直接的な競合の度合いは限定的である。
- その他の嗜好品(カンナビス市場など): カンナビス(大麻)の合法化が世界各地で進むにつれて、リラクゼーションや気分転換といった目的で消費される嗜好品として、たばこ製品と競合する可能性が指摘されている。実際、AltriaやBATなどの大手たばこ企業は、カナダのカンナビス企業への出資などを通じて、この新たな市場への関与を深めている 67。これは、将来の事業ポートフォリオを考える上で無視できない脅威であり、同時に新たな成長機会ともなりうる。
業界内の競争
- グローバルな寡占状態: 世界のたばこ市場(中国国営企業を除く)は、Philip Morris International (PMI), British American Tobacco (BAT), Japan Tobacco International (JTI), Imperial Brands, Altria Group (主に米国市場) の大手5社、いわゆる「Big Tobacco」によって支配されている寡占市場である 2。
- 競争の主戦場のシフト: これまでの競争は、紙巻たばこ市場におけるブランドシェアの奪い合いが中心であった。しかし、現在、競争の主戦場はRRPs市場の覇権争いへと明確かつ急速にシフトしている。各社は、R&Dに年間数十億ドル規模の投資を行い、より魅力的で、より害の少ないとされる製品の開発を競っている。PMIが加熱式たばこ「IQOS」に経営資源を集中投下する一方、BATは加熱式「glo」、電子たばこ「Vuse」、経口ニコチン「Velo」を擁する「マルチカテゴリ」戦略で対抗するなど、各社の戦略の違いが競争をさらに複雑にしている。このRRPs市場での勝敗が、今後の業界地図を塗り替えることになる。
第5章:サプライチェーンとバリューチェーン分析
たばこ業界の変革は、製品ポートフォリオだけでなく、その根幹をなすサプライチェーンとバリューチェーンの構造をも劇的に変化させている。伝統的な農業ベースのモデルから、テクノロジーと科学が主導する複雑なエコシステムへと移行しつつある。
サプライチェーン分析
- 伝統的なサプライチェーンの構造と課題:
伝統的な紙巻たばこのサプライチェーンは、①葉たばこ農家による栽培・収穫、②葉たばこの買い付け・一次加工(乾燥・選別)、③ブレンド・加工・製造(巻上・包装)、④製品の物流・倉庫管理、⑤卸売業者への販売、⑥小売店での販売、という直線的な構造を持つ。このサプライチェーンは長年にわたり最適化されてきたが、深刻なESGリスクを内包している。特に、主要生産国における児童労働や、農家に対する不公正な取引慣行といった人権問題は、Human Rights WatchなどのNGOから繰り返し指摘されており、企業の評判リスクとなっている 49。また、大量の水消費や農薬使用による環境負荷も大きな課題である。 - RRPs特有のサプライチェーンの複雑性:
RRPsのサプライチェーンは、伝統的なものとは全く異なる。加熱式たばこや電子たばこのデバイスは、リチウムイオン電池、半導体チップ、ヒーター、プラスチック筐体など、多数の電子部品から構成される。これらの部品は、世界中の多様なサプライヤーから調達され、その多くは中国や東南アジアに集中している 53。これにより、サプライチェーンはグローバル化し、複雑性が飛躍的に増大した。その結果、以下のような新たなリスクに直面している。- 地政学リスク: 米中間の技術覇権争いに伴う半導体の輸出規制などは、製品の安定供給を脅かす直接的なリスクとなる 54。
- 供給網の脆弱性: 特定の地域やサプライヤーへの依存は、自然災害やパンデミック(COVID-19での経験のように)による供給網の寸断リスクを高める。
- 品質管理の複雑化: 多岐にわたる電子部品の品質を担保し、最終製品としての安全性と信頼性を確保するための管理プロセスが、より高度かつ複雑になる。
- 違法取引とサプライチェーン防衛:
密輸や偽造品といった違法取引は、正規のサプライチェーンに甚大な経済的損失を与えるだけでなく、ブランド価値を毀損し、政府の税収を奪う。この問題に対処するため、WHO FCTCの「不法取引撲滅議定書」に基づき、製品の追跡・認証(Track & Trace)システムの導入が国際的な標準となりつつある。これは、個々の製品パッケージに固有の識別コードを付与し、製造から最終販売点までの流通過程を追跡可能にする仕組みである。たばこ業界は共同で「Codentify」というシステムを開発・推進してきたが、このシステムは業界自身によってコントロールされているため、その独立性と実効性を巡って公衆衛生団体から強い批判を受けている 25。今後、規制当局はより独立性の高い第三者機関によるシステムの運用を求める可能性が高い。
バリューチェーン分析
- 価値の源泉のシフト:
たばこ業界における価値創造の源泉は、根本的な転換点を迎えている。- 伝統的モデル: 価値は、Marlboroに代表されるような長年かけて築き上げた「ブランド力」と、あらゆる小売店に製品を届ける「広範な流通網」という、バリューチェーンの下流(Downstream)に集中していた。マスマーケティングによってブランドイメージを構築し、流通チャネルを支配することが競争優位の核心であった。
- 新興モデル: 広告規制の強化によりブランド構築が困難になる一方、RRPs市場への参入には科学的な正当性が不可欠となった。その結果、価値の源泉はバリューチェーンの上流(Upstream)へとシフトしている。具体的には、①製品のハーム・リダクションを証明するための「R&D能力と科学的実証データ」、②革新的なデバイスやニコチン送達技術を守るための「特許ポートフォリオ」、③PMTAのような複雑な承認プロセスを乗り越える「規制対応能力」が、新たな競争優位の源泉となっている。PMIが2008年以降に140億ドル以上をR&Dに投じ 74、吸入治療薬技術を持つVecturaを買収したこと 75 は、この価値の源泉シフトを象徴する戦略的な動きである。
- 規制強化によるバリューチェーンへの制約:
バリューチェーンの中で最も大きな制約を受けているのは、間違いなく「マーケティング・販売」の機能である。テレビ、ラジオ、新聞、インターネット広告の全面禁止、スポーツイベント等のスポンサーシップ禁止、店頭での製品陳列禁止(ディスプレイバン)といった一連の規制により、伝統的なマーケティング手法はほぼ封じられている。製品パッケージ自体が唯一残された重要なコミュニケーション媒体であったが、これもプレーン・パッケージ化の導入によってその機能が大きく制限されつつある 14。この制約が、製品そのもののイノベーション(技術、デザイン、味)を、他業界以上に重要な差別化要因へと押し上げている。
第6章:顧客需要の特性分析
