Google、AIインフラ向けの「次世代地熱発電」プロジェクトで新展開

ネバダ州でのFervo Energyとの提携により、AIデータセンターの24時間稼働を支える強化型地熱発電(EGS)の実装を推進。炭素フリーエネルギーへの移行を加速しています。

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GoogleのAIインフラ向け次世代地熱発電(EGS)

AIインフラと次世代地熱発電がもたらす産業構造の変革および経済的波及効果の総合分析

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1. 次世代地熱発電プロジェクトの全容と新しい電力調達スキーム

米国のテクノロジー企業であるGoogleは、エネルギー企業NV Energyおよび次世代地熱開発のスタートアップであるFervo Energyとの提携を拡大し、米国ネバダ州のデータセンター向けに115メガワット(MW)の電力を供給する新たな契約を締結した 1。この取り組みは、AI(人工知能)の普及によって急増するデータセンターの電力需要を、天候に左右されない安定したクリーンエネルギーで賄うことを目的としている 3。

このプロジェクトにおいて特筆すべき点は、従来の地熱発電では開発が困難であった地域でも発電を可能にする「強化型地熱システム(Enhanced Geothermal Systems:EGS)」の商業規模での実装が進んでいることと、クリーン・トランジション・タリフ(Clean Transition Tariff:CTT)と呼ばれる新しい電力料金制度が導入されていることである 3。従来の電力購入契約(PPA)やグリーン・タリフ制度は、主に太陽光や風力といった断続的な再生可能エネルギーを中心に構成されており、発電量を1時間単位で厳密に追跡することが困難であった 5。そのため、気象条件によっては送電網の需要を満たすために化石燃料に依存せざるを得ないという構造的な課題が存在した 5。

CTTは、この課題を克服し、ベースロード電源として機能する「クリーン・ファーム・キャパシティ(安定したクリーン容量)」への投資を促進するために設計された画期的な調達モデルである 3。このスキームを通じて、Googleは既存の電力網と送電網の信頼性を維持しながら、特定の顧客負荷プロファイルを満たす電力を24時間体制で調達することが可能となる 3。さらに、NV Energyの一般顧客に特定の開発コストを転嫁させない仕組みが採用されており、公益事業としての公平性も担保されている 3。現在、このCTT構造はネバダ州公益事業委員会の承認待ちであるが、すでにDuke Energyなどの他の電力会社も米国南東部で同様のモデルを展開する方向でGoogleらと合意しており、業界標準となる可能性を秘めている 3。

Fervo Energyの事業展開は急速にスケールアップしている。2025年から2026年にかけて、同社はユタ州のCape Stationプロジェクトの容量を500MWに拡大するため、Shell Energyと31MWのPPAを締結した 3。また、資金調達面でも、B Capitalが主導するシリーズEラウンドで4億6,200万ドルを調達し、Cape Stationの第1フェーズに向けて4億2,100万ドルのプロジェクトファイナンスを確保するなど、商業化に向けた強固な財務基盤を確立している 3。

2. Googleが次世代地熱発電を推進する背景と戦略的意図

Googleが次世代地熱発電の開発と導入に多額の投資と長期契約を行う背景には、テクノロジー業界全体が直面している「AIによるエネルギー需要の爆発的増加」と「厳格な脱炭素目標の達成」という、相反する課題の同時解決という戦略的意図が存在する。

生成AIモデルの学習および推論プロセスには、従来のクラウドコンピューティングを大幅に上回る計算リソースが必要である。Googleの報告によれば、AIを含む製品の普及等により、2024年の同社データセンターの電力消費量は前年比で27%増加している 6。同社のデータセンターは5年前と比較して電力1単位あたり6倍以上の計算能力を提供するなど、エネルギー効率(PUE)の改善は進んでいるものの、絶対的な電力需要の伸びを吸収するには至っていない 6。OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が米国上院の公聴会で「AIのコストはエネルギーのコストに収束する」と証言した通り、AI産業の競争力は、豊富で安価なエネルギーをいかに確保できるかにかかっている 4。データセンター開発者はスピードと規模を最優先しており、マイクロソフトがスリーマイル島原子力発電所の再稼働に向けて835MWのPPAを締結した事例にみられるように、大規模電源の確保競争が激化している 4。しかし、原子力発電所の再稼働機会は限定的であり、建設から稼働までわずか18ヶ月で完了可能なEGSは、2030年以前にデータセンターに電力を供給する上で極めて優位な立場にある 4。