たばこ市場の変革を理解するためには、消費者がどのように多様化し、何を基準に製品を選択しているのかを深く分析することが不可欠である。もはや「喫煙者」という単一の顧客像は存在せず、その動機や行動は複雑に細分化されている。
消費者セグメンテーション分析
現在のたばこ・ニコチン製品の消費者は、その使用実態に基づき、主に以下の5つのセグメントに分類できる。
- 紙巻喫煙者(移行拒否層 / Combustible Loyalists):
- 人口動態・特性: 比較的高齢層に多く、長年の喫煙習慣を持つ。変化を好まず、RRPsの技術や使用方法に抵抗を感じる傾向がある。
- 使用動機: 慣れ親しんだ味や吸いごたえ、長年の習慣としての行為そのもの(火をつける、煙を吐き出すなど)を重視する。
- ブランド選択: Marlboro, Newport, Camelといった伝統的な強力ブランドへの忠誠心が非常に高い 77。価格に敏感な層は、より安価なバリューブランドを選択する。
- 戦略的意味合い: このセグメントは縮小傾向にあるが、依然として市場の最大多数を占める。彼らをいかに維持し、そこから得られる利益を最大化するかが、RRPsへの投資原資を確保する上で極めて重要となる。
- デュアルユーザー(併用者 / Dual Users):
- 人口動態・特性: 幅広い年齢層に分布するが、特に30代~40代に多い。紙巻たばこからRRPsへの移行過程にある、最大の顧客セグメント。
- 使用動機: 健康への懸念から紙巻の消費を減らしたいが、完全にはやめられない。TPOに応じて製品を使い分ける(例:自宅や車内では匂いの少ないRRPs、屋外や飲酒時には紙巻) 78。
- 行動特性: 一般的にニコチン依存度が高い傾向が見られる 78。RRPsだけでは紙巻と同等の満足感が得られないと感じている場合が多い。
- 戦略的意味合い: RRPs事業の成長の鍵を握る最重要セグメント。彼らが抱える不満点(味、満足感、デバイスの利便性など)を解消する製品改良や、完全な移行を促すためのコミュニケーション戦略が、企業の市場シェアを決定づける。
- RRPs専業ユーザー(Exclusive RRP Users):
- 人口動態・特性: 若年層から中年層が中心。健康意識、テクノロジーへの関心、社会的受容性を重視する。紙巻たばこの経験がある「スイッチ組」と、最初からRRPsを使用する「新規ユーザー」に大別される。
- 使用動機: 紙巻たばこの匂いや灰、副流煙を嫌い、よりクリーンで社会的に受け入れられやすい代替品を求める 16。デバイスのデザイン性やガジェットとしての魅力も動機の一つ。
- セグメント内分類: 加熱式たばこユーザー(例:IQOS, glo)と電子たばこユーザー(例:Vuse)では嗜好が異なる。前者はたばこ葉由来の味わいや紙巻に近い体験を、後者はフレーバーの多様性や蒸気の量を重視する傾向がある。
- 戦略的意味合い: RRPs市場の中核をなす顧客層。彼らのロイヤルティを獲得し、他社製品への流出を防ぐことが競争の焦点となる。
- 経口ニコチン製品ユーザー(Oral Nicotine Users):
- 人口動態・特性: VeloやZYNといったニコチンパウチのユーザー。煙や蒸気を一切伴わないため、使用場所を選ばない利便性を求める層。元喫煙者だけでなく、Vapeユーザーからの移行も見られる。
- 使用動機: 「究極のディスクリート(目立たない)製品」としての価値。職場や公共交通機関など、喫煙やベイピングが不可能な状況でもニコチンを摂取したいというニーズに応える 80。
- 戦略的意味合い: 急成長している新たな市場セグメント。Vape規制が厳しい地域や、よりクリーンなニコチン摂取方法を求める消費者層を取り込むための戦略的製品カテゴリ。
- 禁煙意向者(Quitters):
- 特性: ニコチンからの完全な離脱を目指す層。ニコチン置換療法(NRT)製品(パッチ、ガムなど)や禁煙外来を利用する。
- 戦略的意味合い: たばこ業界にとっては流出顧客であるが、「Beyond Nicotine」戦略の一環として、一部企業はこのセグメントを対象としたウェルネス製品や、将来的には医薬品分野での事業機会を模索している 82。
| 顧客セグメント | 人口動態・特性 | 主要な使用動機 | 購買決定要因(KBF) | ブランド選択の例 | 企業への戦略的意味合い |
|---|---|---|---|---|---|
| 紙巻喫煙者(移行拒否層) | 高齢層、変化への抵抗 | 慣れ親しんだ味、長年の習慣 | 味、ニコチン満足度、価格、ブランドの伝統 | Marlboro, Newport, Winston | 収益最大化のための「キャッシュエンジン」。価格戦略が重要。 |
| デュアルユーザー(併用者) | 30~50代、移行過程 | 健康懸念、TPOに応じた使い分け | 紙巻に近い満足感、デバイスの信頼性、ランニングコスト | IQOS & Marlboro, Vuse & Lucky Strike | RRPs市場拡大の鍵を握る最重要ターゲット。完全移行を促す製品・マーケティングが必須。 |
| RRPs専業ユーザー | 若年~中年層、テクノロジー志向 | 匂いのなさ、社会的受容性、健康懸念の低減 | デバイスのデザイン・性能、フレーバーの多様性、ブランドイメージ | IQOS, Vuse, Ploom | RRPs市場のコア顧客。ブランドロイヤルティの構築と維持が競争の焦点。 |
| 経口ニコチン製品ユーザー | 幅広い年齢層、利便性・秘匿性重視 | 場所を選ばないニコチン摂取 | フレーバー、ニコチン強度、ポーチの快適さ、価格 | ZYN, Velo | 急成長する新市場。Vape規制の厳しい地域での代替需要を取り込む戦略的製品。 |
| 禁煙意向者 | 全ての年齢層、ニコチン離脱志向 | 健康の完全な回復 | 禁煙成功率、医師の推奨、副作用の少なさ | Nicorette, Nicoderm | 顧客流出セグメントだが、「Beyond Nicotine」戦略における将来的な事業機会の対象。 |
購買決定要因(KBF)の変化
RRPsの登場により、消費者が製品を選択する際の判断基準(Key Buying Factors)は大きく変化・多様化した。
- 伝統的要因:
- 味と満足感: ニコチン製品である以上、中核的な価値は変わらない。紙巻たばこに近い味わいや、ニコチンによる満足感は、依然として最も重要なKBFである。
- 価格: 特に価格に敏感な層にとっては、初期費用(デバイス)と継続費用(消耗品)の合計コストが重要な判断材料となる。
- ブランドイメージ: 長年培われてきたブランドへの信頼感や愛着は、特に紙巻喫煙者において根強い影響力を持つ 77。
- RRPsに特有の新たな要因:
- 健康への懸念低減: 「燃やさないことによる害の低減」という認識は、消費者が紙巻たばこからRRPsへ移行する最大の動機である 56。