さらに、Googleは2030年までに世界中のすべてのデータセンターとオフィスで、1日24時間、週7日間、消費する電力を100%カーボンフリーエネルギーで賄う「24/7 CFE」という高い目標を掲げている 7。同社は2017年以降、年間消費電力量と同等の再生可能エネルギーを購入(100%年間マッチング)してきたが、これはあくまで年間を通じた帳簿上の相殺に過ぎない 7。24時間体制で稼働し続けるインターネットインフラを真に脱炭素化するためには、風力や太陽光が発電しない時間帯のギャップを埋める「ディスパッチャブル(給電指令可能)」なクリーン電源が不可欠である 8。地熱発電は、この要件を満たす数少ないベースロード電源であり、気候変動対策とAIインフラの拡張を両立させるための「欠けているパズルのピース」として戦略的に位置付けられている 11。

3. 次世代地熱技術(EGS・AGS等)の技術的メカニズムとイノベーション

本プロジェクトを支えるFervo Energyをはじめとする企業の技術は、従来の地熱発電が抱えていた地理的・技術的制約を打破し、スケールメリットをもたらす革新的なアプローチである。現在の次世代地熱技術は、主に以下の3つのカテゴリーに大別され、それぞれが異なるアプローチで地下の熱エネルギーへのアクセスを試みている。

技術カテゴリー概要とメカニズム主要な適用技術と特徴
強化型地熱システム(EGS)地下の高温で乾燥した岩盤(Hot Dry Rock)に地上から水を注入し、人工的な割れ目(貯留層)を形成して熱水や蒸気を回収するシステム。水平掘削技術、人工破砕、分散型光ファイバーセンシング。FervoFlex等の技術により、電力需要に応じた出力調整(ディスパッチ)が可能。
閉ループシステム(AGS)地下に密閉された配管システムを構築し、その内部に人工的な熱媒体を循環させて周辺の地中熱を吸収するシステム。地下の流体を直接汲み上げないため、既存の温泉資源や地下水脈への物理的な干渉リスクが極めて低い。
超臨界地熱(SHR)地下深部の温度が400℃を超える超臨界状態の流体を対象とするシステム。水が超臨界状態になることで単位質量あたりのエネルギー密度が劇的に向上し、従来型の5〜10倍の出力を単一の井戸から得られる可能性がある。

出典: 1に基づく分析

従来の地熱発電は、地下に「熱」「水」「割れ目(浸透性)」の3要素が自然に揃っている特定の火山地帯や温泉地帯にのみ依存していた 11。これに対し、EGSはシェールガスなどの非従来型石油・天然ガス開発で培われた水平掘削技術を応用し、熱源のみが存在する広範な地域での開発を可能にした 4。Fervo Energyは、地下の高温環境下でも正確に掘削を行う最新のドリルビットや、光ファイバーセンシングを用いた坑井配置の最適化により、効率的な貯留層の構築に成功している 3。2024年のネバダ州における30日間のフローテストでは、単一の井戸から10MWの出力を記録し、米国エネルギー省(DOE)の2030年目標を前倒しで達成するペースで技術実証を進めている 3。

さらに、掘削プロセス自体の脱炭素化と効率化も進んでいる。Fervo Energyは2024年8月、北米初となる電動式地熱掘削リグ(H\&P Rig 492)を導入し、ディーゼル発電機から送電網からの電力供給への切り替えに成功した 3。また、設備投資の面でも、鋼管大手のVallourecと最大8億ドル規模の5年間供給契約を結び、国内サプライチェーンの構築を完了させている 3。発電設備においては、Turbodenと1.7GWのフレームワーク契約を締結し、標準化された50MWのオーガニックランキンサイクル(ORC)発電所「GeoBlocks」を量産する体制を整え、ABBやBaker Hughesからも高度な機器を調達している 3。

基礎研究の分野では、核融合研究から派生した「ミリ波掘削技術」の応用が検討されている 11。これは、マイクロ波を利用して従来の手法では掘削が困難な深部の極めて硬い岩盤を破砕・溶融させる技術であり、これにより超臨界地熱資源へのアクセスが飛躍的に容易になると期待されている 11。また、地質学的な熱エネルギー貯蔵(GeoTES)として、枯渇した石油・ガス貯留層を長期間のエネルギー貯蔵システムに変換する研究も米国エネルギー省主導で進められており、地熱エネルギーの柔軟性はさらに高まりつつある 1。

4. 日本経済へのマクロ的波及効果:潜在資源とGXの加速

米国でのEGSプロジェクトの商業的成功は、環太平洋火山帯(リング・オブ・ファイア)に位置する日本にとって、経済構造とエネルギー政策に多大なマクロ的影響を及ぼす。日本はアメリカ、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源ポテンシャルを有しているものの、これまでは国立公園や温泉地との競合、高い開発コスト、および社会的な合意形成の難しさから、そのポテンシャルを十分に活かしきれていなかった 11。

4.1. 潜在資源の解放と巨大な経済波及効果

経済産業省の試算によると、日本においてEGSなどの次世代地熱技術を適用した場合の潜在的な地熱資源量は7,700万kWに達し、これは従来型資源量の約3倍に相当する 12。仮にこのうちのわずか1割(770万kW)を開発・実用化できた場合でも、29兆円から46兆円という莫大な経済波及効果が見込まれている 12。

日本政府は、エネルギー基本計画やグリーントランスフォーメーション(GX)の枠組みの中で地熱発電の拡大を強力に後押ししている。具体的には、2050年までに770万kW以上の導入目標を掲げており、そのマイルストーンとして、2026年度からグリーンイノベーション(GI)基金を活用した次世代地熱発電の国内実証を最大5年間の支援付きで有望地点にて開始する計画である 15。この国家的投資は、大規模なインフラ建設需要を喚起するだけでなく、高度なセンサー、特殊鋼材、タービン製造など、関連するサプライチェーン全体への資金流入を持続的に促す効果を持つ。

4.2. エネルギー安全保障と貿易収支の構造的改善

日本は一次エネルギーの大部分を海外からの化石燃料輸入に依存している。次世代地熱技術の実用化により、国内で安定的に電力を供給できる「純国産エネルギー(Homegrown Energy)」の比率が高まることは、地政学的リスクに対するエネルギー安全保障を劇的に向上させる 11。太陽光や風力はエネルギー自給率の向上に寄与するものの、天候による変動を補うための調整力としてLNG(液化天然ガス)火力等への依存を残す構造にある。ベースロード電源である地熱発電の拡充は、化石燃料の輸入額を直接的に削減し、日本の構造的な貿易赤字の緩和と富の海外流出を防ぐ効果をもたらす。

4.3. グリーンデータセンター拠点としての競争力強化

日本国内への外資系クラウドベンダーや半導体メーカーの直接投資(FDI)が加速する中、産業部門の脱炭素化は国際競争力を維持するための必須条件となっている。特に、AIの演算拠点となるデータセンターにとって、24/7 CFEの調達可能性は投資判断における決定的な要因である。日本国内においてEGSやクローズドループシステムによる安定したグリーン電力の供給網が確立されれば、日本は豊富な水資源と安定した電力網を併せ持つアジアにおける「グリーンデータセンター拠点」としての比較優位性を獲得し、デジタル経済におけるハブとしての地位を強固なものにすることができる。

5. 産業分野別影響分析:波及する業界とビジネスチャンス

次世代地熱発電の社会実装は、エネルギー業界のみならず、多岐にわたる産業分野に構造的な変化と新たなビジネスエコシステムをもたらす。

5.1. IT・データセンター関連産業

生成AIの開発競争が激化する中、データセンター事業者やクラウドベンダーにとって、エネルギーの確保は事業継続とスケーラビリティの根幹を成す。GoogleがFervo Energyに対して行ったように、今後はIT企業自らがエネルギー開発の初期段階から資金を提供し、アンカーテナントとして長期的な電力引き受けを確約する形態が標準化すると考えられる 3。

日本国内においても、北海道や九州地方など再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域において、計算資源とエネルギー供給をパッケージ化した産業拠点の開発が加速する。これに伴い、データセンターの排熱を利用した地域熱供給システムや、高効率なサーバー冷却技術、エネルギー消費を最適化する電力管理システム(EMS)を扱う関連ITベンダー、コンポーネントメーカーにも巨大な需要の波及が予想される。