- 社会的受容性: 自身の衣服や呼気に付着する匂いが少ないこと、灰が出ないこと、そして周囲の人々への副流煙の影響が少ない(あるいは無い)と認識されていること。これらは、家族や職場、友人関係を重視する消費者にとって非常に強力なKBFとなっている 16。
- 利便性とデザイン: デバイスの持ち運びやすさ、充電の容易さ、メンテナンスの手間、そしてガジェットとしてのデザイン性や所有する喜びも、特に若年層にとって重要な選択基準となっている 36。
- フレーバーの多様性: 特に電子たばこ市場において、フルーツ、デザート、ドリンク系など、数千種類にも及ぶフレーバーの存在が、製品選択の大きな魅力となっている 83。
若年層の動向とゲートウェイ問題
RRPs、特にフレーバー付き電子たばこが、これまでニコチン製品を使用したことのない若年層の使用を開始させ、将来的に紙巻たばこの喫煙へと移行させる「ゲートウェイ(入口)」になっているのではないかという懸念は、公衆衛生上の最大の論点であり、規制強化の原動力となっている。
- ゲートウェイ効果に関する研究: 複数の研究が、若年期の電子たばこの使用が、その後の紙巻たばこの喫煙開始リスクを有意に高めることを示唆している。2025年に行われた大規模なレビュー研究では、電子たばこを使用した若者は、使用しなかった若者に比べて、将来的に紙巻たばこを吸い始める可能性が約3倍高いことが示された 31。
- JUULの事例: 2017年から2018年にかけて米国で若年層のVape使用率が急増した「JUUL現象」は、この問題の象徴である。USBメモリのような斬新なデザイン、若者にアピールするフレーバー、SNSを駆使したマーケティング戦略が、意図せずして(あるいは意図的に)若年層の爆発的な需要を喚起したと批判されている 61。
- 規制当局の対応: この問題に対し、FDAをはじめとする世界中の規制当局は、フレーバー付き電子たばこ(特にカートリッジ式)の販売禁止、購入可能年齢の引き上げ、オンライン販売における厳格な年齢認証の義務化といった対策を次々と導入している 39。企業のマーケティング活動は、若年層にアピールしないよう厳しく監視されており、コンプライアンス違反は事業の存続を揺るがす重大なリスクとなる。
第7章:業界の内部環境分析
外部環境の激変に対応し、持続的な競争優位を築くためには、企業が保有する内部の経営資源(リソース)と組織能力(ケイパビリティ)を深く理解することが不可欠である。ここでは、VRIOフレームワークを用いて大手たばこ企業の競争優位の源泉を分析し、人材や生産性といった内部環境の変化を考察する。
VRIO分析
VRIOフレームワークは、経営資源やケイパビリティが「経済的価値(Value)」「希少性(Rarity)」「模倣困難性(Inimitability)」「組織(Organization)」の4つの観点から持続的な競争優位の源泉となりうるかを評価する手法である。
- 経済的価値(Valuable):
- 豊富なキャッシュフロー: 紙巻たばこ事業が生み出す年間数十億ドル規模の安定したキャッシュフローは、RRPsへの巨額な研究開発投資や「Beyond Nicotine」戦略のためのM&Aを可能にする、最も価値ある経営資源である。
- グローバルな流通・販売網: 長年にわたり世界中に構築された、卸売・小売業者との強固な関係性を含む流通ネットワークは、新製品(RRPs)を迅速に市場に投入するための強力な基盤となる。
- 強力なブランドポートフォリオ: Marlboro 87 やLucky Strikeといったグローバルブランドは、依然として高い認知度と顧客ロイヤルティを誇り、価格決定力の源泉となっている。
- 希少性(Rare):
- 大規模なR&D能力と科学的実証データ: FDAのPMTAのような厳格な規制要件を満たすためには、毒物学、臨床医学、エアロゾル科学など多岐にわたる分野での高度な研究開発能力と、それによって蓄積された膨大な科学的データが必要である。このようなリソースを保有する企業は、世界でもBig Tobacco数社に限られる。
- 高度な規制対応・ロビーイング能力: 各国の複雑な法規制や税制の変更に迅速に対応し、時には政策形成プロセスに影響を与える渉外・法務能力は、一部のグローバル企業のみが持つ希少なケイパビリティである。
- 模倣困難性(Inimitable):
- 上記の「大規模なR&D能力」や「高度な規制対応能力」は、単なる資金力だけでなく、長年にわたる専門人材の育成、組織知の蓄積、そして規制当局との関係構築の賜物である。新規参入者がこれを短期間で模倣することは極めて困難であり、これが高い参入障壁を形成している。同様に、グローバルな流通網も、物理的なインフラと人間関係のネットワークが複雑に絡み合っており、模倣は容易ではない。
- 組織(Organized):
- 持続的競争優位への最大の課題: 大手たばこ企業が上記の価値ある、希少で、模倣困難なリソースを最大限に活用し、持続的な競争優位を確立できるかどうかは、最終的に「組織」にかかっている。伝統的な紙巻たばこ事業に最適化された階層的な組織構造、意思決定プロセス、そして従業員のスキルセットやマインドセットを、より迅速で科学的、かつ消費者中心のアプローチが求められるRRPs事業モデルへと変革できるかが、最大の挑戦である。この組織変革に成功した企業のみが、将来の勝者となりうる。
人材動向
事業モデルの転換は、企業が求める人材像を根本から変えている。これにより、他業界との間で熾烈な人材獲得競争が勃発している。
- 求められる人材像の劇的な変化:
- 過去: 伝統的な葉たばこの専門家、大量生産を管理する工場技術者、マスマーケティングやルートセールスに長けた営業担当者が中核であった。
- 現在・未来: 事業の重心が科学とテクノロジーに移るにつれ、以下のような専門人材の需要が急増している 88。
- 科学者: 毒物学者、臨床医、生物統計学者、化学者など、製品の安全性を科学的に評価・実証する人材。
- エンジニア: 電子工学、ソフトウェア、材料科学の専門家など、RRPsデバイスのハードウェアとソフトウェアを開発する人材。
- データサイエンティスト: 消費者データや臨床試験データを解析し、製品開発やマーケティング戦略に繋げる人材。
- 法務・規制対応専門家: 各国の複雑な規制を解釈し、PMTAのような承認申請を主導できる人材。
- 他業界との熾烈な人材獲得競争:
上記のような高度専門人材は、製薬・バイオテクノロジー業界、IT・コンシューマーエレクトロニクス業界、そして広範なFMCG(日用消費財)業界においても極めて需要が高い 90。これらの業界は、一般的にたばこ業界よりも社会的なイメージが良く、「人々の健康に貢献する」「世界をテクノロジーで変える」といった魅力的なビジョンを提示しやすい。 - リクルーティング上の課題:
たばこ業界のネガティブな社会的イメージは、優秀な人材、特に倫理観や社会貢献意識が高いとされるミレニアル世代やZ世代のトップタレントを獲得・維持する上で、深刻な障害となっている。この「評判の壁」を乗り越えるため、企業は競争力のある報酬パッケージを提供するだけでなく、「喫煙による害を減らす」というハーム・リダクションの使命を説得力をもって伝え、挑戦的な研究開発の機会を提供することが不可欠である。
労働生産性
- 紙巻たばこ工場の高度な自動化: 紙巻たばこの製造プロセスは、長年のカイゼンを経て高度に自動化・効率化されており、労働生産性は非常に高いレベルにある。これは、同事業が高い利益率を維持できる一因となっている。
- RRPsデバイスの生産ライン: RRPsデバイスの製造は、電子部品の実装や精密な組立を伴うため、従来の紙巻たばこ製造よりも複雑である。各社は、生産ラインの立ち上げと安定稼働、そして自動化による効率化を急いでいる。サプライチェーンがグローバルに分散しているため、生産性の向上には、自社工場だけでなく、部品を供給する多数の委託先メーカーとの緊密な連携が不可欠となる。
第8章:AI(人工知能)の影響とインパクト
人工知能(AI)は、たばこ業界にとって、単なる業務効率化ツールにとどまらず、研究開発の加速、サプライチェーンの強靭化、そして複雑化するコンプライアンスへの対応という、事業の根幹に関わる課題を解決する戦略的基盤となりつつある。AIの活用能力の差が、今後の企業間競争における決定的な差別化要因となる可能性が高い。
R&D・製品開発におけるAI活用
RRPs市場における競争の核心は、消費者に支持される優れた製品をいかに迅速に開発できるかにかかっている。AIは、この開発プロセスを根本から変革するポテンシャルを秘めている。
- 新フレーバーの探索・開発: フレーバーは、特に電子たばこ市場における重要な購買決定要因である。AIは、膨大な数の香料化合物の組み合わせをシミュレーションし、特定の消費者セグメントが好むであろう新たなフレーバープロファイルを予測・生成することができる。また、既存の人気フレーバー(例:特定の果物や飲料)の化学的構成を分析し、それを再現するための最適な香料の組み合わせを提案することも可能である。これにより、伝統的な試行錯誤に頼った開発プロセスに比べ、開発期間の大幅な短縮と成功確率の向上が期待できる。
- エアロゾル(蒸気)のシミュレーションと毒性予測: RRPsが生成するエアロゾルの物理化学的特性(粒子径分布、化学組成など)は、ニコチンの吸収効率や吸いごたえ、そして安全性を決定づける極めて重要な要素である。AIと計算流体力学を組み合わせることで、デバイスの設計(加熱温度、エアフローなど)がエアロゾルの生成にどう影響するかを高度にシミュレーションできる。さらに、Philip Morris International (PMI) が実践しているように、AIをシステム毒性学(Systems Toxicology)と統合することで、エアロゾルに含まれる特定の化学物質が、生体内の細胞や組織にどのような生物学的影響を与えうるかを予測することが可能になる 74。これにより、開発の初期段階で潜在的なリスクが高い設計を排除し、より安全な製品開発を効率的に進めることができる。
- 臨床試験データの解析とハーム・リダクション効果の実証: RRPsのハーム・リダクション効果を科学的に証明するためには、大規模な臨床試験から得られる膨大なデータの解析が不可欠である。AIの機械学習アルゴリズムは、被験者の遺伝子情報、血液や尿に含まれるバイオマーカーの変化、生活習慣といった多様なデータを統合的に解析し、製品の使用と健康指標との間の複雑な因果関係を解明するのに役立つ。これにより、RRPsへの切り替えがもたらす健康上の便益をより迅速かつ精緻に立証し、FDAのPMTA申請などに用いる科学的エビデンスの質を高めることができる 74。
製造・サプライチェーンにおけるAI活用
グローバルに広がる複雑なサプライチェーンを効率的かつ強靭に管理することは、収益性と市場への安定供給を両立させる上で不可欠である。AIは、サプライチェーン全体の可視性を高め、意思決定を最適化する。
- 需要予測の高度化: たばこ市場の需要は、各国の突然の規制変更、増税、パンデミックによる消費行動の変化、地政学リスクによる物流の混乱など、予測困難な外部ショックの影響を大きく受ける。AIは、これらの多様な非構造化データ(ニュース記事、政府発表、SNSの投稿など)をリアルタイムで分析し、従来の時系列分析では捉えきれなかった需要変動の予兆を検知する。これにより、より精度の高い需要予測モデルを構築し、過剰在庫や欠品のリスクを低減できる。Altriaは、AIを活用したリソースおよびキャパシティプランニングの変革に関心を示している 48。
- 調達の最適化: 伝統的な葉たばこ調達においては、天候データや衛星画像をAIで解析し、作柄や収穫時期を予測することで、調達計画の精度を高め、価格変動リスクをヘッジすることが可能になる。RRPsの電子部品調達においては、世界中のサプライヤーの生産状況、地政学リスク、輸送状況などをAIが常時監視し、供給途絶のリスクを事前に特定。代替調達先の提案や、最適な在庫配置のシミュレーションを行う。
- 製造ラインの品質管理: 製造ラインに設置された高解像度カメラが捉えた画像を、AIの画像認識技術がリアルタイムで解析する。例えば、RRPsデバイスの基板上のはんだ付けの微細な不良や、部品のわずかな位置ずれ、たばこスティックの巻紙のしわなどを瞬時に検知し、不良品を自動的にラインから排除する。これにより、人による目視検査よりも高い精度と速度で品質管理を実現し、製品の信頼性を向上させるとともに、検査コストを削減する。
コンプライアンス・違法取引対策におけるAI活用
規制が厳しく、社会からの監視の目も厳しい業界において、コンプライアンスの徹底は事業継続の生命線である。AIは、人手では不可能な規模と速度でリスクを監視・検知する能力を提供する。
- グローバルな違法取引の監視・検知: 偽造品や密輸品は、企業の収益とブランド価値を著しく毀損する。AIは、ダークウェブを含むインターネット上の違法販売サイトの監視、SNS上での不審な取引の特定、税関データや物流データから密輸の疑いがあるルートの異常検知などを行う。これらの情報を統合分析することで、違法取引ネットワークの全体像を把握し、法執行機関と連携した効果的な対策を可能にする。
- オンライン販売における厳格な年齢認証: RRPsのオンライン販売における最大の課題は、未成年者への販売をいかに確実に防ぐかである。AIは、この課題に対する強力なソリューションを提供する。購入者がアップロードした身分証明書の画像をAIが解析し、顔写真とライブカメラの映像を照合する生体認証や、偽造・改ざんの痕跡を検知する技術。さらには、入力された情報や購買行動のパターンから未成年者であるリスクを判定する行動分析などを組み合わせることで、単なる自己申告に頼らない、多層的で強固な年齢認証システムを構築できる。Altriaは、デバイス自体に年齢認証機能を組み込む技術開発を外部パートナーに求めている 48。