5.2. 重電・プラントエンジニアリング産業

日本の重電メーカーは、地熱発電用タービンやプラントの設計・調達・建設(EPC)において世界トップクラスのシェアと技術力を有しており、グローバルな次世代地熱開発の拡大から直接的な恩恵を受ける立場にある。例えば、三菱重工は1950年以降、世界中で107件の地熱発電所を納入しており、二相流体輸送とダブルフラッシュ方式の組み合わせなど、高効率な発電技術に強みを持つ 16。同社が2015年にメキシコで稼働させた地熱発電所では、稼働後1年間で99.6%という極めて高い稼働率を実証している 16。Fervo EnergyのプロジェクトにおいてイタリアのTurboden(三菱重工グループ)がORCタービンの供給枠組み契約を獲得したことは、日本のプラント技術が次世代システムにも不可欠であることを示している 3。

5.3. 資源開発および総合商社

EGSの高度な開発には、石油・天然ガス開発で培われた地下解析技術、坑井仕上げ、流体制御技術がそのまま転用可能である。日本の資源開発最大手であるINPEXは、「INPEX技術戦略」に基づき、石油・天然ガス開発技術の高度化と、既存技術の親和性が高い分野(CO2地下貯留や地熱発電)への応用を推進している 17。同社は、産官学のハブとなるネットワーク拠点「I-RHEX」を強化し、脱炭素技術の開発を中心的に進めている 17。地下構造の解釈や地熱資源量の不確実性を低減するこれらの技術は、開発リスクの低減に直結する。

大規模なインフラ投資とグローバルなプロジェクトマネジメントを得意とする総合商社にとっても、次世代地熱発電は極めて有望な投資領域である。三井物産はFervo Energyに対して数億円規模の出資を行い、同社の技術を活用したAIデータセンターと地熱発電所の一体開発を検討している 12。また、三菱商事もマサチューセッツ工科大学(MIT)発のEGS関連スタートアップであるQuaise Energyに出資を行い、ミリ波掘削技術の日本への導入を模索している 12。商社は単なる資金提供にとどまらず、国内外のクリーン電力を求める需要家と技術を持つスタートアップをマッチングさせ、バリューチェーン全体を構築するオーガナイザーとしての役割を果たす。

6. 日本特有の地域課題の克服と共生モデルの構築

日本の地熱開発において、技術的課題以上に乗り越えるべきハードルとなるのが、地域社会、特に温泉事業者との合意形成である。日本国内では、既存の温泉資源への枯渇や温度低下を懸念する声が根強く、開発に対する慎重な姿勢が開発期間の長期化を招いてきた 19。しかし、この状況は最新のガイドライン整備と新しい事業モデルの導入により、転換期を迎えている。

6.1. 科学的モニタリングに基づく温泉資源保護ガイドライン

環境省は、地熱発電の開発と温泉資源の保護を両立させるため、2025年(令和7年)に「温泉資源の保護に関するガイドライン」の最新の改訂に向けた検討会を実施している 19。このガイドラインでは、一律の規制ではなく、科学的根拠とモニタリングに基づく個別の許可判断が推奨されている 19。

具体的には、全国20の都道府県で実施されている「距離規制」(既存源泉から500m以内等の掘削制限)について、大深度掘削(概ね1000m以上)を行う場合は1000m以上の規制を適用する事例がある一方、規定の深度に達しない場合でも同一帯水層からの採取であれば影響が及ぶ可能性が指摘されている 19。最新の検討では、源泉の温度低下や湧出量減少の原因を、地下資源そのものの枯渇だけでなく、井戸の遮水パッカーやケーシング管の劣化に伴う「坑井障害(低温水の浸入)」と区別して評価することの重要性が明記された 19。また、登録分析機関による10年に一度の成分分析結果の蓄積や、長期間にわたるポンプ揚湯試験のデータを用いた限界揚湯量の可視化など、関係者が事実ベースで議論できる環境整備が進められている 19。

6.2. 地域共生モデルとカスケード利用

技術的な側面では、地下の流体を直接汲み上げない閉ループシステム(AGS)の導入が進めば、温泉水脈との物理的な交わりを回避できるため、地域からの受容性が高まることが期待される 11。

さらに、事業モデルの側面では、スウェーデンのBaseload Capitalの日本法人(Baseload Power Japan)とふるさと熱電が提携して推進する「わいたモデル」が注目を集めている 11。これは、地域社会に根ざしたフレームワークであり、地熱プロジェクトから得られる収益の一部を直接地域社会に再投資する仕組みである 11。地熱発電所から排出される熱水を農業用温室(グリーンハウス)、水産養殖、木材乾燥などに二次利用する「カスケード利用」を組み合わせることで、地域経済の自立と活性化、雇用の創出を促し、持続可能なエネルギー生産と強固な地域共存を実現している 11。