- マーケティング・消費者理解(厳格な規制遵守下で):
広告が厳しく制限される中、消費者の生の声を把握することは極めて重要である。AIの自然言語処理技術を活用し、規制が許す範囲で、公開されているSNSの投稿やオンラインフォーラム、製品レビューサイト上の会話を分析する(ソーシャルリスニング)。これにより、RRPsの実際の使用方法、製品に対する満足点・不満点、新たなニーズの兆候などを大規模に把握することが可能となる。PMIは、消費者行動の理解と市場トレンドの予測にデータ分析と予測モデリングを活用している 93。このインサイトは、製品改良の方向性を定めたり、ウェブサイト上で提供するFAQやサポート情報を充実させたりするなど、広告ではない形での消費者エンゲージメント向上に繋げることができる。
| 機能領域 | AIの具体的応用例 | ビジネスへのインパクト | 企業事例 | 戦略的意味合い |
|---|---|---|---|---|
| R&D・製品開発 | AIによる新フレーバー候補の生成・シミュレーション | 開発期間の短縮、製品の成功確率向上 | – | フレーバー競争における優位性確保 |
| エアロゾルの挙動シミュレーションとin silico毒性予測 | 開発初期のリスク低減、動物実験の削減、開発コスト削減 | PMI 74 | 科学的実証能力の強化と製品安全性への信頼構築 | |
| 臨床試験・オミクスデータの統合解析 | ハーム・リダクション効果の証明の加速、PMTA申請の強化 | JT 94 | 規制当局からの承認獲得と社会的受容性向上の鍵 | |
| 製造・サプライチェーン | 外部ショックを織り込んだAI需要予測モデル | 在庫最適化、欠品リスク低減、SCMの俊敏性向上 | Altria 48 | 市場変動への迅速な対応力と収益機会損失の最小化 |
| リアルタイムのサプライヤーリスク監視と調達最適化 | 供給網の寸断リスク低減、地政学リスクへの耐性強化 | BAT 96 | サプライチェーンの強靭化と事業継続性の確保 | |
| AI画像認識による製造ラインのリアルタイム品質管理 | 不良率の低減、品質の安定化、リコールリスクの低減 | – | ブランドの信頼性向上と製造コストの削減 | |
| コンプライアンス・違法取引対策 | AIによるグローバルな違法取引パターンの監視・検知 | 偽造品・密輸による収益損失の抑制、ブランド価値の保護 | – | 正規市場の保護と企業収益の維持 |
| AIを活用した多層的なオンライン年齢認証システム | 未成年者への販売防止、規制当局からの信頼獲得 | Altria 48 | 事業の社会的存続免許(Social License)の維持・強化 | |
| マーケティング・消費者理解 | SNS等の公開情報に基づくソーシャルリスニング分析 | 消費者の未充足ニーズの発見、製品改良へのフィードバック | PMI 93 | 広告規制下での効果的な消費者インサイト獲得 |
第9章:主要トレンドと未来予測
たばこ業界は、現在進行中の変革の先にある、さらに大きな地殻変動に備える必要がある。RRPsの進化、ニコチンからの脱却、規制の最終局面、そして新興国市場の動向が、今後10年の業界地図を決定づける。
RRPsの更なる進化と多様化
RRPsのイノベーションは、加熱式たばこと電子たばこにとどまらない。消費者の多様なニーズと、ますます厳しくなる規制環境に対応するため、製品ポートフォリオはさらに多角化していく。
- 経口ニコチン製品の台頭: ニコチンパウチ(例:BATのVelo、PMIがSwedish Match買収で獲得したZYN)は、煙も蒸気も発生させないため、使用場所を選ばない「究極のディスクリート(目立たない)製品」として、特に北米や欧州で急速に市場を拡大している 80。Vape製品への規制が強化される中で、その代替品としての需要も高まっている。今後、フレーバーの改良やニコチン放出プロファイルの最適化が進み、主要なRRPsカテゴリの一つとして確固たる地位を築くと予測される。
- 「Beyond Nicotine」への布石としてのCBD製品: 大手各社は、ニコチン以外の機能性成分、特にCBD(カンナビジオール)に注目している。BATは、VuseブランドでCBDベイプ製品「Vuse CBD Zone」を試験的に発売し、カナダのカンナビス大手Organigram社と戦略的提携を結んでいる 67。これは、ウェルネスやリラクゼーションといった新たな消費者ニーズを探ると同時に、将来的なニコチン市場の縮小・消滅に備えたリスクヘッジ戦略の一環である。
「Beyond Nicotine」戦略の本格化
大手たばこ企業は、その事業領域をニコチン製品から、より広範なウェルネス、さらには医薬品分野へと拡大する「Beyond Nicotine」戦略を本格化させている。これは、ESG投資家からの圧力と、長期的な事業存続への危機感に突き動かされた、必然的な動きである。
- 製薬・医療分野へのM&A: この戦略を最も象徴するのが、PMIによる2つの大型買収である。2021年、PMIは吸入治療薬の技術を持つ英国のVectura社を約10.2億ポンド(約12億米ドル)で 75、経口デリバリー技術に強みを持つデンマークのFertin Pharma社を約8.2億米ドルで買収した 82。これは、たばこ事業で培ったエアロゾル化技術や臨床開発のノウハウを、呼吸器系疾患の治療薬や、その他のウェルネス製品開発に応用しようとする明確な意思表示である。
- バイオテクノロジーへの進出: BATも同様の動きを見せている。同社は、植物由来のワクチンや抗体の開発を行う子会社Kentucky BioProcessing (KBP) を基盤に、バイオテクノロジー企業「KBio」を設立した 99。これは、たばこ植物の知見を活かし、医薬品開発という新たな領域に事業の柱を築こうとする試みである。
- 実現可能性とシナジー: たばこ企業が持つエアロゾル化技術、グローバルな規制対応能力、そして大規模な臨床試験を実施する能力は、吸入治療薬などの分野で確かなシナジーを生む可能性がある。しかし、医薬品業界は、研究開発のタイムライン、事業リスクの性質、そして何よりも人命に関わるという倫理観において、たばこ事業とは根本的に異なる。公衆衛生コミュニティや医療関係者からの強い反発も予想され、この事業変革が成功するかどうかは未知数である 35。
規制の最終局面(Endgame Regulation)
世界各国のたばこ規制は、単なる需要抑制策から、たばこ製品そのものを市場からなくすことを目指す「最終局面(エンドゲーム)」へと移行しつつある。