7. 個人の日常生活・社会システムへの影響

次世代地熱発電の普及とAIインフラの拡張は、マクロ経済や産業界だけでなく、個人の日常生活にも間接的かつ広範な恩恵をもたらす。

第一に、電力供給の安定化と生活インフラの強靭化である。太陽光や風力などの変動型再生可能エネルギーの導入が進む現在、夕方以降の電力不足や、異常気象時の需給ひっ迫が社会問題化している。天候や昼夜を問わず24時間365日稼働する地熱発電がベースロード電源として送電網に組み込まれることで、大規模停電(ブラックアウト)のリスクが低減し、家庭や医療機関、公共交通機関への電力供給の安定性が担保される 11。

第二に、デジタルサービスの継続的かつ持続可能な享受である。現代の日常生活は、検索エンジン、動画ストリーミング、クラウドストレージ、そして高度な生成AIの利用など、データセンターの稼働に全面的に依存している。これらのサービスが環境負荷(CO2排出)を増大させることなく、クリーンなエネルギーで支えられるようになることは、気候変動対策に貢献しながら豊かなデジタル生活を維持する持続可能な社会インフラの実現を意味する。

第三に、地方部における新たな雇用創出と地域社会の維持である。過疎化が進む地方において地熱発電所が建設・運営されることで、施設の高度な維持管理や、熱水を活用した新しい農林水産業、エコツーリズムなどの関連ビジネスが創出される 11。これにより、若年層の地元定着やUターン就職が促進され、エネルギーを地産地消する自立分散型の社会への移行が進む。

8. 日本の企業経営者が取るべき事業戦略と提言

これらの一連の技術的・経済的動向を踏まえ、日本の企業経営者は、従来のエネルギー調達や事業展開の枠組みを超えた機動的な戦略を策定する必要がある。

8.1. 24/7 CFEを見据えた能動的な調達戦略の構築

データセンター運営企業や大規模な電力需要を抱える製造業の経営者は、単に「再生可能エネルギー証書を購入する」という受動的な脱炭素化の段階から脱却すべきである。GoogleがNV Energyと構築したCTT(Clean Transition Tariff)のような、実際の消費地域・時間帯において物理的なクリーン電力を確保する「24/7 CFE」への移行を戦略の中核に据える必要がある 3。複数の企業がコンソーシアムを形成し、共同で次世代地熱発電のオフテイカー(長期引受人)となることで、国内でのEGS開発の初期投資リスクを低減させつつ、自社のサプライチェーン全体の脱炭素価値を高めるアプローチが有効である。

8.2. コア技術の転用とオープンイノベーションの加速

次世代地熱発電は、単一の業界の知識や技術だけでは成立しない高度なシステム産業である。重工業、プラントエンジニアリング、素材、資源開発、そしてデジタル・IT業界の知見を結集する必要がある。経営者は自社のコアコンピタンスを再評価し、異なる文脈での適用機会を模索すべきである。例えば、石油・ガス業界で培った流体シミュレーション技術や水平掘削技術、製造業における高温耐性材料のノウハウを地熱分野に転用することが求められる 17。同時に、米国の先進的なスタートアップへの出資や技術提携を積極的に行い、開発の不確実性を管理するオープンイノベーションを推進することが不可欠である 12。

8.3. 地域社会を事業の共同運営者と位置づけるプロセスのデザイン

国内で地熱事業や関連インフラを展開する経営者にとって、プロジェクトの成否を分ける最大の要素は、技術的な制約ではなく地域社会からの「社会的操業ライセンス(SLO:Social License to Operate)」の獲得である。開発の初期段階から環境省の最新ガイドラインを遵守し、科学的なデータ(長期間のモニタリング結果等)を透明性をもって地域住民や温泉事業者と共有する誠実なコミュニケーション体制を築くことが求められる 19。事業の収益を地域に還元し、インフラを共有する「わいたモデル」のような枠組みをビジネスモデルに組み込み、地域社会を単なるステークホルダーから「共同運営者」へと引き上げることが、長期的な事業継続の前提条件となる 11。

9. 結論

GoogleとFervo Energyによるネバダ州での次世代地熱発電プロジェクトは、単なる一企業のエネルギー調達の成功事例にとどまらず、AIインフラの加速度的な拡張と脱炭素社会の実現という現代の複合的な命題を同時に解決するモデルケースである。この取り組みは、天候に依存しない「クリーンなベースロード電源」としての地熱エネルギーの価値を再定義し、CTTという新しい料金・調達スキームを通じて、電力市場の構造そのものに本質的な転換を促している 3。