- ニコチン含有量の大幅な低減: 製品の依存性をなくすレベルまで、紙巻たばこに含まれるニコチン含有量を強制的に削減する規制。米国で長年議論されており、もし実現すれば、紙巻たばこの製品としての魅力を根底から覆し、ビジネスモデルを破壊する可能性がある 40。
- 世代別販売禁止(Smokefree Generation): ニュージーランドが世界で初めて導入し、英国でも法案が提出されたように、特定の年月日以降に生まれた世代に対して、生涯にわたってタバコ製品の販売を禁止する法律 100。これは、将来の顧客を法的に消滅させることで、時間をかけて市場そのものをなくしていくという、最も抜本的な規制アプローチである。
新興国市場の攻防
先進国市場が縮小し、規制の最終局面に移行する中で、アジア、アフリカ、中南米といった新興国市場は、たばこ企業にとって最後の成長フロンティアと見なされている。
- 成長ドライバーとしての期待: これらの地域では、経済成長に伴う中間層の拡大や、依然として高い喫煙率を背景に、紙巻たばこおよびRRPsの需要拡大が期待されている 10。大手各社は、これらの市場でのシェア獲得にしのぎを削っている。
- 急速な規制導入のリスク: しかし、新興国市場が安泰な成長市場であり続ける保証はない。WHO FCTCの影響力はこれらの国々にも及んでおり、先進国で効果が実証された厳しい規制(大幅な増税、包括的な広告禁止、プレーン・パッケージなど)が、予想を上回るスピードで導入されるリスクが高まっている。例えば、中国は世界最大の市場でありながら、近年、電子たばこに対する規制を急速に強化しており、フレーバーの禁止やオンライン販売の制限などを導入している 101。新興国市場での成功は、成長機会を捉えるだけでなく、この「規制のタイムラグ」が縮小するリスクにいかに備えるかにかかっている。
第10章:主要プレイヤーの戦略分析
たばこ業界の未来は、主要プレイヤー各社が「煙のない未来」という共通の目標に向かいながらも、それぞれ異なる戦略的アプローチを取っていることによって、その様相を複雑にしている。ここでは、主要5社(Big Tobacco)および関連企業の戦略を比較分析し、各社の強み、弱み、そして将来の方向性を明らかにする。
Philip Morris International (PMI)
- ビジョンと戦略: 「煙のない未来(Smoke-Free Future)」を業界内で最も強力に、かつ一貫して提唱。経営資源を加熱式たばこ(HTP)のフラッグシップブランド「IQOS」に集中的に投下し、紙巻たばこ事業からの完全な転換を目指す「一点突破」戦略を採る 103。RRPsの中でも、紙巻たばこに近い儀式性や味わいを提供できるHTPが、喫煙者からの移行を最も効果的に促せるとの信念に基づいている。
- 強みとポートフォリオ: IQOSが持つ世界的なブランド力と、市場への先行投入によって築き上げた圧倒的なシェアが最大の強みである。日本や欧州の一部市場では、IQOSがたばこ市場全体のシェアの10%以上を占めるまでに成長している 103。2025年第3四半期には、スモークフリー事業が総粗利益の42%超を占めるなど、収益化も着実に進展している 20。ポートフォリオはIQOSに極度に集中しているが、Swedish Matchの買収により獲得したニコチンパウチ「ZYN」が米国市場で急成長しており、経口ニコチン分野でも強力な足場を築いた。
- R&D投資とM&A戦略: 2008年以降、140億ドル以上をRRPsのR&Dに投資 74。科学的実証を重視し、FDAへのPMTA申請などでその成果を示してきた。2021年のVectura(吸入治療薬技術)およびFertin Pharma(経口デリバリー技術)の買収は、「Beyond Nicotine」戦略を加速させ、将来的にヘルスケア・ウェルネス企業へと変貌する野心を示す象徴的な動きである 75。
British American Tobacco (BAT)
- ビジョンと戦略: 「より良い明日(A Better Tomorrow™)」をスローガンに、「マルチカテゴリ」戦略を推進。加熱式たばこ「glo」、電子たばこ(Vapour)「Vuse」、経口ニコチン「Velo」という主要3カテゴリの製品ポートフォリオをグローバルに展開し、多様な消費者のニーズや各国の規制環境に柔軟に対応することを目指す 105。
- 強みとポートフォリオ: 世界の電子たばこ市場におけるVuseのリーダーシップが最大の強みである。Vuseは多くの国でトップシェアを誇り、BATのRRPs事業の成長を牽引している 18。また、経口ニコチンVeloも欧州を中心に強力なポジションを築いている。地理的に分散された収益基盤を持ち、特定地域のリスクに対する耐性が比較的高い。
- R&D投資とM&A戦略: マルチカテゴリ戦略を支えるため、各カテゴリで継続的な製品改良を行っている(例:gloの誘導加熱技術)。「Beyond Nicotine」戦略では、バイオテクノロジー企業「KBio」の設立や、カナダのカンナビス企業Organigramとの提携を通じて、植物由来技術やCBD分野への進出を図っている 67。
Japan Tobacco International (JTI)
- ビジョンと戦略: RRPsへの本格参入ではPMIやBATに後れを取ったが、加熱式たばこ「Ploom」シリーズで巻き返しを図っている。一方で、WinstonやCamelといった強力な紙巻たばこブランドを擁し、特に新興国市場でのシェア維持・拡大にも注力する「バランス戦略」を採る。RRPsへの全面的なシフトよりも、既存事業との両立を重視する姿勢が見られる。
- 強みとポートフォリオ: グローバルな紙巻たばこ市場における強固な事業基盤とブランド力が最大の強み。特にロシアやその他新興国市場でのプレゼンスが高い。RRPsでは、Ploom Xが日本市場で一定のシェアを獲得し、欧州市場への展開を加速している 16。
- R&D投資とM&A戦略: Ploomの技術改良に投資を集中。ユニークな点として、JTグループは医薬品事業を長年手掛けており、その知見を活かした動きが見られる。例えば、D-Wave社と提携し、量子AI技術を創薬研究に応用するプロジェクトを開始している 94。これは、将来的な「Beyond Nicotine」戦略において、他社とは異なるアプローチを取る可能性を示唆している。
Imperial Brands
- ビジョンと戦略: Big Tobaccoの中では最もRRPsへの移行に慎重な姿勢を見せる。経営資源を、収益性が高く勝算のある5つの主要紙巻たばこ市場に集中させる戦略を採っている。RRPsについては、加熱式「Pulze」や電子たばこ「blu」を展開しているが、投資は選択的であり、市場をリードするというよりは、収益性を重視した「チャレンジャー」としてのポジションに留まる 107。
- 弱み: 他社に比べてRRPs事業の規模が小さく、市場を牽引するキラー製品を確立できていない。紙巻たばこへの依存度が高いため、規制強化や需要減退の加速に対する脆弱性が高い。