世界第3位の潜在的な地熱資源を有する日本にとって、EGSをはじめとする次世代地熱技術の進展は、長年開発が停滞していた地下資源を有効活用し、数十兆円規模の経済波及効果を生み出す契機となる 12。生成AIの演算能力を支えるデータセンターと、安定したクリーン電源の一体的な開発は、今後の国家の産業競争力を左右する重要なファクターである。すでに、総合商社や重電メーカー、資源開発企業が国境を越えて技術と資本を融合させ、新たなバリューチェーンを形成する動きが顕在化している 12。

日本の企業経営者および政策立案者は、この構造的なエネルギートランジションをリスクではなく成長のための明確な機会と捉えるべきである。最先端技術への継続的な投資、革新的な電力調達スキームの国内への導入、そして科学的データに基づく地域社会との共生モデルの確立に向けて、機動的かつ包括的な事業戦略を実行することが、持続可能な経済成長を確保するための確実な道筋となる。

引用文献

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  2. 2025 U.S. Geothermal Market Report | NLR – National Laboratory of the Rockies, https://www.nlr.gov/geothermal/2025-us-geothermal-market-report
  3. 2024 Year in Review: Leading the Charge in Geothermal Innovation …, https://fervoenergy.com/2024-year-in-review/
  4. The Enhanced Geothermal Data Center Corridor | Fervo Energy, https://fervoenergy.com/wp-content/uploads/2025/07/Fervo_UIPA_The-Enhanced-Geothermal-Data-Center-Corridor_July-2025.pdf
  5. グーグルのクリーン転換関税は地熱と原子力を後押しし、他産業の基準となるかもしれない。 – Lux Research, https://luxresearchinc.com/jp/blog/googles-clean-transition-tariff-will-give-geothermal-and-nuclear-a-boost-and-may-set-the-standard-for-other-industries/
  6. Sustainable & Efficient Operations – Google Sustainability, https://sustainability.google/operations/
  7. Operating sustainably – Google Data Centers, https://datacenters.google/operating-sustainably
  8. https://carboncredits.com/google-taps-earths-heat-in-150mw-geothermal-deal-with-ormat-technologies-to-power-data-centers/#:~:text=Google%20has%20long%20pledged%20to,energy%20to%20its%20power%20mix.
  9. Clean Energy: 24×7—Carbon-free Internet – Google Sustainability, https://sustainability.google/stories/24×7/
  10. The year in carbon-free energy at Google | Google Cloud Blog, https://cloud.google.com/blog/topics/sustainability/the-year-in-carbon-free-energy-at-google
  11. Baseload Power Japan Featured in Nikkei: driving Next-Generation …, https://www.baseloadcap.com/baseload-power-japan-featured-in-nikkei-driving-next-generation-geothermal-innovation/
  12. 【AI時代の電力不足を救うか】:三井物産が出資する:次世代地熱発電(EGS)の最新動向と日本への影響! – note, https://note.com/brave_avocet318/n/n7729862d9c0f
  13. Technology – Fervo Energy, https://fervoenergy.com/technology/
  14. Geothermal Energy Use and Its Related Technology Development in Japan, https://asmedigitalcollection.asme.org/energyresources/article/143/10/100802/1102948/Geothermal-Energy-Use-and-Its-Related-Technology
  15. 次世代地熱、26年度から国内実証/GI基金活用、最大5年支援 – 電気新聞, https://www.denkishimbun.com/archives/402917
  16. 地熱発電プラント | 三菱重工 – Mitsubishi Heavy Industries, https://www.mhi.com/jp/products/energy/geothermal_power_plant.html
  17. ニュースリリース | INPEX, https://www.inpex.co.jp/news/index.html
  18. 三井物産が米Fervoに出資 次世代地熱EGSでAIデータセンター向けクリーン電源を開発, https://climatetech-japan.com/mitsui-fervo-nextgen-geothermal-ai-dc/
  19. 令和7年度 温泉資源保護ガイドライン検討会(第3回) 議事次第, https://www.env.go.jp/nature/onsen/council/guide/08.html
  20. From Earth to Energy: Japan Shares Expertise in Sustainable Geothermal Development, https://www.japan.go.jp/kizuna/2024/10/sustainable_geothermal_development.html

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