Altria Group
- ビジョンと戦略: 事業領域が米国市場に限定されている。PMIからスピンオフした経緯があり、長年PMIのIQOSを米国内で販売する契約を結んでいたが、現在はその関係を解消。自社戦略として「Moving Beyond Smoking®」を掲げ、経口ニコチン「on!」の成長に注力するとともに、JUULへの巨額投資の失敗を経て、電子たばこ企業NJOYを買収し、Vape市場に再挑戦している 108。
- 強みと弱み: 米国市場におけるMarlboroの圧倒的なブランド力と流通網が最大の強み。しかし、RRPs戦略では競合(特にBATのVuse)に大きく後れを取っており、JUULの失敗による財務的・評判的なダメージからの回復が課題となっている。
| 項目 | Philip Morris International (PMI) | British American Tobacco (BAT) | Japan Tobacco International (JTI) | Altria Group | Imperial Brands |
|---|---|---|---|---|---|
| ビジョン/スローガン | “Delivering a Smoke-Free Future” | “Building a Better Tomorrow™” | “To remain the preferred choice” | “Moving Beyond Smoking®” | “Forging a path to a healthier future” |
| 中核的RRPs戦略 | 加熱式たばこ(HTP)への集中投下 | マルチカテゴリ(Vapour, HTP, Oral) | HTPへの注力と紙巻事業の維持 | 経口ニコチンとVapeへの再挑戦 | 選択的市場でのチャレンジャー戦略 |
| 主要RRPsブランド | IQOS (HTP), ZYN (Oral) | Vuse (Vapour), glo (HTP), Velo (Oral) | Ploom (HTP) | on! (Oral), NJOY (Vapour) | Pulze (HTP), blu (Vapour) |
| RRPs売上比率 | 約39% (2023年) | 約16.5% (2023年) | 約8% (2023年、推定) | 約10% (Oral/E-Vapor, 2023年) | 約4% (NGP, 2023年) |
| 地理的強み | 日本、欧州 | 米国、欧州 | ロシア、アジア新興国 | 米国のみ | 欧州、米国 |
| “Beyond Nicotine”戦略 | 製薬・ウェルネス分野への大型M&A (Vectura, Fertin Pharma) | バイオテクノロジー(KBio)、CBD (Organigram提携) | 医薬品事業、量子AI創薬 | カンナビス企業への出資(Cronos) | 限定的 |
| 主要な弱み/課題 | IQOSへの高い依存度、Vape市場での劣勢 | HTP市場でのPMIへの劣勢、規制の厳しい市場での課題 | RRPsへの移行スピードの遅れ | RRPs戦略の迷走(JUULの失敗) | RRPs市場での競争力不足、紙巻への高い依存度 |
注: RRPs売上比率は各社報告基準に基づき、年度により変動。
第11章:戦略的インプリケーションと推奨事項
これまでの包括的な分析を統合し、たばこ業界が直面する構造的変革の本質を捉え、この不確実な未来を乗り切るための、具体的かつ実行可能な戦略を提言する。
今後5~10年で勝者と敗者を分ける決定的要因
たばこ業界の未来は、もはや紙巻たばこのシェア争いでは決まらない。今後、企業の盛衰を左右するのは、以下の4つの能力である。
- RRPs製品ポートフォリオの競争力とイノベーションの速度: 消費者の期待を超える満足度(ニコチン送達効率、味わい)、利便性(バッテリー寿命、メンテナンス性)、そしてデザイン性を持つ製品を、競合よりも早く市場に投入し続ける能力。これは、単なる製品開発力にとどまらず、消費者インサイトを的確に捉え、技術シーズと結びつける組織的な能力を意味する。
- 科学的実証に基づく規制対応力: FDAのPMTAに代表されるように、RRPsの市場投入には、その製品が「公衆衛生の保護に資する」ことを証明する、高水準の科学的エビデンスが不可欠となっている。毒物学、臨床試験、行動科学といった分野で強固なデータを構築し、規制当局と建設的な対話を通じて承認を勝ち取る能力は、事業継続の前提条件であり、高い参入障壁を築く源泉となる。
- デュアルユーザーの完全移行(フルスイッチ)促進力: 現在、RRPsユーザーの多くは紙巻たばことの併用者(デュアルユーザー)である。この最大の顧客セグメントを、自社のRRPs製品への完全なユーザーへと転換させることが、RRPs事業の収益性を確立し、市場シェアを拡大するための鍵となる。これには、製品自体の魅力向上に加え、価格設定、チャネル戦略、そして消費者の行動変容を促すコミュニケーション戦略が統合された、高度なマーケティング能力が求められる。
- 資本配分の規律と戦略的俊敏性: 縮小する紙巻事業から最大限制のキャッシュを創出し、それをRRPs、経口ニコチン、さらには「Beyond Nicotine」といった将来の成長領域へ、いかに効率的かつ効果的に再投資するかという経営の意思決定能力。市場や規制の変化をいち早く察知し、リソース配分を柔軟に見直す戦略的な俊敏性も同時に求められる。
捉えるべき機会と備えるべき脅威
機会 (Opportunities)
- 紙巻事業における収益最大化: 移行を望まない、あるいはできないロイヤルな顧客層に対し、強力なブランド力を背景とした価格戦略によって、キャッシュ創出能力を最大化する機会。
- 新カテゴリでの先行者利益: ニコチンパウチのような急成長する新カテゴリや、CBD製品のような「Beyond Nicotine」の初期市場において、迅速な製品投入とチャネル構築により、先行者としての優位性を確立する機会。
- AI活用による競争優位の構築: R&D、サプライチェーン、コンプライアンスの各領域でAI活用を他社に先駆けて深化させ、オペレーション効率とリスク管理能力において圧倒的な優位性を築く機会。
- 「Beyond Nicotine」による事業変革: たばこ事業で培ったケイパビリティ(エアロゾル技術、臨床開発ノウハウなど)を応用し、ヘルスケアやウェルネスといった新たな巨大市場で収益源を確立する、長期的かつ最大の機会。
脅威 (Threats)
- 規制の最終局面(Endgame Regulation)の到来: 世代別販売禁止やニコチン含有量の大幅削減といった抜本的な規制が主要市場で導入され、紙巻事業が予測を上回るスピードで消滅するリスク。
- RRPsへの予期せぬ規制強化: 若年層の使用問題などを背景に、現在主流となっているRRPs(特にフレーバー付き電子たばこ)が、市場からの撤退を余儀なくされるような厳しい規制の対象となるリスク。
- ESG評価の更なる悪化: ハーム・リダクション戦略が社会的に受け入れられず、ESG評価がさらに悪化することで、資金調達コストの急増や、優秀な人材の獲得がより一層困難になるリスク。
- 異業種からの破壊的イノベーション: テクノロジー企業や製薬企業が、全く新しいニコチン送達技術や禁煙ソリューションを開発し、既存の業界構造を破壊するリスク。
戦略的オプションの評価
取りうる戦略的オプションは、大きく以下の3つに分類できる。
- オプションA:RRPsへの急進的シフト戦略(PMIモデル)
- 概要: 紙巻たばこ事業からの早期撤退を宣言し、経営資源の大部分を特定のRRPsカテゴリ(例:加熱式たばこ)に集中投下する。
- メリット: 「変革のリーダー」としての明確なメッセージを発信でき、ESG評価の改善に繋がる可能性がある。経営資源の集中により、特定分野で圧倒的な競争優位を築きやすい。
- デメリット: 安定したキャッシュ源である紙巻事業を早期に手放すことによる財務的リスク。注力したRRPsカテゴリが規制強化や技術的陳腐化に直面した場合、事業全体が大きな打撃を受けるリスク集中。
- 成功確率: 中。成功すれば大きなリターンが期待できるが、市場と規制の不確実性が高く、リスクも大きい。
- オプションB:バランス型ポートフォリオ戦略(BAT/JTIモデル)
- 概要: 紙巻たばこ事業の収益性を維持・最大化しつつ、加熱式、電子たばこ、経口ニコチンといった複数のRRPsカテゴリに分散投資し、リスクヘッジを図る。
- メリット: 安定したキャッシュフローを確保しながら、多様な市場ニーズと規制環境に柔軟に対応できる。特定のカテゴリが失敗しても、他でカバーできるリスク分散効果。
- デメリット: 経営資源が分散し、どのカテゴリでも決定的な競争優位を築けない「器用貧乏」に陥るリスク。組織内で紙巻事業とRRPs事業の利害が対立し、変革のスピードが鈍化する可能性がある。
- 成功確率: 高(安定的だが、ブレークスルーは生まれにくい)。多くの企業にとって現実的な選択肢だが、市場リーダーになるのは難しい。
- オプションC:「Beyond Nicotine」加速戦略
- 概要: M&Aを積極的に活用し、製薬やウェルネスといった非ニコチン分野への事業転換を最優先で進める。
- メリット: たばこ業界固有の規制リスクや社会的スティグマから完全に脱却し、長期的な持続可能性を確保できる可能性がある。
- デメリット: 巨額の買収資金が必要であり、財務的負担が大きい。異業種への参入であり、シナジーを創出できずに失敗するリスク(「コングロマリット・ディスカウント」)が非常に高い。
- 成功確率: 低。成功した場合のインパクトは絶大だが、実行の難易度が極めて高く、ハイリスク・ハイリターンな選択肢。
最終提言:規律ある変革 – 科学を基軸としたマルチカテゴリ戦略
上記の分析に基づき、本レポートが提言する最も説得力のある事業戦略は、「規律ある変革:科学を基軸としたマルチカテゴリ戦略」である。これは、オプションB(バランス型)を基本としつつ、オプションA(急進的シフト)の規律と集中、そしてオプションC(Beyond Nicotine)の長期的視点を段階的に取り入れたハイブリッド戦略である。
戦略の骨子
- 規律ある資本配分: 紙巻事業を明確に「キャッシュエンジン」と定義し、コスト効率を極限まで追求する。そこで生み出されたキャッシュは、厳格な投資規律に基づき、科学的実証能力と市場成長性の両面から評価されたRRPsプロジェクトに優先的に配分する。
- 科学を基軸とした事業運営: すべてのRRPs開発とマーケティング活動の根幹に、「科学的実証」を置く。製品のハーム・リダクション効果を証明するためのR&D投資を惜しまず、その成果を透明性をもって公開することで、規制当局と社会からの信頼を獲得する。
- 選択的マルチカテゴリ展開: グローバル市場を画一的に捉えず、各市場の規制環境と消費者嗜好に基づき、最も勝算の高いRRPsカテゴリ(加熱式、電子たばこ、経口ニコチン)に選択的に資源を投入する。全ての市場で全てのカテゴリを追うのではなく、メリハリの効いたポートフォリオを構築する。
- 段階的な「Beyond Nicotine」: 短中期(~5年)では、既存の技術やチャネルとシナジーのある領域(例:CBDベイプ、機能性経口製品)での小規模な投資や提携に留める。長期(5年~)では、RRPs事業で確立した収益基盤と科学的ケイパビリティを活かし、より本格的なヘルスケア分野への進出を検討する。
実行に向けたアクションプランの概要
| フェーズ | 期間 | 主要目的 | 主要KPI | 具体的なアクションプラン |
|---|---|---|---|---|
| Phase 1: 基盤構築 | 1~2年 | RRPs事業の基盤確立と科学的信頼性の構築 | RRPs売上比率、デュアルユーザーの完全スイッチ率、主要RRPsブランドの市場シェア | ・紙巻事業のSKU削減とサプライチェーンの徹底的なコスト最適化。 ・自社のコア技術が活かせる主力RRPsカテゴリへのR&D投資集中。 ・主要市場でのPMTA等承認申請に向けた臨床・非臨床試験の開始。 ・全社横断のAI戦略タスクフォースの設置。 |
| Phase 2: 成長加速 | 3~5年 | RRPs事業の収益化と新カテゴリへの展開 | RRPs事業の営業利益率、経口ニコチン市場でのシェア、AI活用によるコスト削減額 | ・主力RRPsの収益性改善(製造コスト削減、価格戦略最適化)。 ・経口ニコチン製品のグローバル展開加速。 ・AIをサプライチェーン管理とオンライン年齢認証システムに本格導入。 ・「Beyond Nicotine」分野の有望なスタートアップへのCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)投資を開始。 |
| Phase 3: 事業変革 | 5年以降 | ニコチン事業への依存度低減と事業ポートフォリオの再構築 | 「Beyond Nicotine」事業の売上比率、企業全体のESG評価スコア | ・RRPs事業で創出したキャッシュを原資に、ヘルスケア・ウェルネス分野での中規模M&Aを実行。 ・ニコチン事業と非ニコチン事業を分離した事業部制への移行検討。 ・企業全体のパーパス(存在意義)を再定義し、新たなブランドイメージを構築。 |
この「規律ある変革」戦略は、短期的な収益性と長期的な持続可能性のバランスを取りながら、不確実性の高い事業環境を乗り切るための、最も現実的かつ効果的な道筋であると結論づける。
第12章:付録
